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『風のように歌が流れていた。』 作者:らいらっく / リアル・現代 未分類
全角2639文字
容量5278 bytes
原稿用紙約7.3枚
「じゃあ訊くけど、お前はどうして学校にかよっているんだ?」
「どうしてって……」
「高校中退。大人は口を揃えて、後悔するぞと言う。誰もが通ってきた道だから。……それってじゃあ最初から主人公なんて要らない。俺はそう思うんだ。大学行ってる、お前みたいにうまいこと言えないけどな」
そういえば僕は何故、学校にかよっているのだろう。それこそ、うまく説明なんてできない。目の前にある景色が、例えば、全く別なものに見えているんだろう。君と僕では。学校って嫌な思いしてまでいくところ? 学校ってかよう必要あるの? 学校って楽しいの? 僕は、そのどれにも答えられない。ただ、僕の育った所は高校どころか大学に入らないなんてあり得ない、そういう空気だったから。それが当たり前だったから。僕の当たり前と君の当たり前があまりにも違っていたんだね。みんな目を瞑ってる。通行人のフリをしながら……

 いつからだろう。小さな不幸を見つけるのが上手になったのは。いつからだろう。自分を偽り続ける術を手にいれたのは。トゲに囲まれたマッチ箱の中で、涙の流し方や笑顔の創り方なんて、教えてもらえなかった。根本的な何かを掴めずにただ多数派でいれば良い子になれたんだ。

 ただ、無邪気に遊んでいた。リコーダを覚えたり、逆上がりができるようになったり、毎日が楽しかったのを覚えてる。でも変わった。良い高校を出よう。良い大学に入ろう。逆上がりなんて出来なくて良い。リコーダなんて吹けなくて良い。そんなものは何の役にも立たない。賢くなれば役に立つ。何に、いつ、どこで、それすら分からないのにそう信じた。みんなもそうだったから。同じ道を歩いてる安心感がそこにあったから。歩幅を合わせて歩かなきゃいけないことは感じていたから。この時から僕らの道は別れ始めたのかな。こんな気持ち、今もノートに残ってる。君は、ちゃんとした証拠のないことは信じられない、僕なんかよりよっぽど素直な良い子だったのかもしれないね。君は、何を信じていきていたの? 

 いつからだろう。あの頃って言葉使い始めたのは。いつからだろう。拳を握れなくなったのは。籠に入れられた鳥のように、餌の捕まえ方や羽根の広げ方なんて、必要ないものだったのかも。他人を愛する事も出来ないで、愛される事ばかりを願い続ける。

 俺はただ、毎日が楽しければ良かった。勉強は楽しくなかった。大学に行きたいとも思えなかった。友達と笑えれば良かった。それだけで良いって信じた。勉強なんかしてる暇があればバイトして人付き合いを覚えて、自分のお金を手に入れて、好きなもの買えるようになる方がよっぽど役に立つ。俺にはそうとしか思えなかったんだ。だってみんなそうだったから。たとえ悪いことでも、みんなもやってることだからと言われれば、なんか大丈夫な気がしたんだ。こんな気持ち今もノートに残ってる。それが俺の当たり前。

 いつからだろう。他人より自分はどれだけ幸福か考えるの。いつからだろう。奇麗事を嫌って夢を棄て冷たい別の自分。この空だけが解ってくれる。詩を唄いたくて想いを届けたくて景色をグルグル回してる。素直になれた今ただ一つ伝えたい事、俺は此処に居る。

 「なあ? 俺らってずっと、このまま友達で居られるのか?」
僕には、即答できなかった。素直な疑問なのか、居たいという希望を含んでいるのか、はたまた反語なのか。それが僕には分からなかった。大学で僕は何を、学んでいるのだろう。文法なんか役に立たない。表情を読みとる力が欲しい。僕は、居たいと思った。
「居られるにこしたことないよね」
「なんだよ、それ。俺にわかる言葉でしゃべれ」
俺はそういう、難しい言葉駄目なんだ。こしたことないって日本語なのか。俺はやっぱ言葉もろくに知らない中退者か。

 「ずっと友達だよ」

 何よりも、わかりやすく、伝わりやすい、この言葉。でも二人とも口にしなかった。それが多分むりなことを、感じていたから。誰に教えられたわけでもない。けど二人は友達で居られない。なぜかそんな気がするから。
 「ずっと友達だ」
俺に、こんなセリフを吐かすな。照れくさい。こいういのは、お前担当だろう。
「いいや、君担当だ」
どうやら、僕はまた、難しく考えすぎていたらしい。今目の前に居る人は決して学のないやつなんかじゃない。僕なんかより、とてもとても大切な何かを知っている。その自覚は本人にないだろうけれど。

 「でさあ、気になってたんだけど、そのノート。お前さ、いつもそれ持ち歩いてない? 何が書いてある?」
「誰にも明かさない秘密にしようと思ってた。でも教える。友達だから。実は僕、詞を描いてる。中学生の頃から」
「おい、ほんとかよ。俺も実は曲を書いてる。これが、そのノート。いつも持ち歩いてる。」
「えーと、ほんとに?」
僕らはノートを見せ合う。俺の曲がはじめて人に見られてる。僕の詞がはじめて人にみられてる。
「お前、なんか賢いだけあって言葉選びっていうの? なんかすごいわ。」
「曲ってどんな時に描きたくなる? どうやって描くの?」
 
 共通点のないかに思われた二人。でも違った。二人はノートに書き留めていた。それぞれの気持ち。一人は詞一人は曲という形で。

 「なあ、歌おうぜ」
「それは、論を持たないさ。」

 しゃべり続ける、歩き出せぬ、善い理由。
大事なものを忘れて、振り返る。にせもののナイフを握ってた、あの頃のユメはいつか、しぼんだよ、いつだっけ。ああ夜空の向こうを毎日夢見る、風が吹く。タバコ加えて、何度だってあきらめた。君も僕も同じだよ、共に歩もうよ。とりあえず今は君となら、歩けそう。あわてる事はないさ、ゆっくりと。ナイフもタバコも僕らには似合わない。大事なものを探して歩こうか。ああ夜空の向こうに何かが待ってるはずだよね。雨に濡れても、踏まれても立ち上がる、アスファルトの花のように、強くなりたいよ。ああすべてはココから歩き出すための風が吹く。歩くつまずく、何度でもくりかえす君も僕も同じだよ、共に歩もうよ。

 二人の見てきた景色は全然違うもので、二人は今も全然違う景色を眺めているかもしれない。交わされる問いの答は大人に訊いても分からない。でも、これからは、二人同じ景色を見ていこう。どんな過去も現在も未来が照らして包んでくれるから。これから二人、風にように歌を歌っていこう。僕ら、やっと信じられるものを見つけたんだ。友達。歌。
2006/11/01(Wed)01:01:53 公開 / らいらっく
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