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『へっぽこ』 作者:鉄 / アクション 未分類
全角1883文字
容量3766 bytes
原稿用紙約6.45枚
おれはいつのまにかこの世で最強の男になっていた。
子供のころから勉強もスポーツもせずにただうちこんでいた空手ももう3段だ。
20になったいまでは道場にはすでに敵はいない。
おれはそんな退屈な道場を飛び出して本気の闘いを望んでいるようになった。
そして、いま夜の新宿をあてもなく歩いている。
おれは強者を求めていた…おれが最強のはずではない、それだけはわかる。
だが、いますれ違う人間からはなにも感じない…この人ごみの中、金髪の坊主頭の男がおれ「北沢 広澄」だ。
おれは人と接触することなくスルスルと人ごみをかいくぐる。
酔っ払いやらバカな高校生の集団がいやでも目に付いた。
おれはやさしい男だ。喧嘩を売る気はないのだが…
「おう、兄ちゃん金貸してくれよ」
ハゲの男がオレにからんできた。
どうやら今日もらしい…ここ毎日だ。
おれはいつものように男の手を強く握った。
そうすると小鳥のように静かになってしまうのだ。
ミシ、ミシと音をたてる男の手…おれはなにごともないようにその場を立ち去った。
そして、家の近くの公園で一息つく。
「どうやら…今日も一人かかったらしいな」
公園のすみから一人の男が現われた。
身長が190はあろう巨漢の男…厚い胸板とでている腹はかなり鍛えこんでいる。
坊主頭がどこかで見たことがある。テレビだ。
「へえ〜、畑山じゃねーか。柔道100キロ超級の…オリンピック選手」
おれは落ち着いて肩って見せたが、足の震えが止まらなかった。
いままでであったことのない規格外の男がそこにいたのだ。
「…真剣やりたいんだろう」
その男は明らかに同じことを考えていた。
おれは一段と震えを増す。
そうか、強者ってのはそうでなくてもひきつけられるものなんだ。
おれの震えが頂点に達した時、おれは飛び上がり、男の上半身に何発か拳を入れた。
…だが、男の体は倒れなかった。
よろつきながらも体制をもどす。
おれは出鼻を見事に砕かれた…全力で放った拳がきかないなんて。
サイズが違いすぎる?いや、そんなのはいいわけだ。
おれは…動けなかった。その一瞬で畑山はおれのムナグラを掴んで…。
おれはいつの間にか上を見ていた。
ここは?おれは背中に壁があるのを感じた。
壁?…否、地面だ。
おれの脳天が地面に叩きつけられいた。
うすれゆく景色の中におれは去り行く畑山の姿をみる。
これが真剣か…おれは最後の気力を絞った。
「またな」

そう、おれは畑山に一撃でやられた。
だが…そんなことは関係ない。

半年後、日本国技館会場…。
この日、会場は悲鳴でいっぱいになっていた。
観客の視線は試合場の男にむけられていたのだ。
畑山 将…その姿をみようと集まった会場いっぱいの5000人の観客。
畑山は優勝を手にし、観客に手を振っていた。
「まさに…畑山、最強です。もはやこの人に敵はいません」
いつまでも続く拍手と歓喜の嵐。
そんな畑山の姿を見つめる会場の一番前に腰掛ける帽子の男。
その異常性はまわりの客を騙すことはできていなかった。
がっちりとした筋肉質の体を隠すことは…。
男はまっすぐに畑山を見ていた。
そして、一気に試合場の上まで飛び上がる。
感性が切るように途絶えた。
これからなにが起きるのかはみんなわかりきっていたのだ。
「半年振りだな…畑山」
金髪のボウズ頭に浅黒い肌の男…北沢だ。
畑山はいまのこの状況にたいして眉一つ動かさなかった。
「…あれからたった半年だぞ」
畑山は柔道着の上を脱いだ…さらけだされた鍛えられた肉。
畑山はこの状況で至ってクールだった。
そんな畑山をよそに北沢はマイクを取り出す。
「おい、みんな、今日は畑山さんが真剣になるらしい…今日来れたやつはラッキーだったな…でもよー…気分悪くすんなよ」
北沢のかまえるファイティングポーズ。
明らかに半年前とは別格の気を畑山は感じ取った。
その気は濃い獣臭のようなものをはなっている。
畑山はその気を直に受けた結果…。ズズズズ
初めての出来事だった…柔道の申し子である畑山が気おされた。
観客は息を飲む…この試合は柔道なんかじゃない。
これは…「てめえ、がら空きなんだよ!」
北沢が放った一発の前蹴りは畑山のみぞおちをとらえた。
強烈な一撃は半年前と比べものにならなかったのだ。
その一撃は…畑山を落とすことはできなかった。
しかし、「おえええええええええ!」
神聖な柔道の試合場…そこで畑山は吐いてしまったのだ。
観客はその一撃を見て思った…北沢の勝ちだと。
残酷な光景だった。試合場をのた打ち回る畑山の悲鳴…。
会場はもう言葉にならない空気につつまれている。
「あららら」
2006/01/30(Mon)13:57:54 公開 /
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■作者からのメッセージ
こんにちわということであいさつとさせていただきます。
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