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『読書の裏切り』 作者:勿桍筑ィ / ホラー ショート*2
全角1901文字
容量3802 bytes
原稿用紙約6.55枚


      
    読書の裏切り

  


 俺は漫画とか、アニメとかが嫌いだ。ましてや、オタクなんかを見るとイライラしてくる。何でそんなに、漫画が面白いんだ。アニメのどこが良い。そんなの見ても何の利益もない。無駄な時間を過ごすだけだ。それに周りからも気持ち悪いと思われるだけじゃないか。
 街で、漫画や本を読んでいる人を見かけると馬鹿らしく思えてくる。みんな気持ち悪い。そんなに真面目になっちゃて。変人ばっかり。

 
 俺は、小学校の辺り頃から漫画には興味は無くなっており、いつも漫画ではなく小説の方が興味があり、いつも読んでいた。休み時間になったらすぐに本を読む。漫画を読む奴よりかっこいいと思ってさえいた。
 そんな時、友人からこんな事を言われた。
「お前、いつも本読んでて暗いし、気持ち悪いよ。そんなに面白いかよ」
 この言葉を掛けられて、俺は小説を読む事も止めた。ただ、気持ち悪いとは思われたくなかっただけで。
 だから、小説を読むことでも、気持ち悪いと思われるのだから、漫画なんてまさにだ。
 だから、家には本棚がない。本など無い。俺は読み物は何でも気持ち悪いと思われると感じている。
 だから、新聞もない。だから、今までの教科書も買ったその日のうちに全部捨てた。もちろん漫画なんて無い。


 ある日、家に俺の唯一の同い年の大学に通っている友達が来た。そいつは、俺の漫画嫌いを知っていた。俺に、「小説を読むことは気持ち悪い」と言ったのも此奴だ。
「なんだよ。急に呼び出したりして」
 そうだった。来たのではなく来てくれたのだ。
「いや。急に人と喋りたくなって」
「そう、か……」
 友人も俺と同様、本を読むのが嫌いである。だから、俺は此奴と友人になった。だが、今日は此奴と会うのは小学校以来だった。
「久しぶりだけど、お前の家って本棚ないんだな」
 友人は、首をくるくる回しながら何故か不思議そうに言っていた。
「そうか……。昔はお前の家もそうだったじゃないか」
 そう言って。少し間があった。
 そして、友人が何か楽しそうに話をし出した。
「なあ! それより、お前昔小説読むの好きだったよな」
「昔はな。でもお前の言葉で嫌いになったよ」
 すると、友人は顔色を変えて言った。
「お前少し‘本読んだ方が良い’ぞ! 本じゃなくてもいい。新聞でも何かの資料でも良い。何でも良いから読んで、情報を集めなきゃ生きていけないぜ」
「お前が言ったんじゃないか。本を読む事は気持ち悪いって」
「確かにあのころはそう思った。でも高校生になって変わったんだよ。本を読むこと、新聞なんかを読むことは今後の人生のために良いって。お前もこれからでも遅くはないよ。な! 何か読むようにしろって」
 俺は裏切られた。小学校の頃からずっと騙され続けていたのだ。此奴の言葉に。許せない。
「俺の人生を返せ!」
「は!? 何、言ってんだよ?」
 と、此奴の手に本が握られていたことに気づいた。
「それは何だよ!」
 俺は、それに指をさしていた。
「あっああ。これは、お前に読ませようと思ってな」
「……お前って奴は……」
 俺の目からは涙が出ていた。俺は俯いたまま床に両手をつきながら続けた。
「本当に、良い奴だな」
「あ、ああ。今からでも遅くはないよ。一緒にこれから一杯本を読もうぜ」
 友人は俺の手を持った。俺は顔を上げて、相手に対して笑っていた。
「……ありがとう。ははは、お茶でも飲んでいけよ」
「ああ」
 俺は台所に行き、棚からカップを二つ出し、お茶を沸かした。
 向こうでは、友人が楽しそうに、持ってきた本と漫画がどれくらい面白いか喋りまくっていた。
「そんなに面白い物なのか。早く読んで君に感想を送るよ。後で、メルアド教えてくれ」
「そうだな。ははは! 良かったよ、お前に笑顔が戻って」
 俺は台所から、おぼんに載せたカップを二つ持って友人に渡した。
「さあ、単なるお茶だけど、飲んでくれよ」
「ありがとう」
 友人は、あぐらを掻いて、そのお茶をがぶ飲みした。
「はあ! 喉乾いてたんだよ」
 友人は笑っている。俺も笑っている。俺は楽しかった。
 俺の人生を狂わした男が、俺の作ったお茶を飲んだのだ。俺は楽しかった。愉快だ。
 きた。
「う……何か気持ち悪くなってきた」
 友人の顔色が変わった。
 ははは! 俺は心の中で笑っている。爆笑ものだ。ははは!
 友人は何かを言いながら涙を流し始めた。ははは! 楽しい! 惨めだな。
 さてと、ゆっくりと友人を観察するか。初めての漫画でも読みながら。
 友人の飲んだお茶には、たっぷり漂白剤を入れておいた。
 嬉しい。





2005/09/19(Mon)16:08:31 公開 / 勿桍筑ィ
■この作品の著作権は勿桍筑ィさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも、皆様勿桍筑ィです。
この作品は、とても短いです。一応ホラーとして書きましたが。決してお化けが出るとかという物ではありません。
実際に有りそうで無いような……。
友人の言葉にも力を入れましたので。


久しぶりなので、文章が前より更に稚文な物になってしまいました。それでも読んでいただければ幸いです。
読んでいただけたならば、感想を御願いいたします。±点だけとかを入れるのはご遠慮下さい。
では失礼いたします。
この作品に対する感想 - 昇順
拙稿に感想をありがとうございました。

この友人のような身勝手な理屈をこねる人は周りにもいますね。
高校時代は写真部キモイとか言いながら、大学生になったらちょっとアートに触れてみようなどと写真部に入ったりする人とか。

何が「何でも良いから読んで、情報を集めなきゃ生きていけない」「今後の人生のために良い」でしょうか。私もこう言われたら腹が立つと思います。

ここまではさすがにやりませんが、そういう軽薄な人間にお仕置きをしてやりたい、とは私も思わないでもありません。

主人公の怨恨の深さに共感できました。

誤読でしたらごめんなさい。
2012/02/25(Sat)16:13:461天野をぶね
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