- 『氷姫に贈る花』 作者:一徹 / 未分類 未分類
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想いこそが力となる。
だってそうだろう? この世界はファンタジー。
大魔道師は、氷の中に姫君を見つけた。
クレバスの奥底の壁面、永久表土の白く濁ったその中に、精密な技巧を凝らされた一体の芸術品が、沈められていた。
大魔道師は、話しかけてみる。
「生きているかね?」
返事は、あった。
助けてください、と、確かにあった。
永久表土を溶かすには、炎が必要だ。
それも、地獄に咲く業火以上の、巨大な熱の塊が。
大魔道師の魔術でも、そのような炎をつむぐことは出来なかった。
ふと見上げればさんさんと輝く太陽があって。
「ふむ」
やってみようか、と頷いた。
まず、大魔道師は山を登った。
山頂にある港から、天へと上るためである。
途中、巨大な竜に出くわし、左足をもがれた。
「何故、空を目指す」
竜に問われ、大魔道師は答えた。
「愛しの姫君には、大輪が似合うと思ったのだ」
下らんな、と竜は吐き捨てながら死んだ。
山頂の港にたどり着いた大魔道師。
しかし船は一向に出港する様子を見せない。
「いつ、白雲の海原へと船首を向けるのか」
船長に尋ねた。
「天命があれば」
さらに話を聞けば、船長の祖父の祖父の祖父の代から、船は出港していないという。
「それは困る。彼女には時間があるが、私には時間がないのだ」
大魔道師はそういって、船長を下ろして、出航した。
天に通ずる道には、門番がいる。
神の僕たる、天使である。
「ああ、なるほどな、我々の想像力は貧困であった」
つまり。
天使は人を救うものでなく、
神に近づく者を叩き落すためにあり、
つまり。
「さあ、来い! 白き翼の悪魔らよ! 人でありながら人を超えた大魔道の力、とくとご覧あれ!」
大魔道師は、杖を振るった。
はたしてその身にどれほどの意志が込められているのか。
何百と迫る天使らを、彼は、右腕を失うだけで退けた。
止血せずとも、血は止まり。
痛みはすでに忘却の彼方。
ゆえに意志は先行する。
「フムン、ここが神の国、天界の」
人が人としてたどり着くことはない絶対領域。
英霊とならず、彼は私意のみを携えて、そこに立っていた。
『人間よ、なぜそこまでして太陽が欲しい?』
神は非情であるが、不屈の存在には、温和である。
「太陽が、欲しいのだ」
神は笑い、
『いいだろう、くれてやる』
何の条件も課さず、太陽の間へと案内した。
天界が人を許さぬというのなら。
太陽は神すら許さぬ極限領域。
あらゆる物は、到達する前に蒸発し、
それは大魔道師でさえ例外でなく。
太陽を直視した瞬間、当然のように目がつぶれた。
『引けぃ人間。その小さな身一つで何が出来よう』
浅はかな人間を、嘲笑する。
『一歩でも進んでみろ、貴君はきっと、消し炭にさえならない、その存在、魂すら、浄化されることなく、漂うことなく、完全に、ショウシツするぞ』
大魔道師は潰れた眼差しで太陽を見据える。
「構わん、一向に、構わんさ」
つまり、彼は人でなく。
一歩。
二歩。
神ですらなく。
驚愕に震える神の御前。
真っ黒焦げになりながら、それでもなお手を伸ばし、大魔道師は到達した。
「では、貰っていこうかァ」
ゆえに狂人。
想いこそが、力となるから。
まさか太陽を取られるとは思っていなかった神は、
『人間、それがなくなれば、どういうことになるのか分かっているのか!』
焦燥に駆られ、
しかし一歩を出せず、地団太を踏む。
夜の間に、そうっと運んだ。
それはさながら、流星が落ちるよう、すうっと永久氷山の方角へ。
「今こそ、救おう」
大魔道師は、こうして太陽を、愛しの姫君へと、差し出した。
太陽の前にはいかなる氷といえど、融けざるを得ず。
「ああ、ようやく会えた、ようやく、この――」
だからこそ。
氷姫は、融けるのだ。
「ああ……」
違う。
焼失では、ない。
焼けて、炭と化し、空に溶けるのでは、ない。
違う。
氷姫は、氷姫。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
一言。
「ありがとう」
朗らかな微笑を浮かべて、氷姫は水になっていく。
「ああ……あ……」
ならば返事は決まっている。
大魔道師は動いているかも分からなくなった左腕で、恭しく姫君の手を取り口づけをし、
「どういたしまして」
誇り高く。
ぱしゃ。
完全に融けた。
花は、捧げておこう。
ちょっと暗いけど。
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2005/09/14(Wed)01:21:04 公開 / 一徹
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■作者からのメッセージ
ども、一徹です。
小説として破綻しているかもしれません。竜が出てきたり竜弱かったり神様が出てきたり神様ヘタレだったり。けど高い山というと竜で、天界といえば神さまだと思うんですよ、内面はともかく。
よろしければ、ご感想ご意見ご指摘いただけたら、幸いです。