- 『ビューティフルモーニングウィズユー』 作者:トロサーモン / リアル・現代 恋愛小説
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原稿用紙約7.3枚
自意識を捨てろ。
ある日、僕が歩いていると、他校の中学生はガンをつけてきた。それで満足するんだったらええこと。まず何故、中学生はそう他人を威嚇したがる?答えは簡単。みんな自分は他人より優れていると思いこみたいからだ。自分は特別だと。ハッキリという。そんな考え捨てた方が良い。
学校に何かドラマを期待するのは小説、映画、マンガの読み過ぎだ。今や、人が話す言葉の大半は再放送だ。どこかで言った言葉を繰り返す。オリジナルティの欠如。
僕がそんな事を考え始めたのはのは、彼女に出会ってからだ。
ビューティフルモーニングウィズユー
とある日、夕方、学校から帰ってきてテレビを付けたら、ニュースをやっていた。その時、どこかの国で内戦が起きたという事を言っていた。テレビのスピーカーからはパラララとマシンガンの音、爆発音。画面では、泣き叫ぶ親子。そして川を流れる水死体達。何十人もの水死体が音もなく静かに流れてゆく。まるで、あらかじめそこを流れると予告していたかのように、ゆっくりとゆっくりと。僕はその時はなんにも考えないでで見ていた。しかし、何故か頭の中に水死体の映像が何回もリプレイを繰り返していた。ただ悲しいぐらいに静かに流れていく死体。彼ら一人一人に人生があったろうに。生きている間は見向きもされもしない。死んでから見られるのだ。おちおち、死ぬ事も出来ない時代になったのだ。
学校が終わり、僕はいつものように河川敷まで自転車を走らせる。冬の風は僕の耳にズキズキと突き刺さっていく。いろいろ模様のはいったマフラーは風が吹くたびたなびいている。僕は片手でハンドルを持ちながら、必死にコートの中に風が入らないようにする。寒いのも嫌。暑いのも嫌。太陽は地表を全く温かくしてくれず、ただただ、光を与え続けるだけ。
息が荒くなるにつれ、吐いた息が段々白くなっていく。冬は寒いだけだ。冬に雪が降れば幻想的という考えは捨てた方が良い。雪が降っても待ち受けているのは寒いのがもっと寒くなるだけだ。
河川敷につくともう既に彼女はそこにいた。彼女はコートを着て芝生に座りずっと川を見ていた。川は静かに流れていた。周りに人がいないせいもあるかもしれないがとにかく静かだった。雲も流れている。真っ黒な雲が流れている。枯れ木が立っている。もの悲しそうに立っている。ひとりぼっちで立っている。
彼女は僕の姿に気が付き、あっちから手を振る。
「おーい」
彼女は笑いながらそう言った。誰もいない、河川敷に真っ黒な雲と枯れ木と一人の女の子。シュールだ。現代美術館へ行けばこういう絵はいくらでも見られる。
僕はゆっくりと自転車を進ませる。ちょっと立ち止まったせいで、寒いのがより一層肌に凍みるようになった。
彼女は僕にすとすと小走りで駆け寄ってきた。口から、白い息を吐いている。
へへへへ。彼女はそう笑いながら僕の前で立ち止まった。
「こんにちわ」彼女はお辞儀をして僕に言った。
「こんにちわ」僕もお辞儀をする。お辞儀をした時にちょっとだけ彼女の太ももが見える。すぐそんなところに目がいく。
僕はお辞儀をするのは嫌いじゃない、むしろ好きだ。本能に逆らう事はない。
「寒いなあ」彼女はポケットに手を入れながらそう言った。
「そやなあ。今日なんでこんなに寒いんやろな」僕もコートのポケットに手を入れる。
「冬やから?」彼女は僕に問いかけた。
「たぶん」僕はそう答えた。
彼女はポケットから財布を取り出す。そしてくいっと楽しそうに笑顔を作った。
「ジュース買いに行こう」
僕は一度頷く。何だか突然嬉しくなった。
良い世界だ。何も高望みしなければいい。人がこの世の中に失望するのは欲望が高すぎるからだ。高望みしなけれなばいい。
彼女は年上だ。2歳くらい違う。女子高生。だからどうなんだ?
自動販売機は河川敷の階段をちょっと上ったところにある。そこから目の前に広がる景色が僕は好きだ。寂れた団地。交差点。コンビニ。公園。ブランコ。住宅街。いつも止まっている赤色の車。
彼女は120円自動販売機に入れた。ピッとボタン部分に赤色の光が灯る。彼女は指をそこで迷わせながら必死にどれが良い考える。
何処かから、クラシックの音楽が流れている事に気が付いた。このピアノの曲は何だっけ。
ピッと音がし、ガグンと重重しい音を立てて、ジュースの缶が落ちてきた。
彼女はその場で屈んで自動販売機からジュースを取り出そうとする。
「とれへんなあ、とれへんようになった」彼女は弱々しく僕に言った。
「頑張ったら取れる」僕は一言そう言った。
自動販売機からごとごと必死にジュースを取り出そうとする音がする。
まだ、ピアノの音がする。何だっけこれ。
何だっけ。
「あっ。取れた」彼女はそうあっさりと言った。先程までの大騒ぎっぷりは何処へ消えたか、あっさりそう言った。
しかし、取れた事の嬉しさがドンドン増えてきたのか、ちょっとずつ笑顔になってきた。「あちっ!」
彼女は思わず缶コーヒーを落としそうになった。
僕はちょっとだけ笑ったあと、ポケットから財布を取り出した。
かしゅんと缶コーヒーのプルタブを空ける音がする。
僕は自動販売機の前に立つ。お金を入れ、ボタンに光が灯るのを見て、コーンポタージュのボタンを押す。
ガコン。
重い音が当たりに響き渡った。
思い出した。
あの曲はジムノペディだ。
彼女が僕の頭に缶コーヒーを置いた。
「寒いなあ」
「うん」
「寒いなあ」
「うん」
彼女は僕の頭にあごを載せて、川を見た。川の色は真っ黒だった。
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2005/08/29(Mon)20:02:26 公開 / トロサーモン
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■作者からのメッセージ
スランプ気味と受験勉強のストレスでこんな冷たい話が出来上がってしまった。一人考えています。
一応、前に書いた話の登場人物の話です。リメイクです。
日常の中に小さな事件が起こるような小説にしたいなあと思います。でわ。
今日の3曲
くるり スーパースター
何でこんなに気持ちが良いんだ。この曲、かなりおすすめです。
スーパーカー TRIPSKY
ファーストアルバムの最後の曲より。何か気持ちいいです。
ピロウズ ビューティフルモーニングウィズユー
タイトルはこの曲から。好きです。このバンド好きです。
個人的に初となる鬱系になりそうです。(そうならないように頑張ります)
ちょっと更新したけど不満点がありすぎなので削除。