- 『膝スリ 第一話』 作者:むた / 未分類 未分類
-
全角3376.5文字
容量6753 bytes
原稿用紙約11.75枚
ハングオンとは、オートバイのライディングスタイルのこと。
カーブの手前で腰を回転方向内側に寄せて重心をずらすことによりバンク角を稼ぎ、スムーズに曲がる走行法である。一見、バイクにぶら下がっているように見えることからハングオンと呼ばれる。
レースで使われることから、峠道などで試みる一般ライダーも多いが、ヒザを擦るといった独特のフォームに固執するあまり、スムーズな重心移動にはならない場合が多い。
某ウエブ辞典より抜粋。
パウ―ンッ、パウ―ンッ、パウ―ンッ、パウ―ンッ、
一定のリズムでアクセルをしゃくり、吹け上がりを確かめる。
今日を入れて、もうここに来るのは何回目だろうか?
オレは、額の汗をシャツで拭い、ツナギを着る。
小学五年生の時に見た、車の走り屋を題材にしたアニメ、
アニメで走り屋と言うこともあったけど、オレにとっては凄く新鮮で、
主人公になりきり、自転車で、街を走る、走り屋車を追いかけたりもした。
中学生の時には、本格的に走り屋にはまり、免許も無いのに予備軍?として、
走り屋や、ドリフト関係の雑誌を読み漁ったり、ドリフトのイベントにもはまって行く。
高校一年生の冬休みに、学校に内緒で原付の免許をとる。
高かったが、今時珍しい、2サイクルのミッション車、
後期型、レプソルカラ―の、NSR50を買った。
無論、峠に言って走り屋のギャラリ―をするためだが、
東京近郊に住む俺にとっては、山など原付で行く距離にしては途方も無く遠いし、
誰だか判らない人の走りを見るだけでは、漫画ほど面白いものでもなかった、
時間の浪費と勝手に判断し、半月と持たなかった。
でも、原付のおかげで、行動範囲はぐっと広がった、
色々な物を見つけた、友達も出来た、そして、色々な物を見た。
この場所を見つけたのも、二年前、
高校二年生の夏のころだった。
農家の、民家の間から覗く一面の田んぼ、その真中に、そこだけ孤島のように切り離された
小さい、ミニバイク専用コ―ス。
とてもサ―キットとは名前だけの代物だった。
アスファルとは継ぎはぎだらけで、継ぎ目から草が生え、
しかもバイトだろうか、コ―ス脇の草駆りを途中で放り出し、そこで寝ている。
そのバイトの頭の付近を、ハングオンした膝が通りすぎる。
その上、受付にも、ピットにも漂う、なんともアットホ―ムを取って付けたような、
身内地味た、変な空気も大嫌いだった。
それでも近場で、こんな珍しい遊びが出来る所は、他には無かったので、
いつのまにか毎週のように、通い詰めていた。
二年前…・・
買ったばかり、安物のゴワゴワした皮ツナギが身体に張りつく、暑いし息苦しい。
走り出してしまえば楽になるかと、
酸っぱい匂いのメットをかぶり、グラブをはめ、中腰で両膝を叩くッ。
よし!
軽くエンジンを煽った後、ピットを抜ける。
途中、ベンチに座った連中の、ジロジロとした目線、
「なんだよナンバ―付きかよ、」「自走か?」「あ〜あ〜しょっぺ〜な。」
と、奴らのそんな声が、聞こえてくるようだった、
今に見てろ、お前らなんか全員ぶち抜いてやる…・・。
が、
コ―ナ―入り口でも、ストレ―トでも、奴らの鼻先が入ってくる。
なんだコイツら、そんな無理して怖くないのか?
オレは、こんなに怖いの我慢して、必死にブレ―キ我慢して、ステップするほど倒してんのに。
何でそんな簡単に置いていきやがるんだ……・・。
周りは、けた違いに速かった、
バキバキに割れたカウルと、ガムテでグルグル巻きのかかとの、激しく磨り減ったブ―ツが、
それを物語っていた、奴らの走りは、
オレの、股関節が痛くなるような、無理やりの膝スリなんかとは、レベルが違っていた。
活きの良いことを言っていたが、抜かれるのが怖かった、狭いコ―ナ―をフルバンクさせながら
パスされる、ひどい時は、コ―スの外に追いやられて、転ぶこともあった。
でも、怖かったが、それよりも悔しさが、後からジワジワ沸いてくる、
一台でも、どんな相手でもいいから、抜きたい。
ピットのベンチに座り込み、連中の走りを見ながらそう思った、
下唇をぎゅっとかみ締める。
速くなろうと、色々な事を試してみた、
毎週日曜日は、サ―キットに自走で行った。
お金がない時は、市民プ―ルの駐車場で走った、よく警備員に怒られた。
チャンバ―とCDIは勿論のこと、タイヤは月一で換えた、
バイト代が右から左にすっ飛んでいく。
バイク屋には、三回ほど修理に出したが、自分に出来ることは自分でやった、
シリンダ―のOHも、キャブのセッティングも。
でも…・・奴らには追いつけなかった、
なぜだ…・。
乗っていて、うすうす気ずいていたことがある、
もしかして、オレがバイクを遅くしてる張本人じゃないか?
コ―ナ―の倒しこみも、起ちあがりの加速も、ラインもセッティングも、
雑誌とパソコンの、知識だけの独学だったし。
でも本当の理由は、自分が根性が無いだけかもしれない、
転ぶのが怖いから、もっと踏み込んで行けないから、進歩できないのかも?
急に熱が冷めてしまった。
バイクのエンジンも、焼きつき動かなくなり、家の庭の片隅に、
放置プレイだ。
そのうち、車の免許を取り、峠にギャラリ―にもいったが、走る気には
ならなかった。
そして、高校を卒業して工場勤務を始める、油にまみれ、地味な仕事場、
人間関係は、辺り障りなく自然にやって行けてる、でも、初めての夜勤が辛かった…・。
会社帰り、
車はやたらにガソリンを食う、燃費がよくて速いと評判のホンダ車だが、毎日の
渋滞とガス代を考えると、割りに合わなかった。
そんなことを、信号待ちで鼻をほじりながら考える、
カ―ラジオからは、あいのりの、テ―マが流れている。
ふと、自分の一つ前の車の横に、同じく信号待ちをする、
見覚えの在るバイクが目に入った。
小さく太いタイヤに、乗り手の膝がくの字曲がってしまうほど低く小さい車体、
いくつも傷や欠けた跡のあるボロボロのリアカウルに、
パンパンと弾ける排気音、NSR50だった。
走り屋だろうか、ボロボロの黒いフルフェイスに、角と尻尾がついている、
よれたランニングシャツと、ダボダボのハ―フパンツと、ビ―サンの組み合わせが、
ダサカッコ良かった。
「出会った〜時から〜」あいのりのテ―マが耳に入る。
自分も、また乗ってみたくなった、NSR50に。
日曜日
段ボ―ルや雑誌などのゴミや、自転車などのガラクタが、うずたかく詰まれた庭の一角から、
Nチビを引きずり出した。
シ―トを被せていたこともあって、そんなに汚れてはいなかった、
まあ、半年じゃそんなもんかな。
通販で買っておいた、63CCボアアップキットを組む、
しっかりと、各部にオイルを塗りこみ、撫でながら、慎重に無理なく組んでいく。
オモチャ、のような細いピストン、よくこれで、人間を乗せて福島まで行けたなと、
勝手に感心する。
カツンッ
入れ難かったシリンダ―と、ピストンの組みこみ作業も終わり、
外した部品を付け直し、ク―ラントを入れる。
一応、エンジン関係の部品は、全部組みこんだ。
ざっと、エンジンを手で触りながら確認する。
ク―ラント漏れも、部品のずれも無い、
いけそうだ。
空キックを三〜四回ほど、ボコボコと確かな圧縮が足に伝わる。
イグニッションをONにして、燃料コックを開き、チョ―クを引く、
気合一発、根元までキックを踏み込んだ。
ブブッ、ベベベベッベンベンッべべべべ。
細いチャンバ―から、白い煙がモクモクと吐き出される。
かかった、あっけなくかかった、こんなに上手くいったのは初めてだ。
チョ―クを降ろして、
焦らず、かぶらせないように控えめに、アクセルを煽る。
ブッバアアアアンッ、バァ―ンッバア―ン、バアアアア〜ン。
これだ、この音だ。
大口径のキャブと、大きいシリンダ―のせいで、いくぶんハスキ―にはなったが、
2サイクルのミニバイク独特の、軽快で歯切れの良い音が響いた。
オレは、駆け足で家に戻ると、ホコリだらけのメットと、グロ―ブを手に持ち、
庭先に、飛び出して行った。
-
2005/08/17(Wed)15:45:04 公開 / むた
■この作品の著作権はむたさんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
今回も、懲りずに貼り付けの、むたです、
前回の、ことを反省しつつも、やっぱり
自分が好きなものを題材にしたいと思い
書きました、後2〜3話で終わるつもりです。