- 『当たり前の恋』 作者:浪速の協力者 / リアル・現代 恋愛小説
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原稿用紙約8.2枚
この日、俺は電話の前でかれこれ1〜2時間立ちっぱなしだった。
一人暮らしだから、家族から変な目で見られる心配はないが、もしこの光景を誰かが見ていたら、そいつは確実に俺の行動を奇妙に思うだろう。
電話の前で立ち往生している理由は、誰かからの電話を待っているわけではなく、ある人にかけようとしているからだ。
が………、
「だめだ〜! やっぱ、出来ねえ〜!!」
俺、小宮山 誠人(こみやま まさと)はちょうど1週間前に、大学のサークルで知り合った蓮ヶ崎 鈴香(はすがさき すずか)と付き合うこととなり、人生において初めて彼女をゲットした。
つまり、生まれてから1度も女の子とは付き合ったことがない作者とは違い、ついに勝ち組に成り上がったのだ!
まあ、そんな哀れな話はどうでもいい。
俺たちが入ってるサークルは、『ポール&スター』という文芸サークルだった。
名前の由来は、サークルを立ち上げた初代会長が、むちゃくちゃビートルズが好きだったからだそうな。
サークルで書くものは何でもよく、SF小説を書く人、恋愛小説を書く人、エッセーみたいなものを書く人、中には論説文を書く人もいた。
そんな中、蓮ヶ崎 鈴香という女の子が書いていたものは絵本だった。
彼女以外に絵本を書く人なんて、もちろんいなかった。
俺はSF小説のジャンルだったから、絵本をジャンルとしている鈴香と話すことはほとんど、いや、全くなかった。
ある日、彼女は大学からのボランティアとして、幼稚園に自作の絵本の朗読会を開くことになった。
俺と他のサークル会員数名はその手伝いとして、参加することとなった。
自分から名乗り出て参加したわけではなく、くじ引きで決まったものだったから、俺は外れくじを引いた気分だった(実際、あれは外れくじと呼べるものだったかもしれない)
だが、鈴香が絵本を子どもたちに読んでいる時、それは変わった。
彼女の目はとても優しそうだった。
あの慈愛に満ちた目を見た俺は、ヤバい、と思う間もなく好きになった。
その後、サークルでのコンパなどで上手く(?)接近し、今に至ることが出来た。
さて、冒頭が長くなったが、俺が今悩んでいるのは、その鈴香にどうやって電話でデートに誘おうか、である。
「案ずるより産むがやすし」という諺があるが、それでもやっぱり案じてしまうものだ。
よし、電話をかける前に、ある程度のプランを立てておこう!
そう思った俺は、電話台の引き出しからメモ帳とシャーペンを取り出し、近くにあった椅子に座った。
まず決めなきゃならないのは、どこに出かけるかだ。
それが決まっていれば、話は切り出しやすい。
案外、映画が無難で良いかもしれない。
あ、でも鈴香がどんな映画を見たいのか分からないな。
とりあえず、これは保留にしておこう。
次は何時ごろに出かけるかだ。
お昼前の午前11時ごろなら、昼食を目的地で取るってことが出来る。
あ、でも鈴香の好きな食べ物って何だろう。
たしか和食が好きだったはずだが、和食と一口に言ってもいくらでもあるな。
焼き魚、豚カツ、鰻(うなぎ)………等々。
まあ、これは目的地に着いてからでも決められることだ。
とりあえず、これは保留にしておこう。
次は夕食までの時間をどうするかだ。
映画が終わっても、まだ夕方5時ごろだろう。
それだと、夕食にはさすがに少し早い。
時間つぶしに他の喫茶店とかに寄ってしまうと、夕食までにお腹がふくれてしまう。
かといって、観光地みたいに土産屋があるわけでもないし。
………その間にこっそりプレゼントを買う!
おお、我ながら名案だ!!
………でも、何をプレゼントしたら喜ぶのだろう。
指輪を買うだなんて恥ずかしすぎるし、金銭的にも到底出来ない。
とりあえず、これは保留にしておこう。
次は夕食に何を食べるかだ。
ここで決めなきゃ、いくらそれまでの過程が良かったとしても、全て水の泡になってしまう。
昼と夜を同じ感じにするのは論外なので、ここは無難に洋食で行こう。
さらにちょっと変わった感じを狙って、インド料理店なんてどうだろうか?
あ、でも鈴香が辛い物が嫌いだったらどうしよう。
もしそうなら、それこそ全てが水の泡、いや、海の藻屑となってしまう。
とりあえず、これは保留にしておこう。
で、結論を出そう。
……………当然ながら、保留事項ばっかりだった。
こんなので、本当に大丈夫なのだろうか。
仮に誘えたとしても、当日に鈴香に嫌な思いをさせるんじゃないだろうか。
考えても考えても、一向に良い考えは浮かばなかった。
もう『こうなりゃ当たって砕けろ』だ!
俺はすかさず立ち上がり、受話器を手にし、番号を押した。
[――――はい、もしもし。蓮ヶ崎ですが?]
鈴香の声だった。
俺は急に緊張してきた。
「あ、す、鈴香。俺、誠人だけど」
[あら、どうしたの?]
「そ、その、明後日の日曜日、空いてたりする?」
[え、べ、別に空いてるけど?]
鈴香は答えるのに少しどもった。
恐らくこれから俺が何を言おうとしてるのか見当がついたのだろう。
「じ、じゃあ、その、2人で映画でも観にいかないかな〜なんて思ってるんだけど」
[………………]
暫しの沈黙。
ひょっとして、まさかの門前払いか?
[………………い…の?]
鈴香は俺が聞こえるか聞こえないかぐらいの声で何かを言った。
「えっ、今なんて言ったの?」
[………こ、こういう時って、その、どんな準備をしたらいいの………かな?]
鈴香はどうにか聞きとれる声で言った。
俺はそれを聞いて、ほっとした。
「何も考え込むことなんてなかったんだ」と。
そして、鈴香には恥ずかしくて言えないが、俺はようやく分かった。
俺がデートに誘う理由は、「ただ単に君に会いたいだけ」だということが。
俺は鈴香と明日のデートについて話し合いを始めた。
Fin
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■作者からのメッセージ
お久しぶりの浪速の協力者です。
この小説はたしかまだ投稿してなかったと思います(投稿済でしたらすみません(汗))
それでは皆様からのご感想をお待ちしております!!