- 『a child of today.(1/4)』 作者:施錠 / リアル・現代 未分類
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全角2654文字
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原稿用紙約9.55枚
a child of today.現代を。a child of today.コドモ。a child of today.現代病。A CHiLD oF ToDaY.
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枯れるまで泣けば。でもボクは泣きたくないから。
君が泣けばいい。枯れてしまっても。
ボクの知らない君を。枯れる前には「またね」と言って。
ボクはそれを見てるから。
泣きながら、見てるから。
〜春〜
例えば出会いを色で表現するならば。
この春、桜の様な色がいいのではないか。
そのあざやかな色の中に、その正反対の色を乗せたら。
正反対の色はその孤独感をより際立たせるだろう。
「で、なんで彩と別れたんだよ?」
和樹は不思議な顔をして怜に聞く。
「……そうだな、多分、傘は1つ。帰る場所は2つ。
どちらかは雨に打たれる運命だったとして」
「いや、毎度の怪しいセリフはいいよ」
「いや、たまにはこの怪しいセリフにものってほしい。
もし和樹だったら、この運命どうしてた?」
「傘1つでも、まず相手をウチに送ってやりゃいいんじゃねぇの?」
「……それが正しい運命?」
「いや、知らないケド普通そうするだろ」
「そうか。運命って、複雑だな」
「お前の頭よりか単純だろ」
怜はこの城下町学園高等学校始まって以来の美少年と呼ばれていた。
さらにはスポーツも成績も申し分ない。
だが、何かネジが1本足りなかった。
いや、むしろネジが多すぎて妙な何かが付け加わったのかも知れない。
一方の和樹は高校生にしてインディーズ界では知らない人のいないバンド、
“a child of today”
のリーダーにしてボーカル。
和樹が高校を卒業したら即、メジャーと言われている。
そんなa child of today.のベーシストが彩だった。
怜と彩が出会ったのはお互いが高校1年生の時だった。
和樹がバンドを組む際、
「音楽は教えればいいが、顔は変えられない」
と、まず怜を誘い、その後同じ新入生に声をかけ続けた。
当時集まったメンバーは5人。
その中に、彩がいた。
その後和樹の音楽の才能、売り込みのうまさで瞬く間にインディーズ界を上り詰めた。
当時はギターが和樹、ボーカルが怜であった。
だが、そもそも怜は音楽をやる気はなく、売れれば売れるほどに戸惑った。
そんな中、所属した事務所に彩との仲がばれた。
「自由を奪われて、好きでもない音楽を続けるのは不可能」
怜にしては真っ直ぐなコトバで和樹に脱退を告げた。
その後ライブハウスなどで再度スカウトをしたが良いボーカルも見つからず。
結局穴埋めのつもりで和樹がボーカルとなった。
そして、そのファーストライブをのこのこと見に来た怜は和樹に言った。
「和樹の翼なら、飛べるよ。
ボクの翼は、空を飛ぶしか生きる道がなかったから。
和樹の翼は、空を飛びたくてついた翼」
和樹はこのコトバを聞いて初めて翼を空に向けた。
自分なら、もっと高く飛べる……。
a child of today.見たコトのない景色への招待状。
***
結局、怜は何故急にこの2年にピリオドを打とうとしたのか。
詳しい経緯を知るために和樹は彩の元を訪れた。
「ん、なんかよくわかんないんだよね……」
彩は重い口を開いた。
「え、結局別れたの?」
和樹はさらに問いただした。
「うん、なんか急に
『傘は1つ。帰る場所は2つ。ボクら、別れる運命なのかも知れない……』
って。」
「……はぁ?」
怜の目には、何かが見えたらしい。降りしきる雨。手元には一本の傘。
同じ場所には帰れない。例え可能な限り一緒に歩めど、結果は同じ。
怜ワールドは広がり続けたのだろう。
「それで、そのままなんだケド、怜が『別れた』って言ってたなら、
ホントにあれが別れだったのかなぁ?
なんか、よくわかんないから悲しむに悲しめなくて……」
彩は少し涙を浮かべた。
普段は目をひくほど仲良くするワケでもなく、お互い淡々とした交際に見えた。
むしろ、自然と別れてしまうんじゃないか、そう思うほどに。
だが、内なる想いはあったのだろう。
2年という月日を超え、他人には見えない根を張り続けていた。
「いや、泣く様なコトじゃねぇから。
きっと、また詩人病だろ」
和樹には、別れる理由は見つからなかった。
***
和樹は勝手に詩人病と呼んでいた怜の暴走。
体育のグラウンド。よく晴れ鳥も鳴いていた。
「自然に返りたい」
そう言って全裸になった。これが優等生、怜の唯一の停学。
とにかく何でもアリなのか。思い立ったコトはすべて実行に移した。
今回の彩の件も、やはり思い立った行動らしい。
「……ボクって病気かなぁ?」
たずねる怜に
「安心しろ。誰にうつる病気でもねぇよ」
そんなコトバで納得したかは知らないケレド。
「この病気で死ぬコトもあるのかなぁ?」
「あぁ、ヘタなコトしたら一発だな」
「もしボクが死んだら、世界中に涙の雨を降らしてくれる人はいるのかなぁ……」
「あぁ、少なくとも今の人間界にはいねぇな」
「もしボクが倒れて……でもボクの心は世界中に平和を伝えて」
「あぁ、少なくとも今の医学界じゃムリだ」
「もしボクが死んだら、バラいっぱいのお墓へ……」
「国外にならあるんじゃねぇの?」
こんな他愛もない会話も嫌いじゃなかった。
「せめて、死ぬ前に本当の父親と母親に会いたいなぁ……」
「え……ちょっ、何それ?」
「言いたかっただけ。もちろんウチに帰れば会えるんだケドね」
怜は寂しく笑った。今までに見たコトのない顔で。
「そっか……なら、いいんだケド」
もしかしたら怜も大変なのかも知れない。
でも怜が怜であるために深くは触れないでおこう。
気遣いか、それとも見たくはない現実からの逃避か。
「明日にでも、ちゃんと彩にやり直そう、って言えよ?」
「そうだな……まぁ、それも明日決めるよ。
きっと怖かったんだよ。いつか枯れるでしょう、気持ちって。
絵や写真ではなくて、日々変化していく。
真っ白な紙に、思い出だけを描いておけたら……」
「いや、よくわかんねーケド、枯れるくらいの気持ちで彩と付き合ってんの?」
「気持ちが枯れられてしまうのが怖いのかも知れない」
「なら、枯れられちゃうと思って付き合ってんの?」
「気持ちは、花と違って目に見えないから」
怜は自分の持った世界には頑固だった。
「あー、目に映るものしか信じねぇのかよ。
怜のために綺麗に咲いてんのに見てもらえない花も可哀想だな」
和樹はちょっと怜に近づいて言った。
「その花、摘んでオレんちに持って帰ってやろうか?」
***
桜散り行く中でも。君は枯れない。
枯れてすらくれない。記憶の花。
心の中で華やかに咲いてしまうから。
会える気がしてしまうんだ。
どうすれば会えるか。
手首に傷。会えるかな。
〜夏〜に続きます。
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2005/10/07(Fri)03:43:02 公開 / 施錠
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■作者からのメッセージ
読者を置いていく作品に。