- 『ツインズ』 作者:黒月 砂 / 未分類 未分類
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私には双子の姉がいました。
姉はとても身体が弱く、ほとんど病院に住んでいるようなものでした。
姉の身体を蝕む病はとても性格が悪いらしく、何年も何年も人を苦しませ、大体二十歳くらいにはその命を喰らい尽くしてしまうものと病院の先生が言っていました。
もちろんそんなことは家族のみんなも病院も言えなくて、みんなそのことを秘密にしていました。けれど姉は、何故かそのことを知っていました。
姉はとても性格が悪く、よく人の悪口を言いました。
私の父親は大手株式会社の社長で、まわりの人は影で姉のことをいろいろと言いました。
私は姉のようにいろいろと言われたくなくて、必死で勉強したり、素直ないい子を演じたりしました。
その結果、私に来る陰口は無くなりました。
けれど、姉は私と比較されることになりました。姉の悪口を言う人は増えていきました。
それに呼応するように、姉の性格や病は悪くなっていきました。
* * * * * *
ある日のことだった。
私は週一で姉の病院に通っていた。
既に親戚は来なくなっていたし、両親ですら一ヶ月に一度程度、顔見せるくらいだった。
病院でやることといえば、姉と雑談(正確には口達者な姉との口喧嘩)するくらいだ。
けれど、今日は少し違った。
姉がいる部屋の前、今日は何故か少し躊躇ってしまった。
けれどすぐにドアを開けた。
入った瞬間怒鳴られた。
「あっ! ノックぐらいしろ!」
私が姉のベッドを見ると、姉はあわてて持っていた何かを毛布の中に隠してしまった。
「…何隠したの?」
「関係無いって! 来るなバカ!」
私が姉の毛布を剥がそうとすると、姉が必死で抵抗する。けれど姉は長年の病院生活のせいで腕力がほとんど無い。
軽く毛布を剥がすと、そこにあったのは一冊のスケッチブックと鉛筆だった。
「へー、絵描いてたんだ。見せて」
「アンタに見せることにメリットなんて微塵も感じないよ」
私が聞くと、姉はいつもの口調で拒否した。
仕方無い。
私はそのスケッチブックを無理やり奪った。
「あ、おいコラ!」
そのスケッチブックをパラパラとめくる。
病室の風景や外の風景が事細かく描かれていた。
それはとても繊細で綺麗な硝子のようで、思わず、「凄いね」と言ってしまった。
「凄い? 相変わらず感想が単純だなー」
姉が珍しく毒の感じられない言葉を言った。
「隣の部屋の仁科のジジィならもっと面白い感想言うよ。ゴッホに比べればなんとかかんとか、とかね」
…姉は私と比べられていることを知っているかのように言った。
少し油断してしまい、姉はスケッチブックを奪い返して、ベッドの下に隠してしまった。
* * * * * *
ある日のことだった。
姉の視線が窓の外に向いていることに気づいた。
病院の庭で散歩している男の人を見ているらしい。
「識野 亮司さん?」
私が聞いてみると、姉はとても驚いた表情で私を見た。
驚いた表情はすぐに焦った表情になって、怒ったような表情になっていた。
「愛さんから聞いたの」
愛さんとは姉の担当看護婦だ。明るくて元気で、美人で人気だ。
「…あの年増、いつか仕返ししてやる」
そんな恐ろしいことを言いながら、私を睨んだ。
「画家なんだってね」
「うん」
「…ほとんど眼、見えないんだってね」
「うん」
私の言葉に、ただ頷く姉。
私は気になり、聞いてみた。
「もしかしてあの人に気があるの?」
姉は答えなかった。
* * * * * *
ある日のことだった。
病院の庭で、姉と識野さんが会話していた。
とても楽しげだった。
愛さんがいつの間にか私の後ろに立っていた。
「あの二人の邪魔したら馬に蹴られて死んじゃうよ〜」
そんなこと言ってさっさと行ってしまった。
やっぱり姉は識野さんが好きらしい。
これは邪魔しない方がいいな…
* * * * * *
姉はその後、二十二まで生きていました。
姉の葬儀には参列者が並びましたが、本当に悲しんでいたのはごく少数でした。
姉のスケッチブックは愛さんが受け取ることになりました。
愛さんと一緒に、私は姉の絵を見ました。
姉の絵はとても繊細で、とても綺麗で、硝子のようで。
その中に一枚だけ、姉のものではない絵がありました。
それはとても綺麗な、姉の肖像画でした。
私も今年で二十九。三年前結婚して、子供もできました。
識野さんはあれから画家に復帰したそうです。
私も一枚だけ、識野さんの絵を持っています。
それはとても繊細で、綺麗な街の絵。
硝子のように繊細で、綺麗な────
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2005/08/17(Wed)06:02:51 公開 / 黒月 砂
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■作者からのメッセージ
この話はフィクションです。当たり前だけど。