- 『Amnesia〜lost of memory〜』 作者:Sairi / ミステリ サスペンス
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全角2780文字
容量5560 bytes
原稿用紙約9.2枚
Amnesia。記憶喪失症候群のアーラ・ラキータは、病院で突如その姿を消した! そして、マフィアの会社で現れた青年、『鬼』。彼とアーラの関係は…!?
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1 Amnesia
Amnesiaとは、記憶喪失の事である。
一時的や、永遠に一部分の記憶のカケラを無くしてしまうという症状だ。
ヴァルデルフィアに住む、一人の女性、アーラ・ラキータが、その症状の持ち主だった。記憶喪失の原因は、去年の交通事故と考えられていた。
去年、12月。
アーラ・ラキータは、赤いオデッセイを、南に向かって運転していたところ、スリップによってコントロールを失い、ちょうど走ってきたトラックに突撃してしまったのである。
病院に運ばれたアーラは、一切の記憶を失っていた。
自分が誰かも分からず、何歳かも、住所も、家庭を持っているのかでさえも忘れ去っていたのだ。
そして、今年、3月。
アーラ・ラキータという女性は、いきなり病院から、その姿を消し去ったのであった。
それから、だった。
ヴァルデルフィア中で、殺戮事件が幕を開けたのは。
ヴァルデルフィア中心部首都ルスグデル。
わずか1億人の人口を抱える、大都市だった。
そこに、二つの高層ビルが、並ぶようにして建っている。
風は、そのビルを避けるようにして、まるで岩に邪魔され、二つに別れ流れる川のように
吹いていた。
その高層ビルの、14階。
一人の男が、大きなスクリーンに背を向けて、社長椅子らしきものに、どっかと腰を下ろしていた。
「…で? 奴は、まだ行方がつかめんのか」
その男が憤慨したように言う。
誰も居ない部屋で、その男の声が、木霊のように響いた。
男は、返答がないのを確かめてから、ゆっくりと椅子から腰を持ち上げる。
「おいぃ。お前が居るのは、分かっているのだ。…いい加減姿を現さないか、×××」
ニヤニヤ笑いながら、男は室内をぐるぐると歩き始めた。
「まぁ、それでもかまわないぜぇ。お前の首が、落ちるだけさ」
すると、ドアが開いて、一人の青年が現れた。
それを見て、男は驚愕を露にした。
「な。なな…あお、お、おおまえぇはは、し、死んだはずじゃ!!!」
「死んだ? 違いねぇ。俺は、自由を手にし、そしてまた、地獄から這い上がってきた…」
青年が、ヒラリと跳躍し、男を超えて、男の背後の机に飛び乗った。
「な…」
「俺は、『鬼』になったのさ」
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
高層ビル内に、男の叫び声が響いた。
男の首が吹き飛び、首根っこを少しだけ残された胴体は、首からの血飛沫を浴びながら、
ドスッという醜い音と共に倒れた。
首根っこから、血がどくどくと流れ、やがてその死体の周りに小さな湖を作り始めた。
「あっけないな、マフィアのボスも、この程度なのか?」
青年は、血のべっとりとついたジャックナイフを、ぺろりと舐めた。
口の中に、鉄の匂いと血の味が広がり、青年はビクビクッと体を震わせた。
そして、心からこう呟いた。
「あぁ、もっともっと、美味い血をくれ…、このままでは、飢えてしまう…」
青年は、最後に不気味にニヤリと笑い、ひらりと窓の外へ跳躍した。
アーラ・ラキータ…、彼女は、青年の体の一つである…。
「なぁニコル。いつになったら、この迷路から抜け出す事が出来るんだ? 俺はもう、疲れたよ」
20代後半、といったところだろうか。
一人の男が、そう呟いた。
金髪を方まで伸ばして、黒い帽子を被っている。
瞳は灰色、そして、身長が高かった。
もう一人、丸椅子に座った、緑色の髪の毛をした男の子がいた。
ニコル、と呼ばれた子だった。彼は、十代半ばか後半といったところだろう。
精悍な顔つきをしていた。
「メイズ…you know what you should do,Ryan.Dont't you?」
ニコルは、にっこり笑って、完璧の発音でそう答えた。
「あぁ、その通りだ。何をすべきかは分かっているがな…」
ライアン、と呼ばれた男が、怒りを抑えるように言った。
「いるが…なんだい?」
ニコルが、ライアンの答えを楽しそうに促した。
「『鬼』は正体不明の化け物、俺たちは普通の人間! 勝ち目なんかあるわけないだろう!」
「そうかな? 僕は、その『鬼』に勝てる自信があるよ」
ニコルはそう言い切った。
ライアンは、ビックリして、目をぱちくりさせていた。
「な…? まぁ、お前がそう言うのも分かるぜ? お前は、世界で一番頭の良くて、素晴らしい逸材と謳われる探偵だがな、化け物は化け物なんだ。人間は勝てネェよ」
「勝負は勝ち負けではない。その勝負で、どれくらい自分の力を使い果たし、見出し、
自分の弱点を見つけられるかどうか。それで、勝敗は決められるんだよ、ライアン」
ニコルは、やや溜息気味に言った。
それを聞いて、ライアンは首をかしげながら、茶色のソファにどかっと座った。
「自分の実力…つったって、推理勝負でどう使うんだよ?」
「ライアン! 君は僕の相棒でしょ? なんでそんな事もわかんないんだよぉ」
ニコルは、泣き叫びながら言った。
そして、瞬時に顔色を変えてライアンに向き直る。
「いいかい、推理と言うのは、その死体から始ま。まず、その死体を見る。そして、次に何をする?」
「は? んなのは簡単だ。その死体に何か異常な事はないか、確かめる」
「そうだ。そして、その次に、周りを調べる。死亡推定時刻、そして、死体を見つけた
第一発見者を事情聴取。その次に、アリバイから犯人像を仕立てていく。コレぐらいは、
分かるよね?」
ライアンは溜息をついて、空を見つめた。
「だから何だって言うんだ?」
「つまり、探偵の力は情報で決められる、ってコトさ。その『鬼』と言う奴についても、
情報をありったけかき集めれば、必ず何かが見えてくる。違う?」
「ま、まぁ…そう、だろうなぁ」
「だから、その『鬼』について。助手のライアンくん、光栄に思って」
「はい?」
「その『鬼』について、情報を集めてきちゃってください」
「簡単に言うなっ!!!」
それから一時間後、ライアンは汗だくになって、ソファにべろんと崩れていた。
「お疲れ様、ライアン。さすが僕の頼れる助手!!」
「貴様…憶えてろよ、飯一週間奢らせるぞ」
ニコルはにっこりと笑って、資料を手に取り、何枚かパラパラと捲った。
「人の写真だね。何?」
「『鬼』に殺されたとみなされた、被害者達だよ」
ライアンが、にやりと笑って言った。
「聞け、ニコル。この被害者達は、どうもおかしな死に方をしてる。写真の下の、死因蘭
を見ろ」
ニコルは、言われた通りに写真の下の、四角い蘭を見つめた。
そこには、こうあった。
「死因:ファミレスで血を吐いて倒れ、星を書いて死亡。…☆??」
「そ。なんか『鬼』のシンボルみたいなんだ」
「シンボル…? まぁ、良くあるよね。で、それが『鬼』の場合、星なわけ」
ライアンは頷く。
ニコルは、しばらく考えてから、にやっと笑った。
「分かったよ、『鬼』の特徴」
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2006/03/28(Tue)11:25:54 公開 / Sairi
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■作者からのメッセージ
はじめまして、Sairiです。
此処に書き込むのは初めてです。
此処では、ミステリーとサスペンスをベースに、
話を進めて行きたいと思っています。よろしくお願いいたします。