- 『季節の色』 作者:風 / リアル・現代 恋愛小説
-
全角2047.5文字
容量4095 bytes
原稿用紙約6.7枚
僕は君と過ごした三つの季節と色を愛している。どれほど時間がたっても忘れない。君がいなくなった季節と色を忘れられない。君がいなくなって訪れてしまった季節たちはどんな色にそまるのだろう?君はどこに行ってしまったのだろう?
-
季節の色と君と……
君を見つけたのは春だった。
まだ肌寒い風に吹かれ舞う、きれいな桜の花びらの下で君を見つけた。
あどけなさの残る君の幸せに満ちた笑顔は、桜の花よりも、何よりも美しかった。
僕の体の中に暖かい風が吹きぬけ、やっと春がきたと思ったんだ。
純粋な桜色の季節。
君を追い続けたのは夏だった。
君に僕の思いが届けと祈り続け、君を見続けた。でも、君が僕に気づくことはなかった。
切ない涙色の季節。
君が僕を見てくれたのは秋だった。
僕の気持ちが君に通じて、二人でいろんなことをした。
もっと君に触れたくなったりもした。でもそれはいけないことだ、君を汚すことになると思って、できなかった。
きれいな恋色の季節。
僕はこの三つの季節を愛している。
君を失ったのは冬だった。
僕の前から君の姿が消えた。それはあまりにもあっけなく、そして儚いものだった。
きっと僕のせいだ。僕の君に対する思いが足りなかったんだね……。
ねぇ、君はどこにいったの?
今でも僕は君を探しているよ。早く帰ってこいよ。
すべてのものから色が消えた無色の季節。
一色目:春の訪れ
二月が過ぎ、三月になり、春がきた。しかしまだ肌寒い風が吹き抜ける朝のホームルーム前の校舎の中を、たくさんの生徒たちはいつものように楽しそうに会話をしたり、各各(おのおの)の好きなことをしている。
しかし、少しだけいつもと違って見えた。心なしか生徒たちが浮かれて見えるのだ。
それもそのはずだろう、今日は新学期の重要な第一日目で、クラス替えがあるからだ。そのクラス替で初めて一緒のクラスになった生徒などと話して、新鮮感を味わったり、または、元クラスメートだった仲のよい生徒とまた一緒になり、喜びを語り合ったりとしているため、いつもと学校の雰囲気が違うのだ。
その中でも田辺優大(たなべゆうだい)は特にいつもと違っていた。
優大は、明るく気さくな性格をしていて友人が多いのだが、彼に話し掛けている人物は一人もいなかった。いや、話し掛けれないのだ。
優大は去年の冬に恋人を失っていた。つまり、恋人が死んだのだ。なんと自殺だったので、周りはそれだけで十分話し掛けにくい。しかも、恋人――霜月春(しもづきはる)が死んで以来、約三ヶ月ぶりに学校にきたのだが、窓側になった自分の席でボーっと外を眺め、話し掛けるなというオーラーをかもし出していたのでなおさらだ。
そんな優大に、一人の男子生徒が近寄っていった。そして、
「おっはー、田辺。一緒のクラスだぜ。ラッキーだな」
と、軽い口調で話し掛けた。
男子生徒の名前は仲原公助(なかはらこうすけ)、優大とは中学生からの友達だ。
公助が優大に話し掛けた瞬間、教室にいた生徒たちはギョッとした顔で公助を見たあとに、心配そうな顔で優大を見た。
ゆっくりと優大が公助の方へと顔を向ける。その顔は鋭く、そして疲れきっていて、本来のやさしそうな優大の顔の面影など、どこにもなかった。
生徒たちは優大の顔に驚き、そして自分たちをにらみつける優大の視線に気づき、慌てて視線をそらし、無理やり違う方向を向き、きまづそうに各自、それぞれの会話に戻っていった。
生徒たちの視線が自分からそれたことを確認すると、優大は公助の顔を一瞥してそっけなく返事をした。
「よお」
その声は低く、そして泣きすぎたのか、枯れていた。
公助は苦笑いを浮かべると、外ばっかり見ている優大の頭をつかみ、無理やり自分のほうに向けさせた。
「お前、いつまでもそんなんでどうするんだ。そりゃあつらいだろうよぉ、でもさ、それで他人に気を使わせて、迷惑かけて、それでいいのかよ」
公助の口調はきつく、優大を甘やかすつもりはどこにもないらしい。
優大は、何もいわず、ただじっと公助をにらみつけていた。
「……ってたんだ」
少しの沈黙の後、優大は小さな声でつぶやいた。
「えっ?なんて?」
しかし公助は聞きとらきれづ、すまなそうな顔で聞き返した。
「だってしょうがないじゃんかよ! 春は……ずっと待ってたんだ。春が訪れることを……。なのに……なのに……。なんで今春がいねぇんだよ!? 春がいなきゃ、こんな……、春がきたってしょうがないじゃんかよ……」
たまっていたものを吐き出すように優大は枯れた声で叫び散らした。
公助も生徒たちも驚いた顔で優大を見つめている。
優大は呼吸が荒くり、肩で息をし始めた。きっとこんなに大声を出したのは久しぶりで疲れたのだろう。
「…………」
公助は何もいわず、優大の頭をやさしくなで、教室を出て行った。
とたんに優大はその場に崩れるように座り込み、床をにらみつけた。
その顔はこみ上げてくる怒りを露(あらわ)にすることを、必死に抑えているようだった。そう、春を守れなかった自分に対する怒り……。
――ごめん春、俺がお前を殺したんだ。
-
2005/10/30(Sun)22:55:14 公開 / 風
■この作品の著作権は風さんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
はじめまして。風と申します。
まだまだ未熟者ですが、これからがんばっていきたいと思います。
わかりにくいこと、間違っていることなどがありましたら、いってやってください。
ちゃんと恋愛小説を書けるか不安ですが、形になるようがんばります。