- 『多重駄住』 作者:泣村響市 / ショート*2 未分類
-
全角1276.5文字
容量2553 bytes
原稿用紙約4.7枚
沢山の声がたくさんの声が。
-
絶対解くのは不可能だと思うんだけれど。
あたしはゆっくりと、できるだけ時間稼ぎをするように立ち上がる。
何も瞳に写さないように、唯只管思考にカロリーを消費する。
そうかな、いや、頑張れ。
頑張れー。
頑張れってそんな他人事な、あんた達も一緒に考えてよ。
そもそもお前の責任だろう。手前の尻は手前で拭け。
何よ尻なんて今はどうでもいいじゃない。
…いや、そういう意味じゃないし。ちょっと待って、私も一緒に考えるから。
っていうかそもそもこんなの分かるわけないじゃないか。
ふん、成る程、答えの存在しない問題と言いたいわけか。
え、ちょっと待ってよ、それって問題なんていわないじゃないの。
がたがたと椅子がまるで地面に吸い付いていたように鳴った。出来れば吸い付いていて欲しかったのだが、どうやら椅子には椅子の分の引力しか働いては居なかったらしい。あっさりとあたしの足に押しやられてしまった。
更にのろのろとあたしは立ち上がる。
え? ええと、答えの存在しない問題は問題といえるのか……ってこと? え? ちょっと待って?
大学の試験で回答無しっつー答えがあるんだろ? それは問題っつうんじゃねぇのか?
いや、それは「回答無し」っていう「答え」といえるんじゃないのか?
「回答無し」ってことは「答えが無い」ってことでしょ? ……「答えが無い」っていう「答え」? 何それ、矛盾論理?
サイコロジカルだねー。
「回答の無い」、が「答え」……「答えられない」というのが「正解」という意味だろうか。
ああ、「答え」じゃなくて「正解」ね……ふーん、でも「答え」と「正解」は概念的に何が違うの?
「答え」って言うのは正しく問題を導いたら出てくるモノで、「正解」は出した「答え」の評価……なのかな? あれ?
評価…か、でも「答え」は正しく問題を導いた結果なんでしょ? 正しく導かなかったものはじゃあ何と名称されればいいのか分からなくなるんじゃない?
「間違った答え」ってトコロか? 正しく導かれなかったから間違った……んじゃねぇの?
うわー、君の好きそうな逆説だねー。
そうよ、アンタはどうなの?
ワタシー? ワタシはどーだっていいよー。
ふん、こいつに何かを思考させようという考えが間違いなんだろう。
そうかな? ……そうなのかな?
そうだな。
うん。
嗚呼駄目だ、と肩を落とす。
話が逸れていってしまった。
先ほどから五月蝿い雑音に面倒くさい方向で答えなければいけなくなったらしい。
「大槻さん? この問題を解いて」
先ほどから五月蝿かった雑音がもう一度あたしに問うた。
沢山のあたしが雑談を交わしている。
「わかりません」
あああああわっかんねぇ、もういいや眠いから寝る!
あー、ワタシもー。
よし、次の問題だな。
ええ? アンタさっきのわかんなかった癖にまだやんの?
哲学活動にはもう付き合ってやらんからな
あたしは溜息をついた。
多重人格者だって格好いいわけじゃない。
-
2006/11/02(Thu)17:51:45 公開 / 泣村響市
■この作品の著作権は泣村響市さんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
多重人格者について詳しく調べたわけではないので穴だらけですが、結構気に入っている作品ではあります。
会話文が大好きな人間です。中身の無い会話というのが心底から大好きです。
こんな稚拙な文ですが、批判批評ご感想などありましたらお願いいたします。