- 『狂城』 作者:卵粥 / ファンタジー ファンタジー
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序章
世界一の大国と呼ばれる国の隅にそれは存在した
国の隅に追いやられた、化け物と呼ばれた者達の集まり
民の言葉でいうならば『狂城』
世界に存在する2つの種族、人間と魔族
そして人間を食らう魔族に対抗できる、唯一の人間の集団
それが化け物と呼ばれた『狂城』の住人
1
大国ツァーエル王国の北部、山奥の谷の底に狂城はあった。
城といっても王の住むようなものではなく、谷の岩を掘って造った洞窟だ。
狂城の住人は総勢でも100人程度で、殆どが普通の生活が嫌になった世捨て人。他は突然変異により姿形が異形の者だったり、人間と魔族のハーフだったり、生まれつき不思議な力があるものであったり、狂城の住人が拾ってきた孤児だったちと様々だ。
狂城には城主という名目のリーダーはいるが、階級などは一切ない。
狂城の者は魔族退治を生業とし、生計を立て、城に住む者と共に助け合って生きている。
といっても実際に魔族と戦えるのは人間と魔族のハーフである者と、異形の者、生まれつき力を持つ者だけで、その他の者は城の雑用や情報収集をこなす。強い者が弱い者を護る、それがこの城の掟だった。
この日も、どこかから依頼が来たようだ。
崖から乗用竜が2頭も下りてきた。その竜の色は赤。赤竜といえば最も移動速度が速いといわれているレソッドという竜族。レソッドはその希少価値と調教の難しさから、主に王族の竜とされている。
竜が下りてきた事で谷に突風が吹き荒れる。
ズシン、という着地音と共に風も徐々に収まり、狂城の住人も出迎える準備を始める。
「ようこそ、国の果て『狂城』へ」
竜から降りた使者を迎えるのは普通の人間6人。狂城の入り口の前に横一列に並ぶ。迎えるその顔に笑みはない。
「どのようなご用件でしょうか」
まるで台本を読むかのように淡々と述べる年配の女性を、使者は胡散臭そうに一瞥すると馬鹿にするように言った。
「こんな所に態々用など、1つしかあるはずがなかろう」
「城主の元へ案内を。話はそれからだ」
使者2人はそのまま狂城に入ろうと6人の方へ向かって行ったが、6人は微動だにしなかった。
「客を通さぬつもりか?」
「わたくし共は御用件をお聞きしたのですが」
使者が睨めば年配の女性も冷たく返す。
「我らはモアド国の使者である」
「お聞きしているのは素性ではなく御用件でございます」
段々と使者の眉間に皺が寄る。
「王直々の託であるぞ」
「我らはどこの国にも属さぬ者。王であろうが平民であろうが関係ありませぬ」
「もう一度お聞きします。御用件は」
反論は許さないというような視線に負け、使者は渋々ながら用件を述べた。
「最近我が国に出るようになった魔族の退治を依頼したい」
途端に6人の表情が柔らかいものになった。
「左様でございましたか。ではどうぞこちらへ。城主の元へ御案内します」
6人はそう言うと、さっと両サイド3人ずつに割れ、入り口の穴の方を示した。
すると穴の中から7人目の狂城の住人が出てきた。
「私の後に付いて来て下さい。決して逸れませんよう」
使者はあからさまに驚いた顔をした。穴から出てきた7人目の住人は異形の者だった。髪の色がメタルグリーンで、顔や腕の肌に所々鱗がある。その姿はまるで蛇。
使者は戸惑ったが、王の命を果たす為にその者に従った。
狂城の中は真っ暗かと思われたが、思いの外明るかった。外の光りが入って来ているわけでもなく、かといって蝋燭も置いていない。なのに月夜くらいの明るさがあった。
それによって周りの様子が良く見えた。
狂城はとても人の手で掘ったとは思えないほど整備されていた。
天井は高く、壁はごつごつしておらず滑らかで、所々岩に扉がついていたりする。
まるで本物の城のようだった。
しばらく歩き、階段も何度か登ると、一際広い空間に出て、そこに一際大きな扉があった。
「城主、モアド国より使者が参りました」
案内役はそう言うと、城主の返事を待たず扉を開けて使者達に中に入るように促した。
2人が恐る恐る中に入ると、入ってきた扉がごぉん…と重々しい音を立てて閉まる音が響いた。
続 く
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2006/05/28(Sun)15:17:35 公開 / 卵粥
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■作者からのメッセージ
随分前に一度投稿したモノです。
最近になって漸く続きを思いついたので、再度書きました。
えーっと、読んでくれたら嬉しいです。