- 『こちらドコカーナ調査隊』 作者:一徹 / お笑い ファンタジー
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全角3062文字
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原稿用紙約10.15枚
彼に課せられた任務とは。
「さて、君には、ある大陸の調査に向かってもらう」
「ある大陸っすか?」
諜報局局長は部下に命ず。
「お前も耳にしてはいるだろう」
「まさか」
そうだ、と局長は頷き、
「はるか西、太陽の没する超々巨大大陸だ」
局長はそれ以上のことを語らない。
「片っ端から調べてくれればそれでいい」
「それで、どうやって調査内容を本国に送るので?」
机の上には世界地図。
もぐりこむ大陸から本土まで、どんなに小さく見積もっても数万キロ。
引き出しの中から長方形の物体を取り出した。
「彼の国からの贈呈品だ。友好の証だとよ。
もう一個は私が持っている。携帯電話、というそうだ」
「はあ」
「なんでも遠くにいる人と会話できる、ミラクルなマシーンだそうだ。人工衛星とかいう、訳の分からんものを経由して、たとえ大陸中央部にいても会話可能」
「なんとも不思議な機械だなあ」
「よく分からんが、充電、という作業が要らんようだ。本来それがないと動かせないのだが、中に凄い電池、という部品が入っている。そのおかげで八百七十万時間連続稼動が可能となった」
「分かりやすくいうと?」
「千年。本体が持てば、半永久的に使えるらしい」
ゆえにその国のテクノロジーを奪って来い。
「いやあな、そろそろ大統領閣下も、世界制服をしたいお年頃なんだ」
「大変ですね」
「絶対無理だろうがな」
一方彼らの国の贈呈品は、国花の菊を十万株。花園一個丸ごとの購入。
花で人工衛星に勝てという。
「な? 無理だろう?」
局長は嬉しそうに笑った。
「無茶を通り越して、無理ですねえ」
部下の諜報員は呆れたように額を押さえた。
「まああれだ、肩の力を抜いて、観光気分で楽しんでくればいい。お土産を頼む」
「諜報局長がいう言葉っすか?」
「だってあの国無理だもの」
「無理って、何が……」
彼は知らない。その国の正体を。
「まっ、しょうがないっちゃあしょうがないがな。我々のような政府上層部にしか、あの国の真実は伝えられていない」
「確か、名前は……ドコカーナ」
なんともふざけた国名だ。
「中身も随分ふざけていてな」
局長は世界地図を示した。
「さて」
勢いよく破り捨てる。
「な、なにやってるんですか!」
「いいから」
局長は続ける。親の仇のように細切れにして、一枚の紙片だけ残し、ほとんどを屑箱にいれた。部屋を見渡し、紙の片隅をちぎりとって、
「これぐらいかな」
「何がですか?」
「仮にわが国、ドルムフェムをこれほどの大きさと仮定しよう」
爪の先に乗るほどの大きさ。
「はあ」
随分縮尺が小さい。
「するってえと、かのドコカーナはどれぐらいの大きさだと思う?」
「……その、ちぎった本体ぐらい……」
大きいとは聞いている。実際地図にはドルムフェルの数倍の大きさに描かれていた。
「あ、駄目だ。君駄目だ」
そんな部下の常識を否定する。
「駄目なんだよ〜、それじゃ、全然足りないんだよ〜」
「え、だって、この時点で何倍とかいうレベルですよ」
「ドコカーナはそういうレベルじゃないんだよ。
アレは国家として間違ってる、そういうふうに考えないと駄目だ」
「……じゃあ、局長の手の平、ぐらい?」
局長は首を振った。
「ちょっと大きすぎましたか」
「逆だ。私の手の平程度では、ドコカーナの一パーセントにも満たん」
要するに何十倍は足元に及ばないという。
「え、ちょ、ちょっと待ってください」
「手短にな」
「だっておかしいでしょ? そんな、ドルムフェルだってそれほど小さくないのに、そんな何十倍とか……」
紙片三ミリに対し、手の平十五センチ。
「だから何度も言ってるだろう? ドコカーナを物差しで図ってはいけない、図るならメジャーを使いなさい」
「そういう問題じゃなくて」
局長は部下を押しとどめ、指先の紙くずを吹き飛ばした。
「部屋だよ。この部屋だ。いや、分からないな。
どうだね君は暗算が得意か? 残念ながら私は得意ではない。ただ暗記力はすこぶる調子が良くってね、教えてやろうドコカーナのでかさを」
諜報員は息を呑む。
「南北方向に千万キロメートル、東西には千二百万キロメートル。あいにくだったな、メジャーも使えん」
「し、信じられないでかさっすね」
諜報員は唖然となった。
「驚くのも無理はない。だが、事実なのだ。
だというのに陛下は攻め込みたいという。子供と大人、いやミミズと竜だ」
「竜……」
「何を吐くは分からないぞ? 炎か氷か雷か。とにかくミミズは土にもぐって逃げおおすしか生きる道はない。たとえ温厚だろうと、そばにいれば、身じろぎで圧死する。
小さな村にも負けかねない、ゲリラ戦でなく、簡単に総戦力で」
局長は深々と椅子に腰掛けた。
「だが、良かったことに、身の危険をかえりみず、潜伏してくれる者がいてね」
「俺、すか?」
「そうだ君だ。ようし、燃えてきたな、では君にコードネームを決めようか、いやあね、こういうスパイって、いろいろないと不便だろう? 偽名の一つや二つ」
「コードネームと偽名は違うっすよ」
局長は無視し、
「では訊く。ニジュウマル・セブン、ムシタ。どちらがいい?」
「なんすか、ムシタって」
局長は、優しく微笑むだけだ。
「それじゃ、ムシタのほう……」
「君では決められないか。
分かった、君は今日からニンジャだ」
局長は無理矢理決定した。
「は?」
耳を疑う。
「〈ニンジャ〉だ〈ニンジャ〉」
「ニンジャって……東雲の?」
昔、東雲を暗躍した隠密のエキスパートとは聞いたことがある。
「いやな、東雲国ってあるだろう? そこで君のようなスパイを、ニンジャ、と呼称するのだ。どうだなかなかの東雲通だろう」
親指を立て、歯を見せ笑う。
背後の本棚には『シノノメのカゲ、ニンジャ』『デリシャスハラキリ』と本が積まれていた。三枚の写真では、一枚目、嫌がる東雲国民にチョンマゲをかぶせようとするもの、二枚目、完璧な侍と化した男性と握手を交わすもの、そして三枚目、背景に『ニンジャランド』と大きくあって、どこか慣れた手つきで黒装束の男と握手している興奮気味の局長の姿があった。
「だからって、ニンジャは嫌っすよ」
自分は黒装束に身を包む勇気がない。
「ニンジャ嫌か。そうか、嫌なのか、それならしょうがないな、まあニンジャ以外でも上は許してくれるだろうな、
でもニンジャ以外認めないからな、たとえ正式にムシタに決まっても、私は君をニンジャと呼ぶ。いついかなるときも、たとえ任務を負え帰ってきたとしても、私は君をニンジャと呼び続けるだろう。仕事場、食堂、トイレでも、ニンジャニンジャと連呼する覚悟が私にはある」
「そんな覚悟いらないっすよ!」
「要るね。というか君が覚悟を決めればいいだけの話だろう? やあニンジャ、昨日はオシロに侵入してたのかい? やあニンジャ、水の上を滑ってたのかい? やあニンジャ、随分血の臭いが染み付いたじゃないか、何人殺った? なあニンジャ?」
「分かりました! いいっす、俺ニンジャでいいすから、そんなムキにならなくたっていいじゃないっすか!」
「いやいや、私はムキになんてなってないよ? むしろ君の自由意志を尊重したい。君がニンジャで良いなら止めはしないし、ニンジャは嫌、他のコードネームがいいと言ったら……
さて、ね?」
「分かりましたから、そんな暗喩的なこと言わないでくださいってば」
こうして、ニンジャは異国の地へと旅立つ次第となった。
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2005/09/08(Thu)22:42:15 公開 / 一徹
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■作者からのメッセージ
ども、一徹です。
始めての長編挑戦です。ああ、なんか続くかどうか不安です、ハイ。そのときの感情でささーっと書いてますから、ハイ。
なんか会話文だらけだなぁ、とおっしゃられる人もいるとは思います。まったくその通りで、私の描写力、構成力はロケットスタート、長い間続けるとなると、どうしてもめんどくさくなってしまいます。
小説を書くものとしては致命的ですね。だからこそお笑いで、どうにかしなければ、と。決してお笑いをバカにしているのではなく、お笑いがノリで読みやすいからと考えています。そりゃ丹念に練ったものも面白いですが、この場合ノリですな。ということで、ノリで読んでくれれたら幸いです。長々となりましたが、率直なご意見・ご感想お待ちしております。