- 『黒髪の憂鬱』 作者:呪羅 / 恋愛小説 未分類
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全角2760文字
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原稿用紙約9.5枚
You are favor so.Therefore, it is parasitic to you. It applies to you word... 俺は亜紀斗が好きさ。それは昔っからで、今も変わらない
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「人生には、3つの坂がある。上り坂、下り坂、そして! 真っ逆さま〜ッ!!」
赤と青の髪のヨネクラセイジは、そう叫んだ。
いつもの部屋。いつもの風景。いつもの性格。いつもの状況。いつものブラウン管。いつもの世界。いつもの、いつもの、いつもの……、
「はい、飽きた」
ヨネクラは操作していたマウスを投げ出し、椅子に凭れた。PCの画面では、可愛らしいアニメの少女が、赤くなってヨネクラを見つめている。そんな状況に、ヨネクラは飽きた。
あれから一年。ほぼ同居状態だった『アイツ』は出て行って、自分の道を歩き出した。そしてヨネクラは、いつものように仕事をやった。
多大な情報を処理し、一日300を余裕で超えるメールに返信し、趣味のネットハッキングをし、通販をし、たまに外に出て殺人をする。
暇なんてありゃしない。毎日毎日、やらなきゃいけない事は大量にある。
でも、つまらない。
『アイツ』が出て行ってから、何もかもに色が無くなった気がする。錯覚? いや、違う。『アイツ』がいなくなってから、自分はおかしい。人肌が毎夜恋しくなり、外から帰って来ると誰かを探し、いつも台所に立っていた『アイツ』の影を、無意識の内にソファから眺めようとする。
「こりゃ重症だ」
苦々しく呟いたが、口元は引き攣るように笑っていた。
広いソファに体を沈め、鼓膜に伝わるヘッドホンの音楽を聴く。
『It loves, existence there is beli eved nothing but because of not.believing, and, however, love is called out so now...』
アルトの声は虚しい響きを持ってヨネクラの鼓膜を震わせ、脳に声を伝える。それにさえ嫌気を感じて、ヨネクラはヘッドホンを耳から毟り取った。
小さなサイドテーブルに手を伸ばし、昔ながらの黒電話の受話器を持つ。受話器を耳に当て、ジーコジーコ、ともう片方の手でダイヤルを回す。がしがしと鮮やかな赤と青の髪を乱暴に撫で、相手が出るのを待つ。
コール7回目。相手は出た。
『もしもし』
「やっほぉ? 久しぶりィ、アッキー。暇? ってか暇だろ。むちゃくちゃ絶対的に。なら来て。Hブロックの47の方のマンションに〜」
それだけ言うと、ヨネクラは『アイツ』への電話を乱暴に切った。
「ふざけるのもいい加減にしたらどうだ? ヨネクラ」
『アイツ』、事、淡雪亜紀斗はうんざりした顔でヨネクラを見下ろした。
「お、ホントに来たょ。アッキーッ、超久しぶりィん。元気だったぁ〜??」
ソファに転がるヨネクラの腕を踏み、亜紀斗は丁寧に答えてやる。
「あぁ、来てやったさ。久しぶりだな。この素敵な出会いは運命の血塗れ糸で繋がってるんじゃないのかと、正直疑う。元気だった。お前に会って、20代のありもしない元気さが160%ダウンだ」
「いやん。アッキーったら照れちゃってぇ。ホントは僕に会いたくって、カスピ海から飛んで来たクセにぃ〜」
「ちなみに、今の時代だとカスピ海は埋め立てられて今は荒地だぞ。読者の皆さんにそれを説明しなければ失礼だ」
「あぁ、そうだったねぇ。懐かしいなァ」
鼻で笑い、亜紀斗はソファの横にある椅子に座った。
「それで、何の用だ?」
「べっつにぃ〜? ただ、アッキーに会いたかったの」
腹筋の力で跳ね起き、ヨネクラは亜紀斗を見上げて笑って見せた。きょとん、と亜紀斗は口を尖らせて目を見開いた。『えへへ……』とヨネクラは照れたように笑う。
「なぁーんて、言ってみたりみなかったりィ。ホント言うと、寄生する為ねッ!」
「ッ?! ぅわッ!!」
ソファのバネを利用し、ヨネクラは亜紀斗の胸にダイビングした。細い体は亜紀斗の腕に収まり、そのまま固定するように強く抱きしめる。
「……ヨネクラ」
「ちょっとだけ、ね?」
「…………」
はぁ、と亜紀斗は深い深い溜息を吐いた。
「……あのね、アッキー」
「うん?」
亜紀斗の服に顔を埋め、ヨネクラは呟くように語りかける。
「ホント、寄生されに来てもらったんだ。アッキー、この頃違う子に寄生されてるでしょ。だから、所有者宣言、みたいなァ」
ヨネクラの温度が亜紀斗の温度と混ざり、侵食する。寄生された体は神経を蝕まれ、何もかもを淡い感情の海へ引きずり込む。淡い感情? それって、何の事? 恋ってヤツ? 愛ってヤツ? それとも、何? 愛憎ってヤツなワケ?
ねぇ自分はやっぱり、亜紀斗の事、『アイシテル』?
「帰る」
「へーぃ、お疲れサン」
ソファから立ち上がった亜紀斗に続き、ヨネクラも着いて行く。靴を履く亜紀斗の肩を、ヨネクラはちょい、と叩く。
「何だ」
「あのね、髪また染めよっかなー、なんて思うンだけど。どんなのがイイ?」
靴を履いて振り向いた亜紀斗が、ヨネクラの頭を見る。染め過ぎてパサパサの、現在は赤と青の髪の毛。
「今のは、嫌なのか?」
「嫌ってか、ずっとこれだし……。久しぶりに変えよっかなー、なんて思ってみたりみなかったり」
スッ、と亜紀斗の長い手が伸びてきて、ヨネクラの長い髪を掬った。
「俺は、この色好きだけどな」
「ホントッ?」
花咲くように笑顔になり、ヨネクラは亜紀斗を見上げる。
「でも……」
小さく髪を引っ張り、亜紀斗は考えるようにして言う。
「黒、だな」
「黒?」
「ああ。真っ黒。全部、全て、何もかも」
次の日、早く起きて風呂場で髪を染めた。混ざり気の無い、漆黒に。
「ぅーん……」
洗面所で、自分と睨めっこをしたヨネクラは考えた。黒い髪の自分。これがなかなか気持ち悪い。今まで奇怪な髪の色だったせいか、普通が性に合わない気がしてならない。
そういえば、今までやってきた髪の色を書いた手帳があったような気がする。それはすぐ手元にあって、ヨネクラはそれを取ってパラパラと開いた。
赤と青、金髪に毛先が茶色、ワインレッドに緑のメッシュ、黄緑とオレンジ、黒にオレンジのメッシュ、群青色に鶯色、白に山吹色、銀髪に水色のメッシュ、それに……
「なぁーんだ、黒やってんじゃん」
一番初めに、自分は黒をやっていた。今と同じ、漆黒を。
「つまんねぇのォ〜」
無造作に手帳を投げ捨て、ヨネクラは亜紀斗の髪と同色の茶色の髪染めを取った。
「黒に茶のメッシュ。これもまたヨロシ、かな」
鼻歌を歌い、ヨネクラは風呂場へ戻って行く。
「『You are favor so.Therefore, it is parasitic to you. It applies to you word...』」
僕は君が好きさ。だから君が消えると満足しない。君はいつも、僕の側にいるんだ。
「心配しないで。満足させてアゲル」
黒に茶が加わる。だが、一気にその色は湯によって流され、また赤と青が揺らめいた。
「憂鬱な気分って、これの事言うのサ」
赤青髪のヨネクラは、歌った。『アイツ』への愛の歌を……
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2006/03/28(Tue)12:51:45 公開 / 呪羅
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■作者からのメッセージ
今日は。
前に『赤青髪の憂鬱』と『茶髪の憂鬱』を書き、それを1つにまとめようとしましたが、こっちの方のデータが消えてしまいました………;;;;
なので(?)、今回はヨネクラ君の独白(?)話をまた新しく書きました……。
恋愛という恋愛でも無いのですが、やはりジャンルを恋愛小説にしてしまった……(男同士なのにッ?!!;;
ただ、前回よりは恋愛っぽくなったかなー……、なんて思ったり思わなかったり。
でわでわ、失礼しました;;