- 『甦り』 作者:リストバンダー / ショート*2 恋愛小説
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全角2240.5文字
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原稿用紙約6.7枚
自殺しようとした女の子との淡い恋物語です
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僕の名前は鈴森夾。一人暮らしをしている十五歳。なぜ一人暮らしをしているかというと、両親が交通事故で昇天そてしまったからだ。だから自分で生活費を稼ぎ、一人暮らしをしている。
今日、バイトから休みをもらっている。大体三週間ぶりの休みなので、家でゴロゴロしていようと思っていた。けど、体を動かしたくなったので家を出ることにした。
町では平日にもかかわらず、高校生や中学生を結構見かけた。ほぼ間違いなくサボりだろう。どいつもこいつも友達と何かを話しながらゲラゲラ笑っている。僕は見ていないふりをして、町の外れへと向かった。
外れは町とは正反対の世界が広がっていた。町は鮮やかな色を使った看板や人でごちゃごちゃしてにぎやかなのに対し、外れはほとんど灰色ばかりの暗い色になった廃墟の建物ばかりで人などまったくいない。
この廃墟の町は不気味の象徴といってもいいほどだ。僕は何かに導かれるように廃墟と化した建物の中に入っていった。
まだ昼だというのに、中は薄闇の状態でよく見えない。もう、本当に幽霊とかが出そうな感じだ。
ガシャアアァァァァァァァン……――!
いきなり、金属やガラスの割れ落ちるような音が廃墟の静寂を破った。僕はそれを聞いた瞬間、恐怖が込みあがり、即座に逃げ出した。が、
「ケホッ」
そんな声が聞こえたので、僕は立ち止まった。今の声はどこから?
「ケホッケホッ」
右後方の部屋から聞こえてきた逃げ出したかったけど、好奇心がそれを許さない。
僕の足は声が聞こえてきた部屋へと進んでいった。そして、音を立てないように部屋を覗いて見ると、髪の長い女の子が一人、部屋の中央で座り込んでいた。よく見ると、天井に吊るされていたはずの蛍光灯が女の子の前に転がっている。さっきの音の正体はこれみたいだ。
「あの……すいません」
話かけると同時に女の子は振り向いてきた。
「何をして――」
僕の言葉は、それ以上続かなかった。あるものに気づいてしまったからだ。そのあるものとは、一本のロープ。ロープの端のひとつは蛍光灯に絡められ、もうひとつは輪になって女の子の首にかかっていた。近くに土台のようなものがある。つまり、この子は自殺を図っていたのだ。僕は彼女の隣に座り込んだ。顔を見ると、だいたい僕と同じ歳ほど。薄暗い上に悲し
そうな顔をしていたが、間違いなく美人だ。
「これ、外そう?」
首に掛けられているロープを指して言った。けど、返事どころか反応すらしなかっ
た、。輪を外そうとしても抵抗もしない。そして、外しても何もしない。
「大丈夫?」
反応しない。
「名前は?」
やっぱり彼女は反応しなかった。まるで悲しい顔をした人形と離してるみたいだ。
「肯くだけでもいいからさ、返事くらいしよう?」
そう言うと、小さく肯いてきた。
この後、いろんな事を言って僕は家に帰った。それからあの子のことが心配になっ
たので、バイトの後、あの場所に通うことにした。けど、彼女は肯くか首を横に振る
だけで話してこない。さらに、日に日に彼女は痩せていく。食べ物や飲み物を持って
いったが、飲み物が少しずつ減るだけで、食べ物はまったく食べなかった。
「病院に行く?食欲がないのだったら点滴だけでもしようよ」
そういうと、初めてしゃべってきた。
「ヤダ!行きたくない!」
かわいらしい声で拒否し、腕にしがみついてきた。彼女は力一杯しがみついたのだ
ろう。けど、その手は震えており、力は入っていないに等しかった。
次の日、とうとう彼女は倒れた。救急車を呼ぼうとしても必死に止めてくる。だか
ら、パンを食べるようにと口の前にパンを近付けた。
けれど、ダメだった。噛めなかったのだ。かなり衰弱しており、噛む力が残ってい
ないみたいだった。僕を引き止めているのは、執念の力なのだろう。
いろいろ考えた末、口付けで食べさせた。僕がよく噛んで彼女の口へ。そのまま彼
女は飲み込む。彼女は嫌がらずに、これを何回も繰り返し
こんなキスは不本意だけど、人命救助のためだ。
食べ終わってから彼女の顔を見てみると、赤く、そして笑った顔をしていた。
「ありがとう。それと、ごめんね……」
彼女はそう言うと、ゆっくり目を閉ざした。数秒後、僕は呼びかけてみた。でも返事をしない身体を揺すってみた。それでも反応しない。ただ赤くなった顔のまま、目を閉じているだけ。本当に眠っているようだった。
あれから、一年の時が流れた。僕は今、墓参りに来ている。もう供え終えたお供え物を、もう一回みた。
線香、花、飲み物、そしてパン。
「久しぶり、元気ににしている?」
そう墓に呼びかける。こうしていると、本当に話しているような気がするのだ。いろいろ話していると、
「夾! 水持ってきたよ」
かわいらしい声のする女の子が水を持ってきた。彼女の名前は青山千秋。僕の彼女だ。髪が長くて身長も高い。気が強いがとても優しく、可愛い子だ。「あれ?そのパンって、あの時のと同じやつだ」
そう、あの死にそうだった女の子。あの後回復して、それから一緒に暮らしている
のだ。なぜ自殺しようとしたかというと、両親に捨てられてしまったからみたいだ。
千秋は僕から目線を外し、こう言った。
「ねえ、家に帰ったら、あの時の……やってくれる?」
「え!……えーと……いいよ」
青空の下で赤く染まる僕と千秋の顔。
「帰ろう、千秋」
僕は言った。
「僕たちの家に」
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2005/09/28(Wed)12:36:58 公開 / リストバンダー
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