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『心の地図 【読みきり】』 作者:錬 / 異世界 未分類
全角9715.5文字
容量19431 bytes
原稿用紙約27.7枚
少女と黒マントの男の不思議なお話。
「心の地図」

 少女は自分が春のように暖かい所に居ることだけで、他にはなにも知らなかった。季節が移ろいでいくように何色にも色を変え続ける部屋の中、少女は一人ベットに横になっていた。最も少女には何も知る術が一つもない。部屋の中から出ることもしなければ長い間ずっとベットの上から動いたこともない。部屋はベット以外はなにもなく、窓もないので外を見ることも出来ない。少女はただひたすらに天井を見上げているだけ。いつのまにか、少女の隣にそれ自体が闇の如く黒マントで全身を包んだ男が立っていた。少女は男の存在に本能的に気づいていたが、気づくということ自体知らなかったので、自分の姿勢を変えることなく天井を見続けている。
「始めまして、お嬢さん」
 男は、少女に話しかけて口だけで微笑んでみせる。
途端に、歯車が勢いよく回転を始める。
お嬢さんとは、何だろう? 始めまして? 自分自身にもよくわからない感情が込みあがってくる。男は、かろうじて見ることが出来る口で呟いた。
「動き出したね」
だが、男の言葉と反対に少女は、天井を見つめたままピクリッとも動かない。
「まずは、キミの持つ目で僕を見るんだ」
男は、少女の目をマントに手を覆ったままここだと指した。少女は、男の方に目を傾ける。
「次は、キミの頭をこっちに向けて、口を動かしてごらん」
口は、ここで頭はここだと少女自身の手を取り教えてやった。少女は、水槽で餌を待っている金魚のように口をパクパクと動かし始める。それが、さも楽しそうに何度も何度も繰り返すので、男は笑ってみせた。
「それじゃあ、声を出してごらん。僕がしているように、お腹に力を入れて声を出すんだ」
お腹はここだよ、自分の腹をさすって見せる男の真似をして少女も、お腹をさすり始め声を出そうとするが全く声は出てこない。しばらく少女は声を出そうと頑張った。が、ようやく出てきた声も風の音に掻き消されるほどに小さく微かな声だった。いい調子だ、っと呟く男は、
「それがキミの声だ。忘れてはいけないよ」
と少女に言って聞かせた。その後もしばらく声のレッスンが続けられた。


 声のレッスンが終わった後も男は、少女に一頻りの事を教えてやった。目や口、手、足が何のためにあり、何が出来るのか。それぞれの説明を時には冗談を入れながらも上手く少女に話して聞かせた。その時には、既に少女はベットに座ることも、立つことも、歩くことも出来ていた。それに興奮した少女は男の周りをヒヨコのようによちよち歩いたり、ピョッン、と飛んでみたりし始め全く落ち着きがない。その様子は、微笑ましいものだが男は少女に対して咳払いをして何度も注意をするのだが、聞かないのでついには、大きなくしゃみのように盛大に咳をすると少女の動きはピタッ、と止まった。調度、少女がもしかしたら空を飛べるかもしれないと思い腕をパタパタと動かしているところだった。男は、少女に座るように言って話の続きを聞かせる。少女にとって男の発する言葉は初めて耳にする言葉ばかりで何もかもが新鮮に思え、とても神秘的に思えてならなかった。どんなに些細なことも聞き逃すまいと少女は、座っていたベットから身をのりだし、目をキラキラと輝かせながら男の話に耳を傾け続けた。最後に、質問は? と聞かれたが少女は首を横に振っただけだった。男は、立ち上がりようやく行動に乗り出す。
「さて、もうそろそろ外に出ようか」
 少女は、不思議な眼差しを相手に投げた。男は、少女を振り返り口だけで笑ってみせる。
「外に行くんだ。おいで」
「ソ、ト?」
 頷いて少女に近づき同じ目線になるように屈みこんだ。
「行ってみたいでしょ?」
「うん」
ニッコリ笑って大きく頷いた少女は、黒マントをぎゅっと握る。
「いい子だ」
 呟いて、部屋の壁へ近づきマントに隠したままの手で壁に触れる。じわりじわりと壁に円形の扉が模られていく。何色にも変わり続ける部屋を無視して、その扉だけが白と黒で真っ二つに割られ、色が変わる様子はないようだ。ただ、白と黒が交互に入れ替わっている。男は、ドアの取っ手を捻り、ガチャリ、という音を確認しそのまま扉を外へ押しやる。開かれた扉の向こうに広がるのは、白と黒だけが存在する世界だった。黒は無限大に広がり続ける闇を。白はその中に一直線に放たれた光を。闇の中には、神々しい程に白く光り輝く道が姿を露にしていた。静寂で無音の世界に見える光景の中で、激しい戦いが行われているようだ、と少女は感じた。どこかにピンッ、と張り詰めた空気が確かに存在している。少女の目には、剣が交じり合い火花が散っていく光景が見え、荒々しくぶつかり合う鉄の音が聞こえている気がしてならなかった。
「おいで」
 男は再度繰り返す。なんの迷いもなく外に立っている男の傍にあった扉はいつのまにか姿を消していた。そのかわりくっきりと外の世界と中の世界との境界線が設けられ、男は まだ部屋の中にいる少女を見て、
「怖がることはない。危ないことはなにもないから」
 言って少女に手を伸ばす仕草をする男に、恐怖に圧迫されたような瞳を向けて返す。
「いや……」
 これまで一度も外に出たことのない少女にとっては、これは一大事。簡単に外に出る決断は出来ない。そうでなくても黒マントの男の背中に広がる光景に体が危険信号を出しているよう。内側の世界から自分の手を引っ張られているよう。
――行くな。行ってはいけない
頭の中に轟く呪文に少女は、逆らうことが出来なかった。部屋の中から男を見上げ続ける少女に男は不審そうに口を尖らせる。
「捕らわれたのか。――そなたか」
 男が顔を向けた先には、何もなくただ少女の手が垂れ下がっているだけだった。だが、その手には明らかに妙な皺が寄っている。誰かに手を握られているようだ。男は、それを察知すると一歩後ろへと下がり、声を上げた。
「この子を守ってきたものか?」
しばらく何の返答もなかったが、
「そうだ」
 雷鳴が轟くように大きくしわがれた声と共に焼けるような風が烈火のように男に襲いかかる。
黒マントを翻し素早く闇に溶け込んだ男は、熱さをしのいだように見えたが、じんわりとマントの下から何かが焦げたような匂いが漂うのだけはしのげなかった。自分の体を癒すため闇と一体化した男は、焦げた身を闇の中に隠しきっている。焦げたものをそのままにしておけば自分の体が腐り始め、その体は二度と再生することはない。子供を守る守り神に全てを無にさせられてしまうのだ。尋常ならざる声の威圧感と怒涛の如く押し寄せる風の中、男は声の主を見据えていた。
「守り神よ。そなたと話がしたい」
 男の声は、三重、四重にも重なり四方八方から相手に届けられる。瞬間、凶器となる風が男を捕らえようと闇の中を轟音にも似た音で這い回り始める。
「お前と話すことはない」
「私には、ある!」
 男の脇を風の切っ先がすり抜ける。男は無事だったがマントは一瞬にして燃えた。闇が、男の周りにするすると集まり新たなマントをあてがったが、そのせいで闇が揺らぎ守り神に男の居場所を知られてしまった。すぐさま別の場所へと走り抜ける男の足元寸前を風が押し寄せ闇に皹を入れるが如く、大きな爆発音が当たりに充満する。
「話を聞いていただきたい!」
 揺らぎ続ける闇の中、止まることなく猛スピードで走り続けながら男は、叫んだ。風が、男の足をかすめた。途端に、焦げた匂いが生まれる。その足を、再生させるために闇が足を包み込む。
「長い間守り神をして来たそなたなら分かっていたはずだ。十月(とつき)すれば子は、どうやってもそなたから離れなければならない。外に出なくてはならないっ――」
「外には、行かせない!! 私の大事な子を奪うのか!」
 声が発せられた瞬間、男の足を這い上がろうと風が勢いをまし太ももまで上ってきた。 男は、痛みに耳を劈く悲鳴を上げる。闇は必死に風を静止させようとするが、絶対の力を持つ風は刃を震わし今にも男を焼きつくさんと、周りに集まる闇を払いのける。濃い焦げた匂いが辺りに、一斉に広がる。男は、守り神と距離をとろうと離れた。ジュー、という音が耳に嫌でも入ってくる。荒い息遣いをして男は守り神に問いかける。
「子を、食らうおつもりか?!」
「違う! 可愛い私の子を食らうはずがない」
「ならば、その子の手を放していただきたい」
「なぜだ!?」
 風が闇の中を更に加速して這い回る。
「私は、これまで何十年もこの子の世話をしてきたのだ。この子は、ここで育ってきた。これからもここで育つ」
守り神は、十月しか世話をしていない子供をあたかも云十年もの長い間育てたのだと強い錯覚を起こしてしまう。
「守り神! しかと聞いていただきたい。そなたの子はここではもう育つことは出来ない!」
 途端に、無色だった風が見る見る内に赤みを帯び、真(まこと)の炎の如く姿を変える。これまでにない勢いで男に襲いかかろうとする風を、寸前のところで交わして飛躍する。大蛇のようにとぐろを巻く風は、容赦なく男を無にしようと喰らいかかる。
「その子を、このままにしておけばいづれは、そなたに食われてしまう! 跡継ぎも授からない!」
「この女の体に跡継ぎだと? 笑えるわ。この女にはこの子が最後だ。跡継ぎなど作れぬ! この子が居なくなってしまえば私は一人女の中で朽ちて行く(ゆ)だけ」
 突然、少女が喚きだした。少女の手は、これまでにない以上に強く握られ、真っ赤な手の後が燃えるようにして刻まれている。男は、少女の声に言い知れぬ焦りを覚え守り神に叫び声をあげる。
「それ故に、その子を縛り続けるつもりか!」
「縛ってなどいない。この子は、ここに居たいと望んでいるのだ。ここならずっと安全に過ごせる。私の元で……」
「そんなにその子を思うのなら、手を放してもらいたい! 守り神よ、ここは既に安全ではないのだ。私と、そなたがぶつかり合っているこの空間は脆い。いつ、崩壊するかわからない」
「そんなことはない!」
 男は、唇を噛んだ。理解を得ようとしても無駄か。仕方がない、こんな形で守り神を失くすのは惜しいが、子のためだ。
「ここまで子を育ててくれたそなたには、感謝する!」
 闇の中から目にも止まらぬ速さで空間を横切って、男は一直線に少女の下へと駆け寄ろうとする。が、守り神が怒り最後の一撃を刺そうと風に男の背後ろを追わせ、男と風の恐ろしいリレーが繰り広げられる。その最中に男は、どこからともなく白く光り輝く紙を取り出すとそれを、前に翳した。光が男の周りに溢れ次々と守り神の風を払いのけていく。 少女がいる部屋へと飛び込み、少女に地図を持たせようとする。が、小さな手は硬直したように指一本動かない。扉があった方へと顔を向けた。光の壁がなんとか風を食い止めている。それを確認すると男は、出来るだけ落ち着いたように少女に話しかける。
「いいかい? これは、キミの地図だ。キミだけの地図なんだよ。けど、これはまだ完成していないんだ。キミはこれを完成させないといけない。キミの道を歩くためにキミの道を決めなくちゃならない」
 少女は、強く握られている手に鋭い痛みを感じながらも男に視線を向け、地図へと視線を落とす。痛みと恐怖に苦しみながらも少女の瞳に、それとは全く違う感情のものが浮かんだように見えた。小さな指がピクリと動く。男は、光の壁に振り向きながらも少女に話しかける。
「いい子だ。この地図を握っておくれ。外に出ると決意するんだ」
 男の言葉に反応したように少女の手がぎこちなく動いた。と、同時に光の壁が限界に来ていることを知らせる不気味な音を立て始める。早く――! 心臓のねじがいかれ、早鐘のように鼓動の音が耳に入ってくる中、男は強く願った。早く、早く地図を握ってくれ――! 光の壁が大きな音を上げ始めた。もう、ダメか。男がそう思った刹那、シュー、と音が聞こえた。少女の手には、見事に地図が握られている。男は、ほっとしたように胸を撫で下ろしたが、完全には安心できず守り神の名を呼んだ。しばらくの間沈黙が続き、返答がなかったので、ようやく息をついた。その時には、体の傷も痛みも全てが消えうせていた。


 少女は、自分の手にしっかり握られている地図を広げて見る。それから、外の世界にある道を見る。まだ、少女の隣で屈んでいる男は、やっと立ち上がると再び外へと出た。少女は、男の後を追って内の世界と外の世界の境界線のすれすれで止まった。男を見上げると、頷いただけで男は、何も言わなかった。少女は、ゆっくりではあるが大きく一歩前へと踏み出した。突然、光の道が自分の足の目の前に接近する。急に、生暖かだった背中が寒くなった気がして、後ろを振り向くと部屋は、ぐんっと後ろへ下がっていた。少しだけ顔を曇らせる少女に、
「大丈夫だよ」
 言った男に、今度は少女が頷く。男は、少女の前へと行き地図を指した。
「見てごらん。この黒い道はね、この白い道のことなんだ。キミがこの道を歩くと、黒い道にキミの足跡がつけられる。そうやってしてキミは地図を完成させるんだ。キミは歩くだけで構わないからね」
 そこまで言って男は、少女の後ろへと着いた。少女は、大きく呼吸して体の中からドクンドクン、となり続けている鼓動を少しでも和らげようとする。少しの間、落ち着きを取り戻すのを待ち、何度も男を振り返りながらもようやく決心がついて、一歩前へと前進した少女は、すぐさま地図を覗き込んだ。地図の中にある黒い道には、くっきりと白い足跡が記されている。驚いたように何度も目を瞬かせる少女は、恐る恐る片足だけを前へと出した。と、瞬時に白い足跡が浮いて現れる。少女はそれが面白くてキャラキャラと笑い声を立て始めた。これまでの不安はどこへやら。自分がピョンピョン飛び跳ねる度に地図に足跡が残るのが楽しくてはしゃぎはじめた少女にゴホン、っと男は咳を立てた。
「キミがはしゃぐのも分かるけれど、これは大事なことなんだ」
 少女は声の主を見上げ、笑った顔のまま頷いた。
「さぁ、先へ行こう。道は長いのだから」
 再びこくりと頷いた少女は、地図に自分の足跡を残すために歩き出した。
 コツン、コツンと小さな足跡が無音の世界に波打つように響き渡る。少女は、時に早く時に遅くと歩を進めた。突然、ギャーーーッ!!!、と耳を劈かんとする大声が辺りに大反響を始める。ギョッとした少女は、飛び上がり体を縮めるとキョロキョロと辺りに視線を張り巡らせる。自分の背後にいる男を見ると、男はマントの下から左斜めを指していた。少女は、そちらへと目を向ける。そこには、人型の光に包まれた赤ん坊が浮いていた。赤ん坊の周りには大勢の光が見受けられ、赤ん坊の誕生を祝福しているように思われる。しかし、少女はその神秘的光景に顔を歪めるだけだった。男は、笑って少女に話しかける。
「あの子は、生まれたばかりのキミだよ」
 少女は、男の顔をじっと見ていたが、赤ん坊の方へと向き直ると自分と赤ん坊を交互に指して言った。
「キ、ミ?」
「そう、キミだ」
 目を見開いた少女は、先程自分が言った言葉を繰り返し呟くと、赤ん坊を穴が開くほど見ていたがいきなり頭を横に降り始めた。違う、っと言いたいのだが言葉が突っかかり出てこない。変わりに頭を振り続けた。
「そんなに嫌なのかい?」
 男が尋ねると少女は待っていましたとばかりに大きく頷いた。男は、忍び笑いをする。
「誰だって初めはこうなんだよ。心配することはない。すぐに大きくなって別嬪さんになるだろうから」
 男の言葉に少女は首を傾げるだけだった。
「さぁ先へ行こう。まだ、終わりは遠いよ」
 少女は、自分だと言われた赤ん坊をチラリと見て、ツン、とそっぽを向き、ずんずんと先へと進んだ。
 静けさが取り戻された世界には、先程と同じように少女の足音しか響きわたらなかった。少女は、ひたすら地図を見ながら、自分の足跡がついていくのを眺めていた。と、少女の顔を照らすように光が現れる。目の前にこれまで一直線だった道が三つに分かれている。三つの道には、同じ顔をした少女が異なった服を着てそれぞれ違う背景をバックに笑っている。少女は、男の方に顔を向けた。
「この子達は、十歳のキミだ。いいかい、キミはこの三人の中から自分を選ぶんだよ。うんっと考えて選ぶんだ。この子達を選んだら後は、それぞれに持つであろう気持ちでキミの最後の日までの時間が全て決まってしまう」
 少女は、三人の自分を見つめ自然と右の道で笑っている自分の前へと歩み寄った。肩まである茶色がかかった髪をピンクのリボンで潜っている少女は、可愛さが増すような白いワンピースを着ている。背景に映る部屋はとてつもなく大きく天上も高く、所々には大きな絵画まで飾られているどれもこれも高そうな物ばかりが置いてあり、立派の一言に尽きる部屋だった。男は、右の道で笑っている自分に見とれている少女へと近寄って、
「その子は、何でも買ってもらえることが出来る。お父さんもお母さんも優しいし、大きなお部屋を独り占めすることもできるよ」
 少女は、キラキラと右の自分を見つめ、その子を指差した。少女の心はどうやら右の自分に奪われたようだが、男は、首を横に振って見せた。
「言っただろう? これは、いっぱい考えなくちゃいけないんだよ。あとの、二人を見てから決めても遅くはない。なに、キミの気に入ったキミが逃げるわけじゃないんだから」
 少女は、一瞬むすっとして気に入った自分へと惜しそうに目を投げかけながら、中央で笑っている自分の前に立った。中央で笑っている少女は、少しだけ透ける白いワンピースに真っ赤に映えて映るスカートを着て、小さく蜜網をしている。背景は、先程の部屋ほどではないが大きく光がよく差し込む部屋だ。女の子らしくクマやイヌのぬいぐるみが置いてあり、その部屋の半分をピンクの置物が占めていた。
「その子は、おじいちゃんとおばあちゃんの三人暮らしだよ。でも、大丈夫。ちゃんと、お母さんとお父さんも居るからね。本当のお犬さんもいるし、おばあちゃん達もとっても優しい方たちだ」
 少女は、迷っているような目つきをしたが、フルフル、と頭を横に振って、お気に入りの自分へと走り寄る。
「あと、一人のキミが残っているよ。見ないのかい?」
 少女は、じぃっと男を見ていたが重い足取りで左側の自分の前へと立つ。左の道で笑っている少女は、普通のTシャツを着て短いパンツをはき青いサンダルを履いている。髪はそのまま放置してある状態だ。おおきな部屋だが全て木で出来ているようで、大きな窓からは、何よりも映える森と青い顔を出している湖がある。ぶすっとした顔の少女に男がいう。
「その子は、お母さんとお父さんとおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に暮らしている。外に行けば、大きな森があってキミはそこでお遊びも出来る。それに、湖に行けばいつだってお魚さんを見ることが出来るよ。夜になればキラキラ光るお星様も見れる。――さぁ、キミはどのキミを選ぶのかな?」
 少女は、迷わずにお気に入りの自分へと走り寄る。けれど、その顔は迷っているような色が浮かんでいる。ゆっくり決めればいい、と男は言った。少女は、男の言葉通りゆっくり考えることにしたらしい。三人から離れ、調度三人全員が目に入るところまで離れたらそこにちょこんと座ってじっとそれぞれ笑っている自分を眺め始める。



 少女が、三人の自分を眺め始めて数時間。
 時折、少女は立ち上がると三人の中の一人に走り寄るがまた元の場所に戻り考えにふける。その間、チラリチラリと男と自分の持つ地図へと目を移したりを何度か繰り返した後、弾むように立ち上がった少女は、考え続けた少女を見守り続けていた男のマントを引っ張り一人の自分へと歩み寄る。少女は、右の自分の前に立った。男は、少女の頭を撫でると優しく微笑んだ。
「どうして、この子を選んだんだい?」
「たのし、そ、う」
 答えた少女にそうか、と頷いた男は、
「本当にこの子でいいんだね?」
 少女は、こくりと頷いた。
「わかったよ」
 言った男は黒マントの下から真っ白く光る輪に通された三つの鍵の中から一つだけを取った。後の二つの鍵は光の粒となって弾けた。男は、その鍵を持ち右側の道へと行くといつのまにか現れていた鍵穴に持っている鍵を差し込んだ。と、同時に選ばれなかった二人の少女が笑顔のままでさよなら、と手を振り道と同時に消えて行った。選ばれた少女は、大きな光へと姿を変えて、選んでくれた少女の胸が光を帯びてくるとその中へと吸い込まれるようにして入っていった。選んだ少女が、自分の中へ入ってきたのに驚いた少女はぽかん、っと佇んでいた。
 そうこうしていると少女の目の前に道が現れ、そのずっと先に大きな樹木が見えた。
「もうすぐでゴールだ」
 男が言って少女の背中をぽんっ、と押した。押されるまま足を前に踏み出した瞬間、ずっと先にあった樹木が少女の目の前に姿を現し堂々と立っていた。男は、大きくててっぺんの見えない樹木を見上げている少女に話しかけた。
「こっちへおいで。これが最後だよ」
 男がこっちだと招くほうに少女は走っていく。男は樹木の裏のほうへと少女を呼び込んだ。そこにはテーブル、椅子、ブランコがそれぞれ一つずつありその上にちっちゃな箱が置いてあった。
「あの、箱の中にはとっても大切な物が入っているんだ。何が入っているか私が教えてあげるからキミが一番欲しいな、と思うものを取ってくるんだよ。いいね?」
 こくりと少女は頷いた。男もそれに返すように頷くと、
「まず、テーブルの上にある箱にはどんな逆境にも挫けずに何度も挑戦し続ける力。壊れてしまった思いや人との絆を修復する力『再生の力』が入っている。次の、椅子の上に置いてある箱には、人の信じる気持ちを勝ち取り、とても愛される『働き者の手』が入っている。最後のブランコにはどんなに酷いことをされても、そこに眠る真実の思いに気づき、とても深い考えを持つことが出来る『真実の目』が入っている。――さぁ、欲しいと思ったものを一つ取っておいで」
 少女の背中をゆっくりと前に押しやった。少女は、戸惑ったように三つの箱をそれぞれ見ていたが、やがて地図を地面に置くと一つの箱をそっと手に取った。
 人の信じる気持ちを勝ち取り、とても愛される『働き者の手』が入った箱が少女の手の間から顔を見せていた。それを見ていた男は、地面に置いてある地図をとり少女から箱を取った。箱は、大きく弾けて飛ぶと地図の中へと一瞬にして入っていった。男は少女の前に屈むと、
「よく頑張ったね。ご苦労様」
と言い地図を丸めると、光り始めた少女の心臓部分に地図の先をゆっくりと入れていく。途端にガラスが割れたような音を立てて闇が消えていき、辺りは光の海へと変わって行った。少女の周りを様々な形をした光が飛び回り、光の海が穏やかに波を打つ。少女の中に 完全に地図を入れ終わったときには、樹木の方から大きな歓声と共に拍手の音が聞こえて始めていた。そちらのほうへと顔を向けると少女の周りを囲んでいた光が樹木の表へと姿を消していく。少女は、その光を追っていったが、途中で足を止めて、男を振り返る。
「キミを待っている人達がいっぱいいる。主役に抜擢されたんだ。キミなら大丈夫」
 男の周りをするすると光が包み始める。少女は、不思議な眼差しで男を見ていたが最後に、
「あ、りが、と、う」
 男は、少女に笑顔を零すと光に侵食されていくかのように包まれ消えていった。一人となった少女は、歓声と拍手が上がる方へと走り出す。

――キミなら大丈夫 

 樹木の表へと息を切らしながら走っていくと先程まではなかった扉があった。荒い息を整えると少女は扉を前へと押しやり光の中へと入っていった。


――いってらっしゃい




2006/03/21(Tue)02:16:28 公開 /
■この作品の著作権は錬さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
えぇーと、かなりお久しぶりで覚えている方がいないと思われます。錬です。これまで長編ばかりだったので、短編に挑戦しようかと思いまして、書きました。一応、た、短編なんですけど、友達に「これ短編じゃないだろ?」とスパッと言われたのでかなり心配だったりします。まだまだ、未熟で描写がくどい、と思われる方が多いと思います。許してください。作者は亀よりも成長スピードが遅いんです(泣) ついでに、この作品は「書き方が重い」とめったざしにされた作品でもあります。けれど、こちらの方々の意見も聞きたいと思いましたので原稿させてもらいました。よろしくお願いします。出来ることならこの馬鹿にアドバイスと感想を書いてもらえれば嬉しいばかりです。厳しい意見もどしどし書いちゃってください。
 読んでくれた方にも、頭を下げて感謝します。ありがとうございます。
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