架空少年少女｜オリジナル小説投稿掲示板『登竜門』

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『架空少年少女』作者：東西南北 / 未分類未分類: 全角1880文字
容量3760 bytes
原稿用紙約6枚
「音楽ってね。上手いとか、下手とかさぁ。関係ないんじゃ無いのかな。上手くはいえないけど、心から楽しめればそれでいいんだよ」
美空は笑いながら、そう僕に言った。

「架空少年少女」

序章「美空　弥生」

これと言って広くない部屋には、僕と数人の観客がパイプイスに座っていた。僕と観客の目の前には、20センチほど高くなっている舞台がある。その舞台の上にあるのは、一台のグランドピアノと埃を被った小さなイス。
しばらくすると、マイクを持った男が舞台の上に現れ、僕を含めた観客がいっせいに拍手をした。
「さあ。これから、天才少女。美空　弥生の登場です！」
男がそう言うと、さらに拍手が増す。すると部屋のライトが暗くなり、舞台の上に現われた少女にスポットライトが当たる。少女の身長は165センチ前後、服装は桃色のワンピースを着ている。小さくお辞儀をすると、少女はイスに座る。その瞬間、拍手が消える。
そして、少女は鍵盤に触れる。そして、誰もが知っているベートーベンの「運命」を弾き始めた。力強く、そして豪快に鍵盤を押す。爪の間からは、血が流れていた。
少女が弾く「運命」は、すごいとか、すばらしいとか、悲しいなどの感情はまるで感じられ無い。ただ、豪快さと激しさが耳に伝わる。これほどの「運命」を弾ける人物は日本、いや世界中に存在しないだろう。
曲は、最後を迎える。鍵盤は爪の間から出る血の色で、薄っすらと赤く染まっている部分があった。それでも、少女はやめようとはしない。むしろ顔は楽しそうで、しだいに音は強くなる一方だった。
曲が終わる。部屋は嵐が去ったように静かになり、観客は口をポッカリと開け、あまりにも豪快すぎて唖然としていた。
しばらくすると、部屋には拍手と大歓声で包まれる。

少女は席を立ち、僕に一歩一歩、近づいてくる。スッポットライトは僕と少女を照らし、観客も舞台のほうではなく僕のほうに目線が来る。

「ユウ!どうだった」
少女は笑いながら、僕にそういう。

「ああ。良かったよ」
僕はそう言うと、美空は顔いっぱいに笑顔広げる。

「また、会えるといいね」
少女はそう僕に言った。

「どういうことだよ」
僕は、そう大声で叫ぶように少女に言う。

でも、少女は黙り込み僕に背中を向けた。
そして、少しずつだけど僕から離れていく。

僕は少女を追いかけてゆく。けれど、足が動かない。
少女はステージに行く。そして、消えるように居なくなっていた。

「弥生!」
僕、村田　ユウはその瞬間飛び上がるように目を覚ました。秋だというのに、汗で着ていたパジャマが濡れている。よほど、うなされたのか布団と毛布が違うところにある。

「夢か…」

僕はそう、やる気のない声で呟いた。
いやな夢を見た。あんなに、悲しい夢は今までに見たことがない。なにせ、美空と再会した喜びが一瞬にして消えたのだから。

寝室は、いつもより広く感じた。あんな夢を見たからだろうか？隣のベットに居た美空が今ではとても懐かしい。ベットは、あの時の埃のままで誰も片付けては居ない。本当ならばダニが増えてしまうので干したり、タンスの中に居れなかればならないのに…。

時計は9時を指していた。いつもならば仕事に出かけている時間なのだが、日曜日に会社の運動会があったので特別休暇をもらっていたのだった。

僕はベットから離れて、部屋の隅にある小さな仏壇に手を合わせる。少しだけど、僕は涙を流す。
「弥生…」
僕はそう呟く。遺影に写っていた美空は笑顔のままだった。

僕は乱れた布団をそのままにして、キッチンへと向かう。
キンチンへ着くと、冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出す。
空っぽの胃の中に、冷たいミネラルウオーターを流し込む。胃の中に冷たいミネラルウオーターが、すーっと入っていくのが分かる。

テーブルには昨日の夕食の残りが、お皿にラップをかけて置いてあった。油をたっぷりと吸い込んだてんぷらと、冷えて硬くなったご飯。

僕はテーブルのイスに腰掛けて、箸でご飯を一口、食べる。

何も感じないー。食事は餓死しないための事務的作業になっていたのだ。

「もういやだ…。こんな生活いやだ!」
僕は箸を机に置き、頭をてで抱えながらそう大声で叫ぶ。

何もかもが、いやだった。幸せな日々を、僕に…。僕はここ何ヶ月、食事が美味しいとは感じたことがない。向かい合うように美空と食べていた、楽しかったあの日が頭の中によみがえる。あの頃は、食べなれたカップ麺でも美味しいかったのに。

「僕を救ってくれ!たのむ、お願いだ」

僕はそう大声で叫ぶ。
けれど返ってくる返事は無い。; 2006/05/13(Sat)08:38:36 公開 / 東西南北
■この作品の著作権は東西南北さんにあります。無断転載は禁止です。; ■作者からのメッセージ
リメイクしてみました。
まあ、見てください。更新するつもりです。

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