- 『missing』 作者:黒月 砂 / サスペンス サスペンス
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全角2582文字
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原稿用紙約10.7枚
『人じゃない奴の定義は簡単だ。人を殺した時の気分はどうですか、だ。
明るく考えるならそれは──』
夜は意外と五月蠅い。都会の喧騒やネオンサイン、車の鳴らすクラクション。
だから僕は逃げたかった。周りの全てが五月蠅い。うるさい。ウルサイ。
だから僕は逃げだした。
当ては無かった。学校でいつも一人な奴に友達なんかいない。親戚も僕を庇うことなんてしないだろう。
家を飛び出して六時間くらい経った。見上げてみると、やっと新潟を抜けたことを示す看板があった。
ずっと山の中を歩いていたら疲れた。少し休もう。
近くに転がっていた岩に座り、僕は時計を眺めた。今の時間は午前一時くらいだ。
そういえば最近は全然眠っていなかった。不眠症かもしれない。
ポケットに入れた財布を取り出した。中には親の財布から抜き取った一万円札が十三枚ほどある。「芸能人の一ヶ月一万円生活」とかいう番組があったが、僕はこれから十三万円で一生を過ごすんだ。当然、無駄は出来ない。
金が尽きたらどうしよう。スリでもやるか?そんな度胸が自分にあるのだろうか…?
しばらく座っていた。特にすることも無かったし、疲れていた。
座っている間、車は何台か通った。一台だけ真っ黒なスポーツカーが通って、あとはトラックばかりが通る。どの車も私に興味が無いように簡単に素通りしていった。
六台目のトラックが来る。きっとこの車も僕に気づかないのだろう。
そう思っていると、僕の予想を裏切り、その車は目の前で止まった。
運転席からは一人の中年の男が出てきた。「こんなところで何をしてるんだい?」だとか「こんな夜中にどうしてこんな場所にいるんだい?」だとか言って、トラックの後ろのコンテナに乗れといった感じの言葉を吐いた。
僕は無視した。疑うことを忘れた人間は生きていけない。
その中年は困ったように髪が薄い頭を掻き、コンテナの方に歩き出した。
僕はその行動を黙って眺めた。その中年はコンテナからダンボール箱を取り出すと、さらにそこから、妙な液体と白い布を出した。
中年はその液体を布に染み込ませると、あっという間に布を僕の口と鼻にあてた。
そういえばよくドラマでクロロホルムという薬品があったのを思い出した。
どういう薬品か思い出す前に、眠気が僕を襲った。
よかった。久しぶりに眠れる。僕は素直に眠気を受け入れた。
その中年の男が、最近話題になってる誘拐殺人犯だということは、後で知った。
『さて、ここで一つ面白くない話をしよう。君は人を殺したことはあるかい?』
僕の頭に声が響く。
『殺人鬼∞唯我独尊<エッジ>∞マスターピース=cそう呼ばれる男がいる。彼は自分のことをこう呼んでいる』
そんな奴、僕は知らない。最近話題になっている殺人犯は三人いるけど、どれも僕は覚えていない。
『同属殺し=x
だからそんな奴、僕は知らない。
あれ?
ちょっと待って。
「何故自分が知らない情報が夢に出てくるのか?…違うかい?」
原因は目の前のホストっぽい男だった。眠らされていた私に色々言ってやがった。
「私は君の思う通り、とても怪しい者だ。だから自己紹介しよう」
ああ。とても怪しいよアンタ。だから是非僕を放っておいてくれよ。
「私に名は無い。名前はモノの存在を確かなものにする唯一のものだ。だが、私は…」
放ってくれなかった。延々と喋る。
「…まず物心ついた時には絶対童子<キリスト>≠ネんて呼ばれた。呼んだ人間は全員死んだ」
放ってくれなかった。延々と喋る。
「私はその名を消した。次にこう呼ばれるようになった。話術士≠ニね」
放ってくれなかった。延々と喋る。
「私はその名もまた消した。気に入らなかった。そして、次は自分で名乗ることにした」
放ってくれなかった。延々と喋る。
「死言遣い、とね」
その外見ホストのシゴンツカイとやらはそれだけ言うと、さっさと立ち上がった。
そういえばと思い、周りを見た。どうやらトラックの中のようだ。さっきの中年のだ、絶対。
どうやら停車しているらしい。
「私はね、とある少女を探しているんだ。君、知らないかい?」
唐突にシゴンツカイが言った。そんな少女サンなんて知るか。というか情報少なすぎだろ。
「知らないみたいだね?外見はとても目立つんだ。白くて長い髪をしている。何時でも大きいヘッドホンをつけているんだ」
だから知らない。
「そうかい。…あぁ、そうだ。忘れるところだったよ」
シゴンツカイが僕を見る。いや、眺めている。
その視線の先は、
「君に少し質問したい。君は自分の手を見てどう思う?」
僕の手。
赤い手。
「君はマンイーター候補となった。さぁ、どう思う? ちなみに嘘はこの場では意味を持たないよ」
「嘘だ」
「何がだい?」
「教えろ。これ、何だよ」
「人の身体に流れる赤い体液だね。名称は君でも知っているハズだ」
ああ。これは血だ。
「じゃあ何で付いてるの?」
「私に聞くよりここから出てみるのが早いよ」
僕は今壊れそうだ。
「私はこれで退散するよ。殺人鬼が怖いからね」
トラックは何処かの駐車場にあった。僕はそこにいた。
「殺人者になった気分はどうだい?」
最悪だ。
懺悔。
僕は何の役にも立ちませんでした。
後悔。
家出しなければよかった。
前にこんな話を聞いた。
人はとんでもないショックを受けると記憶を失くすそうだ。
僕のしたことが脳内で繰り返される。
これは正当防衛だとかの言い訳も考えることが出来ない。
もう一度懺悔。
僕は人を殺しました。
もう一度後悔。
殺さなければよかった。
こんな最悪な気分になるなんて。
もう遅いです。ごめんなさい。
それからすぐに、とある駐車場で人が殺されていたことがニュースになった。
殺されたのは、巷で有名な誘拐殺人犯だった。
そのニュースが報道されたあと、僕はまた人を殺していた。今度は意外と簡単に殺してしまった。
今度は何処にでもいそうな中年の酔っ払いだった。
僕は、二人目の人殺しをした後、とある人と出逢った。
その人は、同属殺しと名乗った。
僕がその人に出逢った数日後、とある公園で一人の少女の惨殺死体が発見されたことが報じられた。
少女は短い黒髪だそうだ。
僕はそのニュースを、知らない。
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2005/08/14(Sun)20:28:11 公開 / 黒月 砂
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■作者からのメッセージ
えーと、こういう話はサスペンスでいいのでしょうか。
初投稿です。とりあえず人間として何かが欠落した話です。
俺も何か欠落しています。多分それは文章力です。
以上です。