- 『鳥』 作者:斂 / ホラー 未分類
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原稿用紙約7枚
とある女の家から娘がいなくなった寝込んでいるとスズメがいたしかしそのスズメは一向に飛ぼうとしない女はその鳥が愛おしくなり「飛べるようにしてやりたい」そう思うようになる。
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「この鳥を飛べるようにはできませんか?」女が言った。
さて、どうしたものかと…男は悩む。
女の娘が行方不明になった。前触れもなく、気づけば消えていた。
娘どころか痕跡すらも見つからない。女は寝込んでしまった。
三日三晩寝込んでいた。
ふと横を見ると家の中にスズメがいた。
飛んでいたのではない、只管に歩いていた。
しばらく観察していたが一向に飛ぼうとする気配は無い。
音を鳴らしてみる、物を投げる、なにをしても一向に飛ぼうとしないのだ。
そんなことをしている間も鳥は歩き続ける。鳥は、娘の部屋のほうへと歩いていった。
女は何故か…、鳥が愛おしく感じた。鳥を掬い上げ、娘の部屋へと連れて行った。
鳥は部屋の中を歩き回った。しかし飛ぼうとはしない
手に乗せて窓の方へと連れて行く、それでも飛ぼうとはしなかった
どこか悪いのか、そう考え女は鳥を点検した。
悪いところなど何も無い、それどころか左右対称の綺麗なスズメだった。
何とかして飛ぶようにはしてやれないものか、女は悩んだ。
どこも悪いところは無い、それに鳥なのだ。病院に連れて行っても無駄だろう。
動物病院などは無い
そこでふと思い出す。陰陽師を名乗る変わり者がいたことを。
不可解なことならばああいう人に頼むべきなのだろう
行って見る価値はある。そう考えた。
いくならば一刻も早く、女は身支度も整えず寝込んでいたままの格好で鳥だけをつれ、陰陽師の元へと向かった。
チャイムを鳴らすと男が出てきた。ひょろりとした、どこか病弱そうに見える男だった。
女の姿を見て察したらしい、病弱な声で「どうぞ」と言った。
座敷に通される。陰陽師が女に尋ねると、女は今まであったことを全て話した。
陰陽師は黙々とそれを聞いていた。
一通り話し終わって女は言う。
「この鳥を飛べるようにはできませんか?」
男は悩む、只管に悩む、そして言う。
「その鳥を拝借してよろしいですか?」先ほどの声とは明らか違う声、落ち着いた、しかし力のこもった声だった。
男は鳥を手に乗せる、そして見つめる。
しばらく見つめると男は大きく息を吸った。
「えい!」と鳥に向かって大声で言った。そして鳥を床に置く
鳥は飛ぶどころか鳴く事も、歩くことすらもしなくなった。
鳥は困っていた。体が動かせない、飛ぶことはおろか、鳴く事も歩くこともできない。
わずかでもいい、動けと願う、しかし体は動かない。
まるで動き方を忘れてしまったようだと思った。
目の前で男と、女が話をしている。
「この鳥は飛び方を忘れているのです、思い出すことができれば飛べるようになります。」と男が言った。
鳥は考える、今までどのようにして体を歩いていたのかと、どのようにして鳴いていたのかと、どのようにして飛んでいたのかと。
只管に考えていると、黙ってこっちを見ていた男が「失礼」といってどこかへ行った。
男の歩き方を観察する。男の歩く姿を自分に重ねようとする。
そして鳥は思い出す。
ああ、私もあのように歩いていた、と
そして同時にどのように神経・筋肉を動かしていたのかも自然と思い出していく
しかし、体は動こうとしない
しばらくがんばってはみたがうごかない。
そうしているうちに男が戻ってきた。茶を取りに行っていたらしい
男は女から娘についての話を聞いている、
鳥は歩くことを諦め女を見た
女はしゃべっている、鳴いているのではない。しゃべっている。
鳴いているのとは違うはずなのだ。しかし、どこか懐かしい感じがする。
鳥は思う。
私は鳥だ、彼らは人間だ、体の動かし方は違うはず…しかし、どこか懐かしい。
初め、男に会ったときの女はとても暗い印象だった。
しかし男の話術だろうか、時々笑う
何故か懐かしい
しかし時々娘の話をしては落ち込み、場合によっては泣く
何故か懐かしい
彼らのあらゆる動作が懐かしい、私は…人間ではないのか
そう思ったとき意識が飛んだ。
女は男に話を娘に関するあらゆることを話した。
男はそれを上手に聞いていた。
話しながらも鳥が気になる。
動くようにはなるのだろうか、このまま動かなかったらどうしようか
女は不安になる
そうして女は泣いた。そして涙を拭い、目を開ける
そこには…娘がいた。
男は言う
「あの鳥は人間であることを忘れていたわけではありません。人間であることを忘れてしまっていたのです。」
そして鳥…娘は思い出す。
毎日空に憧れていたことを、鳥を見るたびに、飛行機を見るたびに自分も飛びたいと思っていたことを
男は続ける。
「そして気づいたら鳥になっていた。しかし、飛び方を知らなかった。その上人間であることを忘れていたのです。」
女は泣いた、嬉しさ故に只管に泣いた。そして何度もお礼を言った。
娘ははボーっとしていたがしばらくすると思い出したのか、
「おかあさん…?」と一言だけしゃべった。
「しばらくは彼女から目を離さないように」と男は女に忠告した。
女は落ち着くとさらに何度も礼をいい娘とともに陰陽師の家を出た。
空は晴れており、とても青かった。
二人は空を見上げた。スズメが飛んでいた。
「もう鳥になんてならないでね」
女は言った。
すると娘は…
娘は…いなくなっていた。
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■作者からのメッセージ
大体1時間程度で書きました。
大まかな物語は頭の中ですぐ出来上がったのですが、終わり方をいくつも思いついてしまい、直感で決めました。
読み直してみると私は一番しっくりくる終わり片だと思います。
投稿は初めてなのですが、過去にも幾つか書いたことがあります。
毎度毎度描写が少ないと感じるのでそれが今後課題です。