- 『タイトル未定』 作者:ハヤテ / 異世界 アクション
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原稿用紙約7.8枚
信じていた、尊敬していた――――。この人のために死のうとまで誓ったのに、裏切られた……。殺してやる―――…。たとえそれが哀しくても……私の……全てをかけて。
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「貴様は……っ! 貴様は私の尊敬を、敬愛を、従心を、憧れを……信頼を裏切った……ッ!! 私は決して……決して貴様を許さんぞ! エミリア!!!」
女は悲痛な絶叫を上げて、かつて敬愛し、憧れ、信頼してきた女に牙を向けた。
自分を裏切ったこの女に復讐を果たすために。
恨めしい。高い尊敬と敬愛を裏切ったこの女が。
憎い。私の深い従心と信頼を裏切ったこの女が。
殺してやる、過去の私の感情など関係ない。今目の前に、もう少しで追い詰められるこの女を。
この女がいなくなった日から、私はそれだけを誓いつづけた。『殺してやる』、と。
辛くなど無い、悲しくなど無い。私はこの時だけを待ち望んできた。
心にうごめく何か鋭く胸を突くこの気持ちなど、気付かないふりをして。
この世界は、大きく三つに分けられる。
人間や動植物など、生きとし生ける者全てが住まう現世、死した後の人間や動物の魂が行き着き、一時の安息のときを得る霊界、そして、神や天使や選ばれた特別な人間などが住まい、全世界の秩序を守る天界。
前述したした通り、天界に人間が足を踏み入れることができるのは、生前からよほど特別な能力か、超人的な身体能力を持つ者に限られる。
天界は、うかつに足を踏み入れられないような聖域なのだ。
そんな天界の道を、向こうから歩いてくる人影が現れる。
「現世では今冬で雪が積もっている頃のはずなのに……。一体どうなっているのだ、ここは…」
両脇に満開の桜の木がある道を歩きながら、不機嫌そうに眉を潜めながら呟くこの女の名は、夜隠時雨。
見た目は二十代前半、漆黒の髪に、漆黒の瞳。
顔の左側の長いその髪を、二本の長短に分け、その二本に分けた髪を金色の髪留めで根元と髪先を結んでいる。
服装は全身のほとんどが黒で統一されていて、唯一膝からかかと辺りまである長さの布と、ひじから手の甲までの長さがある布が黄色みを帯びだ白だ。
その他は黒いマフラーのような襟巻き、両肩と背中の布が無い黒い服に、腰の脇の布が少し無くて、ちょうど膝上くらいの長さのスパッツと袴を合わせたようなものを履いていて、彼女の左側の額とまぶたの上と頬には、痛々しい刺青が残っている。
顔は、今は不機嫌そうな顔をしているし、普段から人に冷たい印象をもたれるような覚めた表情をしているが、よく見ればかなりの美人だ。
そして彼女の左側の頬、まぶたの上、額には、黒い痛々しい刺青がある。
彼女の額の刺青は、どうやら薔薇をイメージした刺青らしく、黒いその刺青は、彼女の白い肌の上に凛と咲き誇っているように見える。
彼女の性格は常に冷静沈着、そして冷酷で、どんなときも慌てず冷静に事を分析し、一度敵とみなした相手は一瞬の迷いも無く切り捨てることが出来る。
彼女は人間だ。
生前は戦国時代に活躍した影の暗殺者…いわゆる「忍者」をやっていた。
だが、彼女のやっていたことは忍者と呼べるような華麗なものではなく、血塗られた、この世の地獄を絵に書いたようなものだった。
彼女自身もう覚えてはいないが、任務中、何らかの原因で死した時雨は、霊界へと連れてこられた。最初は覚えていたのだろうが、そこにいて時が経つうちに忘れてしまった。
そして何十年も立ったある日、一対の翼を背から生やした天使に連れてこられ、この天界へとやって来た。
何でも、自分のこの何の意味も無い暗殺の能力を見込んで、闇の神直属の組織に入れたいらしい。
その組織の名は、夜神直属暗殺、処刑執行軍『隠密機動』。
よくは分からないが、来いと言われれば、それを無理に拒む理由などどこにも無い。
時雨がそんなことを考えながら道を歩いていた先に、時雨は人影を見つけた。
だがここからでは遠すぎて顔が判断できないため、もうしばらく先に進んでみる。
そして、ようやくその人の近くまで歩いてきた時雨は、息を呑んだ。
そこにいたのは、ふくらはぎの辺りまである長い白銀の髪に、細い身体をしているがなかなかスタイルの良い、自分より頭一つ違うくらいすらりとした長身の美しい女が立っていた。
彼女は黒い襟巻きや腕につけた白っぽい布はつけていなかったが大体同じような服装をしていた。
そしてその顔の両脇の長い髪を赤い宝玉のようなもので結んでいて、その紅い宝玉は、彼女の白い髪に良く映えていた。
彼女は一本の桜の木の方を向いて目をつぶっていて、風とともに散っていく桜吹雪の中に溶け込んでいた。
その姿はとても神秘的で、何か目に見えない不思議な気を放っていた。恐怖の中に、何か安心できるものが見え隠れする。
相手は同姓だというのに、時雨は思わず見惚れてしまった。
それと同時に、時雨の中には見惚れるような感情とは別に、自分の中で何かがざわついたような気もしたが、気付かないことにしておいた。
彼女はそのまましばらくそうしていたが、ふと目を開けると、ゆっくりとこちらに向き直った。
時雨は、さらにどきっとした。
横顔からもその美貌は見て取れたが、正面から見ると、時雨の想像以上の美貌の持ち主だった。
異性でも、同姓でも、きっと彼女のことを見て振り返らずにはいられないだろう。
そして彼女の目は金色で、その瞳の中にある鋭い光に、時雨は吸い込まれそうになる。
「あなた……誰?」
「え………。わ、私は、夜隠時雨です。…あなたは?」
「私? 私は、エミリア。苗字はないの」
エミリア……と、時雨が頭の中で言うと、彼女はまぶしくなるような明るい笑みを浮かべて言った。
「もしかしてその服……。あなたも隠密機動に入るの?」
「え……、では、あなたも?」
時雨が驚いてそう言うと、エミリアはやっぱり、と言って喜ぶ。
「同じ服着てるから、もしかしてと思ってたんだけど、やっぱりそうだったんだ。…じゃあ、同期生だね。よろしくね、時雨」
「は、はい」
彼女の特上の笑みを直視してしまって、時雨の頬が少し赤くなる。
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2006/03/27(Mon)16:08:24 公開 / ハヤテ
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初めまして。ハヤテといいます。
このサイト様に来るのは初めてで、ちゃんと出来ているかどうか心配です。
未熟者ですが、これから頑張って続けていきたいので、よろしくお願いします。