- 『サヨナラの恋』 作者:KR / ショート*2 恋愛小説
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全角735文字
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原稿用紙約2.15枚
「私」は3日前に「彼」の電話番号を削除しました。今までもこれからも、ずっと好きだったはずの人でした。何が変わってしまったのでしょう。何が二人にあったのでしょう。その問いに、答えはないのです。それが、この「恋」だったのです……。
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「やり直さないか、俺たち」
午前0時を過ぎてから携帯電話にかかってきた、その番号は、3日前にメモリーから削除した、かつての恋人からだった。
昔からそうだったが、彼は物事を深く長く考えるという行為が苦手で、重要な部分を適当に流してしまう、そんなところが嫌になって、私は別れを切り出したのだ。
「やり直すって、今さら?」
私はシャワーを浴びて濡れたままの髪をタオルで絞りながら、温度のない声で聞き返す。3日間という時間は、彼にしては長考した方かも知れない。けれど、私の決心は固い。
沈黙が流れる。こんな風に、会話が途切れることも、彼は好きではなかった。気持ちは解るが、それでも言葉に出来ない感情の流れとか、無言のメッセージだとか、そういうものを私は彼に感じ取ってもらいたかった。3日前のあの日も。3日後の今も。
「なんで、こんな風になっちゃんたんだろう」
彼が言う。私は答えない。
「ずっと変わらないで、ずっと一緒だって、そう思ってたのに」
私は黙ったまま、今にも泣き出しそうな彼の表情を思い浮かべる。その顔に免じて、これまで何度私はあらゆることを許してきただろう。仲の良かった男友達、結婚の話題、彼にまつわる女性の噂。彼が触れたくないと言えば、決して手を伸ばそうとしなかったあらゆるものたち。
変わってしまったから、別れようと決めたのではない。変わることが出来ないから、別れるしかなかったのだ。
「……あなた、何も解ってない」
それだけ言って、私は電話を切った。明るい液晶画面に、彼の困惑した表情が浮かぶ。なんで、こんな風になっちゃったんだろう。それを聞きたいのは私の方だ。
ねえ、私たち、なんで今までこんな日が来ること、気付かずに恋してきたんだろうね?
fin.
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2006/08/30(Wed)01:15:30 公開 / KR
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■作者からのメッセージ
テーマは「温度」でした。
どんな恋にも沸点があって、二人でそれを上げていかなきゃ熱は生まれない。
いつもピッタリ同じ温度でなくてもいいけれど、片方が冷めてしまったらどうしようもない。
けれど、熱くなるのも冷めてしまうのも、要は相手次第なんですよ。
と、そんな気がするのは作者だけでしょうか。