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『死んじゃえよもう  1』 作者:マジ無理 / ファンタジー 異世界
全角4674.5文字
容量9349 bytes
原稿用紙約14枚
読み手に優しくない、機械と自然、罵倒と罵声、口の悪い女、馬鹿な男、淡々と続く毎日が半分で、残りの半分は優しさで出来ています。  ※ポジティブな方には非常に有害
 私は生命の危機を感じた

 身に襲い掛かる危機、青空の下、揺ら揺らと気持ち良さげに揺れる草をクッションに昼寝をしていた私の身に、突然襲い掛かる危険。相当な質量を持った物体が私の元へ相当なスピードを伴い接近する。頭では理解出来る、だけれど体は動かない。反射という体の機能が追い付かない。呆然とそれを見上げる私、反応が出来ない私、避ける事が出来ない私。

 それは、私の目の前に轟音を立て落下した。

 頭上から突然降ってきたそれは、足を投げ出して座っていた私の、靴の爪先を掠っている。あと数十センチずれていたら足が潰されていただろう。哀れ、昼寝中に謎の落下物に押し潰され死亡、そんな死に方だけは絶対に勘弁して貰いたい。私はまだ若いのだ、人生これからなのだ。
 そのこれからの人生を脅かした物体は一体何なのだろう。まさか隕石という事はあるまい、隕石だとしたら今頃衝撃波でボロボロになっているはずだし、そうなると大きな鳥か何かの類か。のそり、未だに震えの残る足を踏ん張らせ、立ち上がる。その落下物が何なのか、見極めるために。
 黒い塊、形容するならばそれだけで事足りる。煤か何かで古ぼけている感じもするが、間違いなく有機物である。そろそろと右手を伸ばし、僅かに撫でる。熱くはない、むしろひんやりとした感触、接触した中指の腹に汚れは付かない。

「うん、取り敢えず落ち着こう」

 自分に言い聞かせ、大きく息を吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、吐く。心拍数が平常時に近付いてきたのを感じる。頭を軽く振り、しっかりとそれを見る。本当は気付いていた、落下してきたモノが一体何なのか、足元に不時着したその瞬間、もう既に分かっていたのだ。

 紛れも無く、それは人間だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 重かった。

 私のベッドで眠る人を見る。男か女か、顔で判別する事は出来なかった。中性的であるのも確かだけれど、それ以上に何処か、人形とか作り物めいた印象だ。今の私の身長は158.28センチ、恐らく私より少し大きい程度だろう。だけれど、ここまで運んでくるのに苦労した。気絶した人間を運ぶという作業は想像以上に辛いものだ。
 死んではいない。呼吸はしている、だが命は危ないかもしれない。

「そんな事、知ったものか」

 癖になった独り言は、妙に自嘲めいていた。人が死のうと知った事ではない、そう、知った事ではないのに何故私はスイートマイホームにまで連れて来てしまったのだろう。折角都会からこの機械の一つも無い田舎まで越してきたというのに、また私は面倒な事をしようとしているのではないだろうか。あぁ、全く! っつか何で落ちてくるんだこの馬鹿はっ!
 眠るその額を少し強めにゴツンと殴る。あの凄まじい勢いの落下に耐え生きてるんだ、これくらいどうって事無いだろう。性別は分からないが、取り敢えずは彼と呼ぶ事にして、彼はそもそも人間なのだろうか。体感だがあの落下速度は半端無かった、それこそ体の自由が効かなくなるほどに、唐突で凄まじいものであったのだ。
 だがどうだろう。彼は今私の新調したばかりの高かったベッドを占領して寝息を立てている。まだ私も数十回しか使用していないベッドに寝てだ。くそぅ、死ね、冷凍バナナで殴殺されろ、そしてその凶器は美味しく頂いて証拠隠滅だ。皮なんて知った事か、諸共食え馬鹿。

「人間ではないとすれば、何か」

 脱線した考えを戻すために呟き、思考を開始する。あらゆる可能性を模索する。彼は人ではない、俗に化け物等と呼ばれる類の生き物である。彼は人形である。彼は人間という存在を超越した超人類である。彼は魔法使いや魔術師等と呼ばれる類の人達である。彼は死んでいる。彼は死んでいるが何らかの要因により生き返った。彼は幽霊である。
 それこそ馬鹿らしい事まで考える。では逆に人間だとしたらどうだろう、先の要領で繰り返し考える。考えを出しては一つずつ否定していく。

「一番可能性が高いのが、魔法とか魔術とか胡散臭さ満点ですか。うわぁ、死ねよもう」

 そもそも実在するかも疑わしいモノではないか、どっと疲れが肩に圧し掛かり、大きく溜息を吐いた。占いを完璧に信じている人と同数程だろうか、魔術等を信仰している人の数は。しかし、そう考えると案外多いのかもしれない。それに近代でも魔術による事件があったような気がする。一番不確定でもこれが一番可能性の高い考えなのだ。
 あぁ、発想力貧困。何でそんな考えしか浮かばないんだろうな、死ねば良いのに。

「こいつが起きるまで待ってその口から聞き出すのが一番の近道」

 果たして起きるかどうか、そこからの問題だけれどそれが一番手っ取り早い。自分の力では結局判らず仕舞い、情けない、情けないな。

『私には荷が重過ぎます。私には無理なんです。ほら、技術開発課の彼の方が良いんじゃないですか。私より優秀ですよ、仕事も速いし、納期にはきちんと提出する。私には無理なんです。いえ、よして下さい。現実を見てモノを言ってるんです、私には荷が重過ぎます、無理です。やめて下さい。無理なんです。荷が重過ぎます。無理です、無理なんです』

 あぁ畜生、死ね。恥ずかしい事思い出させるな。折角田舎まで来たんだ、もう良いじゃないか。私は精一杯頑張ったって、そりゃもう表彰されても可笑しくないくらい頑張りましたとも。だからもう良いじゃないか、これ以上私に構わないでくれ。記憶に出て来るのもやめてくれ。
 あぁ畜生、悪循環だ畜生。

「あぁ……っもぅ! 死ね、馬鹿死ね!」

 苛々してベッドを蹴った。

 靴下だけの爪先は、結構、痛んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 あの変な奴は取り敢えず朝一番に病院に持って行った。昨日はマイスイートホームに持ち帰るだけで結構時間が掛かってしまった、電気も通じていない夜道をわざわざ運んで行くのはめんどい。取り敢えず滑車に乗せて引っ張って行ったのだけれど、結構デコボコ道だったよなぁと後から思い返した。まぁ、それでも起きなかったのだが。それに病院と言っても所詮田舎っすよ、多分ベッドに寝かせて終わりだと思う。まぁ一応点滴とかの用意はしてあるみたいだけれど、私だったら絶対に入院したくない。
 まぁ、晴れてマイスイートホームには私の気配しかしなくなった訳だ。そして今朝から洗濯、丸のままベッドに放り込んだからシーツ諸々が汚れてしまったのだ。蛇口を捻れば水が出る、そんな当たり前の事が無くなった洗濯は、案外に楽しかった。

「楽しかったのが、いけなかったんだよなぁ」

 気付けば大掃除。改めての荷物の整理を主に、そこそこ広い木造宅の床を雑巾がけ、そして何より現在進行形の書類の整理。思えば持って来なければ良かった、仕事なんてもう私には関係無いのである。なのに一体何で持ってきてしまったかなぁ。

「コイト、キシミ。年齢16歳、性別女。身長156.83センチ、体重、あぁ、この頃痩せてたんだな」

 手に持った書類を読み上げる。2年前入社時の書類、右上にはショートカットの黒髪に、同色の瞳が輝く美少女の写真が貼ってある。髪型も顔貌も、2年経ったのにあまり変わっていない。童顔と呼ぶ奴らはきっと見る目が無いのである。私は大人の魅力たっぷりなのである。
 あぁ、くそ、泣きたくなってきた。みんな死んじゃえ。そう呪詛の言葉を口に出そうとした時、紙の束から何かが床に落ちる。コツリ、乾いた音を立てて落下したそれをかがんで手に取り、顔を顰める。

「コイト、キシミ。年齢18歳、性別女。レベルエープラスプラス」

 棒読みに読み上げる。最新のIDカード、1ヶ月前に発行したばかりの、IDカード。何故持ってきたのだろう、こんなもの捨てて来たと思ったのに。まぁ、今捨てれば良い事か。部屋の隅に配置してあるゴミ箱を目で捉え、投げ入れようと力を入れる。手首の返しで投げ捨てる、投げ捨てる、投げ捨てる、投げ捨てる。未だに私の手の中にある。もう要らないのに、捨ててしまえば良いのに、何故、捨てられない?

「くそっ、畜生、死ね、死ねっ」

 言って私は、ジーンズのポケットにカードを突っ込んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 世界

 この世界は緑に覆われている。
 大昔の戦争、機械が人々の中心だった頃の戦争。
 遺跡には機械が眠り、外には緑が広がる。
 平和な世の中です、平和な世の中です。

 世界の事は分かりました。

 ではますたー。

 私は誰ですか?
 私は何ですか?

 私がする事は、人助け。
 私がする事は、人殺し。

 私は何をすれば良いのですか?

 教えて下さい、ますたー。
 お願いですから、返事をして下さい。
 教えて下さい、ますたー。

 ますたー、もうますたーに意見しませんから。
 ますたー、ますたーの言う事は聞きますから。

 ますたー、お願いします、ますたー。

 ますたー。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ますたー」

 唐突に聞こえた声に、体がびくっと動いた。ここは病室、田舎の病院と馬鹿にして悪かった。大分前に援助金が出たらしく外観はしょぼいが内装は中々立派なもの。そんな病室に何故怪我の一つも無い私が来ているのかと言うと、今突然声を発した迷惑千万な野郎のせいである。
 あぁ、くそっ、上半身まで起こしやがった。そう言えばこの馬鹿は生物学上男だと言う、という事はうら若き乙女の我が家が汚されてしまったのか。あぁ、くそっ、こっち見んな。顔をこっちに向けるな、全力で顔を逸らしてるんだけれど、このままじゃ無視し切れない気がする。
 しかし何でこの私が何処の馬の骨か分からん未確認飛行物体の見舞いのような事をしなければならないのだっ。あの小太りのババアがぁ、何が何処でこんな良い男見つけてきたの、全く引っ越して早々隅に置けないんだからぁっ、じゃねぇよ。初めて会ってからまだ2日目なのに親近感たっぷりだよ畜生。
 あぁ畜生っ、大体何だ、何で一晩で私がこの変な奴を連れて来たって知れ渡ってんだよ。そして何で私が見舞いをしなければならないって言うんだ。確かにそのまま死んでもらっては後味も居心地も悪いが、あぁ畜生、村人の生温かい視線が痛いんだよ。道徳的に行かなかったらおかしいみたいな目で見るな糞共がっ。

「名前を教えて下さい」

 うわぁあ、明らかに私に言ってるよ。いきなり名前かよ。

「さすらいのギタリスト、ニコルソン」

 顔を全力で逸らしたまま答える。私はベッドの横の椅子に、ベッドに並列に座っている。顔を全力で逸らすというのは即ち入り口の方を見るという訳で、まぁとにかく首が痛くなってきた。こんな得体の知れない奴に名乗る名前は無い。

「すみません、最初に私の方から名乗るのが礼儀でした」

 入り口の扉は動かない。外見同様中性的で、感情の篭らない声。すみませんという謝罪でこれほどまでに誠意が伝わらないものなのかと感心してしまう。それに何だ、スルーかよ。まぁ、幸いな事に一般常識は何とか備えているらしい、これは助かった。これで非常識から少し遠ざかった。

「私の名前は、何ですか」
「……死んじゃえよもう」

 心から、心から言葉が零れた


2006/04/07(Fri)16:13:35 公開 / マジ無理
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■作者からのメッセージ
初投稿となります、今後とも宜しくお願いします

場面が淡々と入れ替わる作品が書きたかったのです
今後彼らを中心にこの話は進行していきます
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