- 『絵に描いた猫。 [修正]』 作者:トロヒモ / ショート*2 未分類
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原稿用紙約8.3枚
一匹のネコが感じた…
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絵に描いた猫。
最近の世街は腐っている。
どこの景色を見ても、花一つ咲いてない。
最近の人間は腐っている。
誰一人として、この事態を悪く感じてねぇ。
街中に、ごくごく普通の家庭が存在している。その中に「松山」という苗字の、ごくごく普通の家庭がある。松山家には、現役サラリーマンの父親に、主婦をしている母、小学3年生の兄と、4歳の妹がいる。この俺様は、そんな、ごく普通の家に厄介になっている居候である。
俺様は、いつもの様に街を探検しにいく途中である。探検するのだって容易ではない。風が強く吹いている時は、体が飛ばされそうになるし。雨の日なんて、外に出る事さえ許されねぇ。何より哀しいのは、珍しいものを見つけても、それを、手に取ることもできないって事だ。仲間と思っている奴等に、相手にもされやしない。
そんな、哀しい時に必ず行く場所がある。街はずれに、「筑巌山」(つくいわさん)と呼ばれている山があって、そこに遊びに行く。あそこは最高だ。木々に囲まれている御蔭で、風は吹かないし。見たこともない生き物や花がたくさんある。ここだけが、俺様を歓迎してくれる。そうだって、俺様は信じていた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。私の絵知らない?」
「絵?」
4歳の松山凛(まつやまりん)は、兄の伸夫(のぶお)に、奇妙な質問をした。
「そう、ここに描いたの」
凛は、自分がいつも使っているスケッチブックを、おもちゃで散らかっている子ども部屋から持ってきて、ページを開いて、伸夫に見せた。そこには、中心の部分だけが、真っ白くなっている、凛が描いた絵がある。
「なんだこりゃ?」
伸夫は、不思議そうに、そのページを見続けた。
その夜。夕食の時間になると、伸夫は、昼間の不思議な出来事を両親に説明している。両親は、子どもの話しと割り切って聞いてたので、伸夫の話しを、ちゃんと聞いていなかった。
伸夫は、ちゃんと聞いてもらいたくて凛に、スケッチブックを持ってこさせた。そして伸夫は、父親が見ているテレビの目の前に行き、あの奇妙なページを、開いて見せた。
「テレビが見えないだろ、どいてくれ伸夫」
父親は、伸夫を払い除けようとした。
「ちょっと、この絵を見てよ」
父親は、伸夫が開いているページに気づくと、その絵を見た。
「ん〜、この絵、誰が描いたんだ?」
父親は、そのページに描いてある絵を、じっくり見ている。
「凛だよ」
「うまいじゃないか凛」
伸夫が期待していたセリフは、父親の口からは、出てこなかった。
「ねぇ、お父さん。不思議だと思わない?」
「全然、不思議じゃないぞ。ちゃんとしたネコの絵じゃないか」
伸夫も、スケッチブックを覗き込んだ。すると、そこには、ネコが笑って散歩している絵があった。昼間には、確かに真っ白だったはずの場所に、ネコの絵がある。伸夫は目を丸くして、口が開きっぱなしで、まるで、狐に化かされたような顔つきをしていた。
「もう気が済んだだろ」
父親は、伸夫の頭を片手で撫でて、テレビを見始めてしまった。伸夫は、自分が言った事が信じてもらえず、拗ねて眠ってしまった。
翌朝。伸夫は、朝起きて直ぐに、スケッチブックを開いた。ちゃんとネコの絵がある事を確認してから、学校に行く準備を始める。もちろん帰ってきてからも、確認する。伸夫は、これを、毎日やっているせいで、いつの間にか日課にしてしまった。無いか、在るかのチェックも付けている。
「ん?」
伸夫は、おかしい事に気がついた。晴れている日の昼間は、真っ白なのに、雨の日は、ネコの絵がある。伸夫は、怪しいと思い。学校の休みの日に、凛と一緒に隠れて、スケッチブックを見る事に決めた。
当日。太陽の光が、家にあるピンクのカーテンを貫通して入ってくるぐらい眩しい日に、伸夫と、凛は、予定通りスケッチブックを隠れて見ている。待ちに待っていた日だけに、二人の顔には、少しばかり力が入っていた。時間が経つのは、早いもので、昼過ぎになっていた。その時、二人の目の前で、スケッチブックが動き出して、そこからネコの絵が飛び出してきた。
「凛、今の見たよな?」
「うん…」
二人は、ありえない光景を目の当たりにして、少し固まっていたが、ネコの後をつける事にした。伸夫は、見失わないように、じーっとネコを目で追っていた。しばらくネコの後を夢中でつけていると、二人は、筑巌山に入ってしまった。
「凛、捕まえるぞ」
蝶や花と戯れているネコを見て、居ても立ってもいられなくなった伸夫は、雑草の中、身を潜めながら凛に、小声で指示をして、ネコの方に飛び出した。ネコも伸夫に気づくと、急いで逃げようとする。ネコは、伸夫の手を掻い潜って、咄嗟に、後ろにあった、二本の細い柱の裏に隠れた。
「今だ!」
伸夫が、大声を出した時、二本の柱が、動き出した。柱の正体は、凛の足だった。慌てたネコは、反動で体が少し固まってしまった。その瞬間を凛は見逃さなかった。ネコは敢え無く捕まる。ペラペラなネコの体は、がさつな、凛の捕まえ方でボロボロになっている。
「ニャー!」
ネコは凛の手の中で、怒って泣き叫んでいるの。しかし、凛は笑顔で、ネコを撫でている。その時、ネコは、自分を捕まえた奴が、凛だと気づき、少し落ち着いた様に見える。ネコは、知っていたんだ。自分を描いてくれた凛を。
――そう、俺様は自分の親を知っている。
俺様は、どんな時も一匹だと思っていた。あんな狭苦しいスケッチブックの中で、暗いし、友達もいない。せっかく、外に出られると、思っていたのに、自分が絵だから、仲間にも相手にされないし、自由も制限されている。そんな風に思っていた。けど、違う。凛と、今日触れ合ってみて、少し分かった気がする。
凛がくれた暖かいものが、ほんの少し、この俺様に命(時間)をくれたんだと。気がつくのが少し遅すぎたかもしれないな。なんだか、少し眠くなってきちまったぜ。
最近の世街は腐っている。
どこの景色を見ても、花一つ咲いてない。
でも、こんな世街も満更じゃないな。
もっと早く気づけば良かった。
自分が変われば、こんな世街も、もっと違う風に見えたのに。
絵に描かれた猫は、凛達の前から姿を消した。家に帰った凛は、ネコが寂しくない様にと、もう一匹のネコの絵を描いた…。
完。
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2006/01/18(Wed)01:22:06 公開 / トロヒモ
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■作者からのメッセージ
どうも、こんにちは。トロヒモといいます。
このストーリーは、スケッチブックの中で狭苦しさに、嫌気がさした、一匹の絵に描かれたネコが、外に出てみて、変わる話しです。周りを変えるのではなく、自分が変われば良かったというネコを描いて見ました。
皆様の、アドバイスを参考に、自分なりに直してみたつもりです。気になる所や、感想などがあったら、書いてもらえたら光栄です。