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創作小説 投稿掲示板『登竜門』 『式神遣いと夢喰い師 〜完〜』
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- 『式神遣いと夢喰い師 〜完〜』 作者：聖藤斗 / ファンタジー リアル・現代
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全角22057文字夢は、叶えるためではなく、目指すためにある。それは、きっと人の中で一番強い力だから…。探偵成川耕介の不思議な依頼から始まった物語。六話以下は-20051115にあるので、よろしければ見てみてください。
容量44114 bytes
原稿用紙約65.75枚 -
第七話「成川の過去」
「やっと…一つになれた…」
雨は止んでいた。大地に残る水の溜まり場が点々と出来上がり、その静けさは、戦闘の終結も意味しているのだろう。湿り気を持つ風がびゅうと音を立てて吹きつけ、辺りの森が騒がしくなる。雲一つ無い青空のはずなのにも関わらず、暖かい日光は姿を現さない。
嫗は歓喜に満ちた表情で右を向く。
嫗の目の前には、男性が一人佇んでいた。暖かい笑みを浮かべて嫗を見つめている。
「お父さん!!」
嫗は地面を思い切り蹴り上げると、そのまま勢い良く父「神崎終夜」の胸へ飛び込んだ。それを、終夜は腕を広げて受け止めた。
「良くやった。邑奈」
「うん!! 私、やったよ!!」
嫗の笑みを見て、終夜はにやりと笑い、そして嫗の左胸に手を置いた。その行動に、嫗は不信感を抱く。
「おとうさ…っ」
「本当に、良くやった。お前の役目はこれで終わりだ」
嫗は突然の衝撃を左胸に感じ、ゆっくりと目を左胸に向ける。そこには、終夜の右腕が埋まっていた。ずぶりと綺麗に終夜の腕が嫗の体に入り込んでいるのである。だが、痛みは無い。ただ終夜の右腕が自分の中にあるという気味の悪い感じが嫗を包み込む。
「何…これ…?」
嫗は訳が分からずに目の前の父、終夜に説明を求める。終夜はその声に耳も傾けずに、満面の笑みを浮かべてゆっくりと埋まっていく右腕を凝視している。次第に嫗自信の意識が薄れ始め、目の前が黒ずんでいく。
「遂に、私の体に全ての神が集まった。光と闇の神『白夜』・四神相応『朱雀』『青龍』『玄武』『白虎』そして、死神…神崎…いや、三代晴海」
三代晴海。どこかで聞いたことがある名前だった。しかしその顔が浮かんでこない。何も思い出せない。何も見えない。何も言えない。何も聞こえない。何も…。
そして、嫗の意識は完全に途絶えた。
「遂に、最後の神、元母（げんぼ）を呼ぶ準備は整った!! ヒャハ…ヒャハ…ハハハッハ!!」
狂気に満ちた顔を浮かべた終夜が、太陽の差さない青空に向けて、大きく叫んだ。その声に青々とした周囲の木々が一瞬にして老朽化し、次々と倒れ、空を飛ぶ鳥達は命を途絶えさせて大地へと一匹、二匹と堕ちて行く。
そんな中、一人何も言わずに立っている死神「三代晴海」は、黙り込んで静かに、涙を流していた。
story7[Narikawa's past]
成川は真っ白な空間にいた。いつしか満ちていた液体は消え去り、胸の傷も消え去っていた。しかし無重力状態なのは変わらず、どちらが上で、どちらが下かも分からない四角い空間だった。成川にはそう見えていた。何も無い。あるのは光だけ。
「…で、俺の知らない俺自身の真実って、何だ?」
宙で胡坐をかきながらまじまじと元母を見据えて尋ねる。元母は一度頷くと、両手を広げた。するとその瞬間、成川の体に重みが戻り、そして頭から真っ白な床へと突っ込んでいった。こっちが下だったか。と成川は何気なく思っていた。
「今から、十年前になるのですかね…。昔、成川耕介と言う優秀な探偵がいました。人のためなら何もいらないと言い、助けに入る。悪意に満ちた依頼なら幾ら積まれようと動きはしなかった…」
冬。あたりは柔らかい雪が降り注ぎ、白銀の世界を作り出していた。マフラー、手袋、ニット帽等、ファッションとは言えないほど衣服を着込んだだるま達が街中を歩いている。そんな中、黒いショートへアーの男がいた。名前を、成川と言った。学生は皆街の人に混じるかのようなだるまになり、互いに体を温めようと必死なのに対し、成川はマフラーも付けず、真っ黒な学ランの下にセーターを着込んでいるだけの出で立ちだった。学ランの間からは凍えて震える一匹の子猫が姿を現している。
「おいコースケ、その猫どうするんだよ?」
「寒そうだし、もう少し暖かい所に連れてくよ」
「お前って本当に動物好きだよな。これで何匹だ?」
成川は頭を黒髪を掻きながら指を折っていき、最後に「七匹」と答えた。周りの友人達は白い息を深く吐いて成川から猫を取り上げた。
「な、何するんだよ!!」
「良いか。コースケ。動物を助けようとするのは良いことだと、俺も思うよ。けど、そんな事やっても結局全てのかわいそうな生き物は助けられない。言ってること分かるか?」
友人―菊池―の問いかけに成川は不満そうな表情のまま首を振った。
「つまり、お前のやってるのは単に猫に興味本位で餌をやってるようなもんだ。可愛そうだけど、俺達にはどうにもできないのさ。まあ、一番悪いのは簡単に生き物を捨てる飼い主だけどな…」
肩掛けのバッグを背負い直すと菊池は降り積もった雪をザクザクと踏み固めながら成川の先を歩いていく。成川は摘み出され、雪の上に放り出され震える子猫を一瞥し、そして学ランを脱いでその中に着ていたセーターを子猫に巻きつけた。そうしてから成川は学ランを再度羽織ってから「ごめんよ」と呟くと、菊池の後を追って走っていった。
その時だった。目の前に黒衣の女性が現れた。
「すみません…」
成川は目の前の女性に軽くお辞儀をすると先へ進もうと一歩踏み出す。その時、成川の耳元に女性が一言呟いた。
――夢を、叶えてみないか?
その言葉を聞いた成川は、目を開き、口をだらしなく開けて立ち止まった。暫く考え込んだ後、成川は首を傾げながら女性に問いかける。
「良く分かりませんが、本当に叶えられるんですか?」
女性は成川の言葉を聞いてから一度頷く。
「別に良いです」
成川は笑みを浮かべて女性に言った。女性は戸惑ったような表情を浮かべて成川を見据える。
――何故?
「別に、今すぐに叶えたいもんじゃないし、今叶えちゃったらこれからの人生つまんなくなると思うんで…」
遠くから成川を呼ぶ声がした。多分菊池だろう。成川はもう一度お辞儀をすると女性の間をすり抜けて白銀の道を蹴って走り出し、女性の元から離れていった。女性は他の者と全く別の答え方をした少年を見据え、そして闇に消えていった。
「おかしいぞ?」
「何がです?」
成川はすまし顔で元母を指差して堂々と言った。元母は鋭い眼で話を中断させた成川を睨んだ。成川は気にすることも無く言葉を続ける。
「十年前なら嫗はいない。年齢からしてもそうだ。だけど、十年前に何で夢を喰う者がいるんだ?」
「それは嫗と桜花の母が夢喰い師だった頃だからです。耕介君のこの答えで晴海はあなたに興味を持ち、あなたの夢を食べたかった。それを阻止するために私はあなたの側でずっと見張っていたのです。が…」
元母はさらに話を続け始める。
数年後。成川は探偵として活動をはじめ、小さいことから大きいことまで雀の涙ほどの報酬で働き始める。力も何も無い成川はそれを頭でカバーしてどんな依頼も確実にこなしていた。そんな時、一本の電話が入った。
「外国のテロですか!?」
『ああ。スパイ役として数人探偵を雇いたいんだ。君の依頼成功率は百パーセントに近いと聞いている。受けてはくれないだろうか?』
成川は考え込む。これに成功すれば、一気に日本中に自分の名前が知られ、今よりもっと多くの人を助けられるかもしれない。けれど、テロの撲滅と言うことは結局は戦争だ。力の無い自分が、果たして役に立つか。否、頭脳のみの者が戦争と言う殺し合いで役に立つことは無い。良く考えれば、自分がこなしている依頼は全て小さな仕事だし、たまに大きな仕事が来ても、大体は軽いものばかりだ。
――そんなのに、俺が…何で?
『まあ、決まったら連絡をくれ。なるべく多くの者を集めているから、制限などはない…』
プツリと電話は切れた。成川は切れた受話器を見つめ、一度力いっぱいに握り締めた。
――では、今こそ私の力を望め。夢を叶える力を…。
成川は声に気づき、振り向いた。そこには、黒い衣装を纏った女性が背丈ほどもある鎌を握り締めて立っていた。成川は顔をゆがませて目の前の恐怖を感じて、数歩後ろへと下がる。女性はそれに連れて数歩近寄る。
「なんだよ…あんた…」
「夢を叶えるものだ。昔会っただろう?」
成川は、思い出した。小さい頃。子猫を助けようとした時にいた人だ。確か、「夢を叶えないか」といわれた気がする。けれど自分は断ったんだっけ。成川は喉を一度鳴らすと目の前の女性と張り合うかのように足を一歩前に出す。
「本当に、叶えてくれるのか?」
女性は静かに頷いた。成川はそれを見て、手を伸ばした。女性はその差し出された手を両手で握り締め、成川に聞こえないような声で何かを唱えだした。
すると、成川と女性を囲むかのように漆黒の煙が辺りから噴出した。成川は危険を感じて女性から手を離そうとするが、女性とは思えない力を握られた手に掛けられ、痛みに耐え切れずに地面に倒れこむ。
「夢を叶えたら、条件としてあなたの魂は私がいただきます。良いでしょう? あなたの強い魂は、私にとって力になる…。『あの人』の役に立つために…」
「誰だよ!! あの人って!! 魂? そんなの聞いてないぞ!! 俺は…一人でも多くの人を助けるた…」
成川が漆黒に包まれ、そして、力なく床に倒れこんだ。生気の無い眼を虚ろに開き、口はだらしなく開いている。そして、事切れた成川の胸の辺りに火の玉のような、冷気を漂わす球体が浮いている。女性はそれを鎌で勢い良く真っ二つにすると両手でその軟らかい球体を手に掴んで貪りだす。美女といっても良い女性の今の姿を見れば、誰でも逃げ出すことだろう。
ゴクリ。
のど越しの良い音と共に女性は身震いをする。突然しゃがみ込むと激しく咳き込み始めた。
「何よ。魂を食べてもこんな事は…一度も…」
――神の子を殺した罪は、大きいですよ?
真上から響きの良い声が聞こえてくる。女性は吐き気を抑えながら鎌を構えると天井を見上げた。だが、声の主達が現れたのは下からだった。女性の周囲に九つの星が浮かび上がり、そこから七匹の竜と三人の人間が現れる。
「どういうことです!? 式神が私に何のようですか!!」
――分かっていないようですね。私たちは式神ではなく、その式神の大元である「神」です。
「だから何のようだと聞いているんだ!!」
女性は叫ぶ。
――お前の殺した人間に問題があるのだよ。
炎に包まれた竜から声が発せられる。
――そう。彼成川耕介は、我らがこの世界に堕とした一人だ。
液状の竜は言葉を放った。
「神が堕とした命? どう言うこと…」
――つまり、彼は死神として神に君臨していた者だったのです。ですが、彼は神の世界で大罪を犯した。
光を背中に背負う人間は静かに呟いた。
――我らは『彼』を成川耕介として命を灯し、死神としての使命を果たせるかを試験するはずだったのです。
闇を背負う男性は呟いた。
――丁度良い。夢喰いと言うこの女性なら、使命をまっとう出来るでしょう。どう思います? 元母。
鋼鉄を体に纏った竜は元母に尋ねる。元母は暫く目を瞑り、頷いた。
「何を…?」
不意に、女性の足元に星が浮かび上がる。それと共に女性の体が粒子状に変化していく。女性は悲鳴を上げて体をもがくが、粒子となっていくことに抵抗は出来ていない。
――邑華（おうか）…、邑奈（おうな）…、終夜さん…。
女性「晴海」の体は完全な半透明の姿へと変化し、女性は虚ろな表情で辺りを見ている。目には涙を溜め、手には背丈ほどもある鎌を握り締めた漆黒の衣服を着る。俯いたまま静かに消えていった。
――神の世界へ一足先に帰ったか。まあ、これから慣れていくことだろう。
――元・死神の成川耕介はどうするのです?
――もう代わりは出来た。命を落としているのだし、これが自然なのでは?
――生き返らせても座るべきポストはありません。これで良いのです。
元母を除く八人は浮かび上がっている星の輝きと共に消えうせた。その後、元母は息絶えた成川の元へとより、髪を撫でる。そして初めて口を使って喋った。
「あなたの夢は、昔も今も『死なせない』なのですね。死神と言う命のバランスを保つために人間の命を刈り取るという使命を捨ててまで叶えたい夢なのですね…」
――ならば…。
「私の…元母の力を半分分け与えましょう。そうすれば、あなたの命はまた蘇る…」
成川の顔に己の顔を近づけると、成川の冷たい唇に己の唇を寄せた。そしてすぐに離れると、笑みを浮かべて消え去った。
――この事は思い出すべきものではないでしょう。嘘の記憶を植えつけておきました。今度は、夢など気にせずに好きなように、自由に生きなさい…。
成川は目を覚ます。何故か頭がズキズキするが、何故自分が地面に横たわっていたのか気になって仕方が無い。だが、思い出せないのでまあいいか、と諦める。
「最近忙しいから、疲れがたまって倒れたんかなｌ?」
背伸びをして背骨をコキコキと鳴らすと仕事仕事と呟きながら事務所を出て行った。
「随分と、唐突な話だな…」
まだ納得のいかない様な目で元母を睨みつける。だが元母はさほど気にしない様子で成川を見つめる。
「別に、信じてくれなくても、いずれわかるときが来ますよ…。いつかは記憶が甦りますから…」
「それで、何故俺にこの話をしたんだ? 俺はもう死んだんだぜ? その死神とやらに戻れって言うのか?」
元母はクスリと笑うとニコニコと笑顔を見せながら首を横に振った。
「あなたはまだ死なせません。私がまた、命を差し上げましょう…」
「ちょっと待てよ!! 何で俺にそこまでするんだよ!! 話だと俺はもう必要ない命なんだろ? 何でいつも助けるんだ？」
成川は叫ぶ。話は信じきれない。けれども、自分が「本当の成川」ではなく「元母の命から生まれた成川」である事を知った時、良く分からないが妙に頭の中でガッチリとはまった。納得の出来てしまう話に思えてしまった。すると、自分をよみがえられるためにまた命を半分使うとすると、と成川は想像した。
一つの答えにたどり着き、そして近寄ってくる元母から離れようと手を泳がせる。
「残りの力を俺に移すって事は、あんた自身になくなっちまうんじゃないのか? なんで…」
――誰も叶えたことの無い、『夢』を叶えてもらうためです…。
成川は、歯を食いしばると元母の言葉に耳を傾けた。元母の顔が近づいてくる。そして、二人の唇が触れ合った時、成川は体の中に暖かい何かのエネルギーが流れ込んでくるのが分かった。刹那、目の前が真っ暗になり、左胸の辺りに痛みが走る。それを感じて、理解した。
自分は生き返った。
――死ぬのは二回目らしいけど、死ぬってこんなに痛いことだったんだな…。毎回以来毎に死ぬ死ぬ言ってたし、皆冗談半分で死ねって言ってるけど…。
左胸の痛みが消え去り、そして、暖かい液体の流れも止まり、傷口がふさがっていくのが良く分かった。成川は拳を握る。
――こんな痛み、誰にも伝えたくねぇな。
目をそっと開けると、まばゆい光が入り込み、思わず目を閉じる。気が付けば空は晴れていた。それが成川にはとてもうれしく感じた。
「待てよ」
確か近くに俺が死んだと思ってる奴が一人いるはずだ。そいつをまずはぶん殴ってやろうと成川は考えた。そのための一言として待てよ、と叫んだのであった。
――良いぜ。じゃあやってやるよ。夢が自分の力じゃ叶わないなんて、もう誰にも思わせねぇ。
成川は立ち上がる。しっかりと目の前の敵を見据える。相手は驚いたような表情をし、直後に笑みを浮かべていた。
「決着、付けてやるよ…」
「…やめておこう」
一度は千里眼を開き、右手にライフルを握っていた成海は、成川を視線からはずし、ジュラルミンケースに銃器を仕舞い込むと成川の横を通り過ぎて行った。
「君の服は濡れていないが、僕はびしょびしょだ。不利な状態で進んで戦う奴がいると思うかい?」
成海の静かな問いかけを聞いて、成川は首を横に振った。それを見て、成海は正解と呟くと車道をゆっくりと歩いていく。成川は一度その後姿を狙おうと思った。だが、そんな勝ち方を選ぶほど今は必死でもない。そう考え、成川はホルスターに拳銃を仕舞い込むと成海の行く道と反対側へ走っていく。
――次は、最高のコンディションで、依頼者無しでやってみたいね。
――真っ平ごめんだね。
不思議と成川の心に成海の声が伝わってきた。そして成川は返事を返す。伝わったかどうかは知らないが、まあいずれ何処かで会うだろうから、と成川は考え、そして神崎の実家へと走っていく。多分、道成りなんだろうと思いながら、成川は進んでいく。
「面白い奴だね。探偵と暗殺者は、どちらも依頼があれば同じようなことをする仕事だ。やはり、いつかはどちらの職業が優れているのか手合わせしてみたいものだ」
成海は微笑ながら呟く。ジュラルミンケースには大量の弾薬が入っている。成海は必ず使う分しか持ってこないので、大量に残っていると言うのはおかしかった。
成海は風を感じた。自然的なものではなく、人工的なものだ。それに激しい音も響き、鼓膜を破ろうと攻撃をしてくる。成海は笑顔のまま目の前を見た。
「木野成海様。ご主人様がお呼びです。何でも、次の仕事についてだそうです」
「聞いている。要人暗殺だろう? 確か、ヨーロッパだっけか?」
「はい」
黒服の男達は濡れきっている服の上に暖かそうな毛皮のコートを着せる。成海は軽く礼をするとヘリに乗り込み、そして飛び立っていった。
次の依頼はヨーロッパ。
成川との決着を楽しみにしながら、成海は空を眺めていた。
息を切らしながら、成川は樹海の真ん中に位置する屋敷の前に到着した。周りには大量の式神が浮き、屋敷を守るかのように成川を睨んでいる。見回せば、九体全てそろっていると言うことが気になった。
桜花の姿が、無い。
成川は両手にリヴォルバーとベレッタを装備し、周囲に六角形のパネルを出現させ、走り出した。その走り方は、嫌な予感を振りほどこうとしていたからかもしれない。式神は向かってくる成川に桜花の使ったいくつもの技を使い、成川を止めようとしている。だが、成川はそれをいともたやすく跳ね除けて二匹ずつ両の銃弾で始末していく。札が燃えて消え去り、そして新たな式神が無限に現れる。
「上等だ!! この程度の式神、桜花のものに比べたら話になんねぇクラスだ!! このまま突入してやる!!」
「ほう、では、そのレベルの低い式神が、邑華と邑奈のものだったら、どうするんだい?」
成川は足を止める。式神も時を止めた。屋敷から出てきた眼鏡の男性。成川はそれが誰なのか全く分からなかった。しかし、ありえないほどの殺気と、見ているこちらまで狂ってしまいそうなその表情で、一瞬にしてそれが敵だと認識できた。
「てめぇは、誰だ」
「今日から、神崎家頭領となった、神崎終夜です。終わる夜と書きます」
終夜は丁寧にお辞儀をした。成川は拳銃を構え、そして終夜を威嚇する。
「今からてめぇを殺してやる。桜花がいないのなら、桜花の敵討ちも含めてやってやる!!」
成川は、全力で走り出し、狂ったように笑う眼鏡の男「終夜」目掛けて引き金を引いた。
第八話「決戦」
――娘が生まれたのは、夢喰い師の晴海と出会ってからだ。
――晴海は式神家の血を引く俺なんかより、力があった。
――昔は邑華と邑奈の前で「この家を守る」と良く言っていた。
――そんな晴海が死神になったのを知ったのは、邑華が祖父に無理やり引き取られたときだった。
――邑奈はすでに死神である晴海と契約し、幼くして夢を喰う仕事を背負うことになってしまった。
――こんな運命。誰も望んではいなかったのに。
――だから俺は、悪となり、この家族四人の人生を「死」と言う形で作り直すことを決意した。
――祖父は二人の名をむりやり、「嫗」「桜花」へと変えた。それが憎い。
――神の力なら、それが出来るのかもしれない。
――俺は、自身の中で封印していた式神を放ち、時間を元に戻すことにしよう。
story8[Decisive battle]
風を突き進む弾丸は、終夜の右頬を掠めて消え去った。成川はその光景に首を傾げながらもう一度二挺の引き金を強く引く。反動が両手を貫き、そして弾丸が銃口から吐き出された。それは風切音を響かせて終夜に襲い掛かる。が、またもや弾丸は終夜の体を掠めて外れた。
「?」
「今度はこちらから行くぞ」
終夜は両足に力を込めると、気合と共に地面を思い切り蹴ってを成川へと飛ぶ。弾丸の如き速さで終夜は成川の側に着くと渾身の右ストレートを顔面にヒットさせた。終夜の細い腕から繰り出された弾丸の如き拳を食らった成川はそのまま森の茂みへと吹き飛び、大木を一本なぎ倒して止まった。口の中に鉄の味が充満する。血の味を吟味した成川はその口内の液体を吐き捨てると右袖でグイと口を拭った。
「一筋縄じゃ、いかないって事か」
成川はリヴォルバーの弾薬を抜き取ると捨て、ジャケットから全ての弾に火薬が詰まっている弾薬を詰めた。その銃弾一つ一つに「ＳＰ」のマークが書き込まれ、そしてそれは危険だというマークでもあった。詰め替えを終えると撃鉄を引き下げ、それと同時にシリンダーが重い音と共に回転し、銃弾が装填された。
こんなんでどうだ。と叫び、ベレッタを放り投げてリヴォルバーを両手で握り締め、終夜に狙いを定め、一気に引き金を引く。先ほどとは比べ物にならないほどの衝撃が成川を襲い、両手で固定していたリヴォルバーが反動で手から吹き飛んだ。だが、弾丸はしっかりと軌道に乗り終夜の顔へと真っ直ぐ進んでいく。終夜は自分と弾丸の間に白金を割り込ませ、鋼鉄の鎧を纏った竜はその弾丸をがっちり受け止め、威力を吸収する。――はずが白金は脆くも簡単にガラスの割れるような音を放って崩れ去り、元である札も燃え尽きた。弾丸はそれでも威力を失わずに終夜の額を直撃し、赤い花を一厘終夜の目の前に咲かせ、終夜はそれを見て倒れた。
「なんだよ!! 千里眼の方が強かったぜ」
成川は警戒心を解かずに側に放り投げられているベレッタを拾い上げるとピクリとも動かない終夜へ構えながら近づいていく。六発も特注の弾丸を装填したが、フレームがゆがんでいるだろうから、リヴォルバーは使用付加だろう。ベレッタで応戦するしか手は無い。成川はそう考え、あえてリヴォルバーを拾うのを諦めた。荷物になる可能性のほうが高いからである。口では調子の良い事を言っているが、はっきり言って今の一発による反動は強く、腕もまだ痺れている状態だ。指先の感覚も麻痺しているため、腕ではなく肩でベレッタを支えているようなものである。能力を使おうと思えば使えるが、体力をかなり消費すると元母に聞いている。何度も使うのは控えろとまで言っていたことから、止めを刺すときや防御時に使うしかないだろう。
「今のが、本気か?」
腕も使わずに終夜は起き上がり、目と鼻の先にいる成川の首を右手で握り締めた。何が起こったのか全くわからないまま首を絞められ、唸るような声を上げて成川はもがく。
「式神家はこんなチャチな玩具じゃ死なない。銃なら誰でも殺せる等と思っているのではないのか?」
「思ってるさ。今までだってそうやって亡霊を倒してきたからな」
「嘘だな…」
終夜は顔色一つ変えずに片手一つで成川を持ち上げると、そのまま地面に向けて大きく振りかぶる。成川は頭から地面へと投げられ、抵抗も出来ないまま転がり、そして止まった。だが、それでも終夜の攻撃は止まらずに成川が上空を見た時には既にそこに終夜は存在し、右拳を強く握り締めて降下してきた。瞬時に気づいたおかげで逃げる時間が出来、成川は右手で地面を弾いて横へと回避する。終夜の拳は成川の頭部のあった場所に直撃し、地面が大きく抉れ、同時に回避した成川の体が衝撃で吹き飛び、宙に浮いた。
「青龍、朱雀。その者を仕留めよ!!」
その声に気づき、水の式神「流水」は大きな龍へと変化し、火の式神「紅蓮」は壮大な炎の翼を持つ鳥へと姿を変え、成川に襲い掛かる。朱雀は成川を包み込むような炎の球体を作り出すと、目で合図を送る。刹那、成川のいる球体の内部が爆竹以上の激しい音を響き渡らせながら爆発し、その煙で成川の姿が見えなくなった。瞬時に火球は消え去り、次に青龍が煙に向けて細い水の線を口から数本吐き出し、それは物質ではない煙をも切り裂き、そして消えた。
「それだけ食らえば、跡形も無いだろうな…」
煙から一つの塊が地面にドサリと落ち、そしてそれが成川だと言うのは終夜でも分かった。終夜は驚きｍに口を広げ、そして白虎と玄武をスタンバイさせ、臨戦態勢を決して解こうとしない。
「…痛くねぇ。」
燃え尽きたはずの成川がしっかりと地面に根を張り立っている。その周囲には、先ほどと同様六角形の小さな粒が霧のように浮いている。終夜は驚きに目を見開いた。そして、一つあることを確信した。
「お前、それはまさか、元母か?」
成川は問いかけに顔を顰めながら一度頷いた。それを聞いた終夜は、両拳を力強く握り、鬼の如き形相で成川を睨みつける。
「それは…俺が…」
終夜は両手を成川に向け、同時に全ての式神が札に戻り、エネルギーと思われる淡い光の塊が終夜の前に集まっていく。そしてそれはゆっくりと形を具現化させ、十二まで刻まれている一つの円盤へと変化した。
「俺が求めていたんだ!! 貴様が何故持っている!!」
終夜は両手に集中した金色の円盤を宙に翳した。成川は身の危険を感じその円盤を撃ち落そうとベレッタを構える。マガジン内の残りの弾数を気にしないで思いきり引き金を引き続ける。そして射出された弾丸は怒号と共に軌道に乗り、先にある金色の円盤へと飛んでいく。着弾した箇所に穴が開き、脆くも円盤は崩れていく。
「俺はここだ…」
「!?」
成川はベレッタの引き金を引く指を止め、高鳴る心臓を堪えながらゆっくりと下を向く。
そこには確かに、終夜とそして金色に輝く円盤がいた。終夜はにやりと笑い、勢い良く右足で成川の両足を払った。成川はバランスを崩し、顔面から地面へと倒れていく。が、その成川の目の前には、やはり金色の円盤があり、倒れていくはずの自分が何故か時間でも止まってしまったかのように動きを止めた。
「昔、神崎終夜と言う男性と、三代晴海と言う女性がいました。そして二人は恋に落ちました。」
地面を目の前にして動きの止まった成川を尻目に終夜は話を始めた。冥土の土産、とでも言いたいのだろうかと成川は怪訝な表情を浮かべる。とにかく今はこの身動きできない状態をどうにかするべきだと決断し、もがき始める。
しかし、もがこうと脳が体中の全身系に命令しているのにも関わらず、両手両足はおろか、首、眼球でさえも動きはしない。
――なんだよ、これ。何で動けないんだ?
「冥土…には行かせないが、『君』と言う存在が消えるんだ。最後に聞いていくのも良いだろう? まあ、時が止まっているんだ。聞くしか道は無い」
終夜はにやりと不敵な笑みを浮かべると、空を見上げた。
おぎゃあ。
俺と、晴海の子供が生まれた瞬間だった。身を隠すために式さえ挙げられない不幸せな二人の、唯一の幸せだったのかもしれない。
俺は家系に五月蝿い両親の元に生まれ、そして両親の言うがままに生活を送ってきた。そんな俺が何処の馬の骨とも分からない者と恋をしても許されるはずは無い。と誰もが思っていた。そんな時、俺と晴海は、誰もが予想しなかった行動にでて、五月蝿い親を黙らせたもんだ。
駆け落ち。
神崎家として式神を遣うという使命に束縛され、今まで両親に反抗したことが無かった俺の、最初で最後の、反抗だった。もちろん当たり前のように祖父の式神が俺達を追いかけてきたさ。だが、俺の式神はそれを上回っていた。霊力も高く、生まれた時からコントロールが出来た俺は、見放されでもしてこんな家を出ようと、極限まで力を下げていた。そのおかげで、暫くすると祖父の式神は俺達を探すことが不可能となり、俺達を諦めた気配さえ感じられた。
そんな二人の中に生まれた最初の子供だ。それに、長女である邑奈は俺と同じく生まれた時から大きな力を持っていた。それを見抜いた晴海は、俺に話を持ちかけてきた。
「この子は、逃げ続けるという形で生きている私たちの元で、幸せになれるのかしら…?」
「大丈夫だよ。俺と君の子なんだ。根が強くて、とてもすばらしい娘に育つよ」
俺はそんな言葉を掛けて、いつも晴海を励ましていたが、ずっとその言葉を気に掛けていた。もしも、この子の霊力が探知されれば、瞬間的に霊力のある娘は次代党首として祖父が取り上げ、物のように扱いながら娘を育て、確実に俺達は引き離されるだろう。それか、晴海の血の混じっている娘を祖父は殺しにかかるかもしれない。そんな不安が常に付き纏っていた。
そして、その日が来たのは、二人目の子供、邑華が生まれた時だった。
「やっと見つけたぞ。終夜…」
「お義父様…」
「貴様にそう呼ばれる筋合いは無いわ!! 戯けが!!」
扉を開け、そして重たい空気を背負って四人の住む家に入ってきた祖父は、前に出てきた三代を蹴り飛ばすと、終夜の元に立つ。
「終夜、お前は神崎家の命運を尽きさせようとしているのだ。どうしてくれる?」
「そんなこと知りません!! 俺は、あんなところに帰るくらいなら、死んだほうがましです!!」
「ああ、お前を戻すつもりは無い。平穏な生活で、力が弱まっているのが見えている」
祖父の言葉に、一つだけ間違いがあった。力は保たれ、そして強くなっている。が、それを抑えているために祖父は本当の実力を見ることができなかったのだ。
「朱雀・青龍・玄武・白虎」
禁術と教えられた式神を遣われたのは、本当に予想外だった。つまり、俺は本気の力を出せずに身を固められ、そしてまだ幼すぎる娘、邑奈を祖父に連れて行かれたのだった。
祖父は、笑いながら言った。
「今よりこの娘の名は『嫗』とする!! 神崎家の次期党首だ!!」
そう言うと、式神を遣って祖父は消えてしまった。俺達は唖然とその数分間に起きた出来事を見つめ、そして泣きじゃくる幼い邑華がいた。
正直、はらわたが煮えくり返ったさ。けれども、俺が動こうとした時、それよりも先に動いたのは、晴海だった。俺がいつもどおり平凡すぎる会社勤めから帰ってくると、晴海は黒衣に身を包んでいた。どうしたんだ。と俺が問いかけると、泣きながら晴海はこう言った。
「夢喰い師になった」と…。
祖父が言ったのは、こういう事だった。
「夢喰い師となり、百人の夢と魂を喰え。喰う相手はこちらが送る」
そして、晴海はその条件を呑み、百人の犠牲を払って娘を取り戻すと言い始めた。そして、既に契約も終えたという。確かに、あれから晴海は混乱していたが、ここまで戸惑っていたとは考えもしていなかった。
そして、一ヶ月の間に、九十九人の名前が送られ、晴海はそれにしたがっていた。毎日のように黒衣を血だらけにして帰ってくる晴海に、俺は泣くしか出来なかった。そして、俺は邑華に「誰かを守るためだけに」と約束をさせて五行の式神を教えた。
二ヵ月後、最後の犠牲者が送られてきた。
「成川…耕介…?」
この少年が今一体、何処にいるのか分からないが、その夜、晴海は帰ってこなかった。つまり、何かあり、そして、死んでしまったのだと知った。
俺は怒りに身を任せ、そして初めて娘を連れて実家へと帰った。そこで見たのは、笑顔を見せない邑奈の姿だった。白い装束に身を包み、そして式神の札を持たされて特訓に身を任せている邑奈の姿だった。
「もう嫌だ!! こんなことやりたくない!! 遊びたいよぅ…」
俺は怖気がした。祖父は、俺と同じ育て方をして、まだ年端もいかない娘をしごき上げているではないか。
そんな時、俺の手を握っていた邑華が離れ、そして札を祖父に投げつけた。それは、一瞬にして五体の式神へと変化すると、邑華は邑奈の前に仁王立ちする。
「もう、おねえちゃんをいぢめないで!!」
そんな姿を見た祖父は、突然党首交代を言い渡した。そして、祖父のみが「嫗」と呼ぶ娘を俺に押し付けると、邑華の名を「桜花」に無理やり改名し、そして俺達を追い出した。
「いもおとが…いもおとがぁ!!」
久しぶりにあった娘邑奈は、俺に抱きつくと泣きじゃくっていた。それは、地獄から開放された開放感と、妹を身代わりにしてしまった姉としての罪悪感からなのだろう。俺は、もう緒が切れていた。これから、祖父には死んでもらおう。そう考えた。その時、俺は遥か昔に読まされた式神書を思い出す。
「元母。式神の王。世界の神…、そして、元母以外の式神の融合対『時の鏡』…」
すでに反乱ののろしを上げ、そして後は計画を立てることだけであった。力が足りない、そして、俺達四人家族を元に戻す力を持つ元母。まずは祖父を殺し、四人を元の生活に戻れるようにしたい。それが俺の願いだった。
――私は、どこへでも着いていきますよ…あなた。
その声は、失踪した晴海の声で、そして掠れた声だった。邑奈はその声の主を「お母さん」と呼び、そして俺が見たとき、そこに立っている式神「死神」が晴海であることを確信した。
「そして、後はきっと邑華の事だ。昔の話をしているだろう」
成川はそれを聞いて、何かとてつもなく哀しい顔を終夜が見せた気がした。終夜はゆっくりと歩み寄ってくる。
「何故俺達が式神家に生まれなくてはならなかったのか。そして、何故その為に家族が犠牲になるのか。それが憎かった。夢を持たせてもらえずに邑華は姉を殺す使命を下されなければならなかったのか」
時が元に戻る。話に出てきた時の鏡と言う式神を解いたのだろう。成川は立ち上がろうと地面に手を付き、そしていっきに体を持ち上げる。
「…!?」
突然腹部に圧迫感を感じ、それと同時に成川の体は宙に浮いた。終夜が成川の腹を蹴り上げたのだった。痛みを堪えながら終夜の表情を見た。そして、驚いた。
終夜は、血の涙を流していた。
成川はどさりと落ち、そして腹を抱えてすぐさま立ち上がった。終夜を見据える。不敵な笑みを浮かべている。血の涙などどこにも見えない。それを見て、成川は唐突に理解した。
――心が泣いている。と…。
「確かに、あんたが憎いのは分かるさ。けれど、娘達を吸収して、そして死神である三代晴海を吸収して、そして元母を手に入れ、また人生をやり直す事は、本当に合っているのか?」
終夜は訝しげな顔を成川に見せた。
「神崎家の党首が死んだ時点で、あんたの復讐はもう終わっていたんだ。これ以上何が欲しいってんだ!!」
成川は叫んだ。自分勝手だが、それでも終夜と言う男性を嫌いになれない自分がいた。必死の説得で、もしかしたら嫗も、桜花も、吸収から開放されるかもしれない。そんな甘い考えが、成川の中にあった。
それを聞いて、終夜は微かな笑みを浮かべた。そして、目からは無職透明の涙を流す。そして、時の鏡を手に取ると、成川にこう呟いた。
「もう、遅いんだ」…と。
成川はそうか、と呟くと、歪んで使えそうにないリヴォルバーを手に取り、そして元母の祝福である六角の粒を周囲に出現させる。リヴォルバーは、この力で修復が可能かもしれない。つまり、これが直り、特別弾が終夜に当たれば、成川の勝ち。そして、修復できなければ、終夜の勝利となる。
「決着を着けよう。ここからは、あんたの夢が勝つか、俺の気持ちが勝つか、そのどちらかだ」
「いいだろう。お前を倒して、お前から元母を奪い取る!!」
終夜は走り出し、そして、成川はリヴォルバーの狙いを定めた。六角の粒がリヴォルバーの歪んだフレームに浸透し、修復されていく。修復されるのが先か、それとも、終夜の攻撃が先か。
成川は撃鉄を起こし、そして、引き金に力を入れた。
最終話「探偵は泣いている少女と出会った」
――夢は叶わない。そんな夢の無い世界。でも…。
――叶えることに意味があるのではなく、追いかけることに意味があるんだと思う。
――それは今を生きる全ての生き物に言える事で、夢を奪われる権利なんてどこにも無い。
――不条理が支配する世界。
――だからこそ、この世界の生き物は活き活きとしている。
――叶わないと分かっている夢の為に必死でもがこうと頑張れる。
――寄り道したって良いし、楽したって良い。
――でも、それで夢を追いかけることを諦めてはいけない。
――それは生きる意味を無くすのと同じことだから…。
The last talk [ The detective met the girl who is crying ]
軽快な音をリズミカルに立てながら菊地はキーボードを叩いていく。画面には暗号のようにうごめく文字達が集結し、そしてゆっくりとコンピュータ上に形を形成していく。菊地はキーボードの側にあるチューハイ缶を左手で握り締めると、一気に口に流し込み、のどを鳴らしながら飲み込み、そして最後にプハ、と息をはいた。
すると突然、菊地は立ち上がって窓をガラリと開けた。久々の新鮮な空気が身に染みる。だが菊地はそんな心地よさにも気を止めずに雨上がりの綺麗な青空を見上げた。
「耕介…」
菊地は心配げにそう呟き、そして顔を下げてからゆっくりと首を横に振ると、窓を閉めて部屋へと戻っていった。
大きな、鼓膜をハンマーで叩いているかのような衝撃音が当たりに響き渡り、硝煙を立ち昇らせたリヴォルバーを成川は上に真っ直ぐ挙げていた。すでにリヴォルバーのフレームは歪み、元母の力で修理しても撃つことが出来そうに無いと成川は思った。元母の能力を完全に把握したわけではないから、と言う理由だからである。
弾丸は、勢い良く銃口を飛び出し、風を切って走る。そして弾丸は一本の軌道に沿って回転しながら飛んでいく。その先には終夜の姿がある。目は血走り、後ろに引いた両手からは二本の黒と白の日本刀が姿を現し、そして怪しく光を反射させている。
「はああ!!」
終夜は気合と共に右に握る漆黒の日本刀で一閃、耳の痛くなるような爆発音を放って向かってくる弾丸をいともたやすく薙ぎ払った。その時、終夜は勝利を確信し、口の端を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべた。
だが、その笑みも横に真っ二つにして薙ぎ払った弾丸の異様な光景を見て、表情を顰めた。宙に浮いている弾丸が、ゆっくりと蒸発し、形が消え去ったのだった。
突然、終夜は右肩に激しい痛みを感じ、感覚の消えうせた右腕を見た。無かった。地面には、漆黒の日本刀を握り締めた右腕が痙攣しながらだらしなく落ちている。それを見て、終夜は何故か理解した。弾丸が槍の様に終夜の右肩を貫き、そしてそれと同時に終夜の右腕が肩から破裂したのだと。終夜は立ち止まり、そして、成川を睨んだ。
成川は余裕の笑みを浮かべながら二挺の銃器をホルスターにしまいこむと、口に一本タバコを咥えた。そしてライターを取り出すと、タバコに火を着け、そうしてからまだ炎の着いたライターを終夜に見せるように前に出した。
「どういうことだ?」
「元母の能力、あんた、知ってるんだよな。あんたが横薙ぎにする瞬間に、周囲に水素を発生させ、同時に着火。その勢いによって弾丸は残像と実物に分かれた訳だ。そして残像を薙いでいた時には既に右腕に弾は入り込み、そして遅れて着火、音も無く爆発というわけ」
終夜はどうにも合点が行かない様子だった。どうやら観察していると、終夜は腕の痛みを感じていないらしい。攻撃を喰らった事さえ忘れているかのような雰囲気である。
終夜は残された左手を真上に挙げ、そしてまたもや時の鏡を出現させ、それに気づいた成川は素早く身構えた。
――どうする。時間を止められたら後は一方的に攻撃を加えられて終いだろう…。何かないのか…。
背中から冷たく、気持ちの悪い汗が噴き出始める。切り札を使い、重症を負わせたまでは良かったが、終夜はびくともしていない。勝つためにはどうすれば良いのか。成川は脳をフル稼働させて戦略を立てようと奮起する。
何も思いつかない。
それが成川の頭がはじき出した答えだった。時の鏡は広範囲に能力を発揮させる式神。避けることは不可能に等しい。
何か無いのか。
いや、何も無い。
ここまで来れただけ、良いほうだ。良くやった。お前は善戦したよ。もう休めば良い。もともと無理な相手だったんだ。こんな依頼を受けたお前が馬鹿だったんだ。恨むなら自分を恨め。最初に言った言葉を忘れたのか? お前は桜花に「戦闘は任せる」と言ったんだ。だが、お前は首を突っ込んじまった。不幸な性分だな。全くよ。
頭の中で、今までの行動を全て否定するかのような囁きが聞こえ、成川は思わず唇を噛む。歯が唇の皮膚を裂き、そして肉を絶ち、生暖かい血液が傷口から流れ出てくる。それは口の中へと充満し、鉄の嫌な香りが鼻を貫く。
「諦めろ。もう抗う術は無い…。行け、時の鏡」
終夜は項垂れている成川を指差し、時の鏡はそれに従い、時針、分針、秒針の全てが回りだした。成川の足元に丸い光の円が刻まれ、そしてその円の中に十二の数字が刻み込まれ、圧倒的な輝きを放ち始める。
カチリ、カチリ、カチリ。秒針がゆっくりと、成川に向けて死のカウントダウンを始めた。どうやら、「成川耕介」と言う存在を、この時間から消し去るつもりらしい。
――つまり、俺は元々この世界、この時間にいなかった事になるんだな…。
そう思うと、何故か、気が軽くなってきた。もう何も考えずに、痛みを感じるこの世界、疲れが積もっていくこの世界からオサラバし、永遠に眠れるのだと、成川は考えていた。
――折角、生き返ることができたのになぁ…。
成川は死のカウントダウンを聴きながら笑みを浮かべた。秒針は、八まで動いていた。妙に時間が遅く感じられるのは、何故なのだろうか。成川はベレッタを握り締める。ああこれが走馬灯の前兆なのだろうかと呟く。
――…成川耕介。
聞き覚えのある声がした。誰だっただろうか。成川は残された時間の中で考えに耽る。ついさっきまで聞いていた声のような気がした。
――ここで諦めて、良いのですか?
――そんなことを言われても、もう成す術が無い。
『そんなことありません!!』
不敵に笑う終夜の側から、今はいないはずの桜花の声がした。終夜の動揺が、時の鏡にも影響したのか、時は五十九秒で動きを止めた。
成川は目を擦る。しかし、何度こすってみてもそこにいるのは、半透明と化した桜花の姿だった。隣には、敵であった少女、嫗の姿もある。
「お前達…。何故出てこれる…?」
『父さん、もう止めて!! こんな事したって、私達幸せになんかなれないよ!!』
『お父さん…』
半透明の精神だけの存在。自分が起こした結果なのだと、終夜は二人を見て思った。そして頭を抱える。心の奥底からなんとも言えない怒りが迸り、遂には目を真っ赤に血走らせて雄たけびを上げた。成川、桜花、嫗は終夜の激昂に身をたじろぐ。
「何故だ!! お前達の為に俺はやっているんだ!! それを…何故分からない!! 俺が正義だ!! 俺が正しいんだぁ!!」
終夜の咆哮と共に、姉妹は霧の様に消え去った。そして時を同じくして、時の鏡が動く素振りを見せ始める。成川はゆっくりと目を瞑ると、唯一残っているベレッタを両手で硬く握り締める。最後の足掻きを見せてやる。成川の中にはいつしかそんな考えがあった。
――元母。俺に、力を貸してくれるか?
――無論、そのために居るのですから。
――じゃあ、俺の頼み聞いてくれ。
心の中で元母が頷くのを感じ、成川は目をカッと開いた。それと同時に、成川の頭上にもう一つ、燐を溢しながら発光する輪が出現し、成川の足元に刻まれている時計と同じく、十二の数字が刻まれた。同時に秒針も同じく出現する。それを見て、成川はにやりと笑う。
刹那、動き出そうと震えていた床の秒針が固まり、頭上に舞う秒針が十二から離れるかのように逆に回転していくのであった。
「どういう…ことだ…これは…」
「元母、つまり神の力は、時さえも僕にするってことさ…」
「がぁぁ!!」
終夜は両手で黒と白の交じり合った剣を握り締め、走り出す。
成川はベレッタのマガジンを抜き取ると、それを向かい来る終夜目掛けて投げつけた。銃弾は十分に詰められているマガジンだ。成川は投げると同時にポケットからライターを取り出し、火力を全開まで引き上げてから炎を着け、それをマガジンに投げつけた。
終夜は目の前のマガジンを真っ二つに切り裂こうと振りかぶり、刹那、マガジンが破裂し炎を上げ終夜を襲う。
爆竹のような爆音が鳴り響き、終夜のうめき声も聞こえてくる。
成川は新たなマガジンをベレッタに装てんすると、脱兎の如く駆け出した。目指すは爆発で煙の立っている中にいる終夜の元へ。成川は迷い無く地面を強く蹴り、煙の中へと飛び込んでいった。
煙が、ゆっくりと音も無く消え、二人の姿が現れる。終夜は成川の額に剣を衝き付け、成川は終夜の額に銃口を接触させていた。
銃口から、かすかな煙が漏れ出し、そして終夜の顔が血で染まり始める。
「…何で、時の鏡を使わなかった?」
「…使うつもりは…もう無かった…。殺されれば、苦しみから解放される…。そう思ったら、反応が遅れてしまったようだ」
真っ赤な顔のまま成川に笑いかけた。その笑みは、先ほどまでの狂ったような笑みではなく、父親と呼ぶにふさわしい、全てを背負った者の凛々しい笑顔だと、成川は何故か思えた。
「これで…俺も…苦しみから…かいほ…う…」
良い終わらぬうちに、終夜は痙攣しながら頭から地面へと落ち、そしてやがて目の光が失せていった。成川は終夜の目を閉じさせ、そして両手を合掌し、暫くの間黙祷を行っていた。
ふと成川は、背後に何かの存在を感じ、振り返った。そこには、黒衣を纏った晴海の姿があった。目には涙を、顔には笑みを浮かべ、成川に一度礼をすると、終夜の元に歩み寄り、そして粒子状となり消えて行った。
「笑みを失った女性の、最後の笑い顔…か…」
気づかないうちに、成川はそう呟いていた。
――お疲れ様…。
元母が静かにそう声を掛けてくれた。全身の力が抜けた気がした。めまいがする。
――元母、最後に、頼んで良いか?
――なんですか?
めまいを堪えながら元母に語りかけた。元母はそれを聞き、暫くした後頷いた。
――死神の代わりなら、俺がなってやる。それで、良いだろ?
――良いことを教えますよ。耕介。
――良いこと?
――死神は、式神ではありません。いえ、神でさえありません。
――?
――死神は、罪を償うまでの足枷。三代晴海はもう十分なほど罪を償っていました。もう消滅していてもいい状態だったのです。
――だが、娘を想って留まっていた。自分には力が無いが、見守ることは出来る…と?
元母は頷き、そして足元から消え始める。
――約束は、守ります。楽しかったですよ。能力は僅かながら残っていますが、もう使うことも無いのではないでしょうか?
成川はああ、と返事を返す。元母は一度笑みを浮かべると、静かに成川の心から消えてなくなった。
「依頼…終了…と?」
体の自由が利かなくなり、大の字になって豪快に倒れこんだ。成川は、まあこれもいいか。と呟くと、緊張の解れた表情のまま、すやすやと寝息を立て始めた。
それから数分後、誰の指図かは知らないが、救急隊が駆けつけ、そのまま病院へと搬送されていった。
「成海様、どこへお掛けに? 今のダイアルは病院ですが…」
成海は携帯を隣に座る執事に渡す。執事はその携帯を丁重に布で包むと宝石箱のような箱にしまう。
成海は窓から外の景色を見渡す。あたり一面海で、もう日本ではない。成海は右手に持っていたグラスを軽く揺らし、そうしてからグラスの中の液体を飲み干した。
「次の依頼は結構長引くのか?」
「はい。成海様にとっては、充実感が得られる依頼かと…」
「そうか…」
成海はウズウズとしていた。それはこれからの依頼に対しての期待ではなく、成川との再会を想像しているのだろう。成海は満面の笑みを浮かべ、そして深い眠りに着くことにし、目を閉じた。
成川は、夢を見ていた。そこまで大きな夢ではなく、自分の夢でもない。
誰かを守るために式神を習い、そして人の為に貢献する式神の家。
そこで生まれた神崎終夜という一人の青年は、三代晴海という一人の女性に出会う
二人は祖父達の盛大な祝いの中見事なまでの結婚式を挙げ、そして双子の娘を産む。
二人は「邑奈」「邑華」と名づけられ、神崎家の中で自由で、そして幸せな生活を送る。
そんな、過ぎ去ってしまった夢を…。
見ていた…。
〜エピローグ〜
――人は誰でも、夢を見続ける。
――例えそれが、叶うはずの無い夢だとしても。
――その為に行ってきたことは決して夢では無い。
――夢を目指したという自分の誇りがそこには出来る。
――それが完全に叶うことの無い夢を目指し続けた人への。
――叶えることよりも素敵な宝物なのだと、思う。
〜 To only one treasure <those who aimed at the dream> 〜
年月が経つのは、驚くほど早く、世界は気が付けば、もう二年経っていた。それでもあいも変わらずに成川探偵事務所は春の風に吹かれながら、そこに佇んでいる。いつものサラリーマン達の忙しそうな行列が東京を埋め尽くし、二年前の猟奇的な首切り事件など無かったかのような楽しげで、とても穏やかな騒がしさを放っている。
成川は事務所の真ん中に置かれている机に両足を組んで乗せ、一冊の分厚い本で顔を覆いながらぐっすりと睡眠を取っていた。付けっぱなしのテレビからは大きなテロップと音で「恐怖の暗殺者。あの有名探偵成川の手により、遂に逮捕」と大々的に流れているが、成川はその大音量でも起きる気配は全く無い。
その状態を見て、頬を膨らませている少女が一人いた。少女は二年前の事件のせいで兄を亡くし、その所を成川が引き取った。という経歴の悲哀な少女だった。
「耕介おじさん!! そんなとこで寝てたら風引くぞ!!」
しかし、そんな哀しげな雰囲気さえ感じない雰囲気を身に纏い、そして悪戯気な笑みを浮かべながら、そっと成川の耳元に接近すると、そこで思い切り高く透き通るような声で成川を怒鳴りつけた。成川は突然の叫び声にビクリとし、背もたれ付きのイスともども転がり落ちた。成川は後頭部をぶつけ、痛みで目を潤ませながら立ち上がる。
「もうちょっと普通の起こし方で頼むよ。伊那…」
「おじさんがわるいんだもん!!」
伊那はべぇと笑いながら悪戯気に下を出し、成川と共にイスを起こす。それが済むと、伊那はてきぱきと素早くエプロンを身に着けて朝食の準備に取り掛かる。成川は部屋の端においてあるカップ麺の山を見て、もう必要はなさそうだ、と笑いながら呟いた。
成川は、大きな磨き上げられた窓から外の景色を見つめる。そうした後に、ガムテープで塞がれている窓の穴を見据え、右手で触る。亡霊と呼ばれる物が飛び込んできた跡だった。あの時は無かった穴が、二年前の事件を忘れないようにと言っているかのように、最近突然現れたのだった。
――そういや、あの事件から二年経つのか。元母、元気かな?
成川は腕を組んで窓をもう一度見上げた。とても綺麗な青と真っ白なスポンジで描かれている空だ。晴れ晴れとしている。
二年前、成川が一度死んだ時に元母に与えられた能力は、少しずつだが、消えていっているのが自分でも分かった。これから使うことも無いだろうが、多分一ヶ月後くらいには、能力があったことさえ忘れているのでは無いかと成川は何気なく考えていた。
「金は有り余るほどあるんだし、次に来た依頼で引退でもするかな?」
「じゃあ、引退したらどこかに旅行行こうよ!!」
伊那が目を輝かせて成川の裾を引っ張る。成川は笑いながら頷く。
その時、事務所のほうへ騒がしい足音が響いてくる。成川は何だ何だと目を丸くして事務所のドアのほうに目を向ける。
刹那、ドアが大きく開いて、十七八の少女が転がるようにして飛び込んできた。少女は事務机の前に突っ伏すると、いてて、と呟き、そして立ち上がる。
一瞬、二年前の少女に見えてしまった。外見が本当に模写したかのように似すぎているのだった。
突然入ってきた少女は驚いている成川を見据え、そして「ねえ」と大きく叫んだ。
「探偵!! 探偵はどこ!?」
「あのぅ。どなたですか?」
「質問は後で!! とにかく今は探偵!! 何処!!」
「俺ですが…」
伊那が成川の背後に隠れながら問いかける。それに答えず軽く流すと、探偵だと呟いた成川をもう一度見据え、勢い良く机をバンと叩くと、成川に向けて叫んだ。
「追われてるの!! とにかく助けて!! ボディーガードの依頼頼みたいの!!」
成川は突然現れた依頼に戸惑いを見せながらも、少女の勢いに負け、一度頷いてしまった。
――こっちから声がするぞ!! こっちだ!!
少女はその声に気付き、成川の手を握り締めると、成川探偵事務所の「成」が張られた窓を勢い良く開くと、ぽかんとしている成川を少女が引き連れる状態のまま窓から外へと飛び出した。成川がうわあと叫び、少女がにやりと笑いながら左手を前に出す。すると、三階から真っ直ぐ地面へと落ちていた二人の体が、何かに包み込まれるかのような形で、ふわりと宙に浮き、そしてゆっくりと地面に着地した。成川はその突然の出来事を感じて、唖然とした表情で少女を見た。少女は得意そうに指でブイサインを作ると、成川に堂々とこうこう言った。
「あたしは牧野縁（まきのゆかり）!! 超能力が使えるってんで追われてんの!! とにかく今は逃げるわよ!!」
成川は、もう一度唖然とした表情で牧野と名乗る少女を見つめる。縁は黒い服を着た数人を見て「やべっ」と呟くと、成川の裾を引っ張り、全力で走り出す。この少女なら一人でも追っ手から逃げ切れそう。成川は何故かそんな気さえした。
その時、引きずられながら、成川は東京の街中で四人の家族を見つけた。後姿だが、その四人全員を成川は知っていた。とても懐かしい気持ちになる四人組みだった。顔を見てみたいし、今どんな生活を送っているのかも聞きたい。元母はどうやら頼みを聞いてくれていたようだ。成川はその四人家族の後姿を見て、二年間気になっていた引っかかりが消えたような気がした。
「耕介おじさん!! 夜には帰ってきてくださいねぇ!!」
引きずられていく成川に、伊那は笑顔でそう言った。成川は苦笑いのまま、伊那へと手を振っていた。
どうやら、最後の仕事も楽は出来ないらしいと、成川は苦笑いを浮かべながら思ったのだった。
完
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2005/12/30(Fri)00:02:19 公開 / 聖藤斗
■この作品の著作権は聖藤斗さんにあります。無断転載は禁止です。 -
■作者からのメッセージ
完結です。久々に作品を完結する事が出来ました。アクション物は、かなりキツイので、完結させられたことがとてもうれしいです。ほんの少し（経験値で言えば２くらい）成長できたかなぁ。と思います。今までありがとうございました!!しかも、自作品初の原稿用紙換算約二百行った様なので、目標がクリアできました!!
今まで読んでくださった、京雅様、上下左右様、本当にありがとうございます。これからも、どんどんと意欲的に成長していきたいと思います!!
もし次回作が出ていたら、読んでもらえるとうれしいなと思います（次回はほのぼの系書きたいなぁ）。最後にもう一度、ありがとうございました!! 聖でした。
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