- 『Lamento.』 作者:少年ラジオ。 / ショート*2 リアル・現代
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全角942.5文字
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原稿用紙約2.95枚
「何であたしを裏切ったの」
追い詰める、ぎらぎら・きらきら・艶やかに光る刃物の先に、あたしが偽りで愛した人。
「裏切り返し、よ」
心音を一突き。人間ポンプは斬られてもなお規則正しく血液を送り出す。だがその血液は身体中に回る事無く、零れ落ちる。
「あなたが、悪いんでしょう?」
あたしは善なのよ、そう確める様にあなたの首元に刃物を近付けて言う。光が入ることは無い眼には恐ろしさの欠片も無い。
力を籠めて、一振り。
あなたはもう人じゃないわね、首から上が亡くなったあなたにそっと呟く。あたしは煙草を吸おうと思ったけれど生憎箱の中身は無かった。
ライターと空っぽの箱だけ取り残されたポケットから凶器、イコールライター。着火し人ではないあなたに近付ける。
燃え上がる。
あたしはこの燃え上がる瞬間が酷く好きだ。人肉が焼ける臭い、最初は吐き気を催したけれど今じゃあ慣れてしまって何も感じない。
少しべたついた唇を舐めながら其処を立ち去った。最後に仕掛けた凶器を忘れずに爆破。
認識困難。
「あんたはそんな事をして何が愉しいんだ」
昔の知り合いと久しぶりに遭った。彼もまたあたしと同じような仕事をしている。でもあたしとは違い彼の殺し方はスマートだ。
「何が愉しいんでしょうネェ?あたしの性癖かしらん」
彼、確か名前は玲生と言った様な気がする。遠い昔の記憶を引っ張り出してみた。
「お前は変わりないな。昔からずっとそうだ」
「誉め言葉として受け取っておくわ、玲生」
久しぶりに名前を呼ばれたよ、と玲生は言った。
「どうして、」
「お前と同じだよ、紗那」
確かに歯痒いわ、あたしはそう言ったけれどそんな風な貌はしていなかったんじゃないか、きっとあたしは無表情だ。
「じゃあ、Leoとでも言っておくわ」
「雨音ポルカドット。お前は長いな」
どうだって良いじゃない。あたしはやっと見つけ出した煙草の箱から一本出して火を付けた。
その火はあたしの嫌な心とか総て流してくれるかと思ったけどそう簡単には行かなかった。あの時と同じ可笑しな喪失感だけ残った。
「変わらないよ、お前は」
「あなたは、変わったわ」
これは嘘なのかも知れない、あたしたちが存在する事すら嘘なのかも知れない。でも確かにあたし達は言葉を交したんだ。
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■作者からのメッセージ
ショートショートです。続き物ですが短篇連作という事で投稿してみました。
未熟者ですね。精進致します。