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『小さな旅人』 作者:東西南北 / ショート*2 未分類
全角2466文字
容量4932 bytes
原稿用紙約7.85枚
「小さな旅人」


電車がレールの繋ぎ目を超えるゴトンゴトンと言う音と、そのたびに上下にゆれる震動。その音と振動が心地よかったのか少女、サユは電車の中で用意された二段ベットの上ですやすやと眠りについていた。大好きな推理小説は、両手で開けたままになっている。

「もうすぐ、食事の時間ですよ」

いきなり、耳元で女の人の声が聞えサユは目を冷ます。そのとき、驚いて天井に頭を打ってしまった。
「大丈夫ですか?」
と、女の人は心配そうな瞳でサユを見つめる。サユは恥ずかしがって顔を赤くし、
「あ…りがとう。今、食べに行きます」
そう女の人に言った。

女の人はおそらく、下のベットのほうで寝ていた人であろう。それにしても美人な人だと、サユは顔を合わせたときに感じた。シルクのような繊細な金髪の長い髪に、すらっと伸びた長い鼻。背も高く、スタイルも良い。幼稚な体系のサユとは、まるで正反対な人だった。

「良かったら、一緒に晩御飯を食べませんか。私、一人で食事を取るのはあまり好きではないんです」

女の人は笑顔でそう言うと、サユはコクリとうなずいた。

サユとその女の人は寝室を出ると、長い廊下を歩きレストランまで来た。女の人はサンプルを眺め、どれにするか悩んでいた。

「さあ、何を食べましょうか。私、牛乳が好きなんでシチューにしようかな」
女の人はそう言うと、レジでシチューを注文し食券をもらう。サユは、トマトケチャップがたくさん付いたオムライスをレジで注文し、食券をもらった。

「シチューとオムライスで計、1300円になります」
レジ員はそう言うとサユはオムライス代を払い、女の人は何やら困った顔をしていた。
「どうなさいましたか?」
とレジ員は言う。どうやら、財布を忘れたようだ。
「どうしよう…。せっかく、可愛い女の子と一緒にご飯が食べれるのに」
女の人はそう、呟く。少しではあるが目は涙に包まれていた。サユは女の人がかわいそうだったので、

「私が、この人の分まで払います」
とレジ員に言い、お金を払うと女の人を連れてテーブルへと移動する。

「悪いわね。明日、いや今日中にお支払いしますわ」
女の人はそういう。
しばらくすると、シチューとオムライスをウエートレスさんが持ってきてくれた。サユと女の人は食券を手渡す。ウエートレスさんは、それを受け取り、「では、ごゆっくり」と言うと次の客へと移動する。

女の人は、また困ったような顔をし始めた。サユは、何を困っているのだろうと思いながらスプーンでオムライスを食べ始める。すると、女の人はサユのまねをするかのように、スプーンでシチューを何度もすくうが何回も落としてしまい、一向に飲めるような気配を見せない。
どうやら、女の人はスプーンを使う事ができない異国のほうの人だなと、サユは悟った。するとスプーンを机の上に置き、今度はそのままシチューの入った器を口に当てゴクゴクと飲み始めた。美人な女の人には、あまりにも似合わない姿だ。
「あつい。熱いですわ」
女の人はそう大声で言うと、シチューの入った器を落として割ってしまった。
そして、そのまま休む暇もなく急いで水を飲み始めた。どうやら、熱いものが嫌いらしい。
「大丈夫、ですか?」
と、駆けつけてきたレジ員はそういうと、女の人は無理して笑顔を作り、
「大丈夫。です」
そういった。

サユがオムライスを食べ終わると、女の人は
「もう、夜遅いからねましょうか」
と私に聞いてくる。本来ならば、まだ起きている時間だが女の人がそう言うので寝る事にした。

レジ員に「ありがとうございました」といわれ、レストランの店内を出る。そして、来た道を帰り寝室へと移動した。サユは、二段ベットの上の階に上がり、眠りに着こうとした。
「あの、変わっていただけないかしら。私、高いところが好きなんです」
女の人は、下の階からそう言う。サユは、コクリとうなずき下の階へと移動した。
普通の人なら二段ベットの上、と言うのは好むものではない。なぜなら天井が近いために圧迫間があるのも理由の一つなのだが、この二段ベットはハンモック式で揺ら揺らゆれるようになっているからだ。そのため、電車が揺れるたびに揺れ、酔った事もサユの経験の中にあった。
「よいしょ」
女の人は、そう言いながら二段ベットの上に上がる。それも、上がるというよりは飛ぶといったほうが良いかもしれない。女の人は、大きくジャンプし上の階に行ったのだった。どうやら、女の人は運動神経がいいらしい。


朝が迎える。
カーテンから、漏れた光がサユの顔に当たり、サユは目を冷ました。上の階にいた女の人は、もういない。
おそらく前の駅で降りたのだろうと、サユは思った。サユは、寝室に用意された時計を見る。サユは寝坊してしまったらしく朝ごはんを食べて、電車から出るにはもう時間がなかった。
サユは、荷物をまとめ電車から出る準備をした。すると推理小説の間から、女の人が食べたシチューの代金が入っていた。サユはそのまま、カバンの中に入れる。
サユはカバンを片手に、寝室へと出る。

廊下を歩くと、そこには車道さんがたっていた。
「おはようございます。次の駅で降りられる方ですね」
車道さんはそう言うとサユはコクリとうなずき、ポケットの中から切符を取り出して車道さんに渡した。

「ふー。これで、最後の客だ」
車道さんはそう言う。しばらくの間が空き、サユは車道さんに
「ねえ。車道さん。私の寝ていたベットの上に美人な女の人がいたんですけど、知りませんか?」
サユはそう言うと、車道さんは首をかしげた。
「おかしいな。確か…あなたの部屋にはあなた以外、誰もいなかったような気がするんだが」
車道さんはそういう。
「そんなはずはないのに…」
サユは残念そうな顔をして、そう呟いた。

しばらく間が空き、車道さんは「思い出した」と大声で言った。
「ええ。いましたよ。あなたの部屋に」
「そうよ。美人な女の人よ」

「いや。おかしいな。あなたの上で寝ていたのは、私の財布を盗んだ白いメスネコだったような…」


2006/04/03(Mon)16:58:44 公開 / 東西南北
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