- 『暇だったら読んでもいいかも、な話。』 作者:詩音 / ファンタジー 未分類
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全角3699文字
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原稿用紙約13.45枚
2人の少女と1匹の黒猫がいました。2人と1匹が出会っってきた、優しくて悲しくて滑稽な人々。そんな人々との出会いを綴った物語。お暇な時にどうぞ。
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暇だったら読んでもいいかも、な話。・第一話
青い。青い。青い。
ソラがあった。
薄いベールを被せた様な雲が、
静かに風でなびいている。
下は草原で。
まるで、黄土色の絵の具で一線を引いたかのような一本道が通っていた。
その線に人は立っていなかった。
それはゆるやかなカーブを描きながら、草原と共に地平線へと入っていっている。
その線の真上。
青い、青い、青いソラの真ん中。
その線に合わせる様に。
1つの大きな塊が飛んでいる。
それは、
車だった。
少し年代を感じさせる、その二人乗りの車はぶほぶほと後ろから煙を吐きながら、ソラの中をゆっくり前進している。
その車はごくごく普通の二人乗りの小さな車だ。
だた普通じゃないのは(言うまでもないが)ソラを飛んでいる事だけ。
普通はソラを飛ぶはずのない車のはずなのに、ソラを飛んでいる車のその姿はあまりにも自然でもあった。
そこには、2人の人間と1匹の猫が乗っている。
一人はオレンジ色の髪をツインテールに結び、吊り目の大きな瞳を持ち、活発な雰囲気を漂わせている少女。
もう一人は真っ黒なストレートの髪を肩まで下ろし、黒い瞳を持ち、もう1人の少女より落ち着いた雰囲気の、やはり少女だった。
猫は美しい毛並みの黒猫だが、四肢の先端だけが、靴下を履いた様に白かった。
2人の少女は少しボロいシートに座り、黒猫はシートの背の上に垂れていて、黒い髪の少女がハンドルを握っている。
「ねぇ〜ルウ〜……ひまぁ〜……いつまでこんな退屈なとこ走んなきゃいけないのさー? さっきの国出てもう丸々1日だよぉ?」
ツインテールの少女が退屈そうに、もう一人に言う。
幼い感じの可愛らしい声だった。
ルウと呼ばれた、黒髪の少女が面倒そうに言った。
「さぁ? ……ピコ、もう何回暇って言った? ……でももうすぐ次の国のはず。……うん」
その声は凛とした、可愛らしいというより、綺麗な声だった。
ピコの呼ばれたツインテールの少女は、背もたれにもたれかかって言う。
「じゃぁさ。その『もうすぐ次の国のはず』って何回言った?」
「143回」
ルウが無表情で言った。
それからしばらくたってから。
「ぁ、ピコ。見てみて」
何かに気付いた、ルウが珍しく少し高い声を出す。
とはいっても、恐らく普段の声が静か過ぎるのであろうが。
「ぅん〜?」
少し、うとうとしていたピコが変な声を出した。
眠たそうな顔のまま首を上げると、みるみるうちに瞳が見開かれ、口元が笑っていく。
彼女の瞳に映ったのは、だいぶ前の方に見える灰色の城壁と中の町並みだった。
「やったぁ〜〜! 次の国に到着だぁ〜っっ!!!」
ピコの叫び声が、広い、広い草原に響き渡った後、「うるさい」と、横でルウが呟いた。
「ぶー……ルウつまんない!!もうちょっと喜ぼうよぉ」
ピコがふて腐れて言うと、
「そんな事で喜ぶアンタがオカシイ。ってか、うるさい。次の国に着くたびに叫ぶのやめて」
ルウがきっぱりと言う。
ピコが反抗しようと、ルウを睨んでみても、視線は前の国に向いていて、ピコを見ようともしていなかった。
そんなルウに腹が立ったのか、ピコが口を「へ」の字にして言った。
「うるさくないもん!!」
「うるさい」
一秒の差もなく、ルウが言う。
「うるさくない!!」
「うるさい」
「うるさくない!!」
「うるさい」
「うるさくな(以下略。)」
ピコとルウの不毛な言い争いが始まった時、シートの背もたれの背で大人しく垂れていた黒猫が、むくりと顔を上げる。
猫は、五月蝿そうな顔をしている。
その顔は人間染みた表情だった。
そして、
「うるさぁあい!!!!」
そう叫んだのは、ルウでもなく、もちろんピコでもなく、後ろの黒猫だった。
2人は、口喧嘩をピタリと止め、びくりと体を振るわせる。
その後、2人同時にそそっと後ろを振り返った。
黒猫は背もたれの上に上手く仁王立ちしている。
「ご……ごめんなさぁい……」
「ご……ごめん……シロちゃん……」
2人は猫に対して謝る。
その黒猫はじろり、と2人を睨んだ。
猫は、すうっと息を吸い込むと、
「お前等の後ろじゃ静かに寝られやしねぇ!! 俺は一日15時間睡眠が必要なデリケートな猫なんだよ!! 第一な、ピコは五月蝿すぎる!!! そんでもって、ルウも相手にすんな!! お前等はちょぉっとは静かにできねぇのかよ!!そしてっ、俺をシロちゃんと呼ぶなぁぁあ!!!」
シロちゃんと呼ばれた黒猫は、息を荒げて言う。
彼は『シロノ,レイ,エルフイド,ア,ロアール』と言うかっこいい(そして、長い)名前を持った黒猫。
オマケに生まれつき、人間の言葉をしゃべる事が出来るのだ。
シロちゃんは、もういくつ前だか忘れたが、ずっとずっと前の国で2人に拾われた。
その時にピコがそんな長い名前嫌だ、と言い出し、シロノのシロをとって(通称)シロちゃんにしてしまったのだ。
「ぁんとき……シロちゃんなんかになっていなけりゃ……」
そうシロちゃんは俯いて言う。
ルウがシロちゃんに聞いてみた。
「シロちゃんって呼ばれるの何でそんなに嫌なの?」
すると、シロちゃんは、がっと目を見開くと、叫んだ。
「俺は黒猫だぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!」
シロちゃんの叫び声が、広い、広い草原に響き渡った。
*
「ぁ、そだ」
シロちゃんの叫び声の後に、ピコがいつもの調子で呟いた。
「……何……」
ルウが耳を押さえながら聞く。
今だに耳鳴りが止まないらしい。
「この後の国ってさ。どんな国とか聞いてないの? 他の旅人さんから」
楽しそうに、ピコが聞く。
無論、たいていの時は楽しそうなピコだが。
国の城壁はさっきより少しづつ近づいて来ていた。
「そうねぇ……」
ルウは目を細めてその城壁を見た。
「なんか、すごく豊かでいい国って言ってたわね。……皆、口を揃えて」
「そぉっか〜。よかったねぇ。次の国楽しみ〜」
ピコはこの次の国が楽しみでしょうがないらしかい。
声が明るく弾んでいる。
しかし、ルウは何故か少し厳しい顔をした。
ピコはそのルウの表情に気付くと、少し心配した様子で、
「ルウ〜何でそんな顔してるの〜?怖いよ〜」
そう言った。
「ん。……ちょっと嫌な予感がしてね」
「予感?」
「そ。……まぁ、大丈夫だとは思うけど」
ルウが一層目を細めて見た国の城壁は、より一層近く大きく見えていた。
「いらっしゃいませ。我国へようこそ!!」
その国は、やや高い灰色の城壁を持った国だった。
灰色の真ん中に、大きな木製の国への門。
灰色の中に、深みのある木の色は映えて見えている。
その下に、門の手前に2人と1匹ともう1人の影があった。
2人はルウとピコ。1匹はシロちゃん。もう1人はその国の入国審査担当らしき兵士。
兵士は、背が高く、体格のいい男性でピコやルウより、遥かに大きかった。
その体格に似合わない優しい声で、
「我が国の入国審査方法は、この書類を書いていただければ結構です」
そう言うと、兵士はニコニコ笑いながら、バインダーに挟まれた紙を、ルウに一枚差し出した。
「……わかりました」
ルウは相当面倒そうな顔をしながら、それを受け取った。
その紙は、名前、歳、滞在期間、職業……などの項目が書いてある。
ルウはそれを、やはり面倒そうな顔をしながら書いていた。
すると、兵士が大変嬉そうに、
「いやー、旅人さんなんてすごく久しぶりですよー」
と、話だした。
「そうなんですかぁ」
ピコもそれにのる。
「はい、こんな奥まった所に国があるせいか、あまり旅人さんが来てくださらないんですよー。きっと、街を歩いてらっしゃっると、お食事やお茶に誘われますよ」
兵士は、そう言った。
ピコの横で紙を書いていたルウは、ようやく書き終わったらしく、黙って兵士にバインダーごと渡す。
「ありがとうございます」
兵士はそう言って、受け取る。
兵士は受け取ったバインダーを、これでもかと言わんばかりに適当に目を通した。
そして、ポケットから小さい判子を取り出すと、ぽんっといい音をたてて紙に押し付ける。そこには、『入国承諾』と赤い文字。
「はい。これは入国中なくさないで下さいね」
兵士はそう言いながら手渡されたのは、この国の地図と判子を押したさっきの紙。
「はい。わかりました」
無表情でルウは二つを受け取り、それだけ言うと、さっさとボロ車に戻って行った。
ピコと白ちゃんもそれに続く。
ルウは乗り込むやいなや、かなり鈍い音をたてながらエンジンをかける。
「門を開けます〜気をつけて下さいー!!」
兵士はそう叫ぶと、門の横にある綱を思いっきりひっぱった。
ギ……ギ……と木が軋む音をたてながら、大きな木の門が開いていく。
「さて。この国はどんな国かしらね」
「さぁ〜?でもまぁ、いい国だといいねっ」
「……だな」
そんな2人と1匹の会話を残して、車は門をくぐっていった。
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2006/08/18(Fri)23:11:37 公開 / 詩音
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■作者からのメッセージ
こんばんわ、詩音といいます。
初投稿で緊張して、手が震えてます…。
今回いただいたアドバイスを出来る限り生かしたつもりなのですが、生かされていなかったらすみません…。
生かされていない、と感じられたらきっぱり言っていただけると大変ありがたいです。
まだまだ、未熟モノですが、批評や感想を貰えたら嬉しいです。
頑張って書くので、よろしくお願いします