- 『夏の思い出 【 読み切り / 訂正 】』 作者:丸のうち凡 / お笑い リアル・現代
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全角10020.5文字
容量20041 bytes
原稿用紙約32.85枚
夏、7月、8月といえばなにが浮かぶだろう? 夏休み? それともお盆?
私は今、夏休みだ。サマーバケーション・イン・ザ・トウキョウ。
ここからはちょっと私の土産話になるのだが、まぁ 聞いてくれ。
今年の夏、私は伯父の住む東京に里帰りをした。
伯父は相変わらず元気で、伯母も凄く元気そうだった。
地元の神社で、花火大会が開催されたり、お盆には町内会での集まりに参加したりとそれはそれは楽しかった。
楽しかった。そして、楽しいときは過ぎ、あっという間にお別れのときがやってくる。
「夜ザクゥ? 帰るよ、準備して」
「…ぁ、はぁい」
「お世話になりました」
夜桜は優しく玄関から見送ってくれる伯父を見届けながら家族と共に駅が終点のバスを利用した。
伯父の家から駅までは徒歩10分、バスや車ならば10分もそんなにかからない。
まぁ、私は歩かなくても楽なんだけど…。
駅に着くまで色々なものを見届けた。
大きなデパートやアパート、マンションといった住宅。それに大きな看板などが多く立ち並んでいる。
さらに駅近くになってくると久々に見る景色や、忘れかけた場所。
色々なものが目の前に飛び交う。
夜桜はぼんやりした表情で、窓の外を見つめていた。
すると、夜桜の後ろに座っていた母親が声をかけてきた。
「夜ザク、どうしたの? 元気ないね?」
「…え、‥ぁっ、やっ。ど、どうしたの?」
あまりの懐かしさにぼんやりしていた夜桜は急に声をかけられて焦って母の方を振り返った。
つい、聞き返すほどに。
「…え。どうしたのって‥、こっちが聞いたのに。変な子」
「ぁ、あはは…(自分の子に向かって「変」とはなんだ、「変」とは)」
こんなやり取りをしていたのもつかの間だ。
バスは直ぐに目的地についてしまう。
今まで静まっていた車内も駅に着いたら一気にざわついた。
多くの家族連れや、サラリーマンなどが数多く降りていくのが見えた。
* * *
やっぱり、暑は夏いな。 …いやいや、夏は暑いな。
冷房よく効いたバスの車内とは裏腹に駅を前にした外はもの凄く暑かった。
「に、しても暑いわねぇ〜。なんでこんな季節があるのかしら」
母は夏がお嫌いらしい。私もちょっと夏は嫌いだが…。
母曰く「夏のない国で結婚したかったわ」 じゃぁ、まずそのために英語を勉強しようね。
ただ、これは私にとっても少々キツイ季節だ。
「…じゃあ、去年の夏に行ったハワイは涼しかったのかい?」
夜桜は飽き飽きした顔で母を見上げる。
「そ、そんなんじゃないけど。…気分よ、気分!」
母は焦った口調で「気分よ!」と言っているが、この母の言い回しがよく解らん。
暑さで変にでもなったか、この親は。
「ねぇ、それより伯母ちゃん元気してたね。夜ザク、あんたは何が一番面ろかった?」
「…え」
夏休み、夏といえば、花火、プールにお盆。そして、お盆といえば、肝試し。
「…肝試し、かな」
「あら、珍しい! あんたが母さんの企画が楽しいなんて!母さん、嬉しい」
母さんの企画。で、はしゃいでる母。
そんな母を周りのほかの人が見ると、ただの大きな独り言。またはそういう病気の人。荷見えるのだ。
だからいつもの… 来たよ。
「あっ、あの‥大丈夫ですか?」
中年男性が恐る恐る母のほうへ近づいてきた。
母ははっとして、軽〜く笑って誤魔化す。
「‥あ、あは、あはは…平気、ですよ‥」
こういうことはもう、しょっちゅうな事なので、こういう受け答えになれている母。
声がでかいことが帰って目立つという母の悪い癖だ。
しかたなく、母は駅近くによくある公衆電話ボックスに入った。
ここならば声が外に漏れないだろう。
母なりの考え。
「でも、あんたも幽霊なんだから… 配役はあったんじゃないの?」
「…、母さん。そんじょそこらの雑魚霊といっしょにしないでよ」
そう、うちはうちの母が里帰りを楽しむための企画、毎年恒例『怪奇現象探り兼、肝試し』などとふざけた企画を立てるのだ。
ふざけた、といえばうちの家系も結構ふざけている。
うちの主はまったくといってよいほど凡人。要は普通の霊感のない人間。
オカルト関係の話が大の苦手というお茶目さん。その代わりもの凄いのがうちの母。
母は霊が見える、話せる上に触れる。彼女から見れば霊なんて普通の人間同様だ。
そして、最も凄く、恐ろしいのが姉妹そろって超A級霊媒体質ということ。
そんな家系の女を嫁に持つ幸福という壁にたどり着いていまい父。
変わった嫁に平凡な父の間に生まれたのが私だ。
私はいつも帰りが遅い父を心のそこから心配して、毎晩お払いをしている母。その行動は愛、故…?
そして父が帰宅すると必ず「ほら、また! 新しい遊女の霊なんか連れてきて!」とかなんとか叱り付けて出迎えるという母の背中を見て、私はそんな家庭に約10年間、育てられた。
約10年間。それは私にとって長いようで、短い「さよなら」でした。
10年前の夏の日。
私はいつものように起きて、顔を洗って、朝ごはんを食べた。
そしていつも遊ぶ近くの公園でサッカーをしに行こうと勢いよく玄関へ飛び出してゆく私を母が引き止めた。
「ちょっち、待ちんしゃ〜い。夜ザちゃん、今日は何の日でしょ〜?」
「え、…えっと、…なんだっけ?」
「ふふ〜ん。今日はねぇ、夜ザちゃんの誕生日ぃ〜!」
嬉しかった。
母がにこやかに私の顔を見てくれる。
そんな母が大好きだった。
「だから今日は奮発してがんばっちゃうんだから〜! なので今日は早く帰ってくるのよ」
この日はちょうど私が生まれた日。つまり誕生日だ。
「あっ、はぁい!」
だからいつもよりちょっと早めにサッカーを切り上げて、早く祝ってもらおう、早く皆の笑顔を見よう。
私は何よりそれが一番楽しみで、焦る気持ちがどうしても止まらず
この日は凄くはしゃいでいた。
けど はしゃぎ過ぎて … 。
−−−キィッッッ … !!
−− ガッシャアァァ ! … ...
その後、何が起きたかはまったく覚えてない。
覚えてないけど、私は普通に帰宅したみたいだ。
「ただいま」
「夜ザちゃ‥あ、いや、おかえり…」
なんか、母さんが半なき状態で私を迎え出た。
朝はあんなに元気だった母さんが今は元気がない。
「…どうしたの? 母さん、何で泣いてるの?」
私はよく解らなくって、ひとまず母さんの涙をふき取ってからそれから聞き出した。
「…ぁ、え…あっと、母さんね、‥その、さっきタマネギ切ってたのよ!‥あはは」
「…ふぅん…」
タマネギを切って…?
それならいいんだけど、なんか… それだけの涙じゃない、そんな気がした。
私は今、自分がどのようになっているのか、どんな事態なのか、まったく解らなかった。
でも、次の日。
母さんは元気な顔がもどってきたようで、温かく笑顔で私をお越しにきてくれた。
私は少し、安心して母さんに「元気になってよかったね」と言って母さんに抱きついた。
安心したらまた眠くなったので私はまた眼を閉じた。
その後、違うところに移動していた。
さっきまで、自分の部屋で寝ていたのに気が付いたら台所の長机に倒れこんで寝ていた。
私は身を起こして、周りをキョロキョロする。
すると、流し台で作業をする母さんの姿が見えた。
母さんは私が起きたことに気が付くとこっちを見て、私に継げた。
「今日はお外、出ないでね」
外に出るのを何故止められたのか、このとき未だ解らず私は散歩をしようと外に出てしまった。
その日、私はなんとも不思議な体験をした。
道の真ん中を歩いても、トラクターが目の前を通ってるのに周囲の人は注意もせず、ただ呆然と突っ立ってたり、あくびしてたりしていた。
平穏無事な日々を暮らしていそうな、そんな顔。
これはどう考えても可笑しい。
普通なら「危ないよ」とか「コラーーッ」とかの声が飛び交ってもいいはず。
いつもなら気にも止めない通行人とのすれ違いや目先が凄く気になった。
「(…な、なんだ? 今日はやけに周りが静かだな。注意の一つも出来ない大人はこれだから困る)」
人のこと、いえない自分が言う台詞ではない。
道路の真ん中は危ないので、歩かないで下さいね。
私はあまりにも気になってよく道路沿いにある電柱くらいの鉄のオレンジ色の棒で、その先端に左右対称の鏡がついた棒を見上げた。
すると、そこに映っていたのは自分の顔と下半身のない自分。
そして、下半身がなくても上半身があるのに上半身の影さえない。可笑しい…。
「(…はっ!?)」
このとき、私はそれを見てつくづく想った。
私、今 …ユウレイ!??
* * *
私は自宅まで疾走(といっても、実際は下半身が湯煙のようになっているので雲のように浮かんでいる)して、勢いよく玄関のドアにぶつかる様な気持ちでドーンと身を任せた。
普通の人間ならそこでビターンとドアに激突して大量の鼻血を一気に出すか、あだを討つかどっちかだろう。
だけど、私は違った。
幽霊だからそのまますら〜‥とドアを通り抜けたのだ。イッツ・イリュージョン!
ある意味では便利な身体だな。と思った。
「母さ〜ん? 母さん、母さーん」
夜桜は玄関を抜け真っ直ぐな廊下を渡り二階へと続く階段がある手前の部屋へと入っていった。
台所である。
「母さ‥ぁ?」
夜桜は台所の入り口から中を覗いた。
覗いて直ぐに夜桜の目の前に飛んできた光景は台所に入ってすぐのところにある大きな横長の机にデーンとぶっ倒れている夜桜の母親の姿だった。
「(居たよ…)母さん」
ひとまず母を見つけた夜桜は声をかけてみる。しかし、母は無反応。
「母さん…?」
夜桜はぶっ倒れている母親の顔を覗き込み、しばらくしてこんなことを思いつめた。
「(こいつ、本当に私の親‥なのか?)‥母さん!」
夜桜は深い溜息をつくと、また息を吸って、そして思いっきり…
「母さん!! 母さん!!! 起きんか、コラッ!!」
母親の耳元に向かってどデカイ声を一気に吹き込む。
すると夜桜に起こされた母親はゆっくり身体を起こし、大きなあくびを一掻き「おはよ」と低い声で呟く。
でも、直ぐに「じゃっ」と一言もらし、再び睡眠タイム、突入。
夜桜は立ち込めてくる怒りを抑えつつにこぉと作り笑いで「母さん?」とかなりの低音で声をもらす。
そして、夜桜は再び無駄な努力をするはめになる。
それは再び母親の耳元に向かってどデカイ声を一気に吹き込むことである。
「起きろ、起きろ、起きろーーーッッッ!?そして、説明しろ! このジョーキョーヲーーッッッ!!!!!‥ハァ、ハァ‥」
夜桜はいったん、深呼吸をして本来の落ち着きを取り戻すことに何とか成功した。
そして、母親を完全に目覚めさして、説教をしようと心に決めた。
「‥ほらっ、しゃきっとして。そら、水だ!」
夜桜はどこからか持ってきたバケツ一杯分の大量の水を勢いよくドバッと母親に向かってぶっ掛けた。
母親は無論、びしょびしょだ。
だけど、母はいっこうに起きる気配まったくなし。
「次はこれで、どうだッ!!」
なぜか、夜桜はムキになっていた。
ズバァッ !!!
今度はいつ何処から引き出してきたのかよく解らないホースを母親に向けて、そしていっきに大量の水が母親の顔を殴打する。
母はやっとのことで、目を覚ました。
夜桜は多分、外の暑さと無駄な怒りで頭の中がヒートアップしていた。
それはもう、ヒーターが、暖炉が、爆弾が、膨張、及び自爆をするかアンドロイドがもう、計算が出来ません。意味不明です。とでもいいそうなくらい夜桜の頭は壊れかけていた。
その証拠に夜桜の頭に大きなムカマークがあって、身体からは体臭がだらだら流れ出し目玉焼きが出来上がりそうなスチームまで出していた。
これは多分「もうじき壊れますよ」の合図なのかもしれない。
そして、
「…ぬふをををををォーーーーーーーーッッッ!!!!!?」
ポーーーッッ!!!
壊れた。
もう冷静さは何処にもないだろう。
さようなら、夜桜。頑張れ、夜桜。
「母さんッッッ!!!」
そして再び夜桜に起こされた母親はゆっくり身体を起こし、大きな二度目のあくびを掻き「うるさいなぁ」と低い声で呟く。
夜桜は腰があった辺りに両手を持ってきて「誰のせいだよ」という顔で母を睨み下ろすのであった。
「…どういうことなんだ、‥これは」
夜桜はかな〜り、低い声で母に問いかける。
二人の間に沈黙が続き、異様な重苦しい空気が流れた。
「…どういうことって、…言われましてもぉ。見たまんま、こういうことよ」
「…霊体、のことか…?」
「うん。」
うん。と無邪気に言われましても…。
もう、母は既に無邪気という年齢を越している。
「だって、それは言うこと聞いてくれなかった夜ザちゃんがいけないんでしょ、もぉー。」
「もぉー。じゃ、ない。あんたは牛か‥」
「牛だもん。モー…」
まったく彼女は立ち直りが早いというか、なんと言うか…。
もう、少し「悲しみ」というか、なんというか… 複雑な表情を見せてくださいよ。
母は少しも悲しみという表情を見せず、ただただ「あんたが悪いのよ」だの、「だから行ったでしょー?」などと口々に言う。
母の言葉はどれもこれも「悲しみ」ではなくただの「のん気な会話」でしかなかった。
「だー。‥あのさぁ、私が言うのもなんだけど、もう少し大切な何かを失った悲しみぃとか三日月家のこー、なんての? 大事な、大事な一人娘を失ったって言う悲しみをさー…」
夜桜は説教気味に母に強く言い聞かす。
すると母は身体を完全に起こして、夜桜のほうに椅子ごと身体を向けた。
ちょうど、夜桜が自分の目の前になるように。
すると、母は反省の顔を何一つ見せずきょとんとした表情で夜桜を見上げる。
「…・あはは!死んだあんたがぁに言ってんの〜。もぉー‥あはは!だーっ、苦しぃー、死ぬゥ〜…あはははっ」
そこまで笑うなよ。
てかこれが私に対する『悲しみ』も見せない親だということがムカツクなぁ。
「あんたねぇ、私が死んで悲しいとか思わないなんて最低だよ!大人失格だよ!」
「あらぁ、酷いわねぇ。ていうか、あんた解ってないー」
母は強気になって言い張る。
「なんでよ?(強がってどうするの)」
「いーいぃ? 昔のあんたはそりゃ、もう凄く泣き虫で、母さんが昼ドラ見てるときに感動して泣いてるだけなのにあんたって子は一緒になって無駄に涙流しちゃうんですもの。それに、母さんが不安がるとあんたまで不安がって、もう大変だったんだから」
昔の私ってそんなんだったんだ…へぇ... て、違ッガーーう!!!
はぁ? それだけぇ!? それだけでぇ!??
それだけで、泣かなくなって、その代わりにこんなど派手なキャラになったってのか!?
笑わせるな。
「それがあの世逝った娘の魂に言う台詞かっ!?」
「…てか、最初サッカーから帰って来る途中にあんたが交通事故にあったなんて、母さん正直言って知らなかったもの」
普通に言うなよ、普通に。
「知る前なんてただ、酷く怪我を覆ってるな〜と軽く思ってたらさー、後々電話が来て知ったんだけど、あんたの友達のお母さんから電話で『三日月さん、大変です!お宅の子、交通事故に遭ったんです!今、私救急車呼んでますからッッ!!』て。それで、母さんその時初めて知ったのよ、あんたが交通事故にあったなんて」
はっ。さすがだな、超A級霊媒体質ってのは。
ていうか超A級霊媒体質ってのはそんなにも気付くのが鈍いものなのか?
それとも母さんだからか?
「ていうか、母さん自分でも解らないけどかな〜り霊感があるみたいなのよ。んで、普通の人間同様に幽霊さんが見えたり、普通にお話できたり、触れたり出来るから、普通の人間同様というなんとも平等な扱いをしてるのよ。母さん、偉い?」
「‥偉い偉い …て、なぁーーイッッ!!!」
母さん、それで悲しまなかったのか。
ていうか「ただ、酷く怪我を覆ってるな〜と軽く思ってたぁ」て、思ったならひとまず病院行かせるとかさせてくださいよ。母さん。
「なによぉ、あんたそんなに私に悲しんで欲しかったの?」
母は私を見つめる。私は少し戸惑った。
別にこれでもかっ! て、くらいに悲しんでって強制的に言ってるわけじゃない。
逆にもの凄く泣かれてもちょっと困るし…。
でも、最低限霊体だって直ぐ気が付いたんだったら もぅ、少し。
もぅ少し、心配してくれてもいいなって。
「…いや、なんていうか…うん。‥てか、それが普通の母親としての反応なのかな…と」
普通の母親じゃなかったらまた話は別だが。
「あらぁ、母ちゃんが悲しんでも何にもならないわよ? 悲しんで、何か得するって言うならいいけどね。てか、あんた自分で泣いてなんか一つでも物事解決しちゃったよなんてことある? ないでしょ。だったら明るく、前向きに考えて、一つのことにあまり気にしないで、堂々と生きていけばいいんじゃないの?」
代価、みたいな物か?
確かに、な。
泣いても何の解決にもならないよな。
夜桜は少し顔を下に傾けた。
「つか、さっきから気になってたんですけど…この酒ビンは‥一体…」
自分の下に何故だか酒のビンが転がっていた。
「…あっ」
母親は言葉をいったん切った。
多分、この後の言い訳を考えているのだろう。
一瞬、何故こんなところにこんなのが? というのが夜桜の脳内をかけた。
母親は「あはは」と軽く笑い夜桜の頭を軽くなでてやった。
「…・。…あ、な〜にあんたそんな複雑顔なんて作っちゃってるのよ?」
「いや、…近く寄ると酒臭いのが‥目に、滲みる。なと…」
自分でもこのときなぜこんな顔を作って、さっきまでなんか違うことを考えていたのに今は何故、酒ビンのことを話しているのか解らず、ただ、私は台所に立っていた。
* * *
それから何年か経って、と言っても私は享年10歳のままなのだが…。
2005年7月某日、東京の伯父の家に里帰りをした。
伯父の家の裏庭近くにはお堂が建っているため多少、怪奇現象が起こりやすいという。
そのため伯父の家のなかは荒れてることが多い。
そこで「怪奇現象の仕業だ!」と言い張り出てくるのが伯母だ。
ちなみに、伯母もまだピンピン生きてます。
伯母は数々の怪奇現象経験豊富なだけに除霊道具をたくさん持参しているらしい。
でも、あまり信用は出来ない。なんせ、この母親の双子の姉だから。
酒臭いわ、人任せにするわ、変なところで維持を張るはで、似ているところが多いのだ。
さすが、姉妹。さすが、元・駄菓子屋の看板娘。
私は伯母が嫌いだ。いつも里帰りするたび歓迎より先に嫌味を言ってくる。
今日なんて「おまえ、本当に10歳児か?」と聞かれたくらいだ。
幽霊が見える上に離せる伯母と嫁を前に呆然としている父とまったく動じない伯父もまた兄弟だ。
父はあいかわらずおど付きながら、母に「大丈夫、大丈夫だからな」となにが大丈夫なのかは解らんが、かなり母に気遣っている。
気遣いすぎて、伯父と話しとき必ずこういう。
「兄さん、今直ぐあの二人(嫁と伯母)の診察書をっ…」
多分、父は被害妄想か何かと勘違いしているのだろう。
一方、伯父は仲良く兄弟水入らずで話をしたり伯母と話したりしている。
これは私はこっそり盗み聞きした会話の途中なのだが、面白いのでこれも聞いてくれ。
大きな独り言のように伯母が伯母と母以外(家のみ)には見えていない私と話しているとき伯父はまったくおど付きを見せず、落ちついて話しに入ろうとする。
というより、ただ呆然と伯母の大きな独り言を聞いて口をあんぐりあけているとか。
「おまえ、誰と話してるんだ?」
幽霊の見えない伯父は伯母に軽く聞いてみる。
伯母は「姪とだよ」と影も形もない姪のことをいうのだが、伯父は鈍感なのか、ボケているのかは知らないが伯父はすんなり真に受ける。
「ほう、そうか。で、姪は元気か?」
「ああ、元気してるよ」
などと話している。
伯父はある意味凄い。
その夜、母が夜桜だけにしか言えない秘密を聞かせた。
「母ちゃんね、実は…悪霊がいるのよ」
「え‥」
一匹だけ強い力の守護霊の中で最も一番小さな悪霊が居たらしい。
その霊は今も母についているんだって。めずらしいよね。
母親に悪霊が一匹、憑かれていたなんてさ。
「その霊はね、とても元気がいっぱいで、無邪気で、可愛い霊さんなのよ」
霊に可愛いも、何もあるか。
しかもその霊は今も居座り続けていて、その霊はそう簡単に取り除ける事の出来ない薄い霊気の悪霊だったんだって。
* * *
そして、場所は駅にまた戻る。
ホームのベンチに腰を掛けて、次の電車を待つ母と私。
そして艱難辛苦、色々な怪奇現象と付き合ってきた父。
父は大きな鼾を掻きながら腕組をして母の肩にもたれて寝ていた。
「あら、元気ないわね〜、夜ザクちゃん。それにお父さんも、やっぱ疲れたんだね〜」
のん気に笑う母。
「…、‥当たり前だ(ヤバかった…お盆ということで来る人が居るって行ってたけどあれじゃ、多すぎだ。
しかもそのなかに伯母さんの同級生さんまで来て、茶話会をやんややんややってて、昨日は気分悪かったし。
ウザかった‥)。‥あんた私が居るのには気がついて、何て他の守護様に気が付かないのかなぁ〜?」
夜桜は深く溜息をついた。
「あらあらぁ、溜息つくと幸せが減ってっちゃうわよ〜?…ぁ、それともハゲる‥だったけか」
ハゲるのはストレスがたまったときだけ。
「(我慢してきたのだがもう、駄目。限界が近づいてきた。…幸いにも母に悪霊が付いていないことが何よりの支え‥だ)」
私は母自信が私だけの存在だけに気が付いていて、動物霊やら、憑くに珍しい阿弥陀如来様やらが付いていることにはまったく気付いていない。
私から見るに色々いるんだ。
通常は守護霊が一人や二人、または複数と居る。
人によってなのだが、善人には守護霊や生霊が少し憑くが、腹黒いやつとかヤクザ系は悪霊のいい溜まり場だ。
母はいかにも自分が善人ですよ。というオーラ万全放射中だから悪霊が一匹も居ない。
「…・?」
私は今まで、そう思っていた。
「え〜?なんでぇ? てか、もし私が今の反対でそのあんたのいう他の守護霊さんに気が付いてて、あんたにもしも私が気が付かなかったら、あんた直ぐにでも意地けるでしょ? だからよ」
でも、本当は違っていた。
さすが母さんだ。
「…えっ」
嬉しかった。
母は直ぐに私の姿(ほう)を見てくれる。
そんな母が今でも大好きだ。
自分を祝ってくれる、それよりも嬉しいこと。
私の顔を見てくれること。
それがなにより祝ってくれることよりも
嬉しいことなんだと心から思う。
「あっ、夜ザク。電車、来たよ!」
「…え、ぁ」
母さんのところに居座り続けるその霊は今もそう簡単に取り除ける事の出来ない薄い霊気のままで居るらしい。
母はその霊に名前を聞いてみたことがあるという。
「ああ」
その霊の名は みかづきよざくら っていう名前だったんだってさ。
てか、私だったんだね。その悪霊って。
じゃあ、なんで夜ザクと呼ぶんだ…?
--- その後 ---
私と母と父は自宅についた。
ついてまず始は…テレビを見る!
だって、しばらくテレビ見てなかったんです。
見てなかったというか、見れなかった。なんでって?
聞いてくださいよ、伯母のとこのテレビ故障中だったんだよ!?
ちょっと、ムカつかない? てか、それ私だけかもしれないんだけどね。
見たいテレビの曜日にちょうど、伯母のとこのテレビが故障中だった。なんて。
だから、伯母の家で私はくつろぐどころか疲れがたまった。
でも、これがあったから自宅に帰宅するときの楽しみが増えたってものだ。
なんと、2週間前からビデオにタイマーかけてセットしておいたのです!!
ありがとう! タイマー!
てな訳で私は今日から始まる某小説の某アニメを見ることにしました。
そして、その某アニメの中で次々出てくるキャラクターの名前を聞いてたら…なにこれ?
「…ちょっと、待った。このキャラクターの名前って…」
「あ、それ? そうよ、その人の名前から取ったのよ。夜・ザ・ク」
言うなよ。
てか、かなりやばいぞ? それ。
母さん、その前にこの話あんた知ってたっけ?
最近、はまり始めた某アニメの原作となる小説を私は買い集めた。
買い集めて、きれいに、話の順に並びそろえたというのにいつも私が気が付く度に列がぐちゃぐちゃになっていることが多かった。
その犯人は、母さん あんただったんか…。
「(だから、わざと夜ザクなんて呼んでたんか…)」
出版コードに引っかからない(何の話だ)のが不思議でたまらないが…
でもま、変に急展開で「さよなら」しなくて良かったと思う。
これからも母親(あんた)の守護を勤めさせていただきます。
母さん。
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2005/08/25(Thu)17:17:35 公開 / 丸のうち凡
■この作品の著作権は丸のうち凡さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
丸のうち凡です。
新しく付け足しと削りをして、後ジャンルを多分、こんなん。という感じに変えました。
多分、お笑い…です。