- 『どこへ行くのお嬢さん』 作者:君壱 / 未分類 未分類
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原稿用紙約5.8枚
とある商品開発会社で働く男犬塚が自分のアパートの隣人に…
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いつも手を繋いで嬉しそうにするその顔。
ママが大好きで、幼稚園で描いた絵を楽しそうに説明して。
パパも大好きで、高い高いしてっていつも言ってたね。
―でも今は、僕のオリの中だ―
『どこへ行くのお嬢さん ◆行動1◆』
真面目といえば真面目な性格なのだろうか。
ただ少し几帳面すぎて、人付き合いが苦手なだけだ。
決して人とのかかわりを拒んでいるわけでもなかった。
徹夜の多い仕事であったため、中々自分の住んでいるアパートには帰れない日々が続いた。
帰ったら帰ったで家の片付けだけでその日が終わってしまう。
自分はそれで満足なのだが、周りからの意見はそうではなく、
どこかリラックスできるような場所へ行ったらどうだとか、友人と飲めだとか言った。
けれど自分にはそんな風に寄り添う場所が無かったのだ。
唯一自分を迎え入れてくれるあの白くて長方形のアパートが好きだった。
自分は好き好んで家に帰っているのだ。
「犬塚さん、明日は帰れるみたいですよ」
後輩が少し弾んだ声で自分の所へやってきた。
愛想が良い仕事をしっかりとこなす青年で、笑ったときに少し見えるやいばが特徴的だった。
「お、そうか」
新聞を読みながら珈琲を口にし、眠気を堪えていたときに彼、坂田から連絡が入った。
新聞を軽くたたみ、椅子を半回転させ、坂田に少しの笑顔を見せる。
すると坂田は"お疲れ様です"と言って自分のデスクに戻っていった。
こんな上司思いの後輩を持つと、自分が上司として少しがんばらなくては、と思う。
しばらくすると、次の日の零時を知らせるアラームがなった。
少し前から用意してあった手荷物を取り、その場を立ち上がる。
広いオフィスには何十台ものパソコンが横に並び、自分の座っていたデスクと、坂田の座るデスクにだけは煌々と明かりがともっている。
非常口の緑色の光も、怪しく光っていた。
坂田は人より仕事の進み具合が遅く、こうして終わるまで毎晩残っているのだ。
そうしていつのまにか眠りについてしまい、朝が来る。
いつかの自分を見ているような気がして、彼は自分にとって何だか見守らなければいけない人物だと思った。
「犬塚さん、お疲れさまです。また今晩会いましょう!」
小さな声ではっきりと、そう遠くはないデスクから小刻みに手を振る。
自分もそれに返すようにゆっくり二回ほど手を左右に振った。
ドアノブに手をかけ、静かにオフィスを後にした。
久々の休み。
とは言っても今日の夜が訪れればまたこのオフィスに戻らなければならない。
決して仕事が好きというわけではないが、商品のアイディアなどを浮かべるのはつまらなくはない。
一度はまれば次々と考えられるものだ。
何度も考え何度もそのアイディアが却下されてしまう。
ちぇっ、良い商品だと思うんだけどなぁ。
と つい口にもしたくなるほどの自信作だってあった。
だから仕事は嫌いじゃない。
それでもこの家に帰れるひと時が、仕事より何より幸せなのだ。
唯一迎え入れてくれる場所だから。
エンジンの煩い車に乗り、キーを回すと、自動的にスピーカーからラジオが流れ出る。
夜中までやっている音楽ラジオが、癒すようなメロディーを流してくれた。
少し良い気分になって、車を家まで走らせた。
硬い道路を車のライトが照らす。
通り過ぎていく田や畑で揺れる雑草やススキ。
あたりは凍えそうなほど冷たい風が吹いていた。
もう、こんな季節なのか。
自分は一瞬だけ、時の流れの早さを恐れた。
やがて着いた家は一ヶ月前とは変わらず、そのままの姿でいた。
横に長く白いアパートは、二階建てで中々高級感漂うデザインだ。
5つの家が並び、特にその住人と話す機会などはない。
鍵をポケットから取り出し、ドアノブに近づく。
なるべく音を立てないようにだ。
静かに金属の音が立つと、自分の家のドアが開いた。
埃っぽい匂いが鼻を突く。明日は大掃除になりそうだ。かすかにそんな考えが自分の頭をよぎった。
電気もつけずに家の中に入り、ベッドに飛び込んだ。
家に帰ると安心するのか、急に疲れと眠気に襲われる。
そして朝まで 眠りについた
―続―
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2005/11/02(Wed)19:04:14 公開 / 君壱
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■作者からのメッセージ
はじめまして、君壱(キミイチ)です。
どうぞ宜しくお願いいたします。
まだ作品内容は初めのほうですが、読んでくださった方はありがとうございます。
内容的には最初の方を見て解ってしまう方もいるかもしれませんが、誘拐の話です。
そこまでたどり着いていませんが
感想やご指摘いただければ幸いです。
では。