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『輪廻転生』 作者:こーんぽたーじゅ / サスペンス 未分類
全角17506.5文字
容量35013 bytes
原稿用紙約53.25枚
あなたは輪廻転生をご存知ですか?死者の魂が何度も蘇る。そんなところです。しかし、前世の人間と後世の人間には本来何の接点もありません。しかし今回の主人公はそんな前世の人間に隠された真実を偶然にも次々と知ってしまいます。
――プロローグ――

 私はふと思う。小嶋洋子(こじまようこ)が彼女の中学の希望者参加型のキャンプに参加することになったのは今となれば偶然だろうか。
 洋子は決してアウトドア派の人間ではなかった。むしろ休日は家にこもって一人で本を読むことが多かった。洋子には友達はいないわけでもないし、嫌われているわけでもないいわゆる中立側に立つ人間。教室で喧嘩が起これば横目で流し、その視線の先にはいつも本があった。洋子のその白くて細く伸びた指は本のページをめくるためだけに存在しているようだった。
 とはいえ洋子が教室で本を読んでいると、いつも近寄ってくる男子生徒がいた。それが小林浩二(こばやしこうじ)だった。浩二もまた、学校では中立側の人間だった。今思えば二人の性格は酷似している。顔はまったくの別人なのだが性格は鏡を合わせたかのように瓜二つ。これも偶然だろうか。
 私はいつの日か洋子に恋心を抱いた。黒くツヤのある黒髪に、まるで白いペンキをひっくり返したような白い肌。おまけに性格はいたって冷静沈着。私は洋子が、昔殺した生徒にそっくりだったと言うことにある日突然気づく。そして私の恋心は殺意に変わる。そうだ、洋子を昔殺した生徒と同じ場所で殺そう。そして私、渡健介(わたりけんすけ)は洋子の担任という立場でこのキャンプを開催することにした。
 ここで余談だが、私が昔起こした事件は当然のごとく解決していない。その事件について補足説明をしよう、死んだ生徒には未だ発見されていないものがある。首から下の胴体だ。その生徒は首だけを残して古びた洋館に取り残されていた。胴体は山中に埋めたまま、もう十四年もたつ。そろそろ時効だ。


 【第一話 シンクロニシティ】

 洋子は二年二組の教室で昼休み、本を片手に浩二こんなことを聞いてみた。
「ねぇ、輪廻転生って信じる?」
「りんねてんせい? 何だそれは?」
「死んであの世に行った魂が何度も生き返ることよ。この本に書いてあるの」
「俺、そういうのは大好きだぜ。オカルト的なこと」
浩二は寝癖の残る髪の毛を掻きながら言った。小林浩二は学力、身長は学年平均そのものなのだが、ただ一つ他人とは変わっている部分がある、それは話すときに決して人と目を合わせない。それが彼の癖である。しかし、浩二は洋子となら目を合わせて話すことができる。浩二は目を合わせながら洋子の話を聞く。
「オカルトじゃないわ、これは実在するの。人間には皆、前世があって、その前世の記憶が残ることがあるんですって。自分の前世について知りたくない?」
「そんな簡単に知ることってできるのかよ」
「これを見て。担任の渡が企画しているこのキャンプ、このキャンプ場の近くに自分の前世を教えてくれる霊媒師が住んでるの。行ってみない?」
「面白そうだな。行くか」
「その言葉、待ってました。日時は明日からの三連休。持ち物は各自自由。キャンプ道具は学校側が支給する。希望者は渡まで。だって」
 そう言うと二人は職員室に向かった。
 階段では同級生たちが楽しそうに会話している。何がそんなに楽しいのか洋子と浩二には内心分からない。しばらくすると職員室に着いた、重くきしんだドアを二人は開けた。
「渡先生はいますか?」
 浩二は軽い口調で聞いた。すると、職員室の奥の方から無駄に体格のいい若そうな男が現れた。渡である。渡はしっかりと鍛え上げられたボディーは若々しいのだが、顔には中年独特のシワや、髪の毛の生え際はこのごろ少し気になってきた感じだ。
「どうした? 小嶋、小林」
「キャンプの件なんですけど、私たち参加します」
 洋子がそういうと渡はいかにもうれしそうな顔で言った、
「ありがとう、ありがとう。これで人数が確保できたよ、それじゃあ遅刻しないように来るんだぞ」
「はい」
 二人はそう言うと何も言わず職員室を後にした。
「これで主役はそろった。ダメ元だがまさか参加してくれるとはな」
 渡はそういうと不気味な笑いをこらえるのに必死になった。

 その日の帰り洋子と浩二は二人で帰ることにした。二人は付き合ってるわけではない、明日のキャンプの打ち合わせのためである。
「洋子、何もって行く?」
「必要最低限の物ね、まずお金、霊媒師に見てもらうのに二千円は必要、それとあれこれ雑費もいれて五千円ね。あと懐中電灯、これは夜の活動に必要不可欠。あと、護身用のナイフ、または痴漢撃退スプレー」
「護身用って熊でも倒すのか?」
「いえ、考えてみなさい? あの渡の笑顔見た? あの笑顔には絶対裏がある。いかにも私たちを待ってたかのよう。まあ襲うようなことはしないと思うけど、『備えあれば憂いなし』って言うでしょ? あくまで一応よ」
「確かにあの渡は怪しかった。俺も何か護身用の武器持っていっておくよ」
「そうね。あと服装はジャージかしら。私は嫌いだけどね、ジャージ」
 確かに似合わない、浩二はそう思った。しかしこんなことを口に出せる訳がない。
「そうだな、俺こっちの道だから」
 浩二がそう言っても洋子は手を決して振らない、毎度のことだからもう慣れたことだがやっぱり寂しい。
 日はもう沈んで夜の闇と秋の風が二人の体を包んだ。

 その夜の渡は異常だった。教師同士の飲み会も断って一人黙々とキャンプの準備に明け暮れた。
「何を持っていこう? ナイフ? のこぎり? ビニール紐? ようし全部持っていこう。殺し方は向こうの気分で決めるとしよう」
 洋子を殺したい気持ちでいっぱいになり、渡は眠れそうもなかったので睡眠薬を飲んで眠りに着いた。


 そしてキャンプの日、洋子は嫌いなジャージを身にまとって集合場所である駅を目指した。駅までは徒歩でおよそ十分、このペースで行けば集合時間の二十分前には着く計算だ。
 十分後計算どおり集合時間の二十分前に駅に着いた。誰もいないと思いきやベンチに座る渡の姿があった、手には缶コーヒーが握られている。洋子は渡と目が合ってしまった。
「小嶋、早いんだな」
「先生こそ」
 洋子はこれ以上何も言う気にならなかった。いや、むしろ言いたくなかった。
 しばらくするとほとんどの参加者が集まったのだが遅刻ギリギリまで浩二が来なかった。
「ゴメンみんな。寝坊してしまった」
 定刻の三十秒前、やっと浩二が来た。
「よーし。じゃあ行くか」
 渡が先導して駅に入った。駅にはすでに電車が止まっていて、今にも走り出しそうだった。参加者は皆電車に飛び乗る形になった。この責任はギリギリに時間を設定した渡にある。洋子はそう思った。朝の電車の中は案外席が空いていた。
 電車の中で、浩二と洋子は隣同士に座った、
「洋子、霊媒師なんて本当にいるのか?」
「いるわよ、きっと」
 相変わらず洋子は本に夢中である。今読んでいるのは娘を殺された母親の手記のようだ。洋子はこの手の本が好きだ。殺人だのそんなことが好きな女子中学生はこの日本を探しても洋子ぐらいだろう。
「面白いか? その本」
 返ってくる答えは分かっているが一応聞いてみた。
「ええ、とっても。あなたも読んでみる?」
「遠慮しておきます」
 やっぱり。浩二は分かってたとはいえそれ相当のショックを受けた。
 窓の外には紅葉が広がっている。知らないうちに相当遠くまで来たようだ。
「この殺された子も輪廻転生したのかしら?」
「したんじゃないかな、きっと」
 電車は目的地に到着した。電車を降りるなり渡が、
「現地に着いたら班を作るように、くれぐれも男女別だぞー」
 駅に苦笑がひろがる。
「班を作ったら、受付でテントを借りるように、そしてテントを組み立てたものから晩飯まで自由だ。わかったな、それじゃあ今からバスに乗る。十分ぐらいで着くだろう」
 渡は以上に高いテンションでバス停まで生徒たちを先導した。
 バスに乗ったのはいいのだが、山道は揺れて普段バス酔いをしない人間でもする酷さである。この十分間は地獄である。吐き気を抑えながら浩二が、
「洋子、テントを組み立てたら行くか?」
「当然」
 洋子も手を口に当てている。よっぽど気持ち悪いのだろう。
 十分後キャンプ場に着いた、キャンプ場というには程遠いような環境だが文句は言えない。
「じゃあ洋子、俺らは別の班だから先に組み立てたほうが互いの班に行くことにしよう」
「わかったわ」
 テントを早く組み立てたのは洋子の方だった。こういう場合洋子は手際がいいのだろう。
「おそいわね、浩二」
「嫌味か」
「手伝おうか?」
「結構だ、俺等は俺等の力で組み立てる」
 しかし遅いのを見かねた洋子に結局手を借りてしまった。洋子の手に掛かるとテントは五分も満たないうちにできてしまった。
「浩二、行くわよ、霊媒師のところに」
「待てよ、お金は持ったか?」
「持ったわよ」
 そう言うと洋子はポケットから白の財布を取り出した。洋子は決して派手な色を好まない。洋子の好きな色は白と黒。嫌いな色はピンクとオレンジ。そのせいか今日の服装、靴が全て白と黒で統一されている。
 霊媒師がいると言う神社までは相当な根気が必要だった。険しい山道、狭い道が筋肉痛という形で浩二を蝕む。もう自分の前世などどうでもよくなった。しかし洋子は涼しい顔で進んでいく、洋子にこんな体力があったものかと不思議に思った。
「着いたわ、ここね」
 浩二はこれが神社かと疑いたくなった。目の前にある建物、いや廃墟と言ったほうが正しいだろうものには人が住める要素のかけらもなかった。
「おいおい、こんな所に人が住めるわけ――」
 浩二が言いかけた途端、中から老人が出てきた。その老人はいかにも私はインチキ霊媒師ですと言わんばかりの風体だった。白い着物に、首には大きな数珠、髪は真っ白、よく見ると両手にも数珠を巻いている。
(おい、小嶋。この爺さんやべえぞ)
 浩二がアイコンタクトを送ったがもう遅かった。
「あなたが、噂の霊媒師ですか?」
「そうだが。君たちは前世を知りたくて来たんだろ」
 霊媒師は威厳のある声で言った。
「はい、見てもらえますか」
 あくまで洋子は冷静に答えた。
「いいだろう、中に入りなさい」
 廃墟の中は陰湿な雰囲気の畳六畳ほどの部屋だった。無数のろうそくや、本物だろうか人間の頭蓋骨らしきものも落ちている。
「そこに座りなさい」
 そう言われると洋子は静かに腰掛けた。
「あなたの名前、生年月日を教えてください」
「小嶋洋子、一九九四年、五月二十六日生まれ」
 それを聞くと霊媒師はなにやらよく分からない呪文を口にした後、無数にあるろうそくのうちの一つを消した。廃墟は静寂に包まれる。
「あなたの前世は実に興味深い。あなたの前世である少女は殺されました。そして殺された後、首を切断され、首だけを残して胴体は遺棄されました。そして彼女の魂は――」
 霊媒師が言いかけたとき、洋子はカバンからさっきまで読んでいた本を取り出した。
「霊媒師さん。殺された女の子ってこの子のことですか?」
 霊媒師は驚いた顔をし、こう言った。
「たしかに、この本に書いてある少女のことです。驚きました、これはあなたと前世の魂との偶然の一致です。彼女があなたを引き寄せたのでしょう。しかも、彼女が殺されたのはこの近くにある古びた洋館」
「ありがとうございます」
 洋子は霊媒師に二千円を渡すと、足早に廃墟を去った。浩二も後に続いた。
「おい、洋子。どうしちまったんだ」
 浩二が顔を覗き込むと、洋子は泣いているようだった。
「こんな偶然あっていいのかしら、本で読んだの、前世の人間が死んだのと同じ方法でその人間も死ぬって。だから私、私、あの洋館に行かなきゃ」
「えっ!? 小嶋、普通、洋館に行く発想より先に自分の命を心配しないのか?」
 すると洋子は笑って答えた。
「だって、こういうのワクワクしない? 自分の前世の人間は何者かに殺されていたわけで、その事件についての本を後世の人間が事件現場の近くで読む。最高のシンクロニシティね。何なら今から事件のあった洋館に行ってみない?」
 洋子の涙はうれし涙だったようだ。全く変な人間だ。
 浩二は洋子をそう思いながらもついていくしかなかった。 

【第二話 月と太陽 影と光】

 ――いきなりだがここで太陽の話をしよう。私は幼いころから太陽に究極の美を感じていた。地球上の生物にめぐみの光をさんさんと注ぎ、時には情熱的に、時には幻想的に私の心を彩ってくれた。『黒点』というのをご存知だろうか? 太陽の表面にある周りより温度が低いときにできる黒い斑点である。私はいつしか自分と対極にいるもの、自分が嫌いなものを『黒点』と呼ぶようになった。今の私の心の太陽は小嶋洋子を殺したい心で真っ赤に燃えている。今の私にとって『黒点』は小林浩二である、奴を殺してからじゃないとメインディッシュである洋子を殺せない。先に小林を殺してしまわねば。殺したい、殺したい、コロシタイ――


 
「ねえ、太陽と月どっちが好き?」
 洋子は洋館に向かう途中浩二にこんなことを聞いてみた。
「俺は、月だな」
「私も同感。月っていいわよね、幻想的で時には猟奇的で」
 洋子の考えには浩二はとことん着いていけなかった。考えていることが理解不能だ。
 洋館の手前に差し掛かったころ、遠くから物音がした。気づけばもう夜だ。
「洋子、何かいる」
 浩二はそういうと、持参してきたサバイバルナイフの刃を突き出した。刃は月明かりに照らされて猟奇的に光っている。これが洋子の言う月の猟奇的さか、やっと浩二は分かった。物音はだんだん近づいている。
「来るわ」
 洋子の言葉の次の瞬間、暗闇から飛び出したのは担任の渡だった。二人はひょうしぬけてしまった。
「お前ら、いつまでうろうろしているんだ。もう日は傾いているぞ。さっさとかえって夕食をつくろうじゃないか」
 渡は恐ろしいほどのテンションで洋子たちを見つめた。自分をミュージカルの主役とでも思ってるのか。
 二人はひとまずは帰ることにした。洋子は正直晩御飯のカレーより洋館のほうが気になって仕方がなかった。
 二人が帰ると班員たちは怒りと安堵の表情を浮かべていた。
 カレーを作るのは案外簡単である。野菜と肉を放り込めば後はルーが味付けてくれる。
「甘いわね」
 浩二の後ろから洋子の声がした。
「どこが甘いんだ? 味か? それとも俺の料理に対する意気込みか?」
 浩二が言うと洋子は鼻で笑って答えた。
「浩二はどうせ、野菜と肉を放り込めば後はルーが味付けしてくれる。とでも思ってるでしょ」
 図星だ。しかし言えるはずがない。
「まっ、図星でしょ。それより夕食のときに話があるの」
 そういった後、洋子は自分の班へと帰っていった。
 カレーが出来上がると他の生徒達は他の班の作ったカレーの味見や、キャンプファイヤーの周りでパラパラだろうか? 踊っているようだ。洋子と浩二はそんな生徒達を横目で見ながら会話をした。
「おい洋子、あの洋館に忍び込むチャンスはあるのか?」
 浩二が口をモゴモゴさせながらいう。野菜が硬そうだ。
「あるわよ。この後は肝試し大会。男女二人ずつのペアで裏の墓地まで回るの。くだらないわね」
 洋子はいかにもおいしそうなカレーを食べながらいう。
「その時に抜け出すわけか、考えたな」
「考えなくてもできるわよ、これぐらい。持ち物は懐中電灯と護身用の武器ね」
「オッケー。ところで洋子、お前のカレー分けてくれないか?」
「嫌よ」
 夜に怪しい光を放つ月、太陽のように燃え盛るキャンプファイヤー。洋子と浩二、それぞれの娯楽を楽しむ生徒達。そこにははっきりとした、影と光の境界線を作り出していた。

【第三話 『黒点』の前世】

 ――前世。殺人犯である私の前世は何なのだろう? やはり殺人者? それともその逆の善人? 気になる。小嶋洋子の次に気になる。そこで私は、肝試しの準備と偽って、密かな裏情報を手に、前世を教えてくれる霊媒師を訪ねることにした。前世の情報は二千円、私にとっては破格の安さである。うわさの霊媒師はインチキらしい風体ではあるが、すぐに結果は出た。
やはり私は殺人鬼、前世の私は江戸時代の処刑人。これも接点だろうか? ところで小嶋洋子と『黒点』の前世はなんだろうか――



 キャンプ場では今回のメインイベント、肝試しが始まっていた。ルールは簡単、裏の墓地まで行って祠にあるお札を一枚取ってくるという実に幼稚なルールである。次は洋子と浩二の出番である。
「浩二、始まるわよ」
「あのさぁ、洋子、俺大事な話があるんだけど……」
 目をそらしながら言ってみた。浩二の顔は秋にもかかわらず真っ赤に染まっている。
「何? 大事な話って?」
 浩二はなぜか目を合わせようとしない。洋子にとっては実に不思議なことである。
「お、俺…………前世知りたいな〜なんつって」
 言えなかった。浩二にはその一言が言えなかった。
「しょうがないわね、あの時は私の自分勝手で浩二が占えなかったからね。行きましょ、この暗闇じゃ失踪してもそう簡単には見つからなさそうだし」
「ありがとう、行こうか」
 自分の不甲斐なさのせいで自分の前世を知る羽目になるとは、浩二は情けなかった。
「次〜浩二と洋子ペア」
 遠くのほうで声が聞こえた、出発のようだ。
「行くわよ、浩二」
「おう」
 夜の森は懐中電灯が無ければ歩くことさえ困難な暗さであった。日中でさえ困難を強いられた道だったが洋子は日中と同様に涼しい顔で進んでいく。しばらく歩くと、道の先に小さなろうそくの灯りが見える。着いた、おそらくは日中の三倍くらいの時間がかかったであろう。
 しかし二人は気づくはずがなかった、後ろから殺人鬼が牙を剥きながら迫っていることを……。
 洋子は廃墟の扉を開けた。中では霊媒師が座禅を組んで瞑想を行っていた。
「修行中すいません、先ほど訪ねた小嶋洋子です。私の連れの前世も見てもらえませんか?」
 『連れ』その言葉が浩二の心に深く刺さった。
 しばらくした後、霊媒師が静かに目を開けた。
「良かろう。少年、名前と生年月日を言いなさい」
「小林浩二。一九九二年、八月一日」
 浩二が言うと霊媒師は洋子のときと同様に呪文を唱えた後、一本のろうそくを吹き消した。
「君の前世も実に興味深い。まず言っておくが残念だが君の前世は人間ではない」
 人間ではない、浩二はひどく落胆した。
「じゃあ何なんですか?」
 浩二はせめて人間に近いサルやチンパンジーがいいと思った。間違ってもクモや蛾みたいな気持ち悪い生物はゴメンだ。
「君の前世は……犬だ。それも飼い主に忠実な雑種の犬だ」
「犬……ですか……」
 『犬』。予想外だった。しかもペット、もし前世の性格が後世に影響するとしたら浩二は「洋子に忠実なペットのような男。」と解釈されてしまう。それだけは避けたい、浩二は思った。
 霊媒師は続けた、
「興味深いのはこれからだ、この犬は小嶋洋子の前世の殺害された少女の大事に飼っていた犬である。彼女が殺された夜、その犬は帰ってこない少女を探しに家を出たまま帰らず、公園をさまよった後、近くを通りがかった何者かに残酷な方法で殺された」
 浩二は自分も残酷な死に方をするのだと考えると、気が重くなった。しかし、真剣に悩んでいる浩二を気にもせず、洋子が尋ねた。
「残酷な死に方ってどんな方法ですか?」
 少し悩んだ後、霊媒師は答えた。
「すまない、そこまではわからない」
 浩二は安心した、いくら前世とはいえ、それはあまりにおぞましい。
「ありがとうございました」
 浩二はそう言うと霊媒師の足元に二千円を置いた。振り向くと洋子がなにやらピリピリした表情で扉の向こうの外をじっと見つめている。
「どうした? 洋――」
「外に誰かいる。ここまで来るときから、さっきまでじっとこっちを誰かが見てる気がしていたの。まあ見当はつくけどね」
 洋子はサラッと言った。浩二のほうへ振り向くときにチャームポイントの黒い髪がサッと揺れた。
「見当って、誰だよ」
「考えられるのは三つね、まず第一に考えられるのは渡。『コースとは違う道を行くのが見えたから着いていった。』っていうのが理由かしら。第二に考えられるのは、地元の人。『見知らぬ若い男女が森に入っていくのが見えたから』が理由ね。そして第三は、私の思い違い。これが一番確率としては高いわね」
 洋子は淡々と答えた。しゃべり方、仕草がまるで推理小説のトリックを見破るときの主人公のようだ。
「人違いならいいんだけどな」
「それじゃ、洋館に行きましょ。夜分失礼しました」
 洋子は霊媒師に一礼すると廃墟を後にした。浩二も後ろに続く。浩二はふと思った。
「こういうところが、犬っぽいのかな?」
 浩二は戸惑いながらも着いていくしかなかった。



 □□□□

 渡健介は、扉の向こうで話す小嶋洋子と、『黒点』である小林健太、そして例の霊媒師の三人の声を盗み聞きしていた。
「ほう、小嶋の前世は私が殺したあいつだったのか、これでさらに殺したくなったよ。しかし一番驚いたのは『黒点』の前世は、私が事件の後、うっとうしくて殺したワン公だったとはな。全く前世でも後世でもうっとうしい奴だな。こいつも殺してしまわねば」
 渡が呟いていると中から小嶋洋子の声がした。
「誰かいる」
 その一言を聞いた途端、渡はさっと草陰に身を潜めた。
 その言葉の直後、二人は廃墟から出てきた。どうやらあの洋館に行くようだ。二人が見えなくなった瞬間、渡は草陰から出た。服には無数の草が引っ付いている。目の前に人の気配がした。
「あなたは、さっき来た渡さんじゃないですか」
 白髪の老人、いや、霊媒師は言った。
 渡の中で『黒点』が二つになった。こいつは計画上、邪魔だ。そういえばポケットにビニール紐があった、これを使って……。
 
 秋の夜に鈴虫の鳴く声が響き渡る。そして私の耳に聞こえるのは人間の絶命するときのあえぎ声、次の瞬間、辺り一帯は静寂に包まれる。世間はこいつを自殺と断定するだろう。無駄な時間を過ごしてしまった、洋館に向かわねば。
  


【第四話 メインディッシュは黒くなる】

――霊媒師を殺した。しかし私の心には負の感情は全くない。あいつは死んで当然の人間、あいつは死ぬべき存在。ふと私は思った、人間が首を絞められている時は、私が今まで殺してきた二人は同じようにして暴れまわった。そしていつしかその抵抗が無駄であると分かり、私を憎悪の念で睨みつけた後、あの世に旅立っていった。だが、死に顔には憎悪も何もない安堵の表情。私は霊媒師の死体を首にロープをくくりつけて木に吊り上げながら考えた。小嶋洋子も同じような顔をして死ぬのだろうか?――

 ■■■■

 渡は霊媒師を殺した後、近道を使い洋館に先回りした。洋館までの道のりには渡のみぞ知る近道があった。それを使えば五分は早く到着することができる。渡は雑草を掻き分けながら走った。五分くらい経っただろうか、渡は洋館に着いた。中を見る限りまだ二人は来てないようだ、「助かった」と思い洋館に入る。二人の来る部屋は分かる。二階にある少女を殺した部屋だ。そこで隠れて、二人が来たら背後から襲うことにしよう。




 洋館までの道のりは霊媒師の住む廃墟への道のりより断然楽だった。道こそは生い茂った雑草で隠れてしまっていたが、草を掻き分けると確かに足元は石畳で綺麗に舗装されていた。
「洋子、俺はお前のペットでも従者でもないからな」
 浩二は草を掻き分けながら、前を突き進む洋子に念を押すように言ってみた。
「分かってるわよ、それはあくまで前世の話でしょう? 私は浩二のことはそんな風に思ってないから」
 洋子は浩二の話より、草を掻き分けるほうに必死そうだった。
「洋子にもしものことがあったら、俺、助けるからさ」
 浩二は改まった表情で洋子に言った。すると、洋子の足がピタリと止まった。洋子は浩二のほうへ振り向かずにこう言った。
「そのときは……よろしく」
 洋子はそういった後、再び歩き始めた。洋子はさっきより若干、足が速くなっているような気がした。この会話の後、洋館に着くまで二人の間に会話は無かった。
「着いたわ、ここが例の洋館ね」
「うわ……」
 浩二は洋館を見るなり言葉を失ってしまった。そこにあった洋館は、木で作られた壁には無数のツタが絡まり、所々ガラスが割れていて、扉は入ってきた人間を食わんばかりの大きな口を開けて待っていた。昔は綺麗で優雅な洋館であったに違いないが、今は悪魔の館としか言いようがない。
 洋子が扉を開けた、ギーという音の後に目の前に広がっていたのは腐りかけの床板と大量のクモの巣であった。中からは異様なにおいがする。
「洋子、何か変なにおいがしないか?」
 浩二が鼻を押さえながら言った。
「するけど、それより今は少女が殺されていた部屋のほうが気になるわ」
 洋子はジャージの袖を鼻に当てながら言った。
 洋子はゆっくりと洋館を進んでいった、浩二も後に続く。床はギィーギィーと音を立てている。
(バキッ)
 浩二の足元で何やら物音がした。洋子が振り返るとそこには、陥没した床に右足を挟まれた浩二の姿だった。
「ちょっと浩二、気をつけなさいよ!」
 洋子が血相を変えて言った。
「何でそんなに怒るんだよ!」
 浩二は驚きながらも言った。洋子が怒るのを見たのはこれが初めてだったからだ。
「考えてみて、変だとは思わない? この洋館」
「どこが?」
 浩二にはさっぱり分からなかった。
「まず、事件現場であったこの場所に鍵が掛かってないこと。それと見て、あの階段の手すり、何箇所か埃がついてない部分があるの。しかもごく新しいやつ」
 洋子が穴にはまった浩二を助けた後、持参してきた懐中電灯で目の前の階段の手すりを照らした。
「じゃあ、今この洋館には俺達以外に誰かいるってのかよ」
「誰かは分かってるわ。考えられるのはただ一人――――。渡だけよ」
 洋子は人差し指を浩二の首に突き刺しながら言った。
「何で渡が?! 何のためにここにいるんだよ!」
「これはあくまで予測だけど、渡は十四年前の事件の犯人で、このキャンプで私がそのころされた子の生まれ変わりだと知り、この洋館に先回りして私達をここで殺す。ってとこかしら」
 洋子はあくまで冷静に言った。
「じゃあ、あの廃墟でお前が見た人影は渡ってことか?」
「私の予測が正しかったらね」
 すると浩二は首を傾げながら言った。
「なら、矛盾することがあるぞ。渡が廃墟で見た人影としたら、何で俺達に着いてきたんだ?」
「それは簡単な話よ。『コースをそれるお前達が見えて着いていってみた』で言い訳がつくわ」
 洋子は自信たっぷりと答えた。
「確かに……」
「要するに、本当の答えはこの階段の上にあるわ。行きましょ」
 洋子はゆっくりと階段を上り始めた。浩二も後に続いた

 


 □□□□

 
 渡は洋子たちが潜入した洋館の、十四年前の殺害現場である部屋で寝そべっていた。下からは洋子の推理ショーが聞こえてくる。
「小嶋洋子、君の推理力はすばらしいよ。殺しておくのはもったいないくらいだ」
 渡はニヤニヤしながら言った。下からは『黒点』の声もした。渡は重大なことに気づいた。
――私は大きな計算ミスに気づいた。それはこれまでの計画を水に流しかねないほどの重大なミス………………。もう私の中では小嶋洋子はメインディッシュでは無く、核心を突いてくる『黒点』に変貌した――

 渡の耳には階段を駆け上がる二つの足音が聞こえた。

【第五話 扉の閉まる音と首の絞まる音】

 渡は階段を駆け上がる二つの足音を聞くと、少女が死んでいた部屋の隣の部屋に身を潜めることにした。
「クソ!! 計算は完璧だったはずだ、十四年前と同じ手を使えば完全犯罪が成立するはずだったのに」
 そのとき、渡の目にあるものが映った。それは隣の部屋、つまり少女が殺されていた部屋にもあったものだった。
「そうだ、これを使えば……」
 これなら完全に二人を始末できる。渡はそう確信した。


「浩二、本に書いてあることが正しかったら、少女が死んでいたのはこの部屋になるわ」
 洋子は懐中電灯で本を照らしながら言った。
「まだ、血の痕が残ってんのかな」
「馬鹿ね。十四年も経つのよ。しかも、警察が実況見分の後血は拭いたでしょ」
 洋子の目は暗闇だと言うのに綺麗に輝いていた。
「じゃあ開けるわよ、浩二」
 洋子が扉を開けようとしたが、扉は風化していてなかなか開かなかった。
「どけ、洋子!」
 浩二が少し助走をつけて扉を突き破った。はたしてこのようなことをして良いのだろうか? 駄目に決まっているが洋子はこのときばかりは浩二に感心した。
「やるじゃない、法律スレスレの行為だけど」
 洋子は自分にとって最大限の温かい視線で浩二を見た。
「まあな」
 浩二は服に付いた埃を落としながら言った。
「これといって何も無い部屋ね。ここは何かの物置かしら? 袋のようなものがたくさん積んであるけど」
 洋子は積んであった袋と思われる物の埃を手で払い落とした。そこには漢字で『石灰』と書かれていた。
 浩二は部屋の窓から外を見てみた。窓の外から見た風景では、月が今にも雲の中に隠れてしまいそうだった。こういう風景も良いな、浩二は直感的に感じ取った。その時、後ろから、「うっ」という洋子がめったに出さない声が聞こえてきた。浩二が後ろを見るとそこには、渡に手で首を絞められてもがいている洋子の姿があった。
「渡、洋子を放せ!」
 浩二が渡に言ったが結果は無駄だった。渡の首を絞める手の力は強くなっている。洋子の首からはミシミシと異様な音が鳴り、真っ白な肌をした顔は血が上手く行き渡らないことで真っ赤になっていた。
「こいつを殺したら、次は小林、お前だ」
 渡の表情はすでに教師の顔ではなかった。それは殺人を楽しむ殺人鬼の顔であった。
 洋子は一瞬『これで私の人生も終わりか』と思った。しかし洋子には自分の首を絞めている渡の握力が一瞬弱くなったような気がした。『チャンス』と思い洋子はまだ自由に動く手でポケットに忍ばせてあったサバイバルナイフを取り出し、渡の太ももにめがけて突き刺した。渡は刺された瞬間、反射的に手で傷口を押さえた。渡の手から洋子が解放された。洋子は咳込みながら浩二のほうに這っていった。洋子の白くて細い首には赤紫色になった渡の手形がはっきりと浮き出ていた。
「ちっ、殺し損ねたか。まさか学校ではおとなしい君が、教師に刃物を向けるとは……まったく想定外だよ」
 渡はまるで自分が探偵であるかのように、額に右手の人差し指を当てながら、床に倒れこんでいる洋子に不気味な笑みを浮かべながら歩み寄った。
「おい! 洋子に近寄るな!」
 浩二が床で苦しんでいる洋子と、渡の間に割り込む形で入ってきた。
「小林君、まったく君も学校と今では、私が考えていた性格と違うねぇ。これも想定外だよ。君達二人には想定外だらけだ、君達を殺したいと思えば思うほど、私から遠ざかっていく。性格はそのうちの一つだよ。フフフハハハハハ」
 渡は完全に自我が崩壊しているようだった。このままでは二人とも殺されてしまうだろう。すると、床で倒れていた洋子がまだ苦しそうな声で、
「あんたは教師なんかじゃない。ただ人の死を快感に思っているだけの冷酷な殺人マシーンよ」
 渡の表情がだんだん歪んでいく。渡の顔にははっきりと『殺したい』の言葉が浮かんでいる。
「殺人マシーン? 好きに言えばいいさ、どうせ君達はここで死ぬのだから。そうだ、どうせなら冥土の土産にこの計画の真相を全て教えてあげるよ。これが私が死を目の前にした生徒に教える、最期の授業だ」

 ――夜は更けていく、刻一刻と。命の灯火も短くなっていく。刻一刻と――

【最終話 赤い月は粉塵とともに舞う】

――人類は粉を生み出すことにより、飛躍的に進歩したことをご存知だろうか? 粉があることで、麺類ができ、パンができ、レンガやセメントができる。そのことで、人間の生活は発展し、便利になっていった。しかし、粉は時に危険な存在になることをご存知だろうか?――

 渡は少女が死んでいた部屋の中をゆっくりと歩き回りながら、『最期の授業』を始めた。
「まず、なぜ、私が小嶋洋子を狙ったか教えてあげよう。それは、十四年前に私がこの部屋で殺した少女に君がそっくりだったから――」
 渡は洋子を指差しながら言った。すかさず洋子が聞き返す。
「なぜ、そっくりという理由で狙ったの?」
 洋子の大きい瞳が渡を睨みつける。
「十四年前に殺した少女がタイプだったから。そして、そっくりな君もまた、タイプだったから殺そうと思った。僕は好きな人を独り占めしたかった。そして、十四年前と同じ方法を使うことで、あのときの快感を思い出したかった――」
 渡は洋子の顔を見つめながら答えた。浩二はその渡の姿に『気持ち悪い』と思ったが、口には出さなかった。洋子は立ち上がり、相変わらず渡を睨みつけている。
「俺はそれに何の関係があるんだ?」
 浩二は一応聞いてみた。自分が殺される理由を知らぬまま死んでいくのは、実にさびしいことだったからである。
「小林は私が小嶋を独り占めするのには邪魔だったから。それと、教室での君達二人の性格はそっくりだったから、だって同じものは必要ないだろ?」
 浩二は自分が『邪魔』『同じものはいらないから片方は切り捨てる』という理由で死んでいくと考えると、切なくなった。渡は落ち着きが無いまま、自分のはげかかった髪の毛を掻きむしりながら言った。
「でも私のその理論は全部跳ね返された。なぜならば性格が実は別であったこともそうだが、私は重大なミスを二つ犯した。そのミスによって、君達二人は、『恋心』とか『邪魔』という感情の以前に、『もう恋心とかどうでもいい。証拠隠滅のために殺して逃げなくては』
という感情に変わった。しかしそれには私が犯した二つのミスが壁となり、身動きが取れなくなった」
 すると洋子が渡を睨みながら言った。
「その二つのミス。教えてくれるんでしょ? 殺人マシーンさん」
 渡は黙って頷いた。夜は刻一刻と更けていっている。
「まず第一に、このキャンプを主催し君達を参加させ、肝試しを企画して君達の番の時に殺そうと思ったことだ。初めはまさか参加するとは思わなかった、でもここには昔、私が起こした殺人現場と、霊媒師が住んでいる。このことに食いつくのを願ってたんだ。もし、君達二人が死んで殺人事件だと分かると、警察は、その時に生徒達と一緒にいなかった私を真っ先に疑うだろう。そうなれば完全犯罪は成立しない」
 すると、浩二は首を傾げながら言った。
「じゃあ、十四年前もほぼ同じ方法を使ったとしたら矛盾ができる。何で十四年前はほぼ完全犯罪ができたのに、今では無理になったんだ?」 
 渡は浩二を「よくぞ言ってくれた」という目で見た後、答えた。
「十四年前、私には共犯者がいた。そいつは家を出てから、長らく会ってない実の兄でな。私は少女を殺した後、兄の家に逃げ込んだ。『兄さん、どうかかくまってよ。人を殺したんだ』って言ったら少し悩んだ後、了承してくれた。昔から兄は、頼みごとは断れない性格だと知っていたからな。その時兄は有難いことに、偽装工作まで行ってくれた。兄は私の脚を木の枝で突き刺して、傷口を包帯で巻き、警察が来たときに『怪我をしていたので、つれてきて、応急処置をしていた』と嘘をついてかくまってくれた。全く、警察はもっとシビアなのだと思っていたけど、案外甘いもんなんだよ」
 月明かりでできた明かりが渡を照らす。そこからすぅーっと伸びた渡の影が今にも洋子と浩二に襲いかかってきそうであった。
「ということは、今はそのお兄さんはいないのね」
「そうだな、『いない』というより『死んだ』いや、『殺した』ってところだな。つい数時間前に、君達も出会ったろう? 私の兄に」
 洋子の顔が一気に蒼白になる。そうか、だからあの人は私の本の表紙を見ただけで、この事件、そして被害者の少女を連想できたのか。なぜあの時気づかなかったのか? きっと自分のことで舞い上がって周りの状況判断が軽薄になっていたにちがいない。もしかして、あの人はあの事件の話の流れをつくって、私達にSOSサインを送ってくれていたのかもしれない。そう、共犯者は――
「霊媒師。十四年前の事件の共犯者であり、あなたのお兄さん。そして今はこの世にいない」
 洋子はクモの巣が張り巡らされている天井を見上げながら、そのとき気づけなかったことを後悔することしかできなかった。
 渡は小さく首を縦に振った後、話を続けた。
「今日、私はあのボロ屋に行った。兄は私の名前を聞くなり『私にはあなたと同姓同名の弟がいるんですよ』って言いやがった。確かに私の容姿は十四年前に比べ激変した。頭はすっかりはげて、筋力も落ちた。気づかないのも無理は無いだろう。でも、私はあえてその時は言わなかった。そして、ついさっき小林の前世を盗み聞きした後に兄に会った。『兄さん、健介です。十四年前と同じく、また事件に手を貸して欲しい』というと兄は驚きを隠せないまま、『あの子達を殺すのか? 止めとけ。もう協力はしない。あのときの私は間違っていた、私も同じ殺人者なんだって。もし、お前がどうしても殺すと言うなら、私は力ずくでお前を止める』と綺麗ごとを言ったので、私はカッとなってビニール紐で首を絞めて殺した。これが二つ目のミスだ」
 渡はそっと扉の前まで歩いていく、洋子と浩二は窓際でその動きを目で追っていると、洋子はふと自分が物凄い量の汗をかいていることに気づく。それはこの部屋が暑いせいだろうか、それとも「死」の恐怖による冷や汗なのか。無論、洋子は死にたくないと思っている。それは浩二も同じである。
 部屋の中に長い沈黙の時間が過ぎていく。その間、洋子は渡を睨み続け、渡はわざと目を逸らすように扉の向こうで大きく口を開いた暗闇に見とれていた。浩二はただそれを呆然と見る事しかできなかった。どれくらい経っただろうか、浩二は唐突に口走った。
「先生、あなたはもう一つのミスに気づいてない」
 その唐突な言葉に、洋子は半ば分かりきったような表情と、あまりに唐突だったことに驚いている表情を浮かべながら浩二を見た。
 渡は首をだるそうに回しながら言った。
「小林、何だ? 教えてくれよ。これでは私にも未練が残る」
 浩二は少し洋子の顔を見たかと思うと、渡のほうへ振り向き言った。
「また先生は矛盾を作り出した。それは、俺達二人を『殺す』と言っておきながら、何故『身動きが取れなくなった』なのですか? それでは、『俺達二人を殺せないまま自分の犯行を自供して墓穴を掘った』としか言いようがありません」
 渡はまるで吸血鬼や悪魔のような不気味な笑いを漏らした後、語った。
「その答えはだな――――『輪廻転生』だよ」
「『輪廻転生』? 訳が分からないわ」
 確かに洋子の言うとおりである。浩二は「ついに渡は壊れたか」と思った。渡は二人を哀れむような目線を送りながら言った。
「私は、計画のミスが分かった後、他の手を考えた。そして一つの答えを導き出した。それは、『小嶋洋子と小林浩二の前世は私と関わりがあった。つまり、二人を殺して私も死ねばまた後世でチャンスが巡ってくるのではないか』である。そこで、『事故と見せかけて三人とも死ぬ』方法を考えた。そこで利用するのはこの部屋に大量にある『石灰』そして、先ほど男子生徒から没収した『花火』だ。この意味が分かるか?」
 洋子の頭には色々なことが回想していった。渡が先ほど言った『未練』これは自分も死ぬ気だったのだろうと予想できる。そして、『石灰』『花火』この二つを結びつけるもの…………確か前に本で似たような事例を読んだ気がする。そうだ思い出した、それは――――粉塵爆発。―――― 
渡は、「後世で会おう」と言葉を残し、自分のライターに火をつけた。導火線にゆっくりと火をつけて石灰の入った袋に花火を投げつけた。次の瞬間、「バーーン」というすさまじい音とともに二人の目の前に炎が迫ってくる。もうどうしようもないだろう、最期にお互い言葉を掛け合おうにも、先ほどの爆音のせいで二人の耳は麻痺して聞こえなくなっていた。二人はゆっくり目をつぶった後、その記憶は途切れた――。
 



 ――炎で真っ赤に染まった月が廻っている。粉に火が燃え移る様がこの夜空の星のようだ…………本当に星は死者の数ほどあるのだろうか――







 何かが赤く燃えているのが見える……それは先ほどまでいた洋館であろうと憶測はつく。ふと横を見ると額から血を流した浩二が同じように横たわっている……そうか、私たちは窓際にいたおかげで爆風に飛ばされて、外へと脱出することができたのか……
「洋子、生きててよかった」
 まだ耳は麻痺していて洋子の耳にはよく聞こえなかったが、浩二の顔を見ると、浩二がないているように見えた。それを見た洋子の目にも涙が滲んだ。
 突然、
「洋子、腕から血がダラダラ流れているぞ」
 浩二はあわてた様子で言った。
「あんたこそ、おでこから血がダラダラ」
 洋子は決してそこが痛くないわけがない。しかしそこは少し微笑んで「大丈夫」といった後立ち上がる。浩二も立ち上がった。
 森を見ると、向こうから、この火事を見た数人の人間が走ってくるのが見えた、それは紛れも無く校長と数人のクラスメートだった。
 怪我をして火事現場の近くにいた生徒を見て、校長は驚きを隠せないでいた。それは当たり前のことである。クラスメート達には、浩二と洋子を見て驚いている者、野次馬的に燃えている洋館を使い捨てカメラで撮っている者、わけも分からないでいる者、それぞれだった。
 これで、自分の学校の教師が十四年前の事件の犯人で、その教師が死ぬという結末で、洋子たちのキャンプは幕を閉じた。

――エピローグ――

あれから二ヶ月、私と浩二の怪我も完治した。私は切り傷で済んだのだが、浩二の左手首はものの見事に折れていた。私たちはあの事件後、病院で手当を受けて、警察に全てを話した。マスコミでは二ヶ月たった今でもこの事件の報道を続けている。渡の遺体は焼け跡から見つかり、司法解剖が行われた。霊媒師の遺体も廃墟の近くで見つかった。
 今日、私と浩二はやっと学校での静寂を手に入れた。というのも、あれからは学校中から質問の嵐を受けていたからだ。そして、やっと手に入れた静寂を私は読書で費やした。浩二はただ、ぼぉーっとしている。ちなみに今、私が読んでいるのは「自殺未遂をした人の体験談」である。



 ――少年には前世の記憶が残っていた。前世の人物は三十年前、ターゲットを殺せないまま死んでいった哀れな教師である。少年の名前は小林洋二。「洋二」は父と母の名前を一字ずつとった単純な名前である。そして少年は、前世の記憶に従うがまま、三十年越しの計画に自らの手で終止符を打ったのであった――


2006/10/19(Thu)15:52:06 公開 / こーんぽたーじゅ
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■作者からのメッセージ
どうも。この掲示板で投稿するのは三作目になります。今回は前世の人間との奇妙な接点をつなぎ合わせていく、そんな作品です。読んでいただければ光栄です。

十月六日 本文の一部に補足説明を加えました。誤字脱字など指摘よろしくお願いします。

十月八日 渡の描写、一部の変なセリフ訂正しました。

十月十一日 第四話を少し訂正しました。

十月十九日 甘木さんの指摘どおり、訂正させていただきました。
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