- 『架空少年少女』 作者:東西南北 / リアル・現代 未分類
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「音楽ってね。上手いとか、下手とかさぁ。関係ないんじゃ無いのかな。上手くはいえないけど、心から楽しめればそれでいいんだよ」
美空は笑いながら、そう僕に言った。
「架空少年少女」
序章「美空 弥生」
これと言って広くない部屋には、僕と数人の観客がパイプイスに座っていた。僕と観客の目の前には、20センチほど高くなっている舞台がある。その舞台の上にあるのは、一台のグランドピアノと埃を被った小さなイス。
しばらくすると、マイクを持った男が舞台の上に現れ、僕を含めた観客がいっせいに拍手をした。
「さあ。これから、天才少女。美空 弥生の登場です!」
男がそう言うと、さらに拍手が増す。すると部屋のライトが暗くなり、舞台の上に現われた少女にスポットライトが当たる。少女の身長は165センチ前後、服装は桃色のワンピースを着ている。小さくお辞儀をすると、少女はイスに座る。その瞬間、拍手が消える。
そして、少女は鍵盤に触れる。そして、誰もが知っているベートーベンの「運命」を弾き始めた。力強く、そして豪快に鍵盤を押す。爪の間からは、血が流れていた。
少女が弾く「運命」は、すごいとか、すばらしいとか、悲しいなどの感情はまるで感じられ無い。ただ、豪快さと激しさが耳に伝わる。これほどの「運命」を弾ける人物は日本、いや世界中に存在しないだろう。
曲は、最後を迎える。鍵盤は爪の間から出る血の色で、薄っすらと赤く染まっている部分があった。それでも、少女はやめようとはしない。むしろ顔は楽しそうで、しだいに音は強くなる一方だった。
曲が終わる。部屋は嵐が去ったように静かになり、観客は口をポッカリと開け、あまりにも豪快すぎて唖然としていた。
しばらくすると、部屋には拍手と大歓声で包まれる。
少女は席を立ち、僕に一歩一歩、近づいてくる。スッポットライトは僕と少女を照らし、観客も舞台のほうではなく僕のほうに目線が来る。
「愁ちゃん」
少女はそう僕に言う。
「なんだい」
と、僕は言い返す。
「なんで、助けてくれなかったの?」
少女はそう言うと少しずつ少女の顔が熱くなり、さらに皮膚が溶け始め、血がポタポタと地面にたれる。その瞬間、僕と少女の周りを中心に炎が舞い上がる。
「やめろ。あれは、事故だったんだ!」
僕は大声でそう叫んだ。
目覚まし時計が鳴り響き、僕は目を覚ました。冬だというのに、パジャマは汗まみれになり、手にはたくさんの汗を握り締めていた。
「いやな夢だ」
僕はそう呟くと、ベットから起き上がり、朝食をとるために台所に行く。
「あら、愁ちゃん!おはよ!」
すると、そこには笑顔で美空 弥生が台所で朝食の準備をしていた。
「ああ。おはよう」
僕はそう言うと、朝食をとるためにイスに座る。机の上に用意されたのは、皿の上に盛り付けられたハムエッグと安っぽいカップの中に入っていたコーヒーだった。
「今日も、美味しそうだな」
僕はそう言うと、美空は笑顔で僕と向き合うように座った。
「今日、速く帰ってきてね」
美空は笑いながら、僕にそういう。その瞬間、僕は思わず泣きそうになっていた。
「まるで、本物の美空のようだな。」と、僕は心の中で呟いた。
1章「架空少年少女 美空 弥生」
1「架空少年少女」
室内は薄暗く、影がぼやけて壁に写っていた。部屋の中に居たのは僕と村田 元と言う科学者だけだった。僕と村田は、向かい合うようにソファーに座り、村田は書類を見ながら僕にこう言う。
「君の名は、沢村 愁。現在21歳の営業マン。物心ついたときには、父は交通事故で他界。10歳の時に、母は病死。以上で間違いないですよね」
そう言われ、僕は「はい」と呟く。
「で、ガールフレンド、いや好きだった美空弥生と言う女の子が13歳のときに、ピアノのコンクールの際、スッポットライトが足に落下。そのとき、火事になり美空弥生は焼死。で、美空弥生をよみがえらせて欲しいと」
「間違いは、書いていません」
村田は書類を机の上に置き、契約書と書かれた紙を僕に手渡す。
「この紙は、『BUY BOYandGIRL』製品の契約書です。ここに、サインと印を押していただくだけでかまいません」
村田は、そういう。
「買う 男の子と女の子。まるで商品だな」
僕はそう言うと、村田は僕にボールペンを差し出す。
「一様、生きた商品ですから」
村田は「生きた」と言う言葉を強調し僕にそういった。
「おっと、契約する前に確認しておきたい事があります」
村田はそう言うと、僕は「なんですか」と言う。
「はい。この商品に良い例を言う事ができません。つまり、悪い例のほうが確実に多いですね。中には、包丁で商品を刺した人も居ますし、商品と一緒に自殺をした人もいます。そもそも、『BUY BOYandGIRL』なんて言う人は少ないですが…」
「知ってますよ。『架空少年少女』って呼ばれてるんでしょ。この少女は、別人だと思って生活をしたほうが良いということですよね」
僕はそう言うと、村田は「ご名答」といった。僕は、契約書にサインを書き、印を押す。
「書き終わりました」
僕は村田に契約書を渡すと、村田は「確認しました」と言う。
「着いてきてください。隣の部屋が制作室なんです」
村田はそう言いながら、席を立つ。
僕も、その後に続いて席を立った。
部屋の隅に、隣室への扉があり村田は扉を開ける。
「どうぞ。お入りください」
と、言うと僕はその部屋の中に入った。
その瞬間、僕は口を開け、唖然とする。
そこに居たのは、透明な箱の中にいる美空弥生だった。来ている服まで、あの時、最後に見た桃色のワンピースだった。目を瞑っているが、今にも動きだしそうだ。
「いかがでしょうか。彼女は、「MISORA10−2」です。よく似ていると思うのですが」
村田は、そういう。
「どういう、システムなんですか?」
と、僕が村田にそういう。
「まあ、詳しい事はマニュアルで見ていただいたら分かるのですが。簡単に申しますと、人工的に作った人造人間です。いわゆる、クローンとでも言っておきましょうか」
村田はそういう。
すると「ピーピー」と、スピーカーから音が鳴る。そして、箱が空く。村田はポケットの中から薬品の入った注射器を取り出し、美空そっくりの物体の右手に注入していく。
その瞬間、美空そっくりの物体は目を覚ました。
「愁ちゃん!」
美空そっくりな物体は、そう大声で僕に抱きついてきた
その物体は、とても暖かく、可愛かった。こんな、物体を「架空少年少女」と呼べるのだろうか。
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2006/03/29(Wed)11:56:19 公開 / 東西南北
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