- 『殖民惑星』 作者:勇壬 / SF ショート*2
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原稿用紙約8.2枚
星間戦争・飢餓・腐敗政治……それらの取り巻く地球から抜け出した軍事科学者たち。それは、新天地を求めて旅立った新世代の英雄。彼らが到達した『殖民惑星』は、地球と少ししか変わらない環境を持つ惑星だったのだ。だが、彼らを待ち受けていたものは、誰も体験したことのない新たなる恐怖であった……
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ジャン・ルーク・ピーターズ科学少佐は、報告書を覗き込んだ。
「この研究結果はおかしいぞ?」
人類と地球は、二百年の長きに渡る星間戦争の傷痕のお蔭で絶滅の危機に瀕していた。そのため、金星軍と地球軍との星間戦争で使われたジャガー級護衛艦が虚空に飛び立ち、新天地を求めた。
結果、この惑星を見つけたのだが……
この星には、地球と同等の環境が揃っているのに……
なぜ、生物反応がない?
ピンポン球を弾いたような音が研究室に響いた。
「どうぞ」
シャッター音と共に、一人の男が入ってきた。顕微鏡や試験管が多く置かれた研究室を見渡す。
「大佐殿!」
彼は立って敬礼をした。
「研究成果はどうだ?」
大佐も答礼して、彼に聞いた。
彼は士官学校時代の先輩である。この緑の惑星へ一緒に来た人物だ。
「ここは、戦時以降、一番良い結果の出た惑星ですよ」
彼は報告書を差し出した。彼の目には、好奇心に光り輝く色が浮かんでいた。
「ですが、この結果はどう見てもおかしいのです」
報告書に目を通した大佐も同感した。
「これは……すごいな。植物以外の生命体がいないのか」
驚きに碧眼を輝かせる大佐。
「司令官に、いち早く報告するべきだな」
大佐はそう言った。
「ええ。この結果は警戒すべきことですからね」
そのような話をしながら、二人は部屋を出た。
殖民惑星に建てられた小さな基地の中央部に司令室は位置する。その部屋に二人は踏み込んだ。
「司令官!」
部屋では司令官の首に何かが巻きついていた痕がある。その手に握り締められているものは、ブラスター銃と電気スタンド……
二人はすぐに駆けつけ、通信機で軍医を呼んだ。
息はない……
窒息死なのか。
「何故、スタンドを……」と、大佐。
司令室に着いた軍医准将が診断を下し、彼は首を横に振った。
「申し訳ないが、手遅れだ」
大佐が驚愕の声を漏らす。
「この星には……何が」
彼らは、司令室から見える星空を見上げた。
それから数日後の西暦二千十九年十月十八日
研究結果が訂正された。
生命体は存在する。
「物体の姿形を完全にコピーできる異星人がいるとしたら……どう思います?」
ピーターズは囁くように言った。
「そのような生命体がいたら、恐ろしいだろうな」
大佐が答える。
「ですが……」
また報告書を差し出す。
大佐が目を見張る。
「そんな……」
この事件の謎が、早々と解けてしまったのだ。
『生命反応探査装置で検証した結果、どこからどう見ても、司令官が握り締めていたスタンドから反応が出た』という。これは……スタンドが生命体だ、という証拠となるののだろうか。
「いるのですよ」
青ざめたピーターズが告げた。
「調査を進めねばなるまい」
大佐はそう呟いた。
西暦二千十九年十月十九日
『調査報告T』
『この惑星には、生命体が存在する。ただし、実体を持たない生命体である』
「これは……新たなる発見と共に、新たなる脅威……だな」
毎回、回答する大佐の気分も消沈してくるのは仕方があるまい。
「臨時司令官に任命されたのですから、私たちも全面協力致します」
大佐は臨時司令官に任命され、全軍事科学者及び軍事技術者の撤退を求める明文を『宇宙連合軍惑星開拓総司令部』に送りつけたのだった。
「星間戦争が終わったと思えば、次は姿の見えない敵か?」
臨時司令官が呟く。
外の景色は全く穏やかで、そのような恐怖が潜んでいるとは誰も思わないだろう。
「まぁ……そうですな。先の戦争で活躍した司令官代行も見たことのない不思議でしょうな」
「全くだ」
彼らの会話は延々と続いた。
西暦二千十九年十月二十二日、地球艦隊の救援がこの星に向かっているそうだ。
光速輸送艦の亜空間光速航行であと二日。
「長いようで短いのか、短いようで長いのか。微妙なところだな」
今度は、ピーターズが呟いた。
あの司令官殺害事件以来、艦隊士官など……特に下士官の犠牲者が増えるばかりであった。
「先が思いやられるな」
西暦二千十九年十月二十四日、地球艦隊は、一四〇〇時に軍港へ到着する予定らしい。
あと……二時間。
「全員に、物品――もちろん衣類もだ――の着用を禁止せよ。異星人の餌食になるかもしれない」
大佐はそう伝達した。
磁場シールドが張り巡らされた軍港も、その惑星の寒さは防げないようだった。
多くの火気類が異星人に乗っ取られ、暴発したため、空調システムが異常をきたしたのだ。磁場シールド制御装置も、どれだけ持つかわからなかった。
そのような軍港に、ピーターズ含む約二百八十人の軍関係者は到着した。
「時間は?」
大佐がピーターズに聞いた。
「一三四七時です」と、寒さに震えるピーターズ。
その時、亜空間を突き破って出てきた一隻の軍艦があった。
「あれか、少し早いな」
両側面には、地球連合の国旗と輸送艦の名前。
輸送艦は軍港にVTOL機能で着陸した。
「おや、出迎えはないようだな」
ピーターズはそう呟いた。
「そういえば……そうですな」と、下士官。
「まぁ……寒さに耐えるよりはマシだろう、行くぞ」
彼らは、軍艦の暗がりの中――通人用の艦内入口の中へ入り込んだ。
それから十五分後、『もう一隻』の軍艦が到着した。
「あれ、いないのか」と、出迎えに出た艦長らしき人物が副官らしき人物に聞いた。
「そんなわけないでしょう。たった二分遅れたくらいで、どうやっていなくなれましょう?」
「それもそうだな」
豪快な笑い声を上げた艦長らしき人物が、二十分経った後、今度は呟いた。
「まだか」
いつになっても、ピーターズたちが来ることはなかった。
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2006/09/23(Sat)13:23:52 公開 / 勇壬
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■作者からのメッセージ
地球と金星の星間戦争後に発見された殖民惑星で起きた事件を描いた近未来(?)小説です。
短い作品ですが、読んで頂ければ幸いです。