- 『アースクエイク 第1話』 作者:ランダ / リアル・現代 未分類
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50年以内にマグニチュード8,1以上の超巨大地震が必ず起こることを知った。裕樹は超巨大地震に興味を持つようになる。自分がその地震を体験することになるとは知らずに…。
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1:1月のある日
裕樹の通う中学校は市の中心あたりにある。裕樹の家は中学校からだいぶ離れた住宅地にあるのだが徒歩で通っていた。今日は冬休みが終わって始業式をするために学校に登校してきたのだった。
「よう、久しぶり」
裕樹が振り返って見ると拓也が立っていた。
「よう」
拓也と裕樹は昔からの親友で幼稚園の頃からの付き合いで、喧嘩もめったにしないというとても気が合うのである。
「裕樹、今日の朝のニュース見たか?」
突然拓也が聞いてきた。
「見て無いけど…どうしたんだ? いつからニュース見るようになったんだよ」
裕樹はケラケラ笑いながら聞いた。
「普段は見ないけど、今日はたまたまね見たんだよ」
「ふ〜ん、で? どんな内容だったの?」
「なんか、ここ50年の間に必ず、大地震が来るんだってよ」
「へ〜…」
裕樹は上の空で答えた。拓也はもっと大きな反応の示してくれると期待していたので、少々いらだったが続けた。
「でさ、マグニチュード8,1以上で阪神淡路大震災を超える超巨大地震なんだってさ」
「そんなこと言ったって…、阪神淡路大震災を体験してないからな〜。どんな強さなのか分からないんだよな〜」
この発言には拓也も賛成だった。
「だよな〜…。でも、とてつもない威力だということだけは確かだよな…」
「だろうね、大震災の写真を教科書で見たこと歩けど、何だっけ? 高速道路みたいなやつが倒れてたしね」
「うん」
拓也もその写真を見たことがあった。あれ以上の破壊力を持った地震が起こるなんて…。
始業式は体育館で行われた。始めに校長先生の話があってその後各学年の代表の生徒が恒例の作文を呼んで今年の抱負を語り、新しい先生の紹介がある。といった具合で、始業式は終わるのだ。
裕樹は昨日夜遅くまで起きていたので、校長先生の話があるときに寝てしまった。
「…ところで、お正月はどのように皆さんは…」
校長先生の話が終盤に差し掛かったとき、異変が起こった。
体育館の天井に吊るしてあった、ライトがガタガタと揺れだしたのだ。
生徒の中の数名がそのことに気付いた。
裕樹も異変に気付き目を覚めた。 何だ?
ライトがさっきにもまして大きくゆれている…。
「地震だ」
生徒の中の誰かがつぶやいた。その直後だろうか。体育館がきしむ大きな音がして、生徒の皆が叫びだした。これまでに無い恐怖感が襲ってきたのだ。体育館は今にも崩れそうな音を立てたが、すぐに地震は治まった。その後すぐに先生の声が聞こえてきた。
「みんな落ち着いて! いったん体育館から出てグランドにこの隊形のまま並んでくださ い!」
みんながグランドに移るまでかなりの時間がかかった。先生達も全く対応することができなかったのだ。生徒の皆が帰った後職員会議が開かれたのはいうまでもない。
「さっきの地震…結構大きかったよな」
そういったのは裕樹だった。
「うん…でも50年以内にこれ以上の地震がおきるんだぜ?」
拓也がまだ震える声で言った。
「正直、怖いな…」
グランドに裕樹たちが移ると、すぐに生徒指導担当の宮井先生の話が始まった。
「ただいまの地震、震度4だそうです」
しばらく間を空けて先生は話を続けた。
「知ってる人も居るかも知れませんが、50年以内にマグニチュード8,1以上の地震、超巨大地震が必ず起こるそうです。マグニチュード8,1以上というくらいですから、ついさっき起こった地震とは比べ物になりません。皆さんはちゃんと家に、非常用の食料と水は用意していますか? 用意していない人は今からでも遅くはありません。しっかり準備しておきましょう」
その後何人かの先生の話があった後、生徒達は下校することになった。
裕樹と拓也が並んで帰っていると、後ろから二人の女子がやってきた。一人は美香という名前で成績優秀、運動神経抜群の優等生だ。そしてもう一人は、ごく普通の何処にでもいるような中学生の悠美だ。
「ねえ? あの地震怖くなかった? 結構ゆれてたよね」
美香が突然聞いてきた。
「全然、あの程度の地…」
裕樹は拓也の鋭い目線に気が付き口をつぐんだ。
「あの程度の地震? ほお〜、全然平気なんだ、あの程度は」
悠美が挑発するようにいった。
「…うるさい」
「なに? 誰がうるさいだって?」
「お前だよ!」
「はぁ?! もう一回言っ…」
「あ〜はい分かったから!」
拓也がこのままでは話が進まないと二人の口げんかをさえぎった。
「なんで、そんなに気が合わないんだよ、あんたらは」
と拓也が言うのも仕方が無い。悠美と裕樹は犬猿の仲で、小学校のときから喧嘩ばかりしていた。そのことばに悠美と裕樹が言い返そうとしたところをまぁまぁ美香がさえぎった。
その後も先ほどの地震についての話題は尽きなかった。そのため、上空にある奇妙な雲にきずかなかった。空にはウナギが横たわったような、巨大な地震雲が浮かんでいた…。
2:カウントダウン
今日裕樹は、珍しくニュースを見ていた。またなにか地震の情報を手に入れることが出来るかもしれないからだ。裕樹の予感は的中した。
「では、次のニュースです。昨日、午前11時30分に市内の上空に地震雲が観測されました」
裕樹はその言葉を聞いたととたんに、画面を食い入るように眺めだした。
「昨日観測された地震雲は〔ウナギ雲〕といって、名前の通りウナギの形をした地震雲です。この地震雲が観測された場合比較的規模の大きい地震がおこるそうです。もしかすると、50年以内に必ず起こるという超巨大地震と何か関係があるのかも知れません」
裕樹はこの言葉に呆然とした。
超巨大地震がもうすぐ起こるかもしれない!
そう考えていると、次のニュースが流れ出した。そのニュース画面に裕樹は目を見張った。県内の露天風呂の中継画面らしい。露天風呂には2,3匹のサルが浸かっていて和やかな風景に見えるが、その背景は明らかにおかしい。直線の細い雲が海のほうへ向かって長く伸びている。
「お父さん。この雲何?」
「ん? それは地震雲だな。これは〔竜雲〕といってな、この雲の先に震源があるんだよ」
ということは、震源は海底!? 津波が来るかもしれないじゃないか!
「わかった。じゃあ行ってきます」
「おう、気をつけていけよ」
このことを早くみんなに教えてやろう! 大発見だぞ!
裕樹は全速力で学校へ向かった。
学校へ付くと裕樹はまっすぐ拓也の机へ向かった。
「どうした、裕樹? お前の机は2つ前だぞ?」
拓也がからかうように言った。
「拓也、今日のニュース見たか?」
「見てないけど…なんかあったのか?」
「地…地震雲が昨日の昼に…見つけられたんだってよ…」
裕樹は途切れ途切れの言葉で言った。
「え…? それどんな地震雲?」
「ウナギ雲だってさ、この雲が出たときは結構大きな地震が来るらしい」
裕樹の呼吸がようやく落ち着いてきた。
「もしかして…超巨大地震と関係あるのかな?」
「たぶん、それからもう一つ、発見したものがある。海に真っ直ぐ伸びる細長い雲を見つけた。その先に震源があるらしい。つまり、震源は海底だ…」
「じゃあ…津波が起こるかもしれないってこと?」
裕樹は大きくうなずいた。
2人の会話に気が付いたのか例の2人の女子が寄ってきた。裕樹と拓也は今の話を美香と悠美に話した。
「えぇ!?」
美香と悠美はほぼ同時に叫んだ。相当大きな声だったので恥ずかしくなったのか、口を手でふさいだ。
「じゃあ、超巨大地震がもうすぐ起こるかもしれないってこと?」
「たぶんね」
「いつでも逃げれる準備をしておかないといけないな…」
「うん…」
しばらく沈黙があった後、教室の外から裕樹と拓也を呼ぶ体育担当の橋田先生の声が聞こえてきた。
「なあ、昼休み体育倉庫の片付け手伝ってくれないか?」
橋田先生は先生の中でもっとも信頼が厚く、生徒にも親しみやすいと人気のある先生だ。
「体育倉庫ですか? …もしかしてあの地震で?」
拓也がはっとしたようにきいた。
「そうだよ。もうめちゃくちゃで、一人じゃ手が足りなくてさ」
「はい、分かりました。でも、何で僕達何ですか?」
「体育の授業をいつも妨害してるだろ? たまには学校のために貢献しないと」
その日の昼休みに裕樹と拓也は昨日の地震で散らかってしまった体育倉庫の片付けを手伝っていた。体育倉庫はひどい有様だった。跳び箱はばらばらに崩れてしまっていたし、棚においてあったはずの沢山の竹馬が棚から落ちて、下にあるカラーコーンを倒して下敷きにしている。フラフープは壊れているのがいくつかあり、バスケットボールはそこら中に転がっていた。
「さ! 始めるか」
唐突に橋田先生が言いだした。
「でも、何処から手をつけいいのか…」
「とりあえず、ボールを片付けるか。こんなに転がってたら邪魔になって仕方がない」
先生が言い終えると、すぐに作業は始まった。ボールを拾って、かごの中にもどす作業はすぐに終わったので、次に竹馬を片付ける作業に移った。
「先生」
裕樹が竹馬を棚に戻しながら尋ねた。
「超巨大地震についてどう思いますか?」
先生の動きが急にとまった。しばらく先生は黙っていたが、やっと口を開いた。
「正直、怖いわ…」
気のせいだろうか? 裕樹は橋田先生の声に関西弁の訛りがあるような気がした。
「何せ、阪神のときよりもでっかい地震やからな…」
いや、気のせいでは無い。橋田先生は関西弁をしゃべっている!
「先生は、関西の人なんですか?」
「せや、そして阪神淡路大震災を体験した一人や」
「…」
思い出したくないだろう記憶を呼び戻させてしまった…。
「すいません、いやな思い出を思い出させてしまって…」
「いいさ、別に」
今度は関西弁ではなく標準語で橋田先生はしゃべっていた。
その後はほとんど会話が無く、黙々と作業が続けられた。
放課後、裕樹たちはいつものメンバーで帰っていた。裕樹は悠美がさっきから空を眺めているのに気づいた。
「何見てんだ?」
「雲だよ。地震雲がないかと思ってね…」
「ふーん」
しばらく悠美は空を見ていたが、首が痛くなったのか頭を下げた。
「イテテテテ…、首が…」
「ばか、いつでも地震雲があるわけじゃないんだぞ」
「うるっさいな〜、だから探し当てて、驚かせようと思ってるんだよ」
拓也はまた喧嘩が始まるかなと思っていたが、喧嘩はおきなかった。
「珍しいな喧嘩しないなんて」
「たまには喧嘩しないときもあるよ、普通」
「普通はその逆だろ」
美香のツコッミに拓也はナイスツッコミと称賛した。
3:運命の時
地震が発生してから4日ほどで、もう誰も地震の話題を出さなくなった。裕樹たちもその中にはいっている。今日は新しくクラスの係を新しく決める時間が設けられていた。始めに自分達の最後の仕事をして、それから新しく係を決めるのだ。裕樹は美香と飼育係をやっていた。最後の仕事をするために二人は飼育小屋へ向かっていた。二人で話し合った結果、小屋の掃除をすることになったので、竹箒をもって飼育小屋に向かった。裕樹は何やら小屋が騒がしいのに気が付いた。始めは喧嘩でもしているのだろうと思って気にしなかったが、小屋の様子を見てそれは喧嘩ではないことが分かった。すべての鶏が泣き叫んでいたのだ。
「何でこんなに騒いでんだ?」
「さあ? 何でだろう…」
美香にもこのことはさっぱり分からなかった。
「とりあえず、掃除しようよ。突っ立ってたってしかたがないよ」
「うん…」
この光景どこかで見たことがあるような気がする…。
裕樹は必死に考えた、
なんだっけ? 一度テレビか何かで見たような…。鶏が騒いでいて…その後に何か起きたような…。
「…!? そうだ! 思い出したぞ! 鶏が騒いでいたらそのあとに…」
裕樹が言い終わらないうちに、大地が揺れ始めた。裕樹は美香が悲鳴を上げながら飼育小屋の壁にたたきつけられるのを見たので、自分がそうなるまいと反対側の金網にしがみいて揺れが収まるのを待った。四方八方かっら叫び声や、悲鳴が聞こえてくる。いったいどうなってるんだ!? 鶏やウサギ達も壁に叩きつけられて気絶したのか、いつの間にか騒がしくなくなっていた。しかしまだ、大地は爆音を立てながら揺れている。校舎のほうから大量のガラスが連続して割れる音が聞こえてきた。裕樹は金網にしがみ付いていたがやがて、力尽きて石の壁にたたきつけられた。しかし、辛うじて意識は失わなかった。数秒揺れた後地震は治まった。裕樹は肩に激痛が走るのを感じた。おそらく壁にぶつけたのだろう。痛みに耐え裕樹は気絶する美香を起こそうとした。美香は裕樹が見ていた限りでは背中を強打しているはずだ。
「おい! 美香おきろ! 美香!」
美香の手が少し動いた。それと同時に校舎から宮井先生の声が聞こえてきた。
「全校生徒の皆さん!! 今すぐ、裏山の公園まで上ってください! 繰り返します! 全校生徒の皆さん!! 今すぐ、裏山の公園まで上ってください!」
裕樹にはこの言葉が何を意味しているのか分かった。
「美香! 早く起きろ!」
「な…何?」
美香が目を覚ました。裕樹はほっとしたがまだ事態は解決していないことを思い出した。
「美香、裏山の公園まで行くぞ! 急げ!」
裕樹は美香を無理やり引っ張って行ったがそれでもかなりの時間がかかった。裕樹たちが付いた頃には公園には、かなりの生徒が集まっていた。右腕にガラスの破片が刺さり、大量の血を流しているものもいれば、まだ何が起こったのか理解できていないでいるのか呆然としている者もいる。裕樹も呆然としていた。まさかこんなに早く超巨大地震が起こるなんて! しばらく二人が立ち竦んでいると、悠美と拓也が走りよってきた。拓也は頭に血が滲んだタオルを巻いていた。
「どうしたんだ拓也!?」
「地震が来たときに思いっきりガラスに頭から突っ込んじまってさ…、生きてるだけで奇跡だよ…」
拓也が苦しそうに答えた。
「ところで…、何で私達はこんなところに集められたんだ? 地震が起こったときはグランドに集まるんじゃなかったの?」
「理由はだな…」
裕樹はそういいながら、海がある方角を眺めた。拓也達が裕樹の目線をたどると、その先には地面に沿って横に長く伸びる、轟音を立ててこちらに迫ってくる水の帯があった。
それは、これまでに誰も見た事もないほど巨大な津波だった…。
第1話 完
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■作者からのメッセージ
第1話はこんなもんでしょうか。これからどう発展させていけばいいかイメージはだいたい出来ているので次回はもっと長めに書いていきたいと思います。