- 『過ぎ行く日々に。』 作者:アリア / リアル・現代 ショート*2
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原稿用紙約4.45枚
高校2年生の巧は毎朝決まって同じような景色を見ていた――
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心地よい朝日が差し込む。
トーストと、ベーコン、それとコーヒー、朝の香りだ。
僕はベッドから立ち上がる、あくまでも優雅に。決してつまずいたりしない。
リビングの中央に置かれた赤いソファーはそのまま沈んでいってしまうのではないか、と怖くなってしまうぐらいやわらかい。
いつものようにテーブルに置かれた新聞は幸せなニュースでいっぱいだ。
美しい朝、一日の始まり。
今日も良い日になりそうだ。
――巧!!起きなさい!!!
母親が布団を剥ぎ取る。なんだ、夢だったのか……。
部屋を見回して軽く落ち込む。
心地よい朝日も、例の朝の香りもしない……。そうか、日常とはこうゆうものだ。
部屋は散らかり放題で、大事にしているロックのCDまでもが床に散乱している。
昨日の僕は、うっかり踏んでしまうという事故を考えなかったのだろうか。
リビングには赤いソファーなんてない。
でも、ただ一つの自慢できるのは大きな窓だ。この窓は夢のリビングにはなかったな。
へへへ、羨ましいだろう。
僕はその窓から見える景色が大好きだ。
景色といっても、綺麗な紅葉が見えるわけでも、富士山を正面から一望できるわけでもない。
もちろん、「窓の外は一面銀世界だった」なんてこともない。
見えるのは少し廃れた月極駐車場。でも駅が近いので利用者は多いようだ。
家のすぐ下のところには、白のエルグランド、その隣はカローラ、その向かいは――。
もう毎日見ている。見慣れた風景だ。
でも……、飽きさせない理由がある。
ほら、紫のオープンカーが駐車場に入ってきただろう?
あの車だけは、なんて車だか調べても分からない。きっと外車か何かなんだろう。
その車の主人は僕の家からは三台分ほど離れたところに車を停めようとする。
でもこの人はいつも失敗する。この前なんて危うく隣の車にぶつかるところだったんだから。
今日は3度目のチャレンジでやっとうまく停まれたようだ。
「朝御飯早く食べなさい〜」
母親の声だ。毎朝のことなんだからそろそろ僕のペースを分かってほしい。
邪魔しないでよ、いいとこなんだから。
車のドアが開いた。
二十五歳くらいのスレンダーな女の人が、黒くて長くて綺麗な髪を掻き揚げながら降りてきた。
僕は息を呑む。
見ている事があの人にバレてはしまわないか。という不安、そしてほんの少しの期待で。
僕が窓の外に向かって口を開けてぼーっとしている姿は母にはどう映るだろうか。
まぁ……、これもいつもの事か。
いつもの黒のスーツ。颯爽としている。
きっとあの人は今日の夢のような朝を送ってきたんだ。
美しい、一日の始まりを。
高いヒールをカツカツ鳴らしながら駐車場を後にする。
取り残された僕はやりきれない焦燥感とともに朝食を口にする。
あの人に追いつきたい。間に合うかな、待っていてくれるかな。
「その前に学校に間に合うかしらね」
驚いて顔を上げると母が笑いながら時計を指差した。
知らずのうちに口に出していたのだろうか……。
いや、そんなことはどうでもいい。
母のいうとおり、ここからは僕の時間との戦いが始まる。
学校に、そして、これから僕を待つたくさんの締め切りに間に合うために。
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2006/01/23(Mon)04:15:25 公開 / アリア
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■作者からのメッセージ
読んで頂いてありがとうございます。
小説をこれから勉強しようと思っているのですが、その前に一つ書いてみた作品です。
たくさんのご意見を頂きたいです。
よろしくお願いします。