- 『現実逃避の仕方 【読みきり】』 作者:影舞踊 / リアル・現代 お笑い
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全角15264文字
容量30528 bytes
原稿用紙約49.8枚
退屈な毎日。変わらないリズム。向き合う自分。消えそうなプライド。
どうしてだろう?
いつからだろう?
俺はいつからこんな風に……思ってる?
日々の毎日は単調で淡白で、風が吹けば飛んでいってしまいそうな、薄っぺらいものだ。だから俺は頑張って頑張って、濃密にしようと、何とかしようと頑張っている。
何ともならないのに、何とかなるんだと思い込ませて、頑張っている。
ときどきふっと思うことがある。
天使か何かが舞い降りてきて、俺のところに舞い降りてきて、何だか急に舞い降りてきて、チュウでもしてくれたらなって、その絹肌で抱きしめてくれたらなって、そんな風に妄想を抱く。現実に起こりえないことなんだけれど、百パーセント妄想なのだけれども、ときどきふっと思うことがあるんだ。
「現実逃避の仕方」
きらきらぴかぴか小学生。
ふわふわもじもじ中学生。
とげとげうじうじ高校生。
暖簾に腕押し大学生。
どうしようもなくつまらなくて、どうしようもなく夢がなくて、どうしようもなく味気ない。昔はいっぱい、数え切れないぐらいの夢があったのに、今じゃ指折りすぐ止まる。何だってこんな風になっちまったんだろう。俺は大統領にだってなれたはずなのに、何だってこんなに可愛げがなくなったんだろう。
唐突にそう思ったら、涙があふれそうだった。
もちろん、電車の中で泣くなんてどこのキチガイかわかったもんじゃない。俺は唇をかみ締めたよ。
大学生活は半分が過ぎた。もう半分。もう半分過ぎてしまった。
何をやってたんだろう? 何を思ってたんだろう?
考えたところで思い出は出てこない。ないんだから当たり前だ。しょっちゅう考えることだから、結末への過程もかなり省略されてきた。もうわかんない。どうやってその結末を導いたのかも、今の俺にはわからない。
けれどもだ!
けれども俺はちっとも悲観的じゃないぜ。
思い出なんてすぐに消えるさ。老化現象は誰にでもやってくるのさ。だからちっとも悲観的じゃないぜ。
俺は大学ノートの切れ端に、バカな漫画の絵を描いた。
全然似てないそのキャラクター、見れば見るほど憎らしかった。本物を見たらあんなにかっこいいのに、俺の書いたそいつは不細工で、無愛想で、どうしようもないぐらいにまぬけだった。
くしゃくしゃに丸めて捨てる。同時に授業終わりのベルがなった。ほら、暇つぶし大成功!
俺はちっとも悲観的じゃないぜ!
『どうやったらああなれるんだろう? すごいなぁ、俺にはできないよなぁ』
わかってるさ。もちろんわかってるんだ。
知ってるのに繰り返す、安っぽい疑問とお決まりのせりふ。努力すればそうなれる。才能なんてなくたってそうなれる。そんなことはわかってるんだ。
俺はタバコの煙を無理やり押し込んで同時に息も止める。苦しかった。
でもそのまま我慢して、しばらく考える。
今日もバイトだ面倒だ。今日は晩飯何しよう? 今日は昼飯食ったっけ? そういや昨日は水曜日か……明日が終われば休日だ。休日ごろごろ何しよう? 何だか苦しくなってきた。そういや奈菜川今フリーか? そういや柏木今フリーか? あぁだめだ、マジ苦しい。てか奈菜川も柏木も男だっての。やばいぜ俺、死ぬぜ俺……
「ごほっ!!」
ついに俺は噴出した。大学構内の喫煙所とは呼べない場所で、俺は盛大に咳をする。恥ずかしい。
「大丈夫!? 矢鳴(やなり)くん!?」
授業の合間にタバコを吸いに来るこの場所で、俺は何を考える?
俺は何を望んでる?
気遣わしげに俺の背中に手をやった女を見やる。
そしてこいつは何なんだ?
どうしたって避けられないものがあるんなら、俺はそれを運命だと思う。ならば運命だと思わなければそれはそれで運命ではないのかもしれないが、この場合は運命だと俺は思う。運命でなければ、神様の悪戯だとかメルヘンチックなことも考えてみるが、やはりそれも運命ではないか? 何だかよくわからなくなってきたが、とにかく運命だ。とにかくこれは運命であってくれないといろいろまずい。あぁいかん……混乱している――それは確かだ。
そういう状況に俺はいた。
誰だこいつ?
俺の訝しげな視線を直に受けながら、それでもなおまっすぐに見つめ返してくる女。だれだこいつ?
俺はこんな女のこと知らないし、知りたいとも思わない。けれども、女は俺のことを知っている。不可解だった。不愉快ではなかったが、不可解だった。若干気持ちは悪かったが。
「矢鳴くん、タバコ吸うんだ。知らなかったぁ。でもすごい咳してたってことは慣れてないの?」
誰だよこいつ。いい加減俺のことをそんな目で見るな。そんなまっすぐで穢れのない目で見るな。俺は薄汚れたダメ野郎だぞ、なんでそんな生まれたての子供を見るような目で見るんだよ。勘弁してくれ。
俺は何も答えず視線をそらした。とたん女が反応する。
「あー、私のこと覚えてないのぉ? 矢鳴くんとおんなじ学部で、おんなじクラスなのにぃ」
知るか。知るかボケ。俺が笑ってるうちに消えろ、女。俺は悪魔に魂を売れるぞ。いいのか、俺は悪魔に魂を売れるんだぞ!
「へぇ、そうなん? 全然知らんかったわ、ごめ〜ん」
ほぉら、悪魔もそっぽ向きやがったぜ……勘弁してくれ閻魔様。今すぐ死神送ってくれよ。
「ひどーい。わたし鳴本(なきもと)、矢鳴くんと一字おんなじなんだからぁ。覚えといてよぉ」
俺を誰だと思ってやがる。お前なんて知るか、知っててたまるかよ。大体なんだ、タバコを吸う女はろくなのいねぇんだよ。誰が覚えといてやるかよ!
「鳴本さんね……へぇ、泣き虫みたいでなんかおもろいなぁ」
こっちを見るな。嬉しそうにこっちを見るな!
「よく言われる。でも実際泣き虫じゃないからね」
「うそぉ? 実は涙腺ぼろぼろなんちゃうん? マスカラぼろぼろやでぇ」
「え? 嘘! まじ!?」
「うっそ〜」
「もぅ〜」
…………。
俺は何をやっている……。俺は何をやっている? 俺は何をやっている!?
楽しいはずがなかった。運命だとしても俺はこれを受け入れるわけにはいかない。俺の運命はこんなもんじゃないはずなんだ!
久しぶりの女との会話が弾んだだけだ。久しぶりに人と喋った会話が明るかっただけだ。久しぶりに……いや、やめよう。
とにかく俺は認めない。楽しいはずはないし、俺の心はやはり沈殿してしまっているし、そんな風な感情も出てきていないのだから。
なにより、
鳴本は限りなく不細工なのだから……。
夢があった。金はなかった。気持ちがあった。力はなかった。
いつだって両手は満たされない。うまい具合にひとつだけしか手に入らない。みんなは違うのかもしれないけれど、俺は少なくともそうだった。
欲しいものがあった時、ねだって買ってもらうようなことはしなかった。いつだって黙って、押し隠して、ひそかにそれを狙ってて、気づいてもらえるのを願ってた。人に迷惑をかけるのが嫌だった。自分以外の人には迷惑をかけるのが嫌だった。
「床磨いといてね」
「ごみ捨ててきて」
「レジお願い」
「ドリンク入れてぇ」
「おい、料理冷めるわ。はよ運べ」
俺は聖徳太子じゃねぇんだよ!
「はいすいません! 今やります」
明るい厨房。暗い倉庫。冷房の効いた部屋。ぬるい外気。
飛び交う注文。従う俺。
とにかく俺は頑張ってる。
誰かが俺を見てくれてる。
人に嫌われるのは嫌だった。
誰だって寂しいはずだ。きっと俺だけじゃないはずだ。みんな枕を濡らしてるんだ。
そんな馬鹿なことをぼやきながら、俺は寝苦しい布団の上でぼんやり天井を眺めていた。暗い暗い、面と向かってなお暗い。
俺は寝る時灯りを全部消す。別にそうしないと寝られないわけじゃないが、いつもそうしてるからそうしてる。深い理由なんてない。
そんな明かりのない黒の部屋で、ぼんやり天井を眺めては、いろいろどうでもいいことを考える。暗いけれども黒いだけで、真っ暗じゃないから退屈ではないし、明るくもないからそうしてる内に自然と眠りに入る。この時間が好きだった。
耳を澄ませば時計の針が進む音が聞こえる。目を凝らせば見えないものが見える気がする。時間の流れを感じて、得意の妄想を繰り広げて、徐々に徐々に虚ろになってゆく意識の中で、俺はある種の酩酊憾を覚えて眠る。そんな感覚が好きだった。
「……」
静かな夜。
何にもない。
寝返りを打ってみる。顔を枕にうずめてみる。
……真っ暗だ。
何のために生きてるのか、わからなくなった。
「おはよー」
勘弁してくれ。話しかけるな。
昨日は久しぶりに早く寝たから、うまい具合に一コマから出ることが出来た。俺はちょっとだけまじめだなとか思いつつ席についてたら、話しかけられた。頼むから近寄るな。俺は話すの苦手なんだ。
「おぉ。おはよう。真面目やなぁ、ちゃんと一コマから出てるんや」
バカか俺。バカだ俺。あー、何で隣に座る!
「矢鳴くんも出てるやん〜」
ええ、そうですね。すいませんね。
何の面白みもない授業。何の面白みもない生活リズム。生み出す変化か、吐き出す先が欲しかった。
「矢鳴くんって休みの日何やってるの?」
「現実逃避」
正直な気持ち、彼女は笑った。俺はむかついた。
でも笑った。
行き着く先は現実逃避で、これじゃダメだとわかってるから余計苦しいのに。何か掴んだ気になって、取り出してみたら当たりじゃないってわかってるのに。
俺にはくじを引く順番さえ回ってこない。俺には整理券さえ渡されない。腹が立つ。
でも、原因は俺がくじひきに行ってないからで、だからもうどうしようもない。
「現実逃避って具体的にどうするん? 面白い?」
バカな女だ。隙間なくバカな女だ。俺は笑った。
「冗談やって」
女はまた笑った。不細工、笑うな。
俺はむかついた、けど笑った。
部活……今日は部活だ。四コマ終わりに俺は颯爽とチャリにまたがり、構内を駆け抜ける。
部室前。開いていたドアを開けて、臭くて掃除が行き届いていない部室に足を踏み入れた。ちわーす、おなじみの声が聞こえる。ちわーす、おなじみの声で返す。
「あっ、そうだ! 矢鳴さん、タバコすってはるんすか?」
どきりとした。
「え、あ、なんで?」
「いや、この前教室前のとこで咳してたの矢鳴さんでしょ? 俺見てたんすよー」
笑う後輩、うつむく俺。
「……あー、すまん。見られてた? すまん、殴ってくれ」
笑いながら答える俺。けれども本当は申し訳なさで死にそうだった。
「いやいや、ちょっとがっかりーみたいな感じでしたけど殴んないすよ。倍にして返されるじゃないすか。でも体力大丈夫すか?」
「あー、やめらんとなぁ」
笑う後輩、笑う俺。どうすればいいのかわからなかった。
部活やってるんだから、タバコ吸うなんて最悪やぞ。スポーツマンにあるまじき行為!
そんなことをぼやぼや言ってた俺はどこにいってしまったんだろう。
「ですね」
答える後輩のその言葉が、なんとなく諦めに聞こえてしまって――惨めでくずな俺は決まって、黙して独り鬱になる。笑顔はずっと保ってる。
やっぱり殴って欲しかった。
◆
はいすいません。ごめんなさい。忘れてました、今やります。
最近一日に何度この言葉を使っているんだろう。俺はどれだけこの言葉に頼っているんだろう?
店内は活気付いている。もうすぐお盆だ、祭りも近い。夏休みに入って、くる客は増えるかと思っていたがそうも変わらない。ただ、元気よさは大分違った。暑さは増しているのにみんなよく笑ってる。気持ちよさそうに笑ってる。
「お待たせしましたぁ」
営業スマイル、今日は――いや、いつも抜群。
「あぁ、はいはい。で、あーそこはそいつな。でもそれをこうすると、やっぱり金かかんべ?」
「まぁあいつまだきてないしよ、それからでもええんちゃうか? とりあえず飲も――」
失礼します、俺は小さくそう言って空のお盆を下げて戻る。楽しそうな祭りの打ち合わせだ。代名詞だらけで何を言っているかはわからなかったが、楽しそうな雰囲気は伝わった。まだ酒も入っていないのに、熱気が伝わってきた。羨ましい。
最近は祭りなんて全然行ってない。行く相手もいないし、金もない。そもそも行く気がないからどうしようもないのだけれども、けれどもやはり羨ましかった。
一組しかいない客の個室から戻り、俺はボーっとする。
今日はいつもより若干暇だ。注文も少ない。
俺はお客に向ける笑顔を潰しながらボーっとする。楽して金が稼げるんなら願ったりだ。俺は無表情でボーっとする。そうしてるうちに時間は過ぎていく。
ラストまでそんな感じだった。俺は適度に動いて、時々ボーっとしてた。
家に帰る途中タバコをふかす。マッチで火をつけたら、火傷しかけた。
明日何しよう。バイトまでの時間何しよう?
家に着く。鍵を探す。ポケットから零れ落ちた。
明日何ある? 明日何曜日?
ベッドに横になる。汗のにおいが臭かった。
明日はあるのか?
目を閉じた。
――……疲れた。
――…………なんでだろ?
休みの日。俺はなんとなく早く起きる。うん、俺は早起きだ。
でも時計には目をやらない。なんとなく目をやらない。
しばらくしてから、目をやって、あぁもうこんな時間かと一人つぶやくのが好きだから。俺は充実した時間を過ごしてるから、こんなに時間がたつのが早いんだろうと、その感じが好きだから。
間違いない。俺は早起きだ。
ぴこぴこぴー♪
携帯が鳴った。
鳴本だった。
シャワーを浴びる。歯を磨く。服を着替えて、財布を確認。
とりあえず、おーでころんなんていうのもつけてみて、やっぱり臭いなと洗い流す。
タバコをくわえて、外に出た。
鳴本からのメールは『暇だったらあそぼ』という内容だった。自分のことに自信を持っている女だなと思った。身の程を知れと思った。
俺はメールで『おk』と返した。
なんだってんだ。俺は俺で忙しいんだ。現実逃避に忙しいんだ。チャリに乗って吸っているせいでタバコの減りが早い。それも俺のイライラを募らせた。
今日は紛れもない休日。夜にバイトがあるとはいえ、あんなことやこんなことが十分堪能できる俺の休日なのだ。それがあんな女に使わされるのかと思うと腹が立った。俺にかまうな、そう思った。
チャリで十分程度の場所が待ち合わせ。遅れていってもいいだろうと思い、五分前に家を出たのにやたら早くついて、時間ぴったしに俺は駅前の広場に来ていた。
俺は緩慢な動作でチャリから降りて、緩慢な動作で鍵を閉める。わざと鍵を手からこぼしてみたりして、時間を稼ぐ。その場でタバコを一本新たに取り出してみたりする。マッチ箱を探す振りをして、俺は目だけで確認する。最悪だった。
鳴本がいない。
いや、いないのはいい。いないのはいいのだ。それはそれで全く問題がない。
ただ最悪なのは来た場合だ。このような場合遅れてくるというのは俺の特権のはずで、鳴本にあるはずがない。あんな女に俺を待たせる資格があるはずがないのだ。俺は無愛想にタバコをふかし、そのまま挙動不審な動作で大きな円形の花壇へと歩み寄る。
最悪だ最悪だ最悪だ。
周りを見れば待ち合わせのカップルばかり。
なんだこいつらいちゃいちゃいちゃいちゃ。お前らが地球温暖化の原因なんだよ。お前らが俺の家から温かさを奪ってるんだよ!
叫びたい気持ちをこらえ、俺は時計を確認する。待ち合わせは10時のはずだ。ただいまの時刻10時5分。時計から目をはずし、周りを確認する。
最悪だ最悪だ最悪だ!
俺は今何をした。俺は今何をした? まるで俺が待ち焦がれているみたいじゃないか? まるで俺が恋してるみたいじゃないか!?
そわそわそわそわ落ち着かないのは俺の気性であって、けっしてそういのではない。断じて違う。言い切れるぜ、俺は。俺は違うぜ! 俺は恋なんて知らないぜ! 俺は鳴本なんて――
不意に背後から声がした。
「矢鳴くん」
振り返るな俺。耳を貸すな俺。前を見ろ! 空耳だ! 幻聴――
「おぉ! なんや来てたんかぁ」
女は笑顔で出迎えた。
「どこ行くん?」
「えーと、遊園地! 遊園地いこう!」
女は少しだけ考えてからそう言った。俺はべただなぁと思いながらも、何も言わなかった。
「わーどきどきするなぁ」
うるさいよ。黙れよ。死ねよ。そうだ、とりあえず死ねよ。
俺は怒りでわなわなと(そうに違いない)震える拳を握り締めて前を見続ける。鳴本の顔など見たくなった。ただでさえ、こいつのこんな発言で俺たちは完璧カップルとか思われているに違いないのだ。ほら、前の席の人を見てみろ。俺たちを見て笑っている。俺たちみたいな釣り合いの照れていないカップル(ではないが、この場合はそう形容するのがふさわしい気がする)を見て笑っているんだ。
不細工は黙ってろ。それ以上俺に近寄るなよ。この時間帯の電車はすいてるんだ。ほら、十分スペースはあるだろう!
「ねぇ、矢鳴くん?」
「ん? なに?」
手つないでいい? そんな馬鹿げたことを言った日にはお前の家に不幸の手紙を送りつけるからな。お前の部屋をネコとか犬とかの毛でいっぱいにしてやるからな。
「手震えてる?」
「え、あ、あぁ。気にせんといて」
てめえのせいだよ全部。てめえのせいなんだよ!
「握ったげよか?」
はぁ? はぁ!? お前何様よ!!?
なんだその上からの口調は? なんだその優しげな眼差しは? 俺様のご主人にでもなったつもりか? そういうのは男がご主人様で、女は可愛い小さいメイドって決まってんだよ!
ふざけんじゃねぇぜ!
「ははは、じゃあお願いします」
「うむ、よかろう」
そして俺はメイドか? メイドなのか?
遊園地は楽しかった。文句なく楽しかった。昼飯もうまかったし、暑さも苦にならないぐらいに面白いことの連続だった。エンターテイメントだった。
「やっぱり面白いねー。次もう一回あれ乗ろうよー」
嬉々としている鳴本の顔は鬼気としている。俺は思わず視線をそらした。
違うんだ。遊園地は楽しいように作られているんだから当たり前なんだ。俺は子供心を忘れていないんだから当たり前なんだ。ただアトラクションが楽しいだけであって、この女と一緒にいるのが楽しいのではない。こんな不細工はこの世から排除されるべきなんだ。
「いや、やっぱりお化け屋敷行こう。また怖がりやぁ」
「えー」
断じて違う。違う違うんだ。俺は違うんだ。そんなもの望んじゃないない。
「んじゃ、じゃんけんしよ。俺が勝ったらお化け屋敷、鳴本さんが負けたらジェットね」
「んーいいよ。よーし、負けん」
鳴本は嬉しそうにそう言うと、両手を組み合わせて腕をねじった。
馬鹿だろこいつ。なんだそのポーズは。
「さいしょはぐー」
「じゃんけん……」
俺は変なポーズにひれ伏した。
ジェットに乗って、でもやっぱり最後にもう一度お化け屋敷に入って、俺たちは遊園地を後にした。
なんとも今日はお祭りだった。バイトで見かけたお客さんたちはいるだろうかと、ほんの少しだけ思ったりもしたがどうでもいいことだった。暗くてここからではよく見えない。露天も十ほどの小さな祭り。広場に集まっているのもご近所の人だろう。近所づきあいのない俺には、全くどうでもいいことだった。
それよりも、重大なことがあった。
俺は鳴本とくっついて座っていた。
遊園地から出て、帰り道をとぼとぼこそこそ歩いていたら、祭りの匂いと明かりに中てられて俺たちは公園内に侵入した。なのに俺たちは何となく遠くからそれを見ているだけで、けして近づこうとはしなかった。
「矢鳴くんて、彼女いるん?」
唐突に、またどうでもいい質問をしてくれる女だった。
お前に言ったところで何もかわらねぇよ。それとも何か、馬鹿にでもしたいか? この不細工が。
「お、おらんでっ。さっぱ、り、さっぱり〜」
出来るだけ明るく、勤めて冷静に言ってみたつもりが、出てきた声は緊張していた。
俺は何を期待している? 期待、している……?
「そっかぁあたしもいないんだぁ」
「ふーん、お互いがんばらなあかんね」
俺は言ったよ。言ってやった。
隣でため息の声が漏れた。
俺は震えながらタバコを取り出した。
「矢鳴くんさぁ、タバコ嫌いなんでしょ?」
どきりとする。
「なんで?」
「だって苦しそうに吸ってるもん」
「そう? そんなつもりはないんやけど」
「かっこつけるため?」
「え? いや、違う思うけど」
「思うって……曖昧なのかよ」
突っ込みのセンスはそれなりにある女だった。俺はマッチで火をつけた。
「タバコってさ、体に悪いんやでぇ」
「知ってる。でも鳴本さんも吸ってるやん」
「わたしは……いいんだよ。体に悪くてもいいの」
「何で? 赤ちゃん産むときとか大変らしいで」
「いいの、産まないもん……あたし、ブサイクだし」
「ふ〜ん、そう……。子孫残せないね」
冗談を言った。隣で頷く気配がした。
それきり彼女は口を開かずに。
紫煙が俺たちの間に割って入った。
「ちわーす」
「ちわーす」
毎度おなじみの挨拶を交わして部室に入る。汗の染み込んだソファやら、誰のものかわからない運動靴とジャージが散乱していてとても臭う。とりあえず俺は窓を開けた。
「くっさいわ! ファブリーズ、ファブリーズ!」
どうでもいいからこの臭さを何とかしないと俺はここにいられない。きっとアンモニア臭的なものが漂っているに違いないのだ。だから俺はここにいられないぜ。俺は部活をやめてもいいぜ!
「あー、すんません。ファブリーズきれましたぁ」
暢気に言うな。命にかかわるぞ、大体窓も開けてなかったし、お前はマゾか? あれか、追い詰められたほうが快感なのか?
俺は舌打ちをして苦笑する。
「買っとけよ。あーくそ、もぅさっさと着替えよ」
俺は上着を脱いで、とりあえずきれそうな椅子の上に置いた。コンテナの椅子だから、ごみを払えばばい菌はそうはいまい。……たぶん。
マゾが口を開く。
「……部費ないっすよ」
あぁそうだった。
「部員必要だな……」
二人から集めたんじゃただの割り勘だ!
現状を変えるのは面倒くさくてひどく恐くて、一人の力じゃ無理で、二人の力でも無理だった。俺たちはそんな現状に満足してはいなかったけれど、どうしようもないあきらめ癖のせいで体も心も言うことを聞いてくれなかった。
そのくせときどき、けれどもやっぱり――何か変化が欲しかった。
些細なことでいい。たとえば練習中に水を持ってきてくれる一日マネージャーがいたり、たとえばちょっとした経験者が体験入部で話を聞かせてくれたり、たとえば隣で踊るダンス部をセクシーだなぁと笑いあったり、些細なことでよかった。
だらだら続くパターンを、俺たちは何とか変化させたかった。刺激が欲しかった。マゾも俺も独り身だったから余計そうだったのかもしれない。
とにかくなんだか悔しかった。
「あーいたー」
鳴本だった。今日も変わらず不細工だった。
「あたしマネージャーやっていい? 誰もいないのでしょう?」
むかつく女だった。ニヤニヤしながらマゾが俺のほうを見たから余計思った。むかつくブスだった。
次の練習日から女は俺たちのマネージャーになった。
乾いた地面に雑草は生えた。
俺はいつも語り合っていた。終始無言で語り合っていた。
すごく疲れる会話だった。
――俺はこんな未来を望んでいなかった。こんな未来は僕が作ったんだ。
――俺はどうすればいいんだろう? 僕は何にもしていないのに。
――俺に勇気があれば。僕にプライドがあれば。
俺は……僕は……僕は……俺か?
俺は……俺で……俺は……僕……?
なんだかよくわからないこの会話は時に一晩中続いた。俺はうんざりしていた。
「幸せだ幸せだ幸せだ」
ときどき呟いてみる。ニュースなんかを見て呟いてみる。すごく悲惨な映像を見て呟いてみる。
「幸せだ幸せだ幸せだ」
ちっぽけな悩みなんて消えてくれそうだった。
俺は一晩中続く会話にへこたれなかった。眠くもなかった。
なぜならそれは、レム睡眠とノンレム睡眠の狭間の出来事だったからだ。
でも目の下のクマはたまに濃くなったりした。
本当になんだかよくわからなかった。
「何が?」
◆
一月がたった。女が俺たちのマネージャーになって一月がたった。
いつまでたっても雑草のままだった彼女だけれども、マネージャーとしての貫禄はもう十分に出来上がりつつあった。
一月がたっていた。
俺はいつだって前向きだった。俺の中の僕とはいつだって殴り合っていたし――それは心の中だったけれども、それで俺と僕は通じていた。だから、別になんとも思わなかった。『俺たち』には関係なかった。話のネタが出来たと喜んでいた。
マゾに彼女が出来た。
後輩であり変態であるやつに先に彼女が出来て、俺にいないのが非常に腹がたったがまぁ許してやった。
だって、相手は鳴本だった。
「えへへ、ラブラブなんです」
むかつく女だった。
「実はそうなんです」
口の利き方を知らない小僧だった。
「末永くな」
口の利き方を知らない俺だった。
部活終わり、俺は一人で帰っていた。とぼとぼふらふら帰っていた。途中で公園に立ち寄った。別に理由はなかったが、ふらふらとぼとぼ立ち寄った。
きぃ。
錆びたブランコは鉄の鎖をきしませて俺の重みに耐えてくれた。なんだか申し訳なく思い立ちあがろうかとも思った。
きぃ。
ブランコが揺れる。俺が足で地面を突っぱねたから。ブランコは揺れる。
きぃ。
ポケットをまさぐってタバコを探す。ぼろぼろのソフトケースの中のタバコは、汗で若干湿っていた。臭いかもとか思ったが、どうせタバコは臭いのだから気にしない。俺は続けてマッチ箱を探した。
きぃ。
マッチ箱はバイトからくすねた。いや、まぁそんなに高価なものでもないから全然問題はない。むしろ今度から一箱づつぱくろうかとも思っている次第だ。同様に湿ったマッチ箱がポケットから出てきた。
きぃ。
夜空が明るい。というか周りがビル群だから小憎らしいぐらい明るいのであって、星が見えて明るいわけではない。
う〜む、これでは俺が月夜に包まれて格好よくタバコを吸うことが出来ないではないか。俺はぷりぷりと怒りながらも湿ったマッチをこすった。湿ってなかなかつかなかったから何度も何度もこすらなければいけなかった。
きぃ。
きぃ。
きぃ。
俺は目をぐしぐしとこすった。タバコの煙が目に染みたから、もういよいよフィルター付近ではないかと今更気づく。俺はタバコをもみ消し――
ぎぃ。
隣のブランコに幽霊が舞い降りていた。
奇妙なことを喋る幽霊だった。とんでもなく不細工な幽霊だった。
幽霊というのはどうも白いワンピースに長い黒髪の女というのが定番らしい。俺の隣に座った幽霊もそれだった。
「矢鳴くんさぁ、どうしてこんなとこで泣いてんの?」
これまた奇妙なことにどうやら俺は霊感が強いらしい。幽霊の手が俺の頬に触れた。
「泣いてないよ。別に泣いてない」
俺は独り言のように言った。口ごもった何だか気持ちの悪い声が自分の耳に届いた。風が頬をかすめる。
「私ね……矢鳴くんのこと好きだったんだよ」
突然だった。
が、幽霊に何を言われても動じるはずもない。彼女はここに存在しないのだから。俺は俯いたまま頬に触れていた彼女の指をそっと払った。
「でも矢鳴くん私の気持ちに気づいてへんかったからね〜」
喋れなかった。
「私さ、彼女になるのが夢だったんよ」
俺の知ったことではない。幽霊風情が俺に話しかけるな。消えろ消えろ消えろ。
頭の中で念じ続けても、どうやら俺は相当に霊感が強いらしい。一向に幽霊が消える気配はなかった。
「できれば、矢鳴君の彼女がよかったんやけどなぁ」
「……」
「矢鳴くんてさ、優しいくせに自己ちゅーだよね? そのくせ人に嫌われるのが嫌いで、強がりで、陰ではいっつも苦労してさ」
「……ぉ」
「だからね。私ね、何だか矢鳴君と似てるなぁって思ったん。矢鳴君は私を受け入れてくれるかなぁって」
「…………俺は」
「でもね。私、いますっごい幸せやで、矢鳴君とは大違い」
ぎぃ。
隣の幽霊は立ち上がった。しっかりとした二本の細く白い足で。
「矢鳴くんはさ、どうしてそんなに苦しそうなの?」
俺はついに答えなかった。
◆
どうにかしたらどうにかなる。そんな風にいつも思えと言い聞かせる。プラス思考を維持しろと言い聞かせる。
そうしないと壊れてしまいそうだった。
「がんばれー」
(うるせぇなぁ)
「おぅ!」
(調子よく答えてんじゃねぇよマゾが! そんな余裕があるっていいたいのかこら!)
ぱんぱんぱんぱん。たまにぱすぱす。そしてどむどむ。
グローブがヒットする音、こすれあう音、そしてボディに決まる音。俺たちは殴り合っていた。三分間殴り合っていた。マゾと俺の一騎打ち。別に鳴本を取り合って闘ってるんじゃない。俺はそんなに馬鹿じゃない。まぁ部活だ。単純なスパーだった。
三分が終わる。
「打たれすぎー。マゾ大丈夫ー?」
(うるせぇなぁ……)
相手のパンチをよけたつもりで、その実全然よけれてなかったマゾがへたり込む。いやそんなに打ってないんですけど……てか俺のほうが喰らってるんですけど。
どうやら彼女が出来ると精神的に弱くなってしまうらしいな――俺はそんな風に思った。ほら、俺はこうして立っているぜ。
「大丈夫さ。矢鳴さんこう見えて紳士やから」
(紳士だから男にはきついぜ……あとブスにもな)
俺は心の中でそう毒づいてヘッドギアをはずす。汗が頬から滴り落ちた。
「もぅ、そんなこと言って! 鼻血出てるって! 矢鳴君もっと手加減してあげてや!」
(は? 何だとブサイク?)
それでは練習にならんだろうが! 大体いつもと同じことをしてへばっているはずもないマゾだ。お前がしらなすぎるんだよ!
「まじで? ティッシュちょーだい」
とマゾ。俺の拳が真っ赤に燃えそうだ。
「はい、ふいたげる〜」
いちゃいちゃいちゃいちゃ――俺はこいつらを殺してやりたい衝動にかられた。目の前で繰り広げられるバカップルほどムカつく光景はないぜ!
俺はグローブをはずした拳を握り締める。鳴本の顔はサンドバッグよりも随分殴りやすそうな構造をしているな。俺は少し二人に歩み寄った。……あと半歩踏み込めば届く距離だ。
いかんいかんいかん! 俺は思いとどまる。漸くわれに返り、このばかげたトラップにかかるところだった自分を見つめなおす。あと一息で俺は人生を棒に振るところだったのだ。後先を考えなければ失敗しか生まれないのだ。……まぁ、俺にはよくあることだが。
「お前らふざけんなよ。それじゃ練習にならんやろうが」
俺は拳を解放し、唇からこぼれた冷静な言葉に安堵する。よかった、俺はクールだ。
「だいたい付きあっとるからって、部活中にいちゃいちゃすんな。目障りや」
俺は軽くお前らうざいんよ、というニュアンスをこめてつぶやく。どうやらそれが少しばかりバカッポーの気に触ったようだった。
「ぁ、すいま……」
「ええやん別に、矢鳴君に迷惑かけてないでしょう。矢鳴君は彼女いないからそんな風に思うんだよ」
かちんときた。
「は? 何お前? 調子のんなよブサイク!」
一瞬、時が止まった。
つつ、つつつ。
涙は一筋に床へと向かっていった。俺はちょっとばかりの罪悪感を感じ始めていた。
「先輩……」
マゾの言葉は何やらブス彼女ではなく、俺を気遣うものだった。
「アホ! 最悪! 最低!!」
マゾのブス彼女は走って体育館から出て行った。
泣きながら。
◆
俺は若干焦っていた。気分は高揚してはいないけれども、たたたと走る足取りは速かった。
『矢鳴さん……鳴本さん、先輩のこと好きなんすよ。……それで、その、演技やったんです』
俺は無駄に広い大学構内をたたたと駆け抜けながら、さっきのマゾの言ったことを思い出していた。いや、正確にはそのことが勝手に頭の中を支配していた。
『は?』
『矢鳴さんにぶいでしょ? やからなんかぢぇらしーを感じさせる作戦やったんです。鳴本さんの作戦……』
たたたたた。走る足音は、アスファルトを踏みつける足音は徐々に速くなっていく。
『知るかいそんなん』
『何で嫌なんすか? 鳴本さん先輩が言うほどブサイクやないやないですか?』
『……』
『めっちゃ矢鳴さんのこと好きなんすよ……矢鳴さんも楽しそうにデートしてくれたって言うてはりましたよ』
たたた、たた、たた。
『それに矢鳴さん……』
たったっ、たっ、たっ。
『……ぢぇらしー、感じはったから怒ったんでしょ?』
た……。
辿り着いたのはべたべたの始めてあった場所だった……。
「……ぁ」
鳴本はうつむいたまま声をあげた。体育座りで顔を伏せているのによくわかるな、と俺は何だか関係ないことを思った。
「……まぁ」
「…………何よ」
何だか腹が立った。俺がきれられる理由など何もないのだから腹が立った。だが俺は我慢した。
「その、……悪い。ごめん」
「…………嫌い」
「あ?」
「矢鳴君なんて大嫌い!」
ああそうですか。俺は一向に構いませんが何か?
「もっと優しい人だと思ってたのに。そんな人じゃないと思ってたのに!」
「あぁそうですか」
俺のその言葉にはっとして顔を上げた鳴本の顔は文句なくブサイクだった。
「俺は別にお前に好かれようなんて思ってないし」
また顔を伏せる鳴本。肩を震わせる彼女を見て俺の決心がついた。
「わた、しは――」
「俺は!」
鳴本の涙声をかき消して俺は声を出した。張り上げたといったほうがいいかもしれない。それだけ感情が高ぶっていたのかもしれない。
「現実逃避の仕方……知りたがっとったやんな?」
俺は張り上げた声を今更恥ずかしく思いつつ、ゆっくり静かに言った。鳴本は肩を上下させている。
俺は構わず続けた。
「最悪なことばっかりが身の回りにあるとよ、それが嫌で嫌でしょうがなくなってどこかに逃げたくなるんよ。でも金はないし、そんな明確な目的地もない。そもそも嫌なことから逃げるんやから、楽しいとこでないとあかん。結果それは俺の頭の中で構成されるわけ」
俺は一度胸に手を当てた。走ってきたせいで動悸がする。
「休みの日は現実逃避をするって言うたやろ? 俺の趣味は現実逃避なわけ。あー、何でってそれが楽しいからで、それ以外に理由はない。何でも適って、自分の思い通りになる世界。時間の速度もばらばらで、速く進むときもあれば遅く進むときもある。そんなステキ空間なわけよ」
タバコの吸いすぎかもしれない。
「やから俺は現実逃避が大好きや。誰がなんと言おうと俺は現実逃避をする。極端な話、それが俺の一部でもあるんよ。やから俺には現実逃避が必要なんです」
ドキドキした。今から俺は嘘をつくからかもしれない。
「だからな、現実逃避の仕方がないと俺はどうしたらええんって話。現実逃避はもはや俺の一部やからな。んで最近全然充実してきてな。なかなかそれが難しくなってきたんよ。だから何とかして現実逃避をする方法を見つけらなあかんわけ」
俺は続ける。鳴本の肩の揺れは落ち着き始めてきていた。
「だから俺は思った。最悪なことを身の回りにおいとけば現実逃避できるんやないかって。最悪な、大嫌いなやつがそばにおったら大好きな現実逃避ができるんやないかって……だからな、つまりは」
少し止まる。鳴本が顔を上げたからだった。俺は視線をはずさずにじっと鳴本の目を見返した。
「つまりは、俺は大嫌いなやつがそばにおらんとあかんわけや……鳴本」
深呼吸して歩み寄った。体育座りの鳴本は妙に縮こまっていた。
「俺の側におってくれ」
俺は、まじかで見つめた鳴本のブサイクさ加減と、走ってきた動悸のせい(そうに違いない)で今にも倒れそうだった。
◆
神様は手厳しい。どうやらそうそう思い通りに運命というやつは進んでくれないらしい。
あの時俺が言った告白まがいのことは消えることなくやつの頭に残っているはずなのに、俺はなんとも宙ぶらりんな時間を過ごしていた。
『どうしよっかな〜』
そもそもこの一言が全ての元凶で、この文字の羅列がいけないのだ。どうして数ある言葉の組み合わせからやつがこれを選んだのか、俺には到底理解できないがどうでもいい。ただこの今現在の状況がムカつくということは確かだ。
「矢鳴っち、マゾ君ふぁいと〜」
ブサイク糞マネは二人しかいない部活を盛り上げようとバカみたいにメガホンを持ち込んでいる。いやおそらく、百パーセントバカなのだろうが……はっきり言って迷惑だ。他の部活にも。
バンバン!
糞マネは無駄に元気にメガホンを叩く。
「うるさいですよ」
マゾもさすがに感じているようで、俺が注意する前に鳴本へと進言する。笑いながらだが。
「ふぁいと〜」
バンバン! やはりブサイクは言語が違うのだろうか? ていうか、やっぱり人種が違うのだろうか? どうやら言葉を理解できないらしい。
「あのなぁ」
今度は俺が進言する。
バンバン!
「うっさいわ!」
バンバン!
現実逃避の仕方を考え改めようかと思う今日この頃です。
一人称は俺より僕のほうがいいのだろうかなぁ。
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2005/09/02(Fri)22:56:48 公開 / 影舞踊
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■作者からのメッセージ
――えーまー人生色々ありますよ
どうもすいません。影舞踊です。とりあえず、はじめましてこんにちわから入ろうかなと思います。はい、「はじめましてこんにちは」(何?
もしかしたら誰にも読まれることはないだろうと思いながらの投稿。ほんと容量削ってすいません(汗
あのこれ実話じゃないですから(とりあえず 珍しく影舞踊の書いた(てか小説投稿自体が久しぶり……)恋愛(?)ものですが、ショートにおさめようとしたらこんな糞長い文に……。読んでくださった方にはお礼のしようがありません。本当にただただ感謝です。てか、ろくすっぽ感想書いてないダメ読者ですので、ほんと投稿するのが申し訳ない……(汗
てかこの作品もろにある作品の影響を受けております。もう、全然比べることも出来ないほど程度が低いのでわからないと思いますが(苦笑 色々おかしいところがあるかと思いますが、そんなのを見つけてくださった方はどうぞ指摘してやってください。骨の髄まで喜びます。
感想・批評等いただければ幸いです。
あ、ほんと無理して読まないでください。時間の無駄ですから。あーまた冬眠するんだろうなぁ自分。復活できるかなぁ……。
誤字修正いたしました。報告ありがとうございますm(__)m