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『「大切な人の大切さ」』 作者:潮の夜 / 恋愛小説 ショート*2
全角8905.5文字
容量17811 bytes
原稿用紙約28.2枚
ダメな中心的存在の良平と、いいやつの中心的存在の涼子が織り成すラブストーリー…
世の中にはチャンスという言葉がある……。
けれど、オレは今までに起こったチャンスというチャンスを、
見逃してきた。いや、見逃したんじゃないわからなかった……。
けれど今はチャンスだと思っている。オレの好きな子と二人きり……。
これはチャンスというものだろう。けれど、オレはふられるに決まっている。
何故かって?それは、オレと好きな子は正反対だから……。
何をしても、喧嘩……。喧嘩するほど何とやらと一般的に言われているが、
そんな事はありえないだろう……。もしありえたとしたら、もう分かっているはずだ。
いくら鈍感なオレでも……。こういうところも反対なのだ。
彼女は、明るく真面目、勉強・運動もできて、クラスの中心的存在……。
更に、こういう話題には敏感……。
それに比べオレは、真面目じゃない、勉強もできなけりゃ運動も……。
クラスの中心的存在だけど、彼女とはかけ離れている中心的存在……。
それは、クラスの中の反抗的グループの中の中心的存在……。
こんな事は起こってはいけない事であろう。
なんたってクラスのダメ的な奴らの中心人物が、
クラスの良い奴らの、中心人物を好きになってしまうのだから……。
そんなこと人の勝手だという人もいるだろう……。けど、オレ等は違うんだ。
ダメなヤツはダメ同士……そんな感じ……。しかも、付き合うとなると絶対に、
ダメ的グループの中の人たちから軽蔑されるだろう……。
だけど、オレは好きになってしまった。なんだか不思議な気分だった。
彼女は,真面目に勉強している。
時々,こちらの方を見ている。それは,オレのことが好きと言うことではなく,
ただ,先公に見張れと言われたのだろう。
静寂の中,彼女の教科書をめくる音しかしなかった。
急にオレは立ち上がった。そのことにビックリした彼女は、
「どうしたの?」と一言。
オレは、決心した。けど、どう言っていいかわからん。
でも、この言葉だけは浮かんでいた。
「オレ、オメェのことが好きだ」
……しばらくの沈黙……
その沈黙を破ったのは彼女。
「はぁ?何言ってんの?」
思ったとおりの言葉……。
「そういわれると思った……。けど、オレはほんとにオメェのことが好きなんだ」
「どうせ嘘でしょ」
「いや、嘘じゃねぇ。マジだ」
そのとき、彼女が泣き出したんだ。
「え?おい!どうした!」
「ゎ…わたしも…前から好きだったの」
その声はあまりにも小さくて、聞き取りにくかった。
けれど、教室が静かだったので聞こえた。
「やっと、思いがつながった」
彼女はそういった……。


「1,彼女の思い」


 突然、目の前が明るくなった。目を開けるといつもの自分の部屋だった。
いつもこう。目を開けると母さんと、自分が作ったプラモデルたち……
いろんな色のプラモを作っているので、部屋の彩りは豊か。
「ん〜……。おはよう」
「おはようじゃないよ。もう遅刻だよ,良平」
!……。いつもの時間、いつもの時間。だと思っていた。
けど、今日はいつもより遅い。これじゃ完全に遅刻だ!
でも、オレはダメなヤツの中心的存在……。少しぐらい遅刻したって平気!
そう思いながらも、早足で学校へ向かった。
学校へ行って、教室の中へ入ろうとしたら……。
ドカッと何かがオレにぶつかってきた。
「ゲホッ」それをまともに食らったオレは教室のドアへ激突……。
フラフラとよろめきながら後ろを見ると、オレの彼女 斉藤 涼子(さいとう りょうこ)がいた。
いつもは遅刻などしない。それなのに今日はなぜ?
「もう……。どいてよ!遅刻してるんだから!」
スッと,オレを避けて教室に入る涼子。
クラスでは,「めずらしい」だとか「涼子も遅刻するんだ」などと,涼子を冷やかしていた。
少し静かになってからオレが教室の中へ……。
オレは少しも冷やかされず,自分の席へ……と同時に担任が入ってきた。
「きりーつ,気をつけ,礼」と涼子がいいみんなそれに従う。
担任は少ししてから,HRをして消えた(職員室に向かったのだろう)。
1時間目,数学……。オレの最も苦手とする教科だ。いつも寝ている。けれど,2ヶ月前ぐらいだろうか?
涼子とつきあい始めてから少し変わった。彼女は,寝ているオレのことが嫌いならしい。
「勉強しなくてもいいから,起きてて」だって……。そりゃぁ,彼女の頼みといったら,
オレだって断らないよ。起きてるけど涼子の方を向いてた。勉強のことなんてお構いなし。
ずーっと見ていた。起きてりゃいいんだろ?と少しやけくそ気味に……。
でも,どれだけ見てても飽きなかった。むしろ,涼子のことが分かりすぎた。
寝てたときは,何もわからなかった。そりゃぁ分かるわけ無いけどね。
いつの間にか,放課後になる……。そしていつもの,待ち合わせ場所へ……。
人気の少ない所で,絶好の待ち合わせ場所だった。その,待ち合わせ場所というのが体育館裏!!
そこに早足で,オレは行った。
けど,何故か涼子は来ていなかった。いつもならこんなことはあり得ない。真面目だからなぁ。
そんなことは理由にならないか……。しばらくすると涼子が来た。
「なんで,今日は遅刻したり,待ち合わせに遅れたんだ?」ちょっと聞いてみる。
「ゴメン……。私,ちょっと考え事してて」と涼子が言う……。
考え事?そんなこと今まで無かったぞ?もしかしたら,オレのことか?
一瞬脳裏をよぎったことが引っかかった。でも今日は,普通に帰れた。いや普通じゃない。
妙にふたりでギクシャクしていた。涼子は考え事をしている……。オレは,その考え事とやらが自分じゃないのかと心配する。
手もつながないまま今日は帰った。でも涼子と別れてからも,オレは考えていた。
オレのことなのか?もしオレのことなら別れてしまうのか?などと,自分に問いかけてた。
答えなど分かるはずもないのに……。おっと,忘れていたがオレの名前は手塚 良平(てづか りょうへい)。
そして,自分に分かるはずもない疑問を投げかけながら暗闇に吸い込まれていった……。
 いきなり目の前が明るくなった。前も言ったと思うがこれに毎朝起こされている。
そして,目を覚まし色々支度をして学校へ……。
遅刻の時間だから,もう登校時のラッシュの人々はいない。
だから,のびのびと歩ける。「不良生徒の特権だ」とこの頃思ってきている。なんて親父臭いんだ。
そして必ず学校には遅刻する。お決まりのパターンだ。今日は,涼子もちゃんと遅刻せずに来ている。
何もかもがいつも通りに進行していた。でも昨日は何故涼子が遅れてきたんだろう?
それが,オレの中で渦巻いていた。授業中も普段なら涼子をじーっと見つめているはずだけど……。
昨日のことがオレにとってはスゴク重要なことで,大切なことなんだ。
そういうところはオレは変わっている。自他共に認めていた。なんか狂ったら気が済まない……。
昨日のことを考えているうちに,放課後……。気づいたときには待ち合わせの時間。
「やっべぇ」と思っているほど余裕はなかった。走った,本気で走った。
こんなの何年ぶりだろう……。そう思って,走った。
着いた。待ち合わせ場所に……。幸い時間には間に合った。けど,オレの体力が……。
一息つく暇もなく涼子が来た。「なんで,そんなに疲れた顔してるの?」
「時間に間に合わないと思って,走ってきたんだよ」
「そうなんだ」とあっさりスルー。心配でもしてくれると思ったのに……。
なんでだ?いつもなら,心配してくれるはずなのに……。絶対おかしい!そう思って
「涼子。お前,ちょっと昨日からおかしくないか?」と精一杯の言葉で言ってみる。
「えっ?何が?」
「何がって,……いつもなら遅刻しないのに遅刻したり,心配してくれるところをしなかったり……」
「べ,別にたまたまよ」
明らかに何か隠していた。こういうことは敏感なのだ。
「絶対に違う!!」
そう,言った瞬間。涼子が黙った。……俺も何を話していいのか分からない
二人とも話さないから,静寂と言う名の重くたれ込めた空気が周囲を包み込む。
こうなったらオレは,何も話せなくなる。涼子の方をチラッと見ると,
真剣になって考えていた。余計に話すことが無くなる。涼子が考えていなかったら,
笑い話でなんとでもいける。そう考えていたのだが,それもできなくなった。
……沈黙……周りの音が妙に大きく聞こえる。
いつもなら,聞こえてこない風の音や車の行き交う音……。
様々な音がオレの耳に聞こえていた。オレはこんな時間は嫌いではない。
けれど,涼子とこんな中にいるのは嫌だ。時々あるけれど,それは気まずい空気ではなく
それなりに,いい空気だった。けど,今は違う。こんな考え事をしているが,涼子は未だに考え込んでいる。
考え込んでいると,ふと涼子が口を開けた。
「私ね,ちょっと考えてみたんだ」
「何を?」と言いたかったんだけど,そういう暇もなく涼子の話は続いた。
「良平のどこが好きなんだったっけ?って」
「そう,考えてたらさ深く考えちゃって,昨日みたいな失敗しちゃった」
「それって,オレのどこも好きじゃないのにつき合ってるってこと?」
「うん……。そうみたい」
グハッ。考えてもいないことを言われてしまった。ショックすぎる……。
「別れよう」そう言われたみたいな気がして,涙が出てきそうだった。
それを必死にこらえていたら「ねぇ,私……。別れたいな」と,必殺の言葉……。
また,静寂。だけど,今度はオレの涙の落ちる音がした。生まれて初めて泣いた。
ふられた……。そう思うだけで,涙が止まらない。やはり,涼子には向いてない男だったんだ。
そう実感していた。けれど,今は泣いてる場合じゃないと思って,涙をふき
「そっか,涼子が別れたいんだったら……別れよう」
そして,別れた……。オレの恋の時間は今ここで絶たれた。
そう,それが彼女のオレへの思いだったんだ。所詮叶わぬ恋だったんだ。家への帰り道,しんみりしながら帰った。
泣きながら……。
 涼子と別れてから,1週間が経った。オレは今でも,涼子のことが好きだ。
けれど,告白するつもりはない。どうせふられるから。けれど,つき合っている頃よりも
涼子の大切さが分かった気がする。涼子の暖かい口調。涼子の優しい性格。
色々なことが沸々と蘇ってくる。そうやって考えてるうちに涙が出てくる。
そんなことが毎日,続いてたんだ。
ある日,いつもの様に遅刻して学校に行き,教室に入ろうとすると
「ドスッ」っと後ろの方で鈍い音が……
殴られたかと脳がはたらき出す瞬間,もうからだが吹っ飛んでいた。
「ドチャッ」っと音を立ててこけた。
こういうシチュエーション前にもあった様な……と思考回路がそっちの方向に走り出した瞬間,
「もぉーなんでいっつもドアの前でぼーっとしてるかな?」
やっぱ涼子だ!また遅刻か?もしかして考え事か?となんだか,期待がふくらむ……。
そんなことはないだろうと思っていた。もしかしたら……。今日か?そんなことを考えていたらいつの間にか放課後……我ながら進歩がないと思う。けれど,進歩がないからこそ見つかる何かってモンがあるんだ。
と,心にいっつも言い聞かせている。ただ,進歩するのが面倒なだけだが……(汗
オレは,もう一度涼子とつきあえると思ってウキウキしながら帰った。
けれどそんな事にはならず,月日だけが経っていった。
涼子と別れてから,1ヶ月経った。3週間前は,また涼子とつきあえると思っていたが今はそんな事を考えなくなった。
前と同じように授業は,寝る……。昼頃に起きて,朝飯兼昼飯を買いに行く。
いつも,焼きそばパンを買って屋上で食っている。屋上は立ち入り禁止なので人はいない。
なんでオレは入れているかって?そりゃぁピッキングテクがあるからかな……。
なんて,そんな技術はオレにはない。屋上への入り口の鍵が壊れているから。
そのことをみんな知らない……。静寂の中の焼きそばパンはうまい!!
それは言えるぞ。しゃべりながらなんて何食ってても変わらないじゃないか。
と,ふと考えてみたりする。風の音が妙に心地よい。いつも屋上で夕方まで過ごしている。
この街の中で一番,夕陽が綺麗な場所だからな。夕陽を見てから家に帰る。
そう言う時間の過ごし方をしている。ちょうど,夕陽を見て帰ろうとしたら,後ろから
「こんな所で何してるの」と,聞き慣れた声で言われた。
聞き慣れていたとしても声だけでは,誰だか判断できなかった。ただ,女としか分からなかった。
ふり返ってみると,そこには涼子がいた。ドアが開いていたのだろう。
涼子が,近づいてきた。オレの横に来て,
「へぇー,屋上のドアって壊れてたんだ。いつから知ってたの?」
オレは普通に話しかけてくる涼子にビックリした。まるで,別れていないときの様に話しかけてきたのだから。
一瞬ためらってから,
「1年の頃から知ってたよ」
オレは正直に答えた。つき合ってた頃は,冗談交じりにいつもしゃべってた。
「ほんとかなぁ?」
やはり,つき合ってた頃の口調……。なんだ?もしかしたらまたつき合えるのか?
またそんな思いがオレの頭の中に蘇ってくる。でも,オレはふられた後の事で頭がいっぱいになっていた。
もし,ダメだったらまたあんな思いしなきゃダメなんだ。と……。
涼子の質問なんか聞いてなかったの用に,二人とも黙ってしまった。
この静寂……。前も味わった。この重苦しい雰囲気が,オレには耐え難かった。
その空気から逃げようと,俺は帰ろうとした。
けれど,何故か足が動かなかった。帰りたいけれど,涼子とも一緒にいたい。
そんな思いが,頭の中で交差していた。涼子といたいと,思ってもなんだか悲しくなってきた。
告白する前に戻りたいと,思っていた。けど,もう戻る事はできなかった。
そして,オレは校舎内に戻ろうとした。でも,戻れなかった。涼子が服を引っ張っているのだ。
「離せよ!」そう言うと,涼子が
「私……。良平君の事やっぱ好きだな。もう一回つき合って?」
そんな事を言った。オレは,素直に喜ぶ事ができなかった。それは,ふられたときに言われた言葉が引っかかっていたからだ。
「別れるときに言ってなかったか?オレのどこが好きか分からないって」
そう,オレは聞いた。素直に喜べば良かったものを,オレはねじ曲げた。
「そ,そんな事……。別れて分かったのよ。良平の大切さが……。
 私,良平の優しいところも好きだし,意外とロマンチックな所も好きだよ?」
その言葉を聞いて安心した。言葉はいらなかった。ただ,彼女を抱きしめるだけでそれは分かったから……。


「2,涼子の可愛さ」


 今は,野球部にしたら大事な時期だろう。そう,今は夏。オレは部活などには入っていないから,約1ヶ月休みみたいなもの。
そう考えると,スゴク有意義な休みになりそうな予感がしてくる。けれど,そんなに世の中は甘くないものなのだ。
オレは,いつもの待ち合わせ場所に行った。いつもより早く待ち合わせ場所に行ったつもりなのだけれど,涼子はもう来ていた。
「もー。何してたの?」少し怒り気味の口調でそう聞かれた。
「え?いつもの通り,屋上にいたけど……」
「いつもの通りって今日は終業式でしょ。いつもより早く終わってるのになんで,早く帰ろうって気にならないの?」
一瞬とまどった。そう,今日は終業式。いつもよりも,学校が早く終わっている。
「だって,オレの日課に屋上で夕陽を見るって言うのが入ってるんだ」と自分の主張。
すると,涼子があきれた様な顔をして
「日課か……。それなら仕方がないわね。良平ってそんなのねじ曲げるの,大嫌いだからね」
「そう,そう言う事。さすが,オレの彼女!!」と,涼子を持ち上げる様にして言う。
「もう!冷やかして……。ま,それはおいといて。夏休みに海に行かない?」
はい?今なんて言いましたか?海?オレにはそう聞こえましたが何をしに?
おれが,そう言う顔をしたから涼子がオレの考えを読み取り
「海に行って,花火しよう?」と,上目遣いでオレに聞いてくる。
この上目遣いに弱いのだ。何故かって?そりゃあ,涼子のギャップにだよ。
「花火?」
「そう,花火。夜にこっそり利木津海岸に行って……」
「わかった。じゃあ,いついく?」と軽く言った。
「やった。行く日の前日に連絡するから」
「おいおい。こっちにも予定ってものが……」予定なものなんてこれっぽっちもない。
そんな事は涼子も分かっていた。
「そんなもの,良平にはないでしょ」やっぱわかってるのね。
「はい,ありません……」
「じゃあそう言う事で」と,ここで会話は終了。後はいつも通り,手をつないで帰った。
 「プルルル!」
うお!?な,なんだ?電話?
オレは,着信音にビックリしてベットから落ちてしまった。無論今は夏休みなので,親には起こされず自分で起きないと昼とかでも寝ている。
電話を取ると元気な声が聞こえてきた。
「良平!明日,利木津海岸に行こう」涼子だった。予想はしていたが,何も夏休み最後の日に行かなくても……。
「まぁ,用事も無いしいいよ」
「やった。じゃあ,明日の夜8時ね」「ブツリ!ツーツーツー」
切れた……。もうちょっとぐらい話してもいいじゃないかと,思いつつもオレはウキウキしていた。
そしてまた,深い闇へと陥るのだった。
起きると,夏休み最終日の昼だった。
今日涼子と一緒に,利木津海岸で花火をする事になっている。
涼子も,花火は買ってくるだろうけどオレも買いに行く事にした。
近くのおもちゃ屋というか何というか……そう言う場所。でも,けっこう敷地は広い。おまけに,いろんな場所に支店があるらしい。
その中に入ると,花火の季節なのか花火ばかりが売られていた。
ロケット花火,線香花火,普通の花火等々。それをばら売りやら,セットで売っているだとか色々……。
迷った。オレの好きなのはロケット花火だ,けど,ロマンチックみたいな感じに行くと線香花火?
迷った挙げ句,セットで買った……。最初からこうすればよかった……。そう考えてその店を出た。
出た瞬間,目の前に涼子が!
「うわっ」「うわっ」二人ともビックリして声に出してしまった。
「なんでここに涼子(良平)がいるの」ほぼ同じくらいに言った。
一瞬,沈黙……。でも,涼子が笑い出した。
「ハハハハハハ」ビックリするほど大きな声で。
「どうしたの?」「だって同じ事考えているんだもん」
涼子が言った。そうだったんだ,涼子も花火買いに来たんだ。
「じゃあ,いっぱい花火買って今からやろお」
涼子が言い出した。「え,ウソだろ今から?」「うん,そうだよ。何か問題があるの?」
「いえ,ありません……」
そのまま向かった。まだ,夏という感じに暑い。もう秋になって欲しいものだ。
そんなくだらない事を考えていたらすぐ利木津海岸に着いた。夏の終わりと言う事で,誰もいない。
いわゆる二人きりという奴だ。ふと,涼子の方に目をやった。
潮風に髪がなびいて,どこか大人っぽさを感じさせた。
オレの視線に気づいたのか,「どうしたの?」と尋ねてきた。
「いや,何でもない」そうとぼけたオレは持っていた花火を砂の上にそっと置いた。
そうして,自分たちも砂の上に座った。沈黙……。けれど,この沈黙は重苦しい雰囲気じゃなくどこかいい雰囲気のかんじだった。
やはり,話してないと波の音,海鳥の声,色々なものが聞こえてきた。どこか,ゆったりとしていていい気分だった。
たまにはこんなのも良い,そう考えていたら涼子がこちらの方を向いていた。
可愛く体操座りをし,腕の上に顔をのせこちらを見ていた。オレも,涼子の澄んだ目を見つめた。
少しすると,涼子が視線をそらした。恥ずかしいのかな?そう考えていた。
花火なんてしなくても良い。涼子と二人きりでいられるだけで,それだけでいいんだ。
そう考える様になっていた。そう二人で寄り添いあっているだけで……。
潮風,いつもなら嫌な風だった。けれど,今はすごく心地よく二人を優しく包んでいた。
波の音もオレ達を包む様に静かに音を出していた。しばらく,そのゆったりした時間を過ごした。
夕陽が沈む頃,涼子が口を開いた。
「きれいだね」「うん。オレこういう景色が好きなんだ」
「そうだよね,屋上でもこんな感じなんでしょう?」
「そうなんだ〜,ここよりも綺麗なんだぜ〜。一回一緒に見たいよな」
「一回じゃなくて,何回も何回も見たいな」と,手を握ってきた。
ドキッとした。その手がものすごく冷たくて……。その手をギュッと握りかえし
「そうだな!じゃあ,もうそろそろ花火しよう」
「うん!」
その後,二人で花火をした。いっぱい買ったからやってもやっても終わりがなかった。
涼子のはしゃぎ方を見ていると,なんだかこっちの方が素なんだろうなと思えてきた。
学校で見せているのは,涼子の裏の姿で作っているもの。こっちは本当の涼子。
すごく,すごく可愛かった。今までにない涼子の姿が今ここにある。こうも変わるのだろうかと言うぐらい変わっている。
花火も,後線香花火だけになった。
「二人で一本ずつやろうよ」
涼子の提案である。初めての経験といえよう。女の子はこんな事まで考えるのかと思った。
「う,うん。わかったよ」
パチパチパチ……。
「あ〜,また落ちた。ちゃんと持っててよね」
「ご,ゴメン。だって,ドキドキして持てないよぅ」
「もう、そんなに私が好き?」
「うん、好きだよ……大好き」
と、ここで自分の唇を涼子の唇に重ねようとする。
涼子もそれを悟ったのか目を閉じる、唇を重ね合わせるのも久しぶりだ……
なんだか、不思議だった。今まではしゃいでいたのに急におとなしくなった涼子。
唇を重ねるだけの幼稚なキス。でも、それだけで十分だ。
「もう、帰る?」不意に涼子が言った。
「帰ろうか……」オレは満足だった。
「うん!帰ろう」
こんなに、有意義な夏休みは過去にあっただろうか?そんな風に考えながら、涼子と手をつなぎ家路に着くのだった。
2006/07/31(Mon)10:19:18 公開 / 潮の夜
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