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『僕が歩いていく道の中』 作者:涼 / リアル・現代 異世界
全角6037文字
容量12074 bytes
原稿用紙約19.95枚
 両親を亡くした主人公は、友人や生活に恵まれながらも、同じ事の繰り返しに退屈を覚える。 そんなある日、彼は異界から来た少女に出会い、惹かれていく……。 といった典型的なボーイ・ミーツ・ガールです。
 つまらない。
 飽きた。
 そんな感情が、僕の心の八割程度を支配していた。
 それらは螺旋のごとく、僕の心の中を駆け巡っているような感じがする。
 今の生活に不満があるわけではない。むしろ幸せだ。幼馴染みの結衣が僕のために料理を作ってくれたりしてくれるし、学校で友人達とくだらない話をするのもまた一興だ。
 それでも、何か足りない。何だろう?
 友情? 優しさ?
 いや、違う。そんなものはもうすでに貰っているし、それほど欲しいとも思わない。
 でも、今考えてみると、最近はそう思わなくなってきた。
 それはいつからだったろうか……。どうしても思い出せない。

 そんなことを考えていると、僕の冬休みの宿題をやっている手は止まっていた。考え事をしながら、勉強などはかどるわけもない。そんな時間の余裕は無いのだが。
 六畳ぐらいの大して広くない僕の部屋。その中にはやや大きめのベッド。そして今僕が腰掛ける椅子と、それと対になっている机。さらにもう一つ別の椅子がある。それらが、この部屋を一層狭く感じさせた。
 今現在この部屋には僕しか居らず、嫌に静かだった。閑静という言葉をいくら並べても足りないぐらいの静けさ。窓から差し込む茜色の夕日が、音にならない音を奏でているだけ。
 どうして夕日って赤いんだろ……。
 そんななんでもない事を考えていると、か細い声が静の空間、すなわち僕の部屋に響いた。
「ねぇ……和哉……」
 全くその声を予想していなかったので、椅子の後ろに荷重をかけて、椅子を後方に傾けていた僕は、見事に椅子ごと倒れ、頭を打った。
 物凄く痛い。軽く頭を触ってみると、小さな瘤が出来ている。
 それを見た声の主である少女が、心配げに僕に声をかけてきた。
「あっ、大丈夫……?」
 思ったほど痛くは無かったので、僕は立ち上がりながら、軽くおどけた調子で答えた。
「あ、うん。大丈夫だよ、紗那(さな)。それに僕は意外と丈夫なんだぜ?」
 僕は右手でこぶしをつくり、どん、と胸を一回叩きながらそう言った。
 その答えを聞いて、少女が安堵の表情を浮かべる。そして、一言だけ呟く。
 よかった、と。
 さっきまでの静けさとはうってかわって、その空間は僕と紗那のものになった。
「何してたの」
 椅子をせっせと立て直している僕に、紗那は突然そんな質問を投げかける。僕は短く答えた。
「宿題」
「ウソ」
 答えは即座に返ってきた。まぁ確かに、色々考えてて手は止まってたけどさ。一応宿題をやっていた……はずだ。
 すると、椅子に座り直した僕の横にある椅子に、紗那が腰掛けようと歩いてくる。
 彼女が歩くたびに、漆黒の長い髪が揺れる。
「もう一月六日だよ? だから早めにやっておけって言ったのに」
 紗那がやけに説教くさく言った。
「しょうがないだろ。僕がマメにできる性格じゃないって知ってるくせに」
 すると、紗那が怪訝そうに僕を見てきた。そしてたった一言呆れた、と口が動く。
「あかいしさんは?」
 また別の質問をする。紗那の髪色同様黒い双眸が、奥の方でわずかに光った。
「結衣なら夕飯の買い出し」
 少し冷たい言い方だっただろうか、と少し後悔しつつも、僕は紗那を横目で見た。
「そんなことないよ。和哉は私の質問に答えてくれたんだから」
 あれ、僕は今、声に出して言ったっけ……?
 でも、微かに微笑む紗那を見るとまぁいいか、という気持ちになれた。
 紗那の周りだけ、空気が澄んでるように感じる。いや、違う空気が流れている気さえする。
 すると、僕はさっき考えていた疑問の答えに行き着いた。
 そうだ……。紗那に会ってからだ。つまらない、と思わなくなったのは。
 紗那に会ってから、僕の日常は急変した。良い意味でも。悪い意味でも。
 窓から吹き込む風が、僕を優しく包む。それは心地良く、それでいて心無い風。
 吹き抜ける風は、僕の心にも吹いた。



















「ねぇ、和哉。今日が何の日か知ってる?」
 それを聞いて、僕はきょとんとした。
 全く覚えがない。
「今日……?」
 僕は結衣特製(さして普通の物とは変わりなし)の卵焼きをつつきながら言った。
 美味い。
 結衣の料理を食べるといつもそう思う。
 その甘味が口の中に広がり、さらなる食欲を促進させる。そしてまた、別のおかずに手を伸ばす。
 その様子を見て、結衣が怪訝そうに尋ねてきた。
「覚えてないの?」
 ちょっとばかり睨みつけられたので、僕は少し震え上がってしまった。
 そんなこと言われても、覚えがないのだから仕方ない。
「ほんとに、ほんとに覚えてないの?」
「うっ……」
 なんかこう結衣に詰め寄られると、物凄い威圧感がある。でも、僕はその結衣に立ち向かうことにした。
「覚えてないんだから仕方ないだろ」
 これが必死の抵抗だった。あぁ……ほんとに情けないよ……俺……。
 ふぅ、呆れた、と結衣が言った。
「今日は何月何日?」
「えっと……十二月二十一日だよな」
 多分、あってると思う。
「そう。そこまでわかってて、なんでわからないの」
「…………」
 僕はとうとう黙り込んでしまった。
「えっと……ゴメン」
「なんで謝るの」
 その返事には物凄い棘があった。やっぱ怖ぇよ。結衣。
 それから僕たちは、しばらく押し黙っていた。
 さっきまでの言い合いよりも、この沈黙の方がやたら迫力がある。
 でも僕には、何の台詞も浮かんでこなかった。適当な言葉を並べてその場を乗り切ればいいのに、今の僕にはそれすらできなかった。
 ああ、何か言わないかな……。結衣。
 先に口を開いたのは、僕の望んだとおり結衣だった。
「自分の誕生日ぐらい覚えておきなさいよ」
「あっ……そういえばそうだったな……!」
 僕はむちゃくちゃ慌てながら言う。
 そうだ、そうだ。僕の誕生日だ。こんなこと小学生でも普通覚えてるぞ……。何だか自分自身が情けなくなってきた……。
 すると、結衣が僕に何かを差し出す。
「これ。ほんとはもっとすっきり渡したかったのに。和哉ときたら……」
 マフラーだった。それも手編み。すごくしっかりときれいに編まれていたけど、なんとなく手編みだということがすぐにわかった。
 ほんとはすごく嬉しかったんだけど、結衣がこんなに手の込んだプレゼントをしてくれたのは初めてだったので、僕は
「おぉ、マフラーか。ありがとな」
 と、この程度のお礼しか思い浮かばなかった。
「えへへ」
 それでも結衣はにっこり微笑んでくれた。ちょっと照れながら。
 そんな結衣はめちゃくちゃ可愛い。もう抱きしめたいくらい。でもそんなことをしたら、空手道二段の結衣の実力が発揮されるのは間違いないので、行動には移せない。
 やっぱりいいな……。こういうのって。
「そろそろいこっか」
 結衣が立ち上がり、言った。
 ふと時計に目をやると、時刻は七時五十五分をさしていた。まあ、家を出るにはそろそろいい時間だ。
「そうだな。行くか」
「ちゃんと昨日のうちに準備した?」
 そう訊かれてどきっとした。
 仕方なく、情けなく呟く。
「してない……」
「もう……いつもしとけって言ってるのに。私が後片付けしてる間に準備しといて」
 結衣の口調は淡々としていた。なんだかキャリアウーマンって感じの喋り方だ。
 それから僕は自室に向かい、登校のための準備。結衣はすっかり汚れきってしまった台所に向かい、朝食の後片付けをはじめた。あぁ、掃除しなきゃなぁ、という結衣の溜息が遠くで聞こえる。
 えっと……今日は何がいるんだっけ。もうなんでもいいや。とりあえず詰めとけ。
 すると背後から声がした。
「できた?」
 僕は振り向きながら肯く。
「ああ、まあな。そっちは?」
「まだ。帰ってからにする」
 ドアの付近には制服姿の結衣がいた。ドアの縦枠に凭れ掛かっている格好だ。その制服のデザインはすごくダサい。なんかひと昔前の学園ドラマみたいな制服だ。
 でも、結衣は全然ダサくなんか見えなかった。服が人を選ぶってこういうことなんだろう。
「行こう」
 そう言って結衣は体の向きを換え、僕に背を向ける形になった。肩を少し過ぎたところまである髪が、すっときれいに流れている。それから首元、腰のラインを目で辿っていく。そして膝裏、足首。ああ、なんか色っぽいなこういうの。女の子って感じ。気性は粗いけどな。
「どしたの」
 黙り込んでいる僕に、結衣が振り向き言った。
「あ、あぁ。何でもないよ。行こう」
 めちゃくちゃ邪なこと考えてたけど多分ばれないだろう。顔には出ていない――少なくとも僕はそう思っている――はずだ。
 そして大して広くない玄関に、結衣と僕が並ぶ。
 ふと自分の足元に目をやると、入学の時に買った白いスニーカー。いまじゃすっかり汚れて茶色っぽくなっている。サイズも小さくなってきたし、そろそろ新しいのを買わなきゃな。
「よし」
 結衣がそう言って玄関の扉を開けた。その途端、冬の冷たい風が僕たちの髪を揺らす。空気も冷たい。
 僕はこういう冬の凛とした空気が好きだった。言葉じゃ言い表しにくいけど、なんていうか、自分と空気の境目を感じることができる。夏のようなもやっとした空気だと、空気と自分との境目が曖昧な感じがする。そんな感じ。
 すると結衣がこう尋ねてきた。
「どう? 暖かい?」
 マフラーのことだ。
「おう。あったけぇぞ」
 それにしてもほんとに暖かいな、これ。
 それから僕たちはしばらく黙り込んでいた。でも寂しくはなかった。
 言葉に出さないと相手には通じない。
 そんなのは嘘だ。言葉に出さなくても分かることはあるし、かえって言葉にしようとして、心にもない事だって言ってしまうこともある。結衣だってそれをわかっているから、何も喋んないんだろう。
 東から射しこむ冬の太陽。冷たい風。それらが僕たちを祝福してくれていた。ん……まぁ、何を祝福してるのかはどうでもいいんだけど。
 すると僕の視界の中に、僕と同じ制服を着た男子生徒が入ってきた。手を振っている。
「よう、東雲」
「なんだよ、杉内」
 僕はつれない態度でそう言った。
「苗字で呼ぶな、気持ち悪ィ」
「おまえもな」
 僕たちはそう言いながら、うははと笑った。
「なんでこんなとこで立ち止まってんのよ。涼輔」
 結衣が不機嫌そうに言う。なんか幸せをぶち壊しにされたみたいな目つきだ。いや、これは僕の思い込みかも知れないけどさ。
「おぉ、いたのか。あかし」
 あ、まずいな、これは。結衣の目がつりあがっている。
「あんたって人はねぇ! 知ってるくせにあかしって言うなぁ!」
 と言って、涼輔にボディブローをかまそうとした。その拳が、見事に涼輔の腹を捉えた。
 涼輔はいてェ、いてェとか唸っている。マジで痛そうだ。僕なら死んでたな、多分。
「涼輔! あたしの苗字はあかしじゃなくてあかいし!」
 あ、そうだったな、と涼輔が言った。もちろん反省などしていない。
 結衣の言うとおり、結衣の苗字は明石(あかいし)である。まぁ間違えられるのはもう慣れた、とは言ってたものの、知ってるくせにあかしと呼ぶやつは許せないんだろう。短気だな、ほんとに。
 そして僕たちは三人で歩きだした。結衣はまだ「間違えんなよ」とか「いい加減にしろ」とか「くたばれ」とか、物凄く女の子にはそぐわない言葉をブツブツ言っている。
 僕たちはいろいろなことを話した。昨日テレビの事とか、教師の悪口とか、まぁありがちな会話だ。
 そこで宿題の話になった。
 涼輔が尋ねた。
「数学の宿題やってきた?」
「私はもちろん」
「和哉は? やってないのか?」
 訝しげな涼輔に僕が答える。
「やってきたよ。ほら――」
 と言って鞄から宿題を出し見せようとした。ところが、
「……ねぇ……」
「おいおい、忘れたのかよ。まだ時間あるし、取りに行ってこいよ」
「そうしたら? 飯田を怒らしたら正座二時間だよ」
 飯田とは僕たちの担任教師であり、数学の教師だ。飯田の場合、宿題を忘れても遅刻をしても、正座刑だ。それはそれで授業をサボれるけど、高校の授業にもなると少しの遅れが致命的になる。
 僕は頷いた。
「……行ってくる」
「急げよー」
「できるだけ早くねー……」
 そして僕はさっきまで来た道を駆け出した。

 僕のアパートは丘の上にあるので、帰り道は上り坂になっている。それを走っていくのは、やっぱり辛かった。結構な距離もあるし。
 そうやって走りながら見る街並みは、当然だけどいつもと変わらなかった。対向車や立ち並んでいる住宅が、後方に流れていく。
 すると、ようやく僕のアパートが見えてきた。三階建てで部屋も十数部屋しかなく、真っ白でとても簡素なつくりである。そのアパートの背景として、建物の後ろから数本の木々が、ひょっこりと頭を出しながら揺れている
 あと少しだ。急がないと遅刻してしまう。腕時計を見ると、八時十二分。ちょっとヤバいな。
「何がヤバいんですか?」
 何者かにそう言われて、思わず立ち止まってしまった。辺りを見回す。どこにも人はいない。アパートの敷地内に植えられている、木々が風に吹かれ動いていた。するとその声の根源がまた僕に問う。
「何がヤバいの?」
「!!」
 その声の主は、僕の目の前に立っていた。精悍な顔立ち。漆黒の双眸。ほっそりとした体。その体を包む黒いマントのようなもの。瞳同様、真っ黒な長い髪。アパートの色が真っ白なせいか、その少女の黒い姿は、一層際立った。そしてその姿は、一瞬にして僕の網膜に焼き付けられた。
 時間がないので、僕は慌てて言った。
「あ、忘れ物をしたんだ。早くしないと遅刻――」
 途中で言葉が切れる。なんだかわからないけど、僕は妙な違和感を感じていた。
「そうなの」
 少女が短く納得する。緩やかな風が、少女の髪をふわふわ揺らしていた。素直にキレイだな、と思う。
 それにしてもこの違和感はなんだろう。とても不思議な感じだ。
 そんな僕を見て、少女がくすっと笑った。
「ふふ、不思議そうね」
 なんだろう、この違和感は。
「えっと……君……! えっと……」
 続く言葉は出てこなかった。この違和感を未だに理解できずにいるからだ。
 少女はまだ笑っている。
「いずれわかる時が来るわ。そう、必ず……」
 そう言う少女の後ろの光景がうっすら見えた。えっと……どうなってんだ!?
 そして、少女は姿を消した。まるで風に溶け込んだみたいだった……。
 そして僕は、空間に一人、置いてけぼりになった。
「まったく……十六歳初日は大変な日になりそうだな……」
 少女の面影を宿した冬の冷たい風が、僕に吹き付ける。
 冷淡なそれは、結衣が編んでくれたマフラーを揺らした。僕の髪を揺らした。佇んでいた木々を揺らした。そして、僕の心をも揺らした。
 これから先、僕には、一体何が待っているんだろう?
2006/07/16(Sun)16:33:14 公開 /
■この作品の著作権は涼さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 初投稿です。涼と申します。以後よろしくお願いします。
 ふと小説を書きたくなり、思うが侭に筆を進めた結果、このようなものに仕上がりました。まだまだ未熟者ですが、ご意見・ご感想・ご指摘をよろしくお願い致します。
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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