- 『クリスマスの奇跡』 作者:都斗津 希羽 / リアル・現代 未分類
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原稿用紙約22.1枚
――――クリスマスには、奇跡が起こるかもしれない。
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ミニスカ。
茶髪。
売春。
援助交際。
テレクラ。
そして、ドラッグ。
それが、私を取り巻く世界の全て。
クリスマス。
誰もが幸せそうに町を歩き、幸福を振りまいている。
くだらない愛だとか、友情だとか、そんなものに振りまわされながらも、人は大通りを歩く。
私はそんな人々を横目に、大きなショウウインドウの前で立っていた。
ショウウインドウに映る私は、いわゆる今時の女子高生。
薄い色素の長い髪の毛に、耳にはピアスが二つ。
今時、と言うか、今時の枠を飛び越えて、不良になってしまっている気もする。
まあ、この薄い茶色の髪の毛は地毛なんだけどね。
父方の祖母がフランス人だか何かだったらしい。
学校にもろくに行っていない。
だけど、親父達に受けるから、制服のブレザーを着ている。
本当はセーラーの方が良いんだけど、気分でブレザーを着てしまっている。
まあ、セーラーなんか持っていたら、うちの母親はきっと卒倒するだろうな。
なんで、こんなもの持ってるの、って。
言い訳ならいくらでも思いつくけど、面倒くさいから、やっぱりブレザーで良い。
「美咲ー!!」
通りの向こうから、金髪のウルフヘアに、濃い化粧をした女が走ってくる。
私の友達の友香だ。
友達、と言ってもかなりの悪友だ。
私にいろいろな事を教えてくれた。
「今日の夜も、援交すんの?」
はたから見たらとんでもない質問を、友香は投げかけてくる。
私は少し苦笑しながら答えた。
「うーん、どうしよっかな。イブの夜まで親父の相手したくないし」
美咲の言葉に、そりゃそうだわ、と友香は軽く笑う。
そんな事を良いながらも、友香はきっと、お金が欲しいから援交をしてしまう。
私はそれを分かっていながらも、だよねえ、と話を合わせた。
なんて、くだらないんだろう。
そう思ったとき、鼻に何かの匂いがよぎった。
もしかして……。
「ねえ、友香、あんたシンナー臭いよ」
「え!?」
そう言うと友香は驚いて、自分の服の匂いを嗅ぎ始めた。
「ねえ、ヤバイよ、さすがにシンナーは……」
私の言葉に耳を傾けようともせずに、友香は必死で自分の服の匂いを嗅いでいた。
「美咲も一回やってみる? 気持ちいいよ」
「いや、私は絶対ドラッグはしない」
私は友香の誘いをきっぱり断った。
「えー? 皆やってるよぅ」
え、皆、やってるんだ。
でも、ダメだ。
私が黙って首を振りつづけていると、友香は豪を煮やしたのか、いきなり腕を掴んできた。
「美咲もやるのよ!!」
ねっ、と可愛く言いながら、友香は私を何処かへ連れて行こうとしていた。
嫌だと思い、手を振り払おうとしても、その手は女の力とは思えないほど、強く食い込んできていた。
「やめっ!!!!」
大声で叫ぼうとしたとき、その声を遮って新たな声が加わった。
「止めてあげなよ」
男の腕が友香の腕を掴み、無理矢理引き離す。
手は後ろから伸びてきたので、まだ顔は見えない。
「何よっ!! 美咲なんかもう、友達じゃないし!!」
友香はそう叫んで、私の前から走り去っていった。
一瞬、思考が停止する。
なんて、なんて脆いんだろう。
私が固まっていると、後ろから肩をポンポンと、叩かれる。
ああ、そうだった。
お礼をまだ言っていない。
私は振りかえって、助けてくれた男と向き合う。
そこには、一六歳の私より少し年上に見える、薄い色素を持った男が立っていた。
なかなか可愛い顔をしている。この言葉を男に使うのはおかしい気もするけれど。
どこかで見たことがあるような気もする。
うーん、でも、そんな事を言ったら勘違いされそうなので、声には出さないでおく。
「一応お礼を言っとくわ、ありがとう」
これで、良し。
無愛想だけど、お礼は言ったし、さっさと立ち去ろう。
私がさっさとその場から立ち去ろうとしたとき、いきなり男が私の腕を掴んできた。
「ちょっと、何す……」
「僕、光太って言うんだ」
え?
いきなり何言ってるの、この男は。
私が呆気に取られていると、男、いや光太は更に謎な事を言い出した。
「今日一日だけ、君の時間が欲しいんだ」
「は?」
何、この人。
頭おかしいんじゃない?
「お願い。実は僕、病気で、今日一日しか自由に街を歩けないんだ」
「嘘でしょ?」
「嘘じゃない」
しばらく、私達はこんな問答を繰り返した。
何分たっただろう。
ついに私は根を上げた。
「はあ、何で私なのよ?」
すると、光太はにっこりと笑った。
「君が、天使に見えたから」
……なんて、なんて臭いセリフなんだろう。
それなのに何故か、温もりを感じた。
気付いたら私は、光太のお願いに、首を縦に振っていた。
馬鹿だと思う。
自分でも。
全く見ず知らずの相手、しかも男についていくなんて。
まあ、光太の顔が少し良かった、って言うのもあるんだけどね。
病気とか、どうせ嘘なんだろうし、まあ、一日だけでも付き合ってあげよう。
どうせ今日は、最初から何の予定もなかった。
ただ、なんとなく制服を着ていただけだし。
もしもの時のために。
「ねえ、美咲はどこに行きたい?」
「光太の好きなとこでいいよ、って、何であんた私の名前知ってんの?」
私の質問に、光太は一瞬固まった。
怪しい。
「えーと、だって、美咲の事は前から知っていたんだ」
「何、あんたまさか、ストーカー?」
「そんなものかもね、はは」
冗談で軽く流された。
一体、こいつは何者なんだろう。
私がそう思っていると、光太は喫茶店に入っていった。
うん、なかなかオシャレな感じのお店。
センスは合格、って事にしといてあげる。
喫茶店に入ると、光太は見た目に反して、コーヒーをブラックで頼んでいた。
こうしたら、早く大人になれる気がするんだ、と光太は照れたように笑った。
なんだろう、光太と話すときに沸きあがってくる、この懐かしさは。
頼んだものが机に運ばれてきて、コーヒーの湯気が天井へと上がる。
ちなみに私はビッグパフェを頼んだ。
恥ずかしくてあまり周りには言ってないけど、甘いものが大好物だった。
私がバクバク食べていると、光太は幸せそうに私を見ていた。
その視線がやけに恥ずかしくて、私は食べるのを一時止め、光太の方を見た。
「何よ? 何かおかしい?」
「ううん、おかしくなんかないよ」
そう言って光太は目を瞑った。
まるで、何かを思い出すように。
「夢みたいだな、と思って。ずっと、ずっと美咲とこうしたかったんだ」
すごい殺し文句。
可愛い顔して、なかなか臭い事を言ってくれる。
でも、そんな事を思いながらも、顔は真っ赤になっていた。
それを隠すように、必死にパフェを口に運んだ。
変なの。
今日初めて会ったはずなのに、どこかで会った気がする、なんて。
「そう言えばさ、美咲、さっきシンナーとか言ってたよね」
「ああ、うん、まあね。何、光太そっちに興味あったの? それなら私じゃなくてもう一人の方捕まえなきゃ」
私の言葉に、光太は眉間に皺を寄せた。
「そうじゃない。お願いだから、そう言うの止めて欲しいんだ」
いきなり、何を言ってるんだろう、こいつは。
出会ったばかりでそんな事を言ってくるなんて。
「別に、あんたにそんな事を言う権利はないじゃない」
私はそう言って、椅子から立ちあがった。
気分が悪い。
ビッグパフェも完食したことだし、さっさと光太の前から去ろう。
「それじゃあ、ごちそう様」
私はそう言って、さっさと、店から出ようとする。
「待って! 美咲、お願いだ、絶対しないで、この後は真っ直ぐ家に帰って欲しいんだ」
後ろから追ってくる声に、振り向きもせずに店を出る。
やけに乾いたドアのベルが、虚しく鳴り響いた。
私はもちろん、真っ直ぐ家には帰らなかった。
家に帰っても、誰もいないし。
母は仕事で夜遅くにしか帰ってこない。
父は……私が小さい頃に病気で死んでしまった。
だから全然父親の事なんて覚えていない。
ただ、母は時折、父を思い出しているようだった。
そんなときの母は、とても遠くに見えて、私は父があまり好きじゃなかった。
でも、母には感謝していた。
小さな頃から女手一つで育ててくれたんだしね。
それなのに、こんなにぐれてしまって、親不孝ものだわ。
どうしてこんなになっちゃったんだっけ?
確か、最初は……。
思い出すように空を見上げる。
上の方では建設中のビルの鉄筋が運ばれている。
まるで、鉄筋が空を飛んでいるみたいだ。
「あ、美咲ー」
声がした方を見るとそこには、友香と三人の男が立っていた。
男の顔には見覚えがない。
きっと、友香のシンナー仲間なんだろう。
「何、友香?」
友達じゃないんでしょう、私達?
そう言う意味も含ませて、刺々しい口調で言った。
「今までせっかく仲良くしてあげたのにさ。援交を教えてあげたのは誰だったっけ?」
別に、教えて欲しくなんてなかった。
ただ、友香がやろうって言うから、やっただけ。
お金なんて、欲しくなかった。
ただ、私は、友達が欲しかった。
だから繋ぎとめるので必死だった。
くだらない友情ごっこの船に、ずっと乗っていたかった。
ああ、そうだ。
私はそんな事で、ここまで来てしまってたんだった。
中学までは、父親がいない事でからかわれ、友達も出来なかった。
中学に入ると、この薄い色素の髪の毛で、上級生に生意気と言われ、同級生には怖がられた。
私は、愛想もなかったし。
だから、高校に入った時、友香に声をかけられて、嬉しかった。
初めての友達だったから、少し悪くても平気だと思ったんだった。
たったそれだけの事で、ここまで来てしまったんだ、私。
なんて馬鹿なんだろう。
私は自嘲しそうになるのを堪え、友香の目をまっすぐ見つめた。
「うん、そうだね。今までありがとう。じゃあね」
光太の言うとおりにするのは癪だけど、このまま家に帰ろう。
もしかしたら、母も今日くらいは早く帰って来るかもしれない。
私が歩き出すと、友香は追いかけてきた。
「ちょっと、待ちなさいよ! ほら、あんた達、早く捕まえて!!」
友香の声を合図に、三人の男たちが私に飛びかかってきた。
護身術なんかもちろん習っていない私は、簡単に捕まえられる。
「ちょっと、離してよ!!」
男の力になんか適うはずがない。
友香はそんな私を見て、幸せそうに笑った。
「一緒に、シンナーしようね」
あんた、狂ってるよ。
そう言おうとしたとき、上の方で何かが崩れる音が聞こえた。
そして、人の叫び声。
「危ない!!!」
友香も、私も空を見上げた。
そこには、ビルに使われるはずだった鉄筋が、空から舞い降りてきた。
嘘。
こんなんで死ぬんだ、私。
ごめんね、お母さん。
一人ぼっちだね。
「美咲!!」
聞き覚えのある声を聞いたと同時に、なぜか横から強い衝撃。
私はそのまま地面に叩きつけられ、数メートルほど転んだ。
身体中に擦り傷ができたように、ひりひりする。
一体何が起こったんだろう。
私は痛む身体を持ち上げて、起き上がった。
そこには、鉄筋の下で潰れた友香達と……。
「光太……?」
信じられない。
私の代わりに光太が、鉄筋の下敷きになっていた。
頭からはどんどん血が溢れている。
何故、どうして?
そんな感情ばかりが頭を駆け巡る。
私は這うように、光太に近づいた。
すると、光太がうっすらと目を開けた。
良かった、生きてる。
私がそう思って溜息をついたとき、光太は、天使の様に微笑んだ。
「良か……った。みーちゃん、が、死なずにすん……で」
みーちゃん?
私は、そんな呼び方をする人を、一人しか知らない。
しかもそれは、私の頭の記憶の中ではなく、母に見せられた、ビデオの記憶。
嘘だ。
そんな事があるわけない。
「光太……? どうして、どうして、私を……」
助けたりしたの。
今日初めて会ったはずなんだよね?
なのに、どうして。
「ご褒美…なんだ。僕、あっちで頑張ったから、君を助け…たかったから、神様に、我が侭な、お願い聞いてもらったんだ」
必死に途切れ途切れに話す光太。
私は何故か、目から涙が溢れ出てきた。
涙なんて、何年振りだろう。
温かいものが胸のそこから湧き上がり、私は直感した。
光太の正体を。
「私、こんな娘でごめんね」
「……みーちゃんは、今も昔も変わってないよ。寂しがり屋の……良い子だ」
これ以上話さないで、と言ってもきっと意味はない。
光太は、もう逝ってしまうのだから。
「あーあ、……また死ぬのか。ごめん……ね、お母さんに、よろしくね」
どうして私に会いに来たの?
お母さんに会ってあげてよ。
ずっと会いたがってたんだから。
そんな言葉の一つも、ろくに話せない。
「どうして、言ってくれなかったの、お父さん」
言ってくれたら、お母さんにも会いに行った。
もっといろんな話しをしたかった。
本当はずっとこうやって会いたかった。
もっと、もっともっと、温もりを分け合いたかった。
私は、血だらけの光太の手を、優しく掴んだ。
「……正体は、自分から言っちゃ……駄目だったんだよ」
光太も私の手を握り返してきた。
どんどん冷たくなっていく手の温もりを、必死に離さないように掴んだ。
「ははは、嬉しいな、お父さんって、……聞けたや」
そんな言葉、何回だって言ってあげるよ。
お父さん、お父さん、ねえ、お父さん。
目を開けて、もう一度微笑んで、もっと声を聞かせてよ。
光太は、最期に、笑って小さく何かを呟いた。
「バイバイ、愛しい……子」
その言葉を聞いたと同時に、光太の身体は光りに包まれ、一瞬で砕け散った。
舞いあがる光りの粉は、まるで天国に連れて行かれる様に、空へ上っていった。
私はただ、地面に顔を向け泣きじゃくった。
遠くで、救急車の音が聞こえた。
その後、私は一応病院に連れていかれ、検査をされた。
検査の途中、スーパーの大きな袋を持ったお母さんが、真っ青な顔をして駆け込んで来た。
そして、私の無事を確かめた瞬間、大泣きをしながら私を抱きしめた。
今日はクリスマスだから、早く帰って、ご馳走を作って、驚かせるつもりだったらしい。
そんな事をお母さんは泣きながら言いながら、強く、より強く私の体を抱きしめていた。
それは、今確かに、私が持っている温もりだった。
「ねえ、お母さん、私、お父さんに会ったよ」
私の言葉に頷きながら、お母さんは泣いていた。
きっと、信じてはいないんだろう。
それでも良かった。
ただ、言っておきたかった。
私は検査の結果、得に異常もなく、真っ直ぐ家に帰れた。
そして、母の部屋のアルバムを開く。
そこには、変わらない彼の笑顔が、母の隣で微笑んでいた。
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2005/11/27(Sun)22:07:47 公開 / 都斗津 希羽
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■作者からのメッセージ
皆様多分、初めまして。
まだまだ未熟者ですが、今回勇気を出して投稿させていただきました。
この話しは、できるだけ読みやすい様に書いてみました。
最後まで読んでいただけていると、嬉しいです。
どこか、おかしなところなど、感想・批評などをくださると、とても嬉しいです。得に、一人称などの。
これからも、精進していきたいと思っております。