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『やんわかボウフラの住む町で』 作者:ツクンコ / 童話 未分類
全角8284.5文字
容量16569 bytes
原稿用紙約23.5枚
1 梅干おにぎりと人食いマンボー

「おにぎりに梅干は入っている」彼女は僕に言う。
「いい、今日はきっと、人食いマンボーが出る日よ」と。
人食いマンボーは4年に1度やってくる。慎重に慎重に僕らに近づき、捕まえたら最後、マンボー的な獰猛さで獲物をしとめる。人食いマンボーがいつ出るか分からない、ただ、今日が過ぎれば、明日からは「やんわかボウフラ」の季節となるので、慣習的に表れる事はない。人食いマンボーはやんわかボウフラの持つ笑顔に対抗できないようだ。
「うん、梅干のおにぎりが2個入っているよ。もう一つは昆布さ」
彼女はあわてて、僕のおにぎり弁当を取り出す。
「昆布ですって、あなた、人食いマンボーの囮になる気なの」僕は何も言わない。そして、彼女からおにぎり弁当を奪い返す。
「梅干があるから大丈夫さ、マンボーに梅干をおみまいしてやれば、また4年間は動けないさ」
彼女はふーとため息をつく。
「梅干を避けられたら終わりよ」と。僕は彼女の手を取る。
「君のところに襲ってくるかもしれない、心配なんだ」僕はドアを開ける。
 ドアの外は晴れていて、「やんわかボウフラ」であふれていた。「やんわかボウフラ」の季節が来たのだ。今回は少し早めに「やんわかボウフラ」の季節が来たようだ。僕は彼女を呼んで、一緒に梅おにぎりを食べた。外では梅おにぎりを食べている人であふれていた。「やんわかボウフラ」はうれしそうに空を舞い、食べ終わると僕らは手を取り合って踊った。人食いマンボーが悔しそうに遠くから僕らを見ていた。「やんわかボウフラ」がいる限りマンボーは僕らに近づけないのだ。僕は昆布おにぎりを放り投げ、人食いマンボーに渡した。
「マンボーはとってもお腹をすかせていたんだ」と、僕は彼女はに言った。人食いマンボーはおいしそうに昆布おにぎりを食べ、少し悲しそうに笑って僕らの町から去っていった。そして人食いマンボーは冬眠の準備に入る。


2 焼きソバ祭り
 「やんわかボウフラ」の季節はもうすぐ終わる。「やんわかボウフラ」に感謝と畏敬とそしてとっびきりの愛情をこめて焼きそば祭りが明日行われる。これ以上ないほどのおいしい焼きそばをみんなで作り、祭りの準備をする。 
 「やんわかボウフラ」はニコニコ笑いながら空を舞っている。僕らは、必死に焼きそばを作る。僕は麺をほぐす係りで、彼女はソースの配分を考えて入れていく係りだった。彼女は緊張していた、焼きそば作りの全てを決定付ける大役を彼女はまかされたのだ。
 「どうして、こんな大役を」と彼女は震えていた。僕は彼女の側にずっとついていた、慎重に麺をほどぎながら。「大丈夫、君なら出来るよ」と僕は言う、他に何か出来ることがあるだろうか。
 「私は怖いの、ねえ、焼きソバが最低になってしまうかもしれないのよ」焼きソバ祭りがうまくいくかどうかは、大事なことだ。「やんわかボウフラ」の気持ちが変わってしまい、もうこの町には来なくなってしまうかもしれない。彼女はそれを恐れていた。
 彼女はおそるおそる、ソースを入れていく。大量のソースがゆっくりと麺に溶け込んでいく。ソース配分係のやる事に、誰も口を出す事は出来ない。1度、ソースを入れ始めたら、それを止めさせる事が出来るのは、また彼女以外いない。彼女の震えが止まらなくなっているのが分かる、彼女の頭は今、真っ白だろう。
 「怖い、怖い」と彼女がつぶやいているのが分かる。僕は彼女がうまくいくように祈る事しか出来ない。その時、遠くから大きな声が聞こえてきた。
 「ソースが大事なんじゃない、焼きソバが大事なんだ。恐れなくていい、焼きソバ自身がソースを望むんだ。焼きソバの声を聞くんだ」
その声が消えいってしまうのと同時に、彼女の目がくっきりと輝いた。彼女の目から恐れが消え、彼女は焼きソバの声を聞いた。そうして、彼女は焼きソバに完全にぴったりの量のソースを溶け込ませた。そして、次の日、盛大に焼きソバ祭りが行われ、「やんわかボウフラ」も最高にニコニコしていた。
 「ねえ」と彼女は僕に言った。「誰か私を助けてくれたのかしら」僕ははっきりと知っていた。
「君の作った昆布おにぎりがとってもおいしかったんだよ」
眠い眠い目をこすって、懸命に声を張り上げる人食いマンボーの事を僕は思った。

3 冬眠の季節
 「やんわかボウフラ」は僕らに多くの収穫物の恵みをもたらす。みんなに笑顔をもたらして、それでも「やんわかボウフラ」の季節は終わる。収穫物をすっかり取り終えた後、僕らはしばらく冬眠する。僕らの町の雪はとてもとーても深く降り、太陽さえも顔を出せない。冬眠にはいつも不安が付きまとう。僕らの町で生活をしていく上で何よりの試練は、この冬眠に向けての気概であり、勇気だ。多くの不安は消すことは出来ず、多くの不安と共に冬眠を迎えないといけない。でも、冬眠の季節は必ず平等にやってきて、僕らは冬眠を迎えないといけない。なので、僕らは冬眠の日の前の数日間は、なにも考えが出来ないほどたっぷりと働く。何かを延々と考え続けていく時間があれば、冬眠の不安に押しつぶされてしまうからだ。僕も彼女も働いた、焼きソバの木から焼きソバを取り、梅干畑から梅干を取り、トマトジュースの川からトマトジュースを汲んできては貯蔵庫に入れていった。

 空からやわらかい雪が降り出し冬眠の季節が来た事を告げる。
 
 彼女は毎年の事だが、冬眠の前日に大量のトマトジュースを飲む。僕も彼女も冬眠の不安に対しての感情を慎重に避けながら会話を続ける。
「でも、マンボウはもっと大変なんだ、なにせ、僕らの何倍も眠りの期間が必要なんだから」
 初めに冬眠の不安に耐えられなくなったのは僕の方だった。冬眠や眠りという言葉は前日にはなるべく使わないようにと、昔から言われていた事だ。あまりの不安に不眠症になり、冬眠を迎えなれなくなる恐れがあるからだ。僕は言ってしまった後、彼女をゆっくりと見た。彼女は不安を隠し切れずに少し震えていた。
「マンボウさんは、もっともっとの不安に耐えているって事、もしそうなら、私どうにか、なってしまいそう」 
 彼女もでも、冬眠への準備を止める事が出来ないのは分かっていた。
「マンボウさんも同じように怖いのかしら、目覚めたら何もかも変わっているかもしれないって事に」
「うん、きっとそうだろうね、怖いんだ」
彼女は10杯目のトマトジュースをぐいっと飲む。それ以上飲むと、トマトジュースの効果で冬眠の間中起きていなければならなくなる。僕は彼女にそっと「これで、終わりにするんだよ」と言った。
僕は彼女からコップを取り上げてきれいに洗ってしまう。後はゆっくりとした静寂が僕らを包む。
「みんな、不安なのね。マンボウさんもあなたも」
「やんわかボウフラだって不安さ、来年にまたあんなにおいしそうな焼きソバを食べられないんじゃないかって、君の作った焼きソバが食べられなく恐れがあるなんて分かったら、やんわかボウフラはみんな不機嫌ボウフラに変わってしまうよ」
 彼女は少し笑った、そして僕の手を取った。
「ほんの少しぐらいなら、ほんとに少しぐらいなら不安を共有できるんじゃないかしら」
 僕は彼女の手を感じていた。彼女の手は小刻みに震え、でもほんのりと温かくなっていた。眠りの時間が近づいてきていた。
「うん、いろんな不安もほんの少しなら誰かと共有出来るんだ。そうやってみんな不安をちょっとだけやわらげていくんだ」
 僕も彼女も一つ小さなあくびをした。ところどころの家から小さなあくびが聞こえてくるようだった。そして、僕らは布団に入った。僕らは手を繋いだまま、いつの間にか彼女の手が震えなくなり、彼女がきれいな眠りについた。
 「おやすみ」と僕は言った。マンボウも僕も彼女も眠っていく町で、雪が徐々につもり僕らの町もまた眠りについていく。
 
 4 目覚めとレモンティー
 目を覚ます、いくつか見ていた夢の世界の事をそーっと思い出しながら、僕はエイっと目を開ける。僕はまだ握られている手のぬくもりを感じる、彼女はまだ眠っていた。今回は僕の方が少しばかり早く起きてしまったようだ。彼女がうっすらと笑っている、どんな夢を見ているのか少し気になった。その前はうれしそうに、焼きソバパンを食べ過ぎた僕がトマトジュースの川で、お腹に石を入れられた狼みたいに溺れていくという夢だったと話した。今回も聞かない方が無難なんだと思う。
 僕はゆっくりと手を離して、窓の側まで歩いていく。不安を隠しきれないで震えながら、雨戸を開ける。きれいにきれいに晴れていた。でも、まだ雪がほんの少し残っていた。どうやら、冬眠の季節はまだ1日ほど残っているようだ。無事に冬眠の季節が終わっていく事にふーっと、安堵の溜め息をつき、後1日は一人ぼっちで過ごさないといけない事にもふーっと、寂しさの溜め息をついた。
 僕はドアを少し開けて、しばらくぶりにやってきた日の光の温かさを味わった。雪と不安が溶けていくのが分かった。僕は慎重にドアを閉めた、彼女の楽しそうな眠りを邪魔してはいけない。無事に目覚めて、無事にお日様の光を浴びれる事以上の喜びは何物にも変えられない。それは誰かの力を借りずに、まず不安に勝って、目を開ける作業をしてから味わうべきだ、これがまた、次の冬眠を迎える力になる。僕は一人で町の中を歩き始める。まだ、僕以外の人は歩いていない。ほんの少しの雪を見るのも、でも悪いものじゃない、雪にだってそれなりの意味があって僕らの町に来ているんだろうから。僕は、一人だけそれを感じられていると思うとうれしかった。
 しばらく歩くと、「アヒル松ボックリ」が時計台の前で座っていた。
「やあ、君じゃないか、君だ、君。いいやー、良かった、良かったねー。僕ときたら、僕ったら、ドジったのか、失敗したのか、1日か、うん、1日ぐらいか、早く、早めに起きてしまったんだ」
「やあ、うん。1日早く起きてしまったようだね」
「やっぱり、おそらく、そうか。いやー、まいった、降参だ。僕の家のドジョウ松ボックリなんて、僕の家のドジョウ松ボックリなんだけど、まだ眠っていて、うらやましくも眠れていていいよな」
「アヒル松ボックリ」が口をたくさん、たくさん動かしてしゃべり続けた。僕は少しうんざりする。
「そろそろ家に戻ろうと思うんだ」
「戻る、戻ろうとする、家、君の家に、意味のない、無意味な行動を君はするんだね」
「レモンティーをさ、作っておこうって思うんだ、彼女が起きた時に、少し甘みの強いレモンティーを出してあげたいから。君も作っておくと良いよ」 
 僕はもう、「アヒル松ボックリ」と付き合う気はなかった。僕は家に向かって歩き出し、徐々に「アヒル松ボックリ」の話す声から遠ざかっていった。
 家に帰ると、でもだいぶ時間が経っていた。少しぼんやりとして、見ていた夢の事なんかを思い出していた。いろいろな夢を断片的に思い出し、笑ってみたり泣いてみたりして、時間を費やした。1日が経った事を確認して、お湯を沸かした。レモンを地下から取ってきて、コップに注ぐ音を楽しみ、彼女の目覚めに備えた。彼女のおだやかな笑顔が一瞬真剣になり、彼女の目がピクンと動く、彼女がゆっくりと目を開ける。僕は台所へ行きイスの下に隠れ、息を潜めていた。彼女は僕が開けていた窓へ目をやる、そして静かに、笑顔を作った。でも、つながれていない手を思って、また不安そうに目を動かしていた。
 「おはよう」と僕は言った。僕が横にいなかった事に腹を立ててか、しばらく僕をじっと見たり、きょろきょろしたりして、沈黙を作った。それからゆっくりと「おはようね」と彼女も言った。僕は1日早く起きてしまった事、一人でその1日寂しかった事なんかを話した。彼女は、僕が夢の中で焼きソバ作りに失敗して、「やんわかボウフラ」が僕の前だけでは「怒りボウフラ」になってしまった、という夢を見た事、起きた時に横にいなかった事で、世界の何かが変化してしまったんじゃないかと、不安になった事なんかを話した。
「悪気はなかったんだ」僕は彼女の前に程よい熱さのレモンティーを出した。
「本当に」彼女はレモンティーを手に取り、ゆっくりと飲んだ。「レモンティーに誓って」
「うん、レモンティーに誓って」おいしくおいしくレモンティーを飲んで、冬眠の季節が終わった事を祝った。外へ出て、僕らは世界が変わっていない事を喜び、無事に冬眠が終わった事をみんなで祝った。
 僕は彼女に嘘をついた。わざと、彼女の見えないところにいた事は黙っておこうと思う。だって、彼女はみんなに僕が「怒りボウフラ」達に囲まれて、泣いていたなんて夢の事を楽しそうに話して回るのだから。

 5 あくびと旅たち

 冬眠が終わってもすぐにまたいつもの生活となる訳ではない。そこからしばらくは1時間に1回づつ、小さな欠伸と、大きな欠伸をして過ごす。蓄えてあった食料を少しづつとりながら、ぼんやりとして生活していく。
「いい天気ね、ふぁー」と彼女は言う。「本当にいい天気だね、ふぁー」と僕もこたえる。時間はゆっくりと流れていく。
 
 ゆっくりとではあっても、時間も僕らの町も動いていく。冬眠が無事にあけて、まずミドリヒゲカワウソ博士が自動トマトジュース汲み取り器くを発表した。冬眠中の夢の中で思いついたものだ。いつもの事だけれど、まずトマトジュースの川まで運ぶにはあまりにも大きすぎる事、僕も手伝ったけれど20人以上は人がいたけれど、半日は掛かってしまった。また、汲み取り始めても、コップ1杯貯めるのにまた2時間も掛かった。あまりにも大きな欠点だけが魅力だった。
「大いなる発明と進歩は」とみんなの前でミドリヒゲカワウソ博士は言った。「多大なる失敗と深遠なる思慮は不可欠だ。今こそ失敗に対して我々は胸を張ろう。盛大な拍手を、失敗と、その次の成功に向けて」高々とやっとためたトマトジュースを上げた。
 僕も彼女も、おそらく、ここに集まったみんなも、発明そのものよりも、この博士の失敗後のどこか恥ずかしげであっても、堂々とした演説を聴くのが好きだった。僕らはトマトジュース汲み取り器と博士に大きな拍手をした。
 
 いつもと変わらない事もあれば、変わっていく事もある。
 アヒル松ぼっくりの同居人で、僕らの友達ドジョウ松ぼっくりが村を出て行くことを決めた。「時期が来たんだ」とドジョウ松ぼっくりは言った。「夢で見たんだ、冬眠もなくて、やんわかボウフラも来ないところで、僕は素敵な恋に落ちるんだ」
 アヒル松ぼっくりは少し悲しげに寂しそうにドジョウ松ぼっくりの話を聞いていた。僕らの町にも決まりはある。入ってくるのは自由で、ここに住むのも自由。人食いマンボウだって入ってくる事を邪魔はされない。入り口が開かれているのなら、出口もまた自由に開かれている。出て行く事は決めた事は何より大事にされる。理由はどうあれ、出て行くのには勇気が必要だ。

僕も彼女もまだ小さな小さな頃、この町にやってきた。彼女はうっすらと連れてきてくれた人の思い出があるんだと話した事がある。僕はそうした記憶を持たない。とにかく、やんわかボウフラが来ないところから僕らは来た。
 僕が小さい頃の事で思い出せるのは「モアスモールハウス」のカナブンおばさんの背中。おんぶされていると不思議といつも眠くなった。僕らは9回目の冬眠までは「モアスモールハウス」でカナブンおばさんに育てられる。小さい小さい子がこの村に来る時はいつもそうだ。去年は小指マンモスが親指マンモスさんに連れられてこの村に来た。親指マンモスさんが静かにいなくなって、「モアスモールハウス」に小指マンモスが残った。
9回目の目覚めを迎えると、カナブンおばさんは温かいレモンティーを出してくれる。
「あなた達は仲良しね」とカナブンおばさんは言った。「これからは2人で生活するの。がんばってね。去年出て行った松ぼっくり君達はしっかりとやれているみたいだもの」彼女がとっても素敵に笑ってうなづいてくれた事を僕はずっと感謝している。僕は正直不安だったから。でも、そんな不安はたった一つの笑顔で十分に消し去る事が出来た。

「勇気を阻害するようなことだけはしてはいけないのよ」とカナブンおばさんは僕らに言った。「みんなここにある時期に来るの、やんわかボウフラや冬眠を経験してね、そうしてこの村から出て行くの」
「みんな出て行ってしまったら寂しいよね」彼女はカナブンおばさんに言った。
「小指マンモスちゃんみたいに入ってくる子もいる。出て行く子もいる。それでも、きっとこの村は変わらないの。いくら出て行ったり入ってきたりしても、ここは、ここ」
「私ずーっとこの村にいるの。カナブンおばさんと、みんなと」僕の方をちらっとみた。「ずーっといたいの」
「いい子ね、でもいつか出口へは向かうのよ。みんなみんなそうしていくの。いい、入ってきたのだから幸せでいなさい。出て行くときには笑っていられるように、私の願いよ」

ドジョウ松ぼっくりの旅たちの日、アヒル松ぼっくりはそっぽを向いていた。
「どうせきっと、ここじゃないここの他の、厳しいつらい、場所へ行こうと向かおうと、すぐにあっという間に、逃げ帰る戻ってくるさ」
 アヒル松ぼっくりなりに強がっていたけど、ドジョウ松ぼっくりから「君と一緒で楽しかったよ」と言われ、口を動かすのをやめた。それでもしばらくは何かを考えていたけれど、最後には「出て行く旅たって行く、気概勇気に」とトマトジュースを差し出した。
 カナブンおばさんは少し寂しそうに笑いながら、小指マンモスを抱っこして小さく小さく手を振っていた。

出口までの道、僕と彼女とが彼に付き添った。冬眠をあけて、僕の何倍も大きくなったようなドジョウ松ぼっくりを見て、僕はなんだか少し恥ずかしかった。冬眠への勇気ならもっていたけど、出口へ向かう勇気はまだ僕にはなかった。彼女は僕と彼の後ろから黙って歩いていた。
「なあ」僕に彼女には聞こえないように小声で言った。
「僕もここで恋をした事があったんだ。素敵な素敵な女の子にさ。でも、僕が好きだって言ったらさ、首を振ったよ。大事に、大事にしてな」
 僕は彼女をそっと見た。彼女を下を向きながら歩いていた。
「知らなかったよ。何も言わなかったから」
「そうか、やっぱり良い子だな。いつか出ていく日まで大事にしてな」
「うん。僕もいつか出ていくんだね。なんだか信じられないよ」
ドジョウ松ぼっくりはまっすぐと前を見て指を指した。
「出口ならあるさ。出口が僕らを呼ぶんだ。時期が来たら。それまでは楽しく、出て行く時に笑顔でいられるように、カナブンおばさんの教えだろ」

「僕も、やっぱり一人でいくのかな」
 ドジョウ松ぼっくりは、とっても真面目に僕の顔を見た。
「ああ、きっとな。でも笑顔で出て行くんだぞ。それが彼女にとっても必要な事だから」
ドジョウ松ぼっくりは僕の知らない多くの事を知っていた。僕は彼からいろんな事を学んだ。まだまだ僕が知らない事がたくさんある。出口が見えてきた。ドジョウ松ぼっくりは黙ってうなづいた。

「寂しくなるね」僕は言った。そして彼女を呼んだ。「本当にここでさよならね」彼女はドジョウ松ぼっくりに言った。
「元気で、楽しくな」ドジョウ松ぼっくりはしっかりと笑って見せた。「それからアヒル松ぼっくりもよろしくな。あいつは、誰かと話してないと駄目だから、たまには話を聞いてやってくれよ」僕も彼女も笑って見せた。

2人になった帰り道、彼女は時々ちらりと僕を見た。
「ね、ねえ」なんだかカナブンおばさんに抱っこされていた時の彼女を僕は思い出した。
「2人で何をこそこそ話していたの、あの、その、私の事」
「あ、うん、おてんばな女の子と一緒にいるのと、アヒル松ぼっくりみたいのと一緒にいるのと、一体どっちが大変だろうねって話だよ」
 彼女は頬をぷくーっと膨らます。でも、彼女は少しほっとしたようだった。それからの帰り道は僕らは久しぶりに手をつないで帰った。

 いつか、僕も出口から呼ばれるかもしれない。僕は出来るだけ楽しくいようと思う。例え出て行くときに笑えなくても、楽しく過ごしていたって言えたのならカナブンおばさんにも許してもらえるって思えるから。

 
2005/12/13(Tue)21:39:00 公開 / ツクンコ
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■作者からのメッセージ
 紙芝居のようなものをイメージしました。
 1話、話を追加しました。
12月13日、1話追加しました。
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