- 『裏庭の殺人鬼』 作者:水芭蕉猫 / ショート*2 ショート*2
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全角1177.5文字
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原稿用紙約4枚
うちの庭には、殺人鬼が居る。
手入れの届いていない三畳と少しの小さな裏庭の、草むらの中に、その殺人鬼はいる。
ぼくの背丈ほどもあるあの草の中で、殺人鬼は息を潜めて目だけをギラギラと光らせているのだ。
ぼくがそのことに気づいたのは小学三年生のころ。
冬になっても自分の庭の草が枯れない事を不思議に思って近づいたら、草むらの中で赤い目玉がぎょろりとこちらを向いた。そして、ザワリと草が動いた。その瞬間、ぼくの前髪がスパッと切れ落ち、額から真っ赤な血が滴って白い雪に数滴落ちた。
ぼくは驚いて尻餅をつくと、慌てて部屋へ逃げ込み、母親に泣きついた。
しかし、母親は何を言っても取り合ってもらえず、結局ぼくが勝手に草で額を切ってしまったということになった。
母親はきっと何か知っていると思う。
ぼくに物心が付いたころからあの庭の草むらは手入れされていない。それどころか、誰も近づいてさえ居ない。
母が庭に出る時といったら洗濯物を干すために、草むらの手前くらいまでしか行かない。
それでも、ぼくは母に聞くことが出来なかった。
もしそんなことをしたら、大切な何かが壊れてしまうような気がしたから。
そしてある夜、ぼくは目が覚めた。
本当に、虫の知らせとしか言いようが無い。ぼくはカーテンを少しだけ捲って、何となく窓の外の庭を見た。
月夜の下で、そいつを見た。
草むらの中からのっそりと這い出してくるそいつ。
そいつの頭には、牛みたいな角が生えていた。
そして、その傍に倒れているのは――おそらく人間だろう。
それっぽいカタチの人型が一つ。
ぴくりとも動かないその人間は、きっともう生きてはいないのだろうと言うのが、直感的に解る。
顔が見えないから誰だかはわからない。
そいつはヒトよりも大きな手で、その人型っぽいのの頭を鷲摑みにすると、草むらの中にぽいっと放り投げ、そしてぼくの方を見た。
瞬間、ぼくは戦慄した。
全身の毛が逆立って心臓が止まってしまったような気がした。
ぼくとそいつは目が合ってしまった。そいつは、薄暗い月明かりでも判るぐらいにごった赤い目で、にやりと笑った。唇からは、大きな歯が覗いていた。
顔は解らないのに、それだけが妙に印象付いた。
それからそいつは、ぴょいと草むらの中に入ってしまった。
そして、その翌日のニュースでぼくは近所の山田さんという人が、一晩のうちにどこかに消えてしまったことを知った。
母は、ぼくの隣で、そ知らぬ顔でご飯を食べていた。
それからというもの、ぼくは近所で行方不明になる人が出るたび、あの殺人鬼の仕業なんだなぁと思いつつも、母には何も聞けないでいる。
もしも聞いてしまったら、もしかしたらただじゃ済まないかもしれないから。
今日もきっと、その殺人鬼はうちの庭の草むらに居る。
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2005/08/14(Sun)21:26:54 公開 / 水芭蕉猫
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■作者からのメッセージ
不毛な話です。
聞きたいけど聞けない典型パターン。
ジャックの方が進まず、昔書いたものを引っ張り出して、手直ししての投稿です。
何かあれば、お手柔らかにお願いします。