- 『――心――』 作者:紫苑 / ファンタジー 未分類
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原稿用紙約9.3枚
第1話 伝説
人間には、誰だって【心】がある。
これは、心を無くした少女の物語―――
今からおよそ500年前。
平和だったこの地に、魔王がやって来たのです。
魔王は、自らを【闇の使者】と名乗り、次々に娘をさらっていきました。
それだけでなく、魔王はすべての光を消してしまいました。魔王にとって、光は天敵だったのです。
空は黒い雲に覆われ、魔物が出現する闇の国になってしまいました。
さらわれた娘達は、皆心を無くして戻ってきました。
人々は、城に行って魔王の家来になるか、此処に残って魔物に食われるか、選択を強いられることになりました。
多くの人々が、魔王を倒すため、城へ向かいました。しかし、誰一人帰ってくる者はいませんでした。
ある日、一人の少女が魔王に連れさらわれました。魔王はいつものように、少女の心を吸い取ろうとします。しかし、吸い取ろうとした瞬間、光が魔王を包み、魔王は光もろとも、その少女に吸い込まれていきました。
魔王は消えたのです。少女によって。
魔王が消えた瞬間、空を覆っていた黒い雲が消え、太陽の光が差し込んできました。その光を浴び、魔物達は溶けてしまいました。娘達も、心を取り戻しました。
人々は、その少女を【神からの使者】と称えました。
しかし、まだ問題は残っています。
魔王は死んだ訳ではないのです。
少女の心の中に―――力は失っていますが―――いるのです。
このままでは、魔王が力を取り戻し、復活してしまうかもしれません。
人々は、少女を強力な魔法で封印しました。
その少女は、いまだに封印されているといいます…
「はぁ…またこれかよ。もう何回も見たっつーの…」
テレビを見ながら、俺…レインはため息をついた。
昨日からずっとこればっかりだ。どのチャンネルにしても、【アール王国の歴史】ばっかり。
無理もない。この話に出てくる少女が昨日、【封印の神殿】から姿を消したと言うのだ。しかし、神殿に入れる者は誰一人といない。姿を消す、ということは、少女の封印が何者かによってとかれた、そう考えるしかない。
「つまらねー」
俺はテレビの電源を消すと、外に出た。空はいつもと変わらず、太陽が光っている。魔王が復活したなんて、とても信じられない。
あんなおとぎ話、信じる奴はバカだ。…とか言って、俺も小さいころ信じてたんだよな…ま、ガキの頃だし。俺は苦笑した。
「な〜に変な顔してんのよ?」
突然の声に驚き、前を見ると、幼馴染のリルアがいた。
リルアは、俺と同じ金髪を、肩の所まで伸ばしている少女だ。青色のフードつきのマントを、いつも羽織っている。
「お前かよ…」
「何よ?その嫌そうな顔!」
俺が顔をしかめるのを、コイツが咎める。
「別に…それより、何の用だ?」
「勿論、コレよ」
リルアが朝刊を見せる。
「それが…何か?」
「…は?」
リルアは呆気にとられた。何なんだ…?
「何だよ?」
「あんた…知らないの?」
俺が頷くのを見ると、リルアはため息をついた。
「まったく…あれだけ騒ぎになっているのに…」
リルアは、持っていた朝刊を俺に渡してきた。俺が受け取るのを見て、
「読みなさいよ」
と言い残し、その場から去っていった。
俺は朝刊を見た。大きな文字で、『少女からのメッセージ。魔王復活か!?』
と書かれている。俺は気になって、続きを読んだ。
【封印の神殿】から姿を消した少女。その少女が昨日の夜中、アーク王の前に現れた。
「あと一ヶ月。一ヶ月たつと、私の中から魔王が出てきて、この世界を支配してしまいます。だから…一ヶ月以内に、私を…魔王を見つけだして、殺して下さい。ただ、魔王を殺せる者は、一人だけです。封印の神殿にある、大きな水晶が認めた者だけが…」
そう言い残し、少女が消えた。
王は今日、魔王を倒す勇者を選ぶため、宮殿に人を集める予定―――
「マジかよ…」
「読んだ?」
リルアが戻ってきた。
「ああ…」
俺はリルアに新聞を渡した。
「で?レインは行くの?」
新聞を受け取りながら、リルアは聞いた。
「嫌」
「はっきり言うのねー…」
「何の得にもならないだろ?」
「この世界が危ない時によく言うわね」
リルアは俺に軽い返事をすると、新聞を開いて、読み始めた。
一分ぐらい、無言になっただろうか。たまりかねた俺が話しかけた。
「…なぁ、家に帰って読めよ…」
俺はそう言って、奴から新聞を取り上げようとした、が…
「ねぇ!」
リルアがいきなり俺の腕を掴んできた。痛いっつぅの…
「これ!見て!」
「…痛い」
俺は顔をしかめた。
「あ、ゴメン。それよりこれ見て!もし水晶に選ばれて、魔王を倒すことが出来た人は、賞金十億G…」
「何!?」
【金】という言葉に反応して、俺はリルアから新聞を奪い取った。そして、食い入るように読み始める。
「レ…レイン?」
いつもは無口で自分からはあまり行動を起こさない俺が、金の事になると、ここまで反応するとは奴も知らなかったみたいだ。
いきなり俺は新聞を投げ捨て、不敵な笑みを浮かべる。
「決めた。俺、行くよ」
第2話 旅立ち
翌日、早速支度を終えた俺は、村の人々に見送られて、村を出て行った。
見慣れた風景を通り過ぎ、森へとつながる洞窟に入ろうとしたとき、
「レイン!待って!」
と言う声と共に、リルアが駆け寄ってきた。ずっと走ってきたのか、息を切らせている。
「ごめん…私も見送ろうとしたんだけど…準備がまだで…村の人に聞いたら、もう出発したって…だから…走って…きた」
リルアは息を切らせながらポケットから指輪を取り出した。赤いルビーがついている。彼女はそれを、俺に差し出した。
「お守り。魔法の指輪だよ」
それを受け取ろうとしていた俺は、【魔法】という言葉を聞いて、慌てて手を引っ込めた。
リルアは魔法使いであり、色々な魔法の品を持っている。そういう品は、魔力を持たない普通の人間が持つと、その人に害を及ぼすのだという。幼い頃からそう教えられてきた俺は、当然の反応をしたまでだ。
「あ、これは触れても大丈夫だよ。強い魔法じゃないから。それに…」
「何だ?」
「な、何でもない。とにかく大丈夫だから!!」
俺は恐る恐る指輪に触れてみた。俺の指が触れても、指輪は何の反応も示さなかった。
「ね?言った通りでしょ?」
リルアが笑いかけた。
「お守りとして持っててね」
俺は指輪を握り締めた。
「サンキュー。大切に持ってるからな」
そう言って、俺は洞窟に入っていった。
リルアは、俺の姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめていた。
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