- 『その黒き翼を ニ話 』 作者:空とゆめと / ファンタジー 未分類
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どこからどう見ても平凡な少年、日暮 憂(ひぐれゆう)は、実は怪(あやし)と呼ばれる存在と戦う宿命を背負った陰明師だった。そして十六になったその日、運命の歯車は回り始めた。ある奇妙な魂(かたり)との出会いによって―――。
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その日はいつもとは何かが違っていた。
うん、強いて言うなら、雰囲気というものが。
たぶん必然って、こういうものなんだな、と思った。
その黒き翼を 一話
朝の喧騒。学校へ向かう学生たちのざわめき。会社へ出勤する勤め人の倦怠感。
それに包まれているこの男、日暮 憂(ひぐれ ゆう)は、そんな朝のほのぼのとした
雰囲気を、ものの見事にぶちこわしていた。―何故かと言うと。
「……大体なんでこんな平凡がとりえで運動会の徒競争では三位以上をとったことのない
この俺がどうしてこんなことに…」
そう、朝から壁に向かって独り言を呟いている彼は、一種異様な雰囲気を晒していた。
彼の半径数十メートルに見えないバリアが張られているかのように、明らかに周囲の人々は
引いていた。
「俺がどうして怪(あやし)なんかと戦うんだよぉ……」
その一言とともに吐き出された溜息に、彼の人生は現れていると言っても過言ではない。
見た目も性格も平凡な男、日暮 憂。
しかし彼は、特殊な力を持つ男でもあった。
怪(あやし)―――。
それは日常に潜み、非日常に出現するもの達。
人々の平穏をおびやかし、密かに暗躍する。
しかし、それに対抗し、その異形のものたちと戦うべく生まれた人々がいた。
正式な名前は無いが、しかし彼らは時折こう呼ばれる。
陰明師と―――。
日暮 憂は、現在から今までの自分の歴史を振り返っていた。
思い出せば思い出すほど実に不思議な思い出ばかりだ。
どうして今まで気付かなかったのだろう?うちの親父の異常さに…。
小さなころ、親父と遊んでもらった思い出は皆無だ。
でもそれは親父に非があるんじゃないと分かったのは、最近のこと。
俺は親父をずっと普通のサラリーマンと信じていた。のだが。
なんで夜中どころじゃない明け方に帰って来るのか、どうして帰って来るときはいつも
傷だらけなのか。小さなころは「サラリーマンって大変なんだな」で済んでいた。
てゆーか、済んでたかった。
しかし、物心ついたとき、唐突に母に打ち明けられたのだ。
「憂ちゃん。あなたが十六になった時に、陰明師になってもらうからね」
最初は母さんがどうかしちゃったのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。
妙に愛想笑いを若干多く俺に振り撒く母親と、隣に包帯だらけで座る父親の真剣すぎる
まなざしは、どうも本当のことを言っているらしいと悟らせてくれた。
頼まれたら断れないいい人属性の俺。選択肢はYesしかなかった。
そして、なし崩し的に今日この日を迎えてしまったのである。
陰明師となる大切な日である今日。しかし、もう一つ重要な儀式がある。
魂(かたり)を呼び出すのだ。
魂とは、陰明師にとっては欠かす事のできない大事な存在である。
陰明師と誓約し、共に怪と戦う、俗にいう相棒のようなものだ。
しかし、この魂を呼び出す儀式はとても緊張する。
なぜなら、魂と一度誓約したら、そいつとはこれから運命共同体となってしまうのだ。
果たしてどんな魂が出てくるのか? それは運と、天のみぞ知る。
全く役に立たない魂が出てきたらそれこそ運命を呪うしかない。
でも俺は、見事に運命に翻弄されることとなる。
黒い羽を持ったあいつと出会うことで―――。
第二話
悪趣味。
この部屋に入って、まず浮かんできた言葉だ。
理由はどんなにセンスが最低な奴でも分かると思うが、なにせ部屋の壁という壁がすべて
鏡張りなのだ。いきなりここに放り込まれて、「君、明日からここで暮らしてね」なんて
言われようものなら精神が参ってしまうだろう。それぐらい変てこな部屋なのだ、ここは。
「憂ちゃあ〜んv さ、ここに座って座って!」
母親が妙にウキウキとした顔で俺を呼んでいる。なんとなく嫌な予感を覚えた俺は、そんな
母親には生返事だけを返し、今日のもう一人の主役とも言うべき目の前の「鏡」を見つめた。
俺の前に置いてある鏡―――の筈なのだが、鏡らしからぬ点が一つある。
映っていない。
いや、映せないのだ。鏡の表面には何やら湯気のようなもので曇っており、当然俺の姿も
曇りガラス越しの人影のように映し出されてしまっている。だが、母親に聞くと、きょとんと
した顔をして、私には普通の鏡に見えるわよ、と言い返されてしまった。
俺だけ? 前にもこんなことはあったのかと問うと、母親は含み笑いをして、俺の顔を
まじまじと見つめて言った。
「なあに憂ちゃん。怖いの?」
「ちっ…がう、けど」
「じゃあノープロブレムよ! さ、貴方は今日の主役なんだから!」
「…」
強引に俺の手を取り、その鏡ではない鏡の前に座る。
これは「魂(かたり)」を呼び出す儀式だ。この鏡が映し出した魂を自分と誓約させ、共に
戦うことを誓う。いわばこの鏡はあちらとこちらの出入り口。
言うなれば非常ドアだ。滅多に使われることはなく、必要な時しか出番が来ない。
鏡にしてみればあんまりな使われ方だな、と俺は同情した。
と、不意に目の前の鏡に、何かがちらついたような気がした。あれ、錯覚?
「憂ちゃん? どうしたの?」
「いや、なんかさっき変なものが映って……」
言いかけて後ろを振り向こうと身をよじった瞬間。見えた。
鏡に映る、少女の姿。それは何の前触れもなく起こった。
「何か」が俺の頬を掠り、そしてその「何か」は曇った鏡を粉々に砕いた。
ガシャンという破壊音をBGMにしてそこに居たのは、黒服で、裸足で、そして―――
巨大な鎌を携え、俺を見つめる少女、だった。
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2005/11/05(Sat)16:50:28 公開 / 空とゆめと
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■作者からのメッセージ
あれですね、読みにくくてすみません。どうぞお手柔らかに…。