- 『大好き』 作者:大屋なつの / 恋愛小説 ショート*2
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全角2430.5文字
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原稿用紙約9枚
ずっと言いたかったけどいえなかった言葉。それが永遠にいえなくなるなんて思ってもみなかった。この世の理からから離れてしまった今、私はどうすればいいのだろうか。
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ずっと言えなかった言葉がある。
言いたくないわけじゃない。どちらかといえば素直に言いたい言葉。
背の高い君はいつも私を見下ろして嬉しそうに笑うから。
つい、言わなくても伝わっていると思っていたんだ。
だから、私は…。
「大好き」
けたたましい目覚まし時計のベルの音と朝の眩く清い光。いつもの部屋でいつもの時間に目を覚ます。
仕事も今日は休み。それでも体はいつもの癖で早い時間にシャッキリと目覚める。
大きく伸びをして、カレンダーを見る。
今日の日付に大きな赤い丸。それは特別な日を知らせる印。
「よしっ!!」
掛け声とともにベッドから起き上がる。
にこにこと微笑みながらステンレスのジョウロでそばにあるベンジャミンに水をやった。
いそいそと朝食を食べ、お気に入りの服に袖を通す。
部屋を鼻歌を歌いながら掃除して、お昼前には部屋を出た。
今日は、君と私が出会った日。
そう、日常の行動は変わらずとも今日はいつもと違う。
集合場所は、いつもの喫茶店。そういえば二人ともここの常連で、それで親しくなった。
慣れないヒールを履いているのを無視して走る。
交差点に差し掛かる。ここまでくればもうすぐだ。
ふと、横断歩道の向こう側を見ると誰かが手を振るのが見える。
「沙紀ー!!」
だなんて大きな声を出して叫ぶ人影が君だと分かって、私も大きく手を振り替えした。
眩しそうに微笑む君に早く近づきたくて信号待ちの時間が何十分にも感じる。
いい加減にかわればいいのにな。
信号が赤から緑に変わる。私は思い切り走る。
我ながら子供みたいだ。
きっと向こうに渡ったら君は笑うだろうな。ガキだななんて言いながら…。
そのとき足がグキッとなった。次の瞬間には派手にアスファルトに叩きつけられる。
足を見るとヒールの止め具が壊れていた。
君の目は大きく見開かれていた。口は何かを言おうとパクパクしている。
どうやら、このお転婆に驚いているようだ。私は舌をちょっぴり出てピースサインをする。
大丈夫だよ。
そう叫ぼうと思って口を開いた。でも、君の悲鳴が聞こえてつぐんでしまった。
「沙紀ッ、危ない!!!!!」
え、何が?そう言おうと思ったとき空気を切り裂くようなブレーキ音がすぐ側で聞こえた。
音に視線を向ける。大きなトラック。
それが、目の前に迫っていた。
「沙紀ぃぃぃぃぃッ!!!!!」
何も考えられないまま、痛みも感じないまま。
私の意識は途切れた。
どれくらい時間が経っただろう。
私は暗いところにただ突っ立っていた。
私は、死んだのだ。
なんとなく、それは理解できた。
でも、私には意識があった。死んだのに、どうしてだ?
「死」というのは自分自身が消滅してしまうことじゃないのだろうか?
ふいに君の事を思い出した。胸がずきんと痛む。
そして、唐突に思った。
君に会いたい。声を聞きたい。
ここにとどまっているのは未練があるからかもしれない。
突然、眩しく辺りが光って眼を細めた。そこは君の部屋だった。
君はテーブルに倒れていた。頬に涙の筋を何本も残して眠っている。
手には私の写真なんかを持って…。
いまさら、死んだという実感がわいた。
来なければ良かった。
余計辛くなったと俯くと、君は小さい声で寝言を呟く。
「沙紀…」
聞こえていないのは分かっているが、つい相槌を入れてしまう。
「何?」
「気長に、待つから…。絶対、言わせてみせる・・から」
途切れ途切れのその言葉は私の記憶をよみがえらせた。
いつもの喫茶店でコーヒーを飲んでいたときだ。
「沙紀は言わないよね」
「何を?」
「大好きだって」
「!」
唐突な言葉に私はコーヒーを肺に入れそうになった。
むせて咳をする。
「どうして? 僕のこと、嫌い?」
私は慌てた。
「ちがう! 違うの。ただ…」
「ただ?」
「…恥ずかしいのよ」
そう顔を真っ赤にして答えると、君はあきれた声を上げた。
「はぁ?」
「わ、悪い?」
「いや純情だなって…」
君はくすりと笑った。
「ごめん」
「イイよ、気長に待つから。沙紀がいつか大好きって言ってくれるのを。絶対、大好きだって言わせてみせる」
君は笑いながらつぶやいた。
私の頬を大粒の涙がぼろぼろと流れ落ちる、嗚咽もこぼれた。
なんで、言えなかったんだろう。
恥ずかしいからといって何も言わずに…。
彼は待っているのだ。
私がいなくなっても、私が「大好き」と言ってくれるのを。
でも、いまさら嘆いても無駄なのだ。
触れないとは分かっていても私は君の頭に手を伸ばす。
子供をあやすかのように撫でた。
「ごめんね…」
聞こえないと分かっていても呟く。
私はあの暗闇の中へ戻ろうと思った。
あそこで悲しみに耐えながらとどまっていれば、君への報いになると考えたから。
背を向ける。すると君は目を覚まし、上半身を起こす。
私は再度、呟いた。
「ゴメンね…。さよなら」
「沙紀…?」
君の言葉に驚いて、私は驚いて振り返る。君はあたりを見渡しながら叫ぶ。
「沙紀、沙紀なんだろう?どこにいるんだ!!!」
声も聞こえないはずなのに、姿も見えないはずなのに、君は私を感じ取っていたのだ。
君が私をちゃんと想っていてくれているから、いまでも大事な人でいさせてくれているから感じ取れたのだ。
涙と同時に暖かいものがあふれ出す。
私は君に近づいて、そっと後ろから抱きしめた。
姿は見えなくても、きっと君は感じ取ってくれるだろう。
声が聞こえなくても、君は理解してくれるだろう。
君は動きを止め、叫ぶのをやめた。
「ありがとう。大好きだよ」
私がそう囁くと、君はからした声で呟いた。
「沙紀…?」
「大好きだよ。…大好き」
「僕もだ」
君はかすれた声で続ける。
「僕も、君が大好きだ!!!!」
そして、笑う。
「やっと、言ってくれたね」
「やっと、言えたよ」
体が軽くなるのを感じた。
もう、未練とやらは消え、私は本当に世界から消える。
でも辛いとは思わなかった。
君と私は通じているから。
体が消える瞬間、私も君も微笑んでいた。
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2005/09/03(Sat)11:20:47 公開 / 大屋なつの
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■作者からのメッセージ
初めての投稿でした。
なんか文構成も表現も、なんだかなー。な感じですね。
これから精進しようと思います。
なんだかありがちなストーリーになってしまって、申し訳ないです。10枚もいかなかったですし…。