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創作小説 投稿掲示板『登竜門』 『Ｔ．Ｐ』
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- 『Ｔ．Ｐ』 作者：天角 / アクション リアル・現代
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全角5353文字Ｔ．Ｐ彼は人間ではない。彼は普通の生き方ができない。彼の手は血塗られている。彼は強い。
容量10706 bytes
原稿用紙約18.45枚 -
目の前の死体の山を見て、彼は微笑した。
「俺が死んだほうが良かったのかな？」
誰に聞くわけでもなく、そうぼやいた後、彼は旅立った。
第一話「事件」
警視庁内の休憩室の窓際の席に俺が座った時携帯がなった。
「久野井さん！はやく来てください！」電話の向こうで佐々木が騒ぐ。
いつもだ、決まって俺が落ち着いてコーヒーでも飲もうかと考えている時にあいつは俺の携帯を鳴らす。
どうやら、また銃殺死体だ。久野井はうんざりという風にスポーツ刈りの白髪頭を掻く。
全く落ち着いて対処してほしいもんだな、佐々木も…
やる気はあるのだが、空回りしている。新米といえどもう少し落ち着きを持ってほしいものだ。携帯を切りながら久野井は考える。
まぁあいつのあわてようも仕方ないか。コートを羽織ながらここ最近の事件を頭に浮かべる。
なんせ、今月の銃殺死体は今日で十五人目だ。
「あ、こっちです！久野井さん！」現場に着いたとたんに佐々木が大声で呼ぶ。
まだ、二十過ぎのこの刑事の顔には刑事の風格はなかった。どちらかといえばかっこいい部類に入るのだろうが、刑事特有の「渋い」風格はなく「イマドキ」といった顔だ。
「分かってらぁ、ギャアギャア騒ぐな。女じゃあるまいし」この一言は結構効いたようだ。佐々木は静かになった。
被害者は胸に銃弾を打ち込まれており、かなりの出血だった。この分では即死だろう。
「ガイシャの身元は！？」久野井が少し声を張り上げる。ビル街の大きな道路を横切る車道に面した駐車場だったので、そうでもしなければ佐々木に聞こえなかった。
「大竹忍、三十一歳で近くのアパートに一人暮らし、拳銃を所持しており、やはりこいつも…」佐々木に警察手帳の音読につまった。
「例の二大勢力の一人って訳か…」久野井が代わりに言う。
「はい、こいつは黒流会のやつで、麻薬取引などで、マークされてたようです。そしてこれが、大竹のポケットに入っていた薬です」佐々木が粉末の入った袋を差し出す。
「ったく、一体誰なんだろうな？暴力団それも東京二大勢力と呼ばれる、黒流会、巌修会のやつばっかり…」久野井は溜息をつく。
黒流会と巌修会というのは東京二大勢力と呼ばれ、東京の東側を黒流会が、西側を巌修会が仕切っている。他にも暴力団はあるが、殆どがこの二つの傘下だ。
そして、この二つの組は昔から対立しあっている。このところの連続殺人事件も最初は暴力団同士の抗争と思われていたが、双方とも覚えがないらしく、事実、彼ら自身が一番驚いている様子なのだ。
「野次馬は近づけるな」それだけ言って久野井はパトカーに乗り込んだ。
「どこ行くんすか？」佐々木が呼び止める。
「ん、ちょっとな。どうせ今まで同様、証拠なんて残ってねぇよ」そう言って彼は車を発進させた。
昔でいう、武家屋敷とでも言おうか。その屋敷はとても大きかった。畳が敷き詰められ、掛け軸が飾られたいかにも「和」という感じのその部屋の隣には大きな敷地を誇る庭園が広がっていた。
「で、本当に覚えがないのか？」久野井がもう一度聞く。
「あ…ああ」
そう答えたのは他ならぬ黒流会会長 大森慶介だった。年齢は久野井と同じくらいの四十代後半だが、その髪は黒く長髪だった。
「これ以上黙っていても、部下が死ぬだけだぞ！」久野井は語勢を強める。
彼がパトカーで向かったのは黒流会本部だった。刑事が暴力団本部に行くなどおかしい気もするが、昔の事件の絡みで久野井と大森の友好は深かった。しかし、彼はその昔の事件の事を誰にも明かさなかった。
「…仕方…ないか」大森が口を開く。
そして少し間が空く。
「お前だから言うんだ。まだ警察内には漏らさないでくれ」大森は下を向きながら言う。
「ああ分かってるさ、だからさっさと言ってくれ。いい加減ずっと畳の上じゃあ足がしびれてな」久野井が笑ってみせる。
「Ｔ．Ｐ…俺が知る限り最強の男だ…そして奴は…」ここで大森はまたもや少し間を置いた。
「奴は人間ではない」
第二話「始動」
長い沈黙の後、久野伊が口を開いた。
「本気か？」少し笑いを含めた疑うような口調。
「やはり、簡単には信じられんだろうな…」そう言いながら大森は立ち上がり、歴代の組長の写真が飾ってある壁の前まで移動した。
「あぁお前みたいに嘘付いたことねぇような奴じゃなかったら、今頃、ふざけてんのかって殴りかかってたぜ」久野井はニヤニヤしながら用意された茶をすする。
「深刻な話なのだがな…よく笑ってられる…」大森は呆れた表情で久野井を見る。そして、壁に掛けられた写真の額の一つをはずした。
「へ〜、写真の裏に金庫かよ。考えたな」久野井が少し感心したような声をあげる。確かになかなか考え付くものではない。
「いつも思うのだが、お前刑事向いてないぞ」大森は久野井に背を向けて、金庫を開けながらそう言う。口調からして笑っているようだ。そして金庫から一冊のファイルを取り出し、久野井に差し出す。
「これを受け取れば、お前も関係者だ。もう後には引けない」大森が真面目な表情で言う。そして、「どうする？」と問いかける。
「俺がそんなのにびびるとでも？」久野井はファイルを受け取った。
どこにでもあるような、水色のファイルで、表紙には「Ｔ．Ｐ」とだけ書いてある。
そして、そのファイルに目を通そうとした時だった。突如銃声が鳴り、大森がうずくまった。
「大森！」久野井は大森に駆け寄り、すぐさま拳銃を取り出し、銃声の聞こえた方向に向けた。
「大丈夫、腕をかすっただけだ。大したことはない」大森の左腕からは血が流れていた。
「はずしましたか〜？残念！結構自信あったんですけどね〜」襖の向こうから声がする。
「だ〜めじゃないすか〜、部外者にそのファイル見せちゃったら」
声からして若い男、拳銃を所持、状況からして黒流会の敵対組織巌修会の者の可能性が高い。
刑事の職業病とでも言うのだろうか、久野井は自分の心配よりもまず、犯人の特徴を考えていた。
「そのファイルこっちに渡してくれりゃぁ、あんたも大森さんも殺さないで済むんですけどねぇ」男はいまだ姿を見せず、声だけが響く。
「てめぇは巌修会の奴か？」大森を机の後ろに移動させながら久野井が叫んだ。襖の向こうから少しだけ犯人の髪が見えた。金髪。
「まさかぁ、あいつらと俺は敵対関係っすよ〜」男は相変わらずふざけた口調だ。殺し合いを楽しんでるとしか思えない。
「それに、俺が巌修会の奴ならこんなとこ堂々とこれる分けないでしょうが」男はクスッと笑う。久野井は男の口調に嫌悪感がした。確かにそうだ、玄関の横の部屋には黒流会の下っ端が四、五人いたはずだ。巌修会の奴ならここまでスムーズにこれるなんてことはまず有り得ない。だとしたら黒流会関係者…
「香原か…他の奴らは…殺したんだな」大森が傷を抑えながら言った。
「正解です。じゃあ俺がなんでここに来たか分かりますよね？」香原と呼ばれた男の声は急に真面目になった。殆ど音をたてずに拳銃を持った暴力団員数人を殺害、なんてやつだ、久野井の表情がゆがんだ。
「貴様がやろうとしていることは、黒流会と巌修会の関係をこれ以上悪くする！」大森が叫んだ。大森が大声を出すなど、滅多にない事だった。
「あんたみたいに和解、和解って言ってちゃ何も始まんないっすよ。巌修会とうちの関係はもう修正できないくらい最悪なんだ。しょうがないでしょ？先代達が色々といざこざ起こしたんだ、あんたが急に和解なんて言い出してもどうにもならない。だったら、闘うしかない、暴力団らしくね」香原はあんたは組長には向かないと付け足した。
「実際、半数ほどの黒流会の連中は俺に付いて来るって言ってます。あんたのなまぬるいやり方にはみんなうんざりなんだ。俺は巌修会を潰して東京を手に入れる、そしてそのためにまず…Ｔ．Ｐと手を組む」
「それだけは許さん！」大森がまた叫んだ。
「貴様はあいつに殺された仲間達のことをなんとも思わんのか！？」大森が言い終わる前に香原が部屋に入ってきた。
「あんたのせいだ。部下が大切ならＴ，Ｐ殺害命令を出すべきだった。だが、あんたはそれもしなかった。やられるだけの側に回ったわけだ！」香原が叫んだ。
「身内が殺されるなら、相手を殺すべきですよ」彼は久野井達に背を向けながら言った。
そして急に声を大きくした。
「じゃあｹﾞｰﾑをしましょう！俺がＴ．Ｐを見つけて仲間にするのが先か、大森さんが和解ってのを成立させるのか先か、そこの刑事さんがＴ．Ｐを捕まえるのが先か」香原はまた楽しむような口調に変った。そして部屋の出口へと歩き出した。久野井はなぜか背を向けて無防備なはずの彼を撃つ気がせず、彼は一度も振り返らず、部屋から出て行った。
空には夕日が出ていた。
「何なんだ、あいつは？」止血のために自分のネクタイで大森の腕を縛りながら久野井が聞く。
大森は香原がいた辺りを見つめている。
「香原…うちの組の年少組幹部だ、だったと言うべきか？あいつが敵に回ったとなるとまずいな…」
大森の出血が止まった。
「これで我々は内部分裂という訳だ。また敵が増えた、全くこれじゃあいつまでたっても和解など…」
大森は手で顔を覆った。額には汗が滲んでいた。
香原が大森の肩を叩く。
「とりあえず、お前は香原の動きに注意していてくれ、俺はT.Pについて調べてみる」そう言いながら久野井はコートを羽織った。
「すまんな、巻き込んでしまって」大森は下を向きながらいった。
久野井は笑ってみせる。
「な〜に、刑事が暴力団に振り回されんのはいつものことだろ？」そう言いながら久野井は部屋を後にした。
「頼んだぞ」大森が呟いた。
「どこいってたんすか？」署に戻るなり佐々木が駆け寄ってきた。
「別に、大した事じゃねえよ」大森は足を止めずに答える。それに合わせて佐々木もついてくる。警視庁の玄関ロビーは人が多くうるさかった。
「それより、いい情報が手に入りました」佐々木が小声で言う。とても得意げな顔で。
「ど〜せ、大した事じゃないんだろ?」久野井は佐々木の顔も見ずに答える。そして少し歩くスピードを速める。
「犯人の正体ですよ、物凄い証拠を見つけたんです！」佐々木が声を大きくする。まるで自分の手柄に興奮しているようだ。
「なんだと？」久野井が始めて佐々木の顔を見た。
「子供の目撃者がいたんですよ。今日の午後七時に会うことになってます！」得意げだった顔が誇らしげに変わった。
こんなにも早くT.Pの手がかりが手に入るとは…久野井は内心、佐々木の才能に驚いていた。
「でかした！」久野井が佐々木の頭を強引になでる。
「痛いっすよ」そう言いながらも佐々木は嬉しそうだった。
拳銃…血…死体…悲鳴…
ここ最近そんなものばかりだ。いい加減飽き飽きしてきた。終わらせる。あいつらを潰せば、もう逃げ回らなくてもすむ。この狂った運命にも区切りが付けられる。
警察もそろそろ動き出すだろう。あの男がファイルを仲間に公表することはないだろうが…
あの時俺の姿を見た子供はどうなっただろう、殺さなければまずいか、いや、いっそ警察に処刑されるのもいいか。だが、自首はいけない。どうせなら、刑事に打たれて死にたい…
久野井は警視庁の裏の小道にいた。あのファイルを読むためだ。さすがにみんなの前で
というわけにはいかない。ここなら誰も来ないだろう。
一ページ目を捲る。
『T.P Tragedy Peason(惨劇の人間) 実験体：神野 幸喜』
『我々はついに人間以上の生物の製造に成功した。人間の体をベースとし、細胞の一つ一つを人間の三倍の活動力まで上げた、超音波を聞き取ることができ、空気のわずかな震えから…』
この辺りで久野井は読む気がうせた。犯人の手がかりになりそうなのは『神野 幸喜』のみだ。そろそろ行かなくては。
佐々木は警察署前で待っているはずだ。
「そこの公園で待ち合わせしてるんですよ、向こうが場所をしてきて」佐々木が車を運転しながら言った。
「あ〜あの長い滑り台の…」その公園は長い滑り台で、ここらでは有名だった。
「そうそう、あ、着きましたよ」
佐々木が車を止めた。外は薄暗かった。
「まだ来てないみたいだな」公園内に人影はなかった。
滑り台と土管だけのシンプルな公園だ。
「そうですね…」そう言いながら佐々木は公園に入っていく。
「ったく、場所指定したくせに遅刻かよ…」久野井は頭を掻きながら、溜息をついた。
そのとき土管の中に何か置いてあるのが見えた。
「ん？」そう言いながら土管に近づく。結構大きな物。
「こ…これは…」
そこには親子の惨殺死体があった。
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2006/03/16(Thu)17:50:54 公開 / 天角
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■作者からのメッセージ
こんにちわ！！初投稿です。
過去ログが消えてしまったようで、いつもこのサイトを利用させていただいている者として、非常に悲しいです。
荒らしの仕業だとしたら許せませんね。
さて、この物語についてですが、サスペンス＆アクションを目指しています。まだまだ、うまくかけないのでご注意、ご指摘などもお待ちしています。
これからも、読んでいただけると幸いです。
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