- 『くものはなし』 作者:黒猫 / ショート*2 未分類
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そう。オイラは雲。真っ白な雲さ!
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いつものように、オイラは空をふかふか泳いでた。
青い空をのびのび泳ぐのは、すごく気持ちがいい。
そう。オイラは雲。真っ白な雲さ!
今日の空は青くてスッキリして、泳ぎやすい。
一緒に泳がないか?
ね、泳ごうって。
なんだよ、ヤなのか?
……あっ、ニンゲンは空を泳げないんだっけ!
シマッタシマッタ。アハハ、ごめんね。
……何だよ、怒ってるのか?ごめんってば。
え?『雲は気楽でいいな』?
なんだよ、それ!
オイラだっていつも、ただ空を泳いでるだけじゃないぞ。
『じゃあ何してるのか』って?
ん〜聞きたい〜?聞きたい〜?
どうしよっかな〜クフフフ〜ン。
……もうっ!怒んなって。
話してあげるに決まってるだろ!
ニンゲンはいつもカリカリしてるんだから。
こーんな青くて綺麗な空なのに!
……分かった分かった。
話せばいいんでしょ〜だ。
じゃ、ケイタイデンワの電源を切って、そこに座って、座って!
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その日の空は、白い空だった。
オイラの仲間たちが、固まって空で昼寝してたからね。
オイラは昼寝する気分じゃなかったから、みんなと離れて低めに泳いでたんだ。
あんまり低く泳ぐと、木にひっかかっちゃうからね。
そう!ずっと前ひっかかった時大変だったよ!
葉っぱが体にからまっちゃってさ。
とるのに二時間もかかっちゃって。
……あれ、話がそれたな。
まあオイラは一人で泳いでた訳さ。
そうしたら、どこからか赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたんだ。
雲の赤ちゃんじゃない(雲の赤ちゃんは泣くと雨を降らせちゃうんだ)
ニンゲンの赤ちゃんの泣き声だ。
それも、全然泣き止まない……悲しそうにワアワア泣くんだ。
あんまり悲しい泣き声だから、オイラ、ほおっておけなくなっちゃったんだ。
だってそうだろ?
大人は嬉しくても泣く場合があるけど、
赤ちゃんが泣くのは悲しいからなんだから。
オイラは、泣き声の方へふわふわ泳いでいった。
どうやらその声は、赤い屋根の家から聞こえてくるようだ。
ひゅうひゅうと、すぐにオイラはその家に向かって降りていった。
降りれば降りるほど、その子の泣き声が大きくなってくる……
その家の窓をそおっと覗くと、やっぱり赤ちゃんは泣き続けていた。
赤ちゃん用の小さなベットは、なんだかその子を閉じ込めているようにも見えた。
オイラは、少しだけあいた窓のすきまから、スルリとその部屋に入った。
オイラを見ると、赤ちゃんは一瞬泣き止んだ。びっくりしたのかもしれない。
そりゃあそうだ。
わたあめみたいなオイラが浮かんでるんだもんな。
「大丈夫。怖くないよ」
オイラはそう言って、ふわわと赤ちゃんに近寄っていった。
怖かったのか、赤ちゃんはまた、ワアアと泣き出してしまった。
「大丈夫、大丈夫だから」
優しく呼びかけて、その子の手をふわりとにぎった。
初めての感触に、赤ちゃんは一瞬びくっとおびえた。
その怖さをほぐすように、オイラはもう片方の小さな手も包んであげた。
やっと安心する感触って分かったのか、その子はオイラをぎゅうってにぎったんだ。
やっと、その子が泣き止んでくれた。
「ね、オイラの体、やわらかいでしょ」
そう言って、オイラ、赤ちゃんの体全部を包み込んだ。
雲の布団って、どんな布団よりも気持ちいいんだよ。
初めての雲の布団に、赤ちゃんは気持ちよさそうに目をつむった。
気にいったのか、オイラの体を何度も何度もにぎった。
「二度と雲布団なんて体験できないんだから、いっぱい触っときな」
そう言ったら、赤ちゃんはキャッキャと笑うんだ。
何てヤツだ!
……でも可愛いから許すけどね。
しばらくオイラで遊んでいると思ったら、トロトロとその子、眠そうになってた。
「早く寝ちゃいなよ」
オイラがそういうのと同時くらいに、スースーと寝息を立てていた。
赤ちゃんって泣いたり笑ったり眠ったり、忙しいんだな……
オイラの体をぎゅっと握ったまま寝ちゃったから、
その部分のオイラの体をプレゼントする事にした。
ふわりと体を切り離して(雲って体を切り離しても痛くないんだよ)
その子に、小さな雲を持たせてあげた。
「さて、そろそろオイラ退散するか」
可愛らしい寝顔にバイバイして、また窓のすきまをスウと抜けた。
「またね」
窓の外から、もう一度呼びかける。
赤ちゃんは幸せそうに眠っていた。
フワリと空に向かって泳ぐと、さっきとは違う、平和で静かな空だった。
仲間の雲たちも、みんなで固まって幸せそうに眠っていた。
オイラは、ぐにっと猫のような伸びをひとつして、また、散歩に出かけた。
木にひっかからないように、低空飛行。
「みんな、良い夢見なね」
って笑顔で泳ぎながらね……
**
って訳で、オイラも毎日頑張ってる訳。
……あれ、なんだか君、眠そうだね?
せっかくこんな青空なんだから、昼寝しちゃいなよ!
もし昼寝するんなら、ちょっとだけ窓をあけて昼寝してね。
そしたらオイラ、君の布団になってあげるから!
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2006/07/06(Thu)00:28:40 公開 / 黒猫
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■作者からのメッセージ
お久しぶりです。黒猫です。
ずっと前にもこの手の雲の話を書いたような気もしますが……
ま、いいでしょう(笑
時々、空を見上げてください。
雲を見つけたら手をふってあげてください。(とても喜びます。
あと、もし木にひっかかった雲がいたら助けてあげてください。
窓を開けて昼寝をしたら
布団のかわりに雲がいるかもしれません…
黒猫でした。