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『帰郷』 作者:作楽 / 未分類 未分類
全角1823文字
容量3646 bytes
原稿用紙約5.75枚


 

 何か得体の知れない物体が俺の心を蝕んでいた。それは単なる疲れでもストレスでもない。例えるのならどす黒い色の吐き気のするようなその物体は、俺の心をじわりじわりと蝕み、腐らしていく。それはまるでゴミに集る蝿の様である。俺の繊細な心はすっぽりとそのどす黒い霧に覆われていた。
 何もやる気がしない。仕事をする気も、飯を食う気も、風呂に入る気も、寝る気も何も全くしない。あんなに好きだった煙草を吸う気もしない。嗚呼、息を吸う気さえもしない。息はする気がなくても体が勝手にするのだが。

 ――体に全く力が入らないのだ
 

 既にこの薄汚いアパートの一室から外出しないだけで一週間は経っていた。食料、水共に何も口にせず、風呂にも入らず寝もしないという人間として間違った生活。そんな生活を俺は営んでいた。しかし別に不快な点はない。不思議と腹は減らないし眠くもならない。体が臭くなることもない。
 毎日同じことの繰り返しであった。日が昇り日が輝きやがて日が沈む。空が明るくなり暗くなりやがて明るくなる。そしてまた暗くなる。唯唯その繰り返しである。
 そんな中、俺はずっとアパートの一室の隅っこで壁に寄りかかりながら座り続けていた。唯呆然と何を考えるわけもなく。他人から見れば、それは魂を抜かれた人間、或いは人形の様に見えたかもしれない。
 しかし、俺だって人間だ。このままではいけないと思い何とか立ち直ろうと努力はした。自分に何度も立ち直れと頭の中で命令した。しかし体が言う事を聞かない。もはや生きている気さえしない今日この頃である。
 一言で言い表せば、俺は鬱病なのだろう。それも重度の。半端じゃなく重いやつだ。

 俺は去年のちょうどこのくらいの時期に故郷である田舎町を出て、都会であるこの東京で一人暮らしを始めた。本当は田舎町でひっそりと経営している我が家の酒屋を継ぐはずだったのだが、都会という町に憧れて親の反対を押し切り18歳の冬に無理やり上京した。新幹線で何時間もかかる長い道のりであったが、これから始まる夢のような都会生活を頭の中で描く俺にとっては全く苦にならないものだった。
 
 ――それなのにどうしてだろう、こうなってしまったのは。
  ――一体何時からだろう、俺がこうなってしまったのは。
   
 
 ――嗚呼、あの自殺を決心したあの日。あの時にしっかりと飛び降りておけばよかった。飛び降りていれば今もこう苦しむことはないのに。

 気がつくとさっきまで燦燦と輝いていた太陽が、もう山の向こうへと沈み始めていた。時刻は夕刻。空は一面オレンジ色に染まり、烏のカーカー鳴く声が響き渡る。外が暗くなるにつれ、部屋の中も次第にだんだんと暗くなっていくのが実感できた。
 その時、ふと壁に掛かっている電話機の録音ボタンが赤くチカチカと点滅しているのに気がついた。
 いったい何時の間に録音が入ったのだろう。電話はずっと俺の傍にあるのに。
 そんな疑問に駆られながら俺はその録音が非常に気になった。一体誰がかけたのだろうと。
 立ち上がり、手を伸ばして電話機のボタンを軽く触れる。ピッという音がする。
「一件です」
 電話機が素気ない声でそう告げる。やがて電話機から声が流れた。
「……元気でやってますか」
 聞き覚えのある声。少し高めの女の声。細く張りのあるこの声に俺はすぐに気がついた。
 母の声だ。
 俺は驚き、電話機に耳を傾ける。
「元気でやってるなら何よりです。都会には慣れましたか。友達はたくさんできましたか。ちゃんと御飯食べていますか。こっちは皆元気で生活しています。たまにはこっちに帰ってきて顔を見せてください。いつでも帰ってくるのを待っています」

 ――いつでも帰ってくるのを待っています

 俺はしばらく無言で録音された母の声をじっと聞いていた。懐かしい声だった。昔よく聞いていた声と全然変わっていなかった。相変わらず母さんはこの声で、今も馴染みの八百屋で野菜を値切っているのかな、と思った。
 涙が一滴、目から零れて床に落ちた。ぽつっという無機質な音を立て、涙は床に小さな水溜りを作った。やがてそこには雨が降り、水溜りは大きな物となった。
 目頭が火が灯っているかのように熱かった。
 
 ――帰ろう

 俺はそう呟くと、明日の早朝に始発の電車で田舎に帰ることを決意し受話器を置いた。

 
 

 

 誰もいないアパートの一室で、がちゃりと小さな音がした。

 
2005/12/03(Sat)00:49:48 公開 / 作楽
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