- 『鬼娘』 作者:春乃啄木鳥 / 異世界 時代・歴史
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第一章
時は戦国時代。
人々はまだ争う事を止めなかった。
その国は見渡す限りの荒地。
その国には多数の勢力争いが繰り広げられていた。
その中の『卓郭(タクカツ)』は大して大きな軍では無かった。
この物語は、この勢力『卓郭』の話である…。
「満陣様ッ!!」
勢いよく戸が開かれ、一人の男が部屋に入ってきた。
その部屋とは、書院で、満陣の個人部屋…といえば判るだろう。
「何だ…。採炎(サイエン)…もう少し静かに…」
「武涯(ブガイ)軍がこの城に攻めてまいりますとの報告がッ!!」
採炎と呼ばれた男は大声で叫ぶ。
その言葉に、ピクリと満陣が動く。
「何…だ、とぉ…?」
満陣は立ち上がり急いで部屋を出る。
ドタドタと廊下を走る。
「満陣様!急ぎ皆への報告、出陣を願いますッ!!」
「あぁ、その前に武涯の総人数、現在地が判るか!?」
「ハイッ!」
その返事と同時か、それより少し遅いかで近くの戸が開かれる。
出てきた者は、まだ17の少年だった。
この少年は満陣の息子、満『ミツ』だった。
「御父様!!」
満は叫ぶ。その声に気付いたのか満陣が足を止める。
そして、採炎を先に行かせ満に振り返る。
「御父様、私も連れて行ってください!!」
満はまた叫ぶ。
しかし満陣は首を振り、静かに言った。
「御前を連れて行くことは出来ない。」
「何でですか!?私だってもう17です。武力だって自信があります!!」
満の言う事は間違ってはいなかった。
この時代では16にもなれば戦場で立っているのが普通であった。
しかし、満陣はそれを許さなかった。
許せなかった。
「御前は、此処に残って裏葉(ウラハ)を守ってやってくれ。」
それはただの甘えだった。
失う事を恐れていたのだった。
「しかしー…っ」
「満、お止めなさいね。」
部屋の奥から母親、裏葉の声が聴こえる。
満は黙って下を向く。
「行ってきてくださいな、満陣。」
満陣は満の肩に手を乗せ、
「行ってくる。満、裏葉を頼んだぞ。」
そう言って満陣は足早に走っていった。
「…。」
満は黙って父の背中を見ていた。
なんだか、不吉なものが父の背中にまとわりついているような気がした。
気がして…ー
不安に襲われた。
(どうすれば、僕は父上の傍で守っていられるのだろう…っ)
それは簡単に出来るような事ではなかった。
そんな事ぐらい満にも判っていた。
ただ、連れて行って欲しかった。
もっと父に頼ってもらいたかったのだ。
(父上…ッ!!)
心の中で満は叫んだ。
どうすればと言う言葉が満の頭の中で同道巡りしていた。
そして…、一つの伝説を思い出した。
“鬼”という、伝説を…ー。
*
第二章
*
朝、まだ夜も明けぬ頃…
卓郭軍は出陣した。城にいた者は皆門のところで見送っている。ただ、一人を除いて。
勿論の事だが、その人物とは満である。満は皆が門のところに集まっている隙を見計らって
裏口の取っ手から静かに馬を走らせていた。
向かう先は裏山、佐々山である。
この山には古くからの伝えがあった。“鬼”が住んでいるという伝えであった。
ただこれは、そこら辺の噂話とは訳が違った。すでに何度も目にしている者もいる。だが、見た者は
皆言ったのだ。
『在り得ない力。 妖術を使ってる。 人間じゃない。 鬼だ、鬼。』
それはこのあたりではもう有名なぐらいの話である。
其の者はずっと昔から裏山に住んでいたそうだ。今じゃ全然話を聞かないが、一昔前までは
知らない者はいないというほどのものだったらしい。
(其の鬼に頼めば、戦に勝てる…!)
その思いひとつで満は馬を駆けさせる。そして、たどり着いた。
困った事に何処にいるのか知らずに飛び出してきてしまった満は、どうしようかと辺りをうろつく。
(もう少し、もう少し上にいるのかも…。)
そう思い、少し上ってみる。何も変わらない風景。高まる気持ち。
グッと思いを固めると、満は叫ぶ。
「おい!聞こえているか、鬼よ!我が名は満!卓郭満陣の長男だ!」
返事は無い。それでもまた叫ぶ。
「お前に頼みがある!出てきてくれ!」
ガザッ!
木と木が擦れ合う音がする。ギャアギャアという鳥の鳴き声。
流石に怖くなってきた。
「頼む…、出てきてくれ!鬼でも何でもいいから出て来い!!」
パキ…
ふと上を見上げると人影らしきモノ。途端、いきなり飛び降りてきた。
「ぅわっ」
反射的に手を顔の前に構える。飛び降りた鬼はそれを見て少し驚いたようにみえ…−そして
軽く笑って後ろを向く。
「何のようだ。」
良く観ると鬼といってもただの少女であった。まだ10歳程の小柄な女の容姿で、髪はとても長く白銀色。
一瞬見えた瞳は真紅の色、そして加え付けに頭に二本の、角。
「ぁ…父を、卓郭軍を助けて欲しい。鬼が加勢すれば戦に勝てると聞いた。」
「そんなもん噂だ。負ける戦は負けるんだ。」
男口調で答える。それでも満は諦めなかった。諦めてしまったらもう最後なのだ。
「嘘だ、お前何か使えるんだろ!?妖術とか、頼むよっ父を助けてくれ!!」
すると鬼がくるりと向き直り満の手をグイッとひっぱる。
「できねぇモンはできないんだよ…。」
顔を間近に近づけられどす黒い声で言い放つ。かたかたと震える満の手…。顔をそらせる。
すると鬼は手を離し帰ろうとする。
「待ってくれ!」
急いで後を追おうとするが腰が抜けて体に力がうまく入らない。
だんだん遠くに行ってしまう。
(く…っこんな事で諦めてたまるか!)
むんと向き直り震える手を握り締める。足に力を入れて鬼に向かって飛び出す。
が、なんと鬼は一つ下の崖に飛び移ろうとしていた様で。つまり、そこに飛び出した満は
鬼をなんとか捕まえたものの鬼はバランスを崩し行きたい方とは逆の…、かなり遠いところにある地面に
向かって傾く。
(え、え、えっ!)
当然、こんなふうになっては満には何も出来ない。
「ぅわーっ!!」
遠い崖の下へ、真っ逆さまになって落ちていく。仕方なさそうにして満を抱きとめる鬼の手。
しかし突き出ていた崖に背中をしたたか打ち付ける。うっと低いうめき声をあげ、二人は暗い闇へと落ちて行った。
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2006/07/23(Sun)22:57:19 公開 / 春乃啄木鳥
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■作者からのメッセージ
まだまだ此処のやり方を上手く掴み取れない
春乃啄木鳥です…;
こんな作品ですがアドバイスいただけると幸いです。