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『VR』 作者:motoki / SF 未分類
全角6530.5文字
容量13061 bytes
原稿用紙約21.5枚
神の集まる国「ニホン」、神の留まる聖域「オキナワ」、そして太陽の国…。独断と偏見で織り成す、SF物です。
0 乳海

 粛正されざる罪が更に罪を呼び、執行されない罰が新たな罪を呼ぶ…。
 現実にヒトが生きている世界で、我々人間の認知し得ない何処かで、また、誰もが目を瞑り、曇りきった眼で見えない罪を見逃して、何が罪で何が罰なのかも判断し得ない状況で、如何にして現在(原罪)を重ねているか?
 その裁き手は遥か深海から、その裁きは遥か天空から。無関係を装うヒト、らしかぬヒト、ヒト、ヒト達を、まるで収穫のように刈り取ってゆく。
 ヒトがヒトとしてある限り、永久に覚める事の無い夢の中にいる限り、世界は依然としてその姿を見せてはくれないだろう…。






「…っ!!」
 気がつくと、教室の空気は一変して爆笑の渦に取り囲まれていた。…だが、「…ガヤガヤ…」その輪の中に入っていなければ、ただの雑音に過ぎなかった。

 ガツン!!!

 一瞬、何が起こったのか…、わけがわからなかった。
 後頭部にひどく鈍い意衝撃が走った。…瞬間、それは誰かに殴られたものだと悟ったのか、それとも自分以外のクラスメイトがわけもわからず笑っているのが気に入らなかったのか…。つい勢いで、怒号と共に、殴った相手に掴み掛かってしまう。

「いってぇな…コラァ!!!」

 …その瞬間、「…あ」クラスの誰かがつぶやいた…。
「先生に向かってコラとは何ですか?」澄ました顔の、あまり生徒受けのよくなさそうなおっさんは、嫌味たらしく皮肉を言う。その、高慢たる、自信に満ち溢れた、狡猾かつ辛辣な物言いを前にしては、人生経験幾許も無い少年達は大半、抗う術を持っていない。…それはちょうど今、窮地に立っている彼にも同じことが言える。
 だから彼は、素直に自分の非を認めず、心の中で自分の運命を呪った。…誰にも、その内面を悟られること無く、責任を逃れた。






 その手は遥か深海から…。


 世界が蒼い…。
 ここは何処だったか…。


 昭和59年…。
 ニホンの遥か南方、当時は某大国から返還されて記憶に新しかった沖縄諸島…。そのなかでも、比較的南端に近い与那国島という島の近海で、海底遺跡らしきものが発見された。
 地球を覆う海は、天候その他多くの事象によって、様々に姿を変える。それはまるで、巨大な生物が息づいている様…、いや、海そのものは生き物と称してなんら問題は無いと考えられるが…。とにかく、姿形、色や音、力強さ、何もかもが…違う。ましてや、海の中は広大にして、空気も音も、光さえ届いていない未知なる場所も存在する…。
 …調査の為、ニホンの某大学考古学部発掘チームが勇んで向かったが、チームの船はニホンで云う「神隠し」に遭う。

 …沖縄で海底遺跡発掘隊、神隠しに遭う!
 
 …当時のマスコミはこぞってこの事件を取り上げたが、最終的に海上保安庁から事故であるとの判断を発表され、その熱は尻すぼみに消えてなくなった…。
 昭和の終わり、少しだけ秋の風が吹く季節の、小さな出来事だった。

 




 リアルな夢を、見た気がする。
 現実的かつ、非現実的な夢を。
 曖昧で、自分の中だけでしか解らないような、多くの感情と共に…。

(…なんだ、これは?)
 体に這い寄る蛇のようにうっとおしい熱が、意識の覚醒を邪魔しているのか…?うまく言い表せない、どうしようもない不快感が、まとわりついてくる。
 うっすらと瞼を開くと、その瞼に痛々しいほどのぎらついた光が差し込んでくる…。

(これは、なんだろうか?)

 自分の身に何が起こっているのか、どんな状態なのか、認識できていない。(どうして、何故…)そんな、誰に対して問いかけている言葉でもなく、理解をしようと必死に思考をめぐらせている。酷く主観的、かつ、自分を誰とも意識していないような…。
 チリチリと、背中が焼けるような、身体中を炒るような感覚が、思い出したように全身を駆け巡る。言葉にならないような不快感、だが、手足が自由に動かせない、まるで金縛りに遭ったようだ。(このままではいけない)と考えながら時間は過ぎていく…。
 
 身体の不快さにも増して、彼の心は苛立っていた。

 この、瞼すら開かない状態が、自分すら認識できない状態が、永遠に続くものかと思われた…。



 記憶が曖昧だ…。


 
 穏やかな日向に身体が揺られていた。
…どのくらいになるだろうか…。記憶がハッキリしない…。
 手と足と、身体の感覚が全くないような、それでいてしっかりと喉の渇きを感じている。いや、それだけではない。瞼は焼けるような熱さを、背中は汗で蒸れてじっとりと、わずかに鼻腔をくすぐるのは潮の匂い…、遠くで、蝉達の喧騒も聴こえている…。
 身体を動かそうとすると、力が思うように入らない。
 そっと、右目を少しだけ開けてみた…。
 うっすらと、ひろがる青い空が見えた。雲ひとつ無い、絶好の天気なのだろうか…。それにしても、半端な日差しではない、あまりの眩しさにそれ以上目が開けられない。
(ここは、何処だろう?)
 おそらく、眠っていたのだろうか? それにしても、なぜ、こんなところで?
「………ぱい?」
 耳元で、声がした…? 女の子の声がする。
「…せんぱい? 起きてください…」
 今度はさらにハッキリと…、確実に、そばに誰かがいる…。
 声のする方に、首を動かしてみる。…そこにいたのは、
「せんぱい、起きてください。こがぁなところで寝てたら、風邪ひきますよ」
「…………………………………」
 目の前にいる人間が一体誰なのか、わからない…? …ということはない。方言がありありと表れたようなしゃべり方、名前は確か…、
「お前か…、おはよぅさん」
「なにぃ、それ。…わざわざ起こしに来てあげたんですよ?」
 膨れっ面も、妙な可愛げがあり、わずかながら好意をもてる。そのような表情を見せるあたり、程近い人間関係をもっているということがわかる。
「ああ…、ありがとぅな。おかげさまで目ぇさめた」
「それだけですかぁ?」
「それだけじゃあ…。なんなぁ、不満か?」
 まだ、体勢は変えないまま、とりあえず口を動かしているだけに過ぎないが、なんとなく目覚めた。
 …名前は、『石動 理奈』だったか、…そうだ、サークルの後輩だ。なんとなく可愛くて、なんとなく性格良くて、なんとなく仲が良い…。まあ、本当になんとなくだが息が合うんで、少なからず悪い思いはしていない…。細かい事は、覚えていない。
「せんぱいって、おもろくない…」
「…ああ、別にお前におもろい思われてもなぁ」
 いいながら、ゆっくりと手をついて上半身を起こそうと考えたが、照りつける日差しにコンクリートは非常に熱くなっており、仕方なく足を組んで座った。
 不毛な会話が嫌いらしい理奈は、正面に立って視界を日差しから遮ってくれていた。…このような細かい気配りをするあたり、なんとなく気に入っている理由のひとつではある…。
「何時かなぁ?」
「…時計つけてないんです?」
「じゃあー、携帯でええんじゃねえ?」
「社会人としての常識?」
「やかましい、そがあなことばぁゆーとると…いつかやかましゅう言われるぞ」
「…? 誰に?」
「やかましゅう言われるんじゃ」
「ふ〜ん、そんなもんですかねぇ?」
「そうじゃ、やかましゅう言われるんじゃあ。肝に銘じとけ」
「ハイハイ…」
 さらりと、言葉を交わす。一見冗談みたいな会話だが、二人にとってはいたって真剣(?)なやりとりであったのだ。…どこに、何の意味があるのかは不明だが。
 大きく深呼吸をして、辺りを見回すと、鉄製フェンスに囲まれた場所…そこが建物の屋上であることがハッキリと分かる。潮の匂いは微かだが、ハッキリとしている。…近くに海があるのか無いのか、それはここからではわからないが。
「…あぁー、ぼっけぇ寝とったぁー」
 欠伸と背伸び、非常に眠たそうに
「そうですよ、何遍声かけても起きないんですもん」
「ふん、そりゃ悪いな」
「心から言ってませんよね、それ」
 涼しい顔をしていろいろと小言を言う後輩だが、人気は高い…らしい。
 …紫道大学、どこにでもあるようなごく平凡な私立大学で、街から少し離れた県南の山地のふもとにある。近郊に空港や有名な自然公園などがあるが、大学付近は人通りが少なく、だだっ広い道路が敷かれているが、車の通行も数えるほどである。学生の殆どがバスで通学か、車やバイクという手段を使っている。
 この大学、元は県外でも有名な某お嬢様大学を、大学再編の際に共学にしたものであり、そのせいで女生徒が全体の80パーセント以上で、比較的裕福な家庭で育ったお嬢様が多い。男生徒はそれが目当てで入学しているものも多く、女に事欠くことは無い…らしい。少なくとも、その話は隣県の学生達にも広まっている。ただ、美人からブスまで、その種類は多岐にわたっている…。
「…なんで、おめぇが起こしに来たん?」
「ひどいなあ、午後の練習始まる前に起こしに来いゆぅたのせんぱいじゃないですか」
「あー…」
 言われて気がつく辺り、寝ている間にすっかり何もかも忘れてしまっていたのだろう…。理奈はここぞとばかりの大きなため息をつく。
「…せんぱいって、よく分からん人?」
「…あぁ?!」
「怒らんで下さい、率直な意見を言ったまでですから。」
 理奈の言うことはいちいち癇に障る言い方だが、いつものことなので言い返す気にもならない。
「おぉ、そうじゃな」
「…またすぐそうやって投げやりになる、よくないですよ」
「まーな」
 つまらない会話のやりとりが、いつになくだるい…。
 やはり寝ていたせいか? 暑さで頭がやられてしまったのか?
「…ぼちぼちいくかー」
 そういって足り上がり、屋上を後にしようとする。
「あ…、待ってください!」
 虚を突かれたのか、理奈は急いで後を追う。
 …2004年8月1日、お盆前の夏休みはゆっくりと、そして確実に時を刻んでいた。


「ああ? 合コンじゃあ!?」
 素っ頓狂な声をあげ、また訝しげな顔をする…。
「そうゆうな、せっかくの夏休みじゃが」
「…と、だりい」
 パイプ椅子にもたれかけて、二人の男がおのおの楽器を持ってとめどない会話をしている。ベースを手にした男が、ギターを弾く男に話し掛けている。
「…合コン…、別にええが…」
 そういいながら、意味のないフレーズを壊れた感じに奏でる。
「まあ、そうゆうな。別にオレは自分の為に合コンをするんじゃねえぞ?」
「じゃあなんなんか?」
「まあ、しいてゆうなら、お前のため?」
「うそつけ、おめえが人のために動くじゃあ、ありえん」
「そういやそうじゃ」
 このとぼけた野郎は『原 大地』といって、髪の色はピンク、ポマードでガチガチにモヒカン調にかためた髪形をしているパンク野郎である。この、夏真っ盛りの蒸し暑い気候の中でも、汗ひとつ掻かず涼しい顔で上下黒レザーのジャケットとパンツで身を包んでいる。そして、当然のようにシルバーのアクセサリーが体中に散りばめられており、それも骸骨や天使やら、いかついデザインのものばかりだ。
「でもなあ、お前もちゃんとした彼女つくったらええ。…とは思う」
「余計なお世話じゃ」
「即答かぁ…。まあ…、想定の範囲内です」
「貴様、ホリえモンのつもりか?」
「じゃあじゃあ」
「ほんとしょーもねえ、下らんな」
「それはおいとって、…どうかなあ、暇じゃろお前?」
「う〜ん…」
 このいかれたパンク野郎…、もとい、原大地なる人物を嫌ってはいないのだが、どうしても合コンとなると話は別である…。まったくもって、女の子目当ての集まりである。それがどうした…、とまあ、言ってしまえばそれまでなのだが…、
「先輩達、何話しとるんですかぁ?」
 背後から、女の子の声がした。
二人が首だけ振り向くと、石動理奈が顔の汗をピンクのタオルで拭きながらきょとんとしていた。
「別に、ただこいつに合コンのお誘いをしとったんじゃが」
 大地は何事もないように、さも当然のようにさらりとしゃべった。
「うわぁ…、それはなんです? モテん男の人の新たな部活動ですか?」
「っかつくな、おめえ…」
 理奈の皮肉に、大地が不快を露にする。
「…せんぱい、行くんですか?」
 そんなことはどうでもいい、と言わんばかりに理奈は大地から興味をはずした。だが一方の大地も分かっているようで、何も言わないでいる。
「あぁ? まぁ、そりゃ、断る理由もねえけどなぁ…」
「行くんですか?!」
 理奈は驚いたように、素っ頓狂な声をあげる。
「お…、なんなぁ?」
「…不潔」
「ああ?!」
「そんなの最低です、せんぱい。…だって合コンて男が女目当てで女が男目当てで、すっごくお酒飲んでカラオケ行って…、い…イヤラシイじゃないですかぁ!」
 合コンに対するイメージが悪い人間はいるが、なかなか的を得た意見には違いない…。大地は聞い
ていて少しあきれたが、とりあえず聞かない振りをした。
「…不潔じゃあなんじゃあやかましゅうゆうてくれるけどなあ、オレんことその辺の奴と一緒にしよぅるんか、おめえは?」
「え? そ、そうですかぁ?」
「飛ばすぞコラ。…まあ、ええが」
 大地は傍観に徹していたが、やれやれ…と首を振り、視線をベースに戻した。
 うまい具合に言いくるめられた理奈は、あまりに切り返しの鋭い攻撃を受けて虚脱していたが、す
ぐに自分の問題が解決していないことに気がついた。
「そ…それはそうと、結局せんぱいは合コンに行くんです?」
「ああ!? 行かんわ、だりいし」
「なにおー?!」
 今度は大地が素っ頓狂な声をあげた。今の話の流れからして、合コンに参加する意向がひしひしと
伝わってきていたからである。
「なんなあ、それ」
「いやおめえ…来るんじゃないん?」
「行かんでいいですよ、せんぱい」
「おめえは口出すな!!」
 …午後の空気が、やがて三人を包み込んでいった…。






 明治の時代に神仏習合の構想から生まれた教義神道は全国に様々な宗派がある。それこそひとつの
地区を上げての大掛かりなものから、続いているのかと思うほど信者の少ないもの…。その、大小様々
ながらも各地で信仰は深く根付いている…。
 日本だけではない…、純粋に神と使徒の教えを説くキリスト教も、唯一神を崇めるイスラム教も、宇宙の根源を説くヒンズー教も、ユダヤ教も、大きな枠組みはあっても、実際は大小あれども細やかな区分けは彼方の昔から根付いている。…そして今現在も、拡がっている。
 文化が発展すればするほど、豊かになればなるほど、複雑に絡み合う境界線…。
 人間という生き物…。教化の枠から逃げられない生き物…。
 時代は変わらない、ヒトがヒトである故に。世界を廻る仕組みからは逃れられない…。
 …そう、にげられはしない。
 世界は依然として破滅に向かい、その過程で罪を犯し、その結果罰を受け、ときに罪を忘却し、執行されていない状態が続いている。そして罪が罪を呼び、罰が罪を呼び、世界は依然として破滅に向かっている。
 どんな哲学者にも理解されない世界、そこにはカオス(混沌)という原罪(現在)があり、見事に調和が取られている。その手段は破壊と再生、創造、そのバランスを保つ調停…。さて、あなたは誰で、誰が私であったのか。その答えは、この話と共にあるのかもしれない。





1 
 
 夜の街を彷徨うのは気持ちが良いことだ。
 ヒトの放つ光は、その街の灯りと同義である。
 月の蒼い光では、到底ヒトの息づくさまも、ヒト生態系の気配さえも感じることはできない。月の下は、まるで光の届かない深海から天井を見つめているようだ。どうしようもない孤独を、あまねくヒトの心を切り離していくようだ…。
 そう、深海では、ヒトですら、魚の様な存在に過ぎない。


 合コン・コンパなるもの、誰がどのように捉えていたとしても、それ自体全く意味をなさないものであるが、夜・酒・カラオケ、もはや当然のように付いて廻る時間であったり、風景であったり、手段であったりするわけである。
 もはや言葉は要らないだろう…。



つづく

2005/12/10(Sat)08:15:51 公開 / motoki
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