- 『埋められた遺産』 作者:新先何 / ショート*2 リアル・現代
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全角1327文字
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原稿用紙約3.9枚
死んだ祖父の遺言を聞いた親戚や家族は一斉に穴を掘り始める。壊れていく家を僕は眺める。そんな夏の午後。
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祖父が死ぬ間際に変な遺言を残したそうだ。
夏の午後、祖父は実家でたくさんの親戚と家族に見守られながら他界した。
僕の家は世間一般で言えば大豪邸で、お金持ちだ。そんな家の主が死ぬとあれば、親戚一同少しでも遺産をもらおうと僕の家に集まった。
そして祖父は正に死ぬ間際、こう言ったそうだ。
「遺産はこの家の何処かに埋めたのだが、わしはもう呆けてどこに埋めたか思い出せないのだ。だから誰か見つけたらそれは見つけた者の物だ」
それを言った直後、祖父は目を閉じた。
それをスタート合図にしたかのように親戚一同は走り去った、僕の親も走り出す。祖父の死に涙を流したのは僕だけだろう。祖父の死んだ部屋には、僕と祖父の死体しかなかった。
祖父とのお別れも済み、僕は部屋を出た。廊下の床はほとんど剥がされていて、下に土が見えていてどこも掘り返されている。隣の部屋や庭の方からはスコップの土を掘る音と喧騒が入り乱れていた。
今いる場所から僕の部屋に戻るには長い廊下を歩く必要がある。予想はしていたがそのすべての廊下の床は剥がされていて部屋についた頃には靴下は真っ黒になっていた。
僕の部屋の中にも親戚がいた。一人は別の親戚の結婚式で見た事がある程度だし、他の親戚は顔すら見た事がなかった。
僕は机の上に座り込み僕の部屋が汚くなるのを見ていた。何か悲しくなる。
結局僕の部屋も居づらかったので、祖父がいた部屋に戻る事にした。どんどん祖父の家が壊されていくのを横目に見ながら土の感触を足で感じ取る。
祖父の部屋もひどく荒らされていた。祖父が寝ている布団を避けて周りは穴だらけだ。
僕は祖父の手を握る、体温のない死人の手はやはり冷たい。
ふと、手に違和感を感じる。祖父の手の甲を見ると一部分だけ皮膚が正方形にふくらんでいた。
僕はまた自分の部屋に戻り、カッターをとり祖父の部屋に戻る。僕の部屋にいた親戚はまた変わっていた。冷たい視線で僕を見る。邪魔だ、早く出てけと言わんばかりに。ここは元々僕の部屋だ。
祖父の部屋ではさらに土が蝕んでいた。祖父は下におろされとうとうこの部屋に床という物がなくなった。
僕は部屋の隅に安置された祖父の手の甲にカッターを入れる。血が少し飛び出した。中には折りたたまれた一枚の紙と鍵が埋め込まれていた。紙には家の近くにある大きな駅の名前と三桁の数字が書いてあった。多分コインロッカーの番号だろう。
僕はその鍵とメモを手に取り部屋を出た。自分の部屋に戻り荷物をまとめる。親戚はいなかった。
炎天下のアスファルトを大きなリュックサックを背負い歩く。真新しい鋪装の上に僕の汗がシミを作る。
あんな家にはもう居たくなかった。何処か旅に出て気に入った場所で定住しようと思う。お金は三桁の数字と鍵があれば心配ない。
後日、風の便りで聞いたのだがもう一つ家で見つかった物がある。庭の隅に咲いていた柿の木の近くにメモが埋まっていたそうだ。そこには「これを最初に見つけた者にこの土地を譲る」と書いてあったらしい。しかし廃墟と化した家は当然人が住める状況じゃなくなり、素人の無神経な堀方によりがたがたになった地盤の土地がそう高く売れるはずもなかった。
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2005/09/20(Tue)20:21:35 公開 / 新先何
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■作者からのメッセージ
めっさ短いです。
これ雑談版の恋羽さんがやっているしりとりで小説を書いていく企画に「埋蔵」として投稿しようとした作品ですが、諸事情により投稿が遅れ先を越されてしまったあほらしい作品です。
こんな作品でも感想頂けたらうれしいです。
以上、新先でした。